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12.割り切って行きましょう

 ミカさんから封筒に入った給料を受け取り、仕事に戻ったミカさんとたまに話しながら店長を待ってると、思ったより早く戻って来た。   「伊吹が来てるって本当かい!?」  入口入って開口第一声がそれだった。  俺が待ってるってミカさんが連絡したのか。  スーツ姿の見た目こそ普通のサラリーマンっぽい40手前ぐらいの男だ。  店長は俺の事を気に入っていて、俺が顔を出すとこうして嬉しそうにしてくれるんだ。 「店長久しぶり~。ちょっと話たい事があるんだけどさ~」 「えー、辞めるとかじゃないよね?それなら聞きたくなーいっ」 「ちげぇよ。仕事の話だよ」  自分の机に俺が座ってたから、隣の空いてる椅子に座ってニコニコ笑って見て来る店長。  そう、俺は店長に今までにいなかったタイプの客について相談するつもりだ。  その客とは言わずもがな尚輝くんと、ブルータイガーだ。 「何かな?あ、伊吹来てるって聞いたからお菓子買って来たんだよ。お食べ♡」 「ん、サンキュー♪」  店長はバームクーヘンやフィナンシェなどの焼き菓子が入った箱を広げて差し出して来た。俺の後にミカさんにも渡して行く。 「で、話って何々ー?」 「実はさ~、俺の客なんだけど……」 「伊吹の客と言えば土曜日の凄かったね!あんなロングで予約入ったの久しぶりじゃない!?」 「まぁそうだけど……」  俺の客は殆どが写真で指名してくるから、初めは1時間とか2時間が多いんだ。  そこで俺の見た目に騙されたと思った奴は去って行くけど、気に入ってくれた人はリピさんになって次からは2~3時間、盛り上がった時は延長なんかもしてくれる。   「しかもその日の内に次の予約してくれるとか相当伊吹を気に入ったと見た!さすが伊吹だよね~♪」 「あのさ、その尚輝くんの話だけど……」 「うんうん♪どんな話かなぁ!?」 「ゲイなんだって、尚輝くん。それと今日デートした男も。俺って性別不問だから男からも予約入るけど、ハッキリゲイだって言う人って今までにいなくてさ」 「こりゃデリケートな話だねぇ。でもね、伊吹、初めにも教えたけど、客の話は9割は嘘だと思っていた方がいい。全て本当かもしれないけど、仕事と割り切ってやっていくなら全て鵜呑みにしてはダメだよ」 「それは覚えてるよ。だから今日会った奴にも連絡先教えなかったし」 「うん、それでいい♪人それぞれやり方があって、それが伊吹のやり方なら間違いはないよ♪」 「……なぁ、ゲイに口説かれたらどう回避するのが正解なんだ?それが難しくてさ~、ブルータイガーに次はないと思うけど、尚輝くんは土曜にまた予約してくれたからさ~。出来れば傷付けずにお互い楽しく過ごしたい!」  俺が本当に知りたい事を2人の前で打ち明けると、2人は目を見合わせて微笑んでいた。  こんな事を相談出来るのはここのスタッフにだけだ。 「だってよ?ミカさんからアドバイスしてあげて♪」 「そうですね、私から言える事は……伊吹は伊吹のままでいたらいい。でしょうか?」 「うん♪俺も同じ事言おうとしてた~♪」 「えー!それじゃあ回避出来ないじゃんっ」 「それなら伊吹は、女性から口説かれたらどうするのかしら?」 「今は誰とも付き合う気はないって言うかな?」 「それと同じよ、男も女も変わりはないわ」 「その通り!愛に性別なんか関係ないのさ!だからうちは男女のキャストを携え、同性同士のデートもOKにしてるんだよ♪」 「ふーん、なるほどな~」  店長とミカさんはそう言うけど、俺にとってはやっぱり男と女では何かが違う。  だから2人の話を素直に受け入れられないでいたけど、言いたい事は分かった。   「それに、伊吹が相手を傷付けずになんて考える必要はないよ。うちを利用している以上、そういった立場で出会っているってのは理解してるだろうし、気に入った子とデートが出来るってだけで必ずしも両想いになれるなんて謳ってないんだから。だから割り切って仕事するスタイルの伊吹はそのままでいたらいいよ」 「でもその悩みを相談したのは正解ね。これからも悩んだら顔見せに来なさい♪なんてったって伊吹はうちの看板息子なんだから全力でサポートするわよ♪」 「はは、そうするよ。そんじゃそろそろ帰るわ」  結局解決には至らなかったけど、店長とミカさんに会えて気分転換にはなったかな。    2人の意見は人気がある俺のメンタルを心配して、これからの仕事に支障が無いようにってのが大半なんだと思う。  それは分かるんだけどさ~、やっぱり俺も人間だし、それにもう良い歳だし?  いつまでもこんな事やってられないってのはあるよな。  だからこそ稼げる内に稼いでおかなきゃなんだけどな!  あー、この後1人で飲みにでも行くかなぁ?

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