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16.大盤振る舞いの日

 水族館に着くと俺達は順路に従って館内を見て回っていた。  土曜日だから結構人が多くて、男女のカップルがイチャついてるのが目に付く。  仕事柄何度か来てるけど、薄暗くて落ち着いてて比較的俺の好きなデートプランだ。   「あ、あの、伊吹さん……」 「ん?どうした?トイレ?」 「いえ、その……」    なんか凄ぇ言いにくそうにしてる尚輝くん。  結構しっかり物を言う子だから珍しいなと思ってタツの落とし子から目を離して何を言われるのか待ってると、困ったような顔をしてこんな質問をして来た。 「デートと言うのは、どこまでしてもらえるのでしょうか?」 「それは物理的に?」 「えっ!は、はい!」  良くされる質問だった。  恋人がしそうな範囲でなら俺はするようにはしている。ただし、キスとかホテルとかはNG。  そうだな、相手にもよるけど、手を繋いだり腕を組んだりぐらいまでならするかもな。  でも尚輝くんと俺は男同士だ。ゲイだと伝えてくれた客は今までいなかったから、どこまでやっていいのか分からない。  手を繋いだりして変に期待させるのもアレだし、でも金をもらってる以上はキチンと仕事したいしなぁ。 「うーん、尚輝くんは俺としたい事があるの?」 「あ、ありますっ」 「言ってみて?」 「それは……手を、繋ぎたいです……」  尚輝くんはとても恥ずかしそうに頬を赤く染めて下を向いてボソボソと言った。  うわぁ、ガチじゃん。  別に繋いでもいいんだよ?  尚輝くんって見た目は悪くないし、でもさ、こんな目立つ場所で男2人が手を繋ぐのってどうなの?  絶対変な目で見られるよな? 「うーん」 「迷惑だったらいいんです!変な事言ってごめんなさいっ!」 「あのさ、尚輝くんは平気なの?周りから変な目で見られるのとかさ」 「えっと、俺は気にしませんが?……でも、伊吹さんが嫌がる事はしたくないので、全然断ってくれて大丈夫です」 「…………」  尚輝くんは本当に俺を気遣ってくれてるように優しく笑ってそう言った。  何て欲の無い子なんだ。  今日だって超ロングで予約してくれて、十何万も払ってる癖に一切自分のやりたい事を強要して来ない。  普通の客なら1、2時間だったとしても高い金払ってるからって会ってすぐに腕を組んで来たりするもんだ。相手が女だから俺も少し引いてはいても拒否ったりはしない。  それなのに、尚輝くんはいつも俺の様子を伺って自分の事は後回しにしてる。  今だって笑顔ではいるけど、自分が気まずい事を言ったからどうにかしようと水槽の中にいる魚を指差して何か言ってるし。  何だかなぁ~、ほんと尚輝くんといると調子狂うんだよなぁ。  俺は自分から右手を出して尚輝くんの左手を握ってみた。 「えっ!?い、伊吹さん!?」 「うん、イケるわ」  いきなり俺が手を握ったから、尚輝くんは驚いた顔して振り向いた。  いつもキリッとしてる顔してるからそんな顔もするんだと俺はおかしくて笑った。 「あの、えっと……」 「お前すげぇ顔♪でもそういう顔も悪くねぇな♪」 「……伊吹さん♡」  俺が笑いながらそう言うと、尚輝くんはみるみる顔を赤くして、何かを耐えるような困ったような顔を見せた。  コロコロ表情が変わって面白い奴♪  やっぱり尚輝くんは良い子だわ。優しくて自分よりも俺の事を考えて行動してくれる紳士。    つー訳で今日のデートはサービスデーにしてやる事に決めました!  俺のサービスデーってのは、たまーに気分でやるちょっと本気のデート♪自分のタイプの子や、金の羽振りが良かったりしたらやってるデートなんだけど、男相手にはやった事がないから上手く出来るか分からない。  尚輝くんは俺より背が高いし、全然女の子とは思えないけど、男も女も変わらない。  店長とミカさんのその言葉を信じてやってみる事にした。 「こっからは俺にエスコートさせてよ♪尚輝くんの心に残る素敵なデートにしてやるからさ♪」 「心に残る素敵なデート……はいっ♡お願いします♡」  俺がとびきりのスマイルで言うと、尚輝くんはとても嬉しそうに笑った。  このスマイルは営業なんかじゃない。尚輝くんの事を想って自然と出た笑顔だ。  それから俺は尚輝くんの手をギュッと握ってあっちへ行こうと引っ張って水族館の中を歩いて回った。

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