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22.怒るタイガー
金曜日の18時。
今回もブルータイガーは約束より少し遅れてやって来た。こいつには礼儀ってもんがないのか?まだ会うの2回目だぞ。
「伊吹~♡会いたかった~♡」
「あー、はいはい、会えて良かったねー」
いきなり抱き付かれたから、俺は引き離しながら棒読みで挨拶をした。
今日は青い髪を後ろに流してデコを出してるから、眉毛のピアスが目立つ。ダボっとした大きめの白のTシャツに黒のジャージにサンダル。
絶対この仕事してなかったら関わらなかった人種だ。
「なぁ伊吹は俺に会いたかった?なぁ、寂しかった?」
「会いたかったし、寂しかったよ~、でも大丈夫なの?お金ないんでしょ?」
「んー、バイト増やしたから大丈夫♪伊吹の為ならバリバリ働いちゃうよ~♪」
「おー、そりゃ頼もしいな」
適当に相手をしながら俺達は歩き出す。
タイガーは声がデカいし、ジェスチャーも大振りだから目立つのなんの!俺は少し早足で歩いてやり過ごした。
タイガーが勧める居酒屋は、この前行ったとことは少し雰囲気が違って、ちょっとお洒落な若者とかが使いそうな居酒屋だった。
「あ、予約してた青山です~」
「お待ちしてました~、こちらへどうぞ~」
一丁前に予約しといてくれたんだ。
意外な一面にやるじゃんとか思ってると、店の奥の個室になってる席に通された。
うーん、まぁ店だし何かされそうになったら店員呼出ボタン押せばいいか。
「とりまビールっしょ?」
「うん♪あと焼き鳥~」
「好きね~、ここね、肉寿司美味いんだよ」
「へー、そんじゃそれも頼も♪」
「あとサラダとか適当に頼んどくか~」
普通にタッチパネルを見ながら2人で注文して、届いたビールでまず乾杯!
「ぷはぁ!美味い♪」
「相変わらず良い飲みっぷりね♪」
「へへ、デートで堂々とビール飲める機会なんてないからな。飲めてもこんな豪快に飲めないからさ~」
「そんじゃ俺ん時はラッキーだ?素の伊吹でいられるもんな♡」
「ラッキーっちゃラッキーかな?」
「ところでさ、伊吹っていつまでこの仕事続けんの?」
「へ?」
突然仕事の話をされて、戸惑ってしまう。
良くこの話はされるけど、いつも適当に言って誤魔化す事が多い。
俺自身いつまでとか決めてないからだ。
金が貯まったらとか、好きな人が出来たらとか言う事が多いかな?
「俺さ、伊吹が他の奴とデートすんの嫌なんだよね」
「そう言われましても、それが俺の仕事ですから」
「だからぁ、仕事変えないの?って話」
「今のところその予定はないかな」
「でもさ、いつまでも出来る仕事でもないっしょ?金払ってジジイとデートしたい子なんていないもんな」
「ジジイ!?」
「あ、伊吹はいくつになっても綺麗よ?例えばの話♪」
そんな事俺だって分かってるんだよ!
だから若者対策でお前ら20歳から学ぼうとしてんじゃねぇか!
それなのにお前らは全く参考にならんデートをしやがる!
いや、この前の尚輝くんのは参考になったかも?あれはドキドキしたもんな~。
あ、思い出したら恥ずかしくなって来た。
「あー!伊吹がニヤけてるー!何考えたんだよぉ?」
「何も考えてねぇよ。それよりビール追加して」
俺が頼むとタッチパネルで追加注文してくれるタイガー。そこで机の上に置いた俺の財布の上にあったキーケースを見て何かに気付く。
「なぁ伊吹、このペンギンこの前付けてたっけ?」
「あ、それね」
キーケースを手に取ってペンギンのキーホルダーをぷらぷらさせて見てるタイガー。
尚輝くんとお揃いのキーホルダーだ。
別にタイガーになら話してもいいだろ。
「この前デートした子とお揃いで買ったやつだよ。可愛いだろ?」
「は?何それ?」
ん?てっきり可愛いーとか言ってくれるかと思ったら、タイガーはさも不機嫌そうな顔をしてペンギンをガシッと握った。
え、こういうのダメだったのか?
確かに他の客にそういう話をしないようにはしてるけど、こいつなら気にしないかと思った!
そしてタイガーはペンギンを握ったまま力づくで引きちぎろうとした。
「だぁ!何やってんだ!壊れるだろ!」
「あり得ねぇ。他の客との物とか身に付けてんなよ」
俺はさすがにまずいと思ってタイガーを宥める事にした。これは俺のミスだからな。あくまでもタイガーは金を払ってる客だ。
そんな相手を怒らせるような事を言った俺が悪い。
「悪かったよ!俺も配慮が足りなかった。それは外すから許してくれって」
「捨てろよ」
「はぁ?何もそこまでしなくても……」
「それとも伊吹はそいつの事好きなの?」
「え……何言ってんだよ」
尚輝くんの事を好きなのか聞かれてドキッとした。好きか嫌いかだったら……好きだ。
でもそれは客としてで、特別な感情は無い。と思う。
ってそんな事よりもこの場の空気を何とかしないと、タイガーが店にクレーム入れたら減給されちまうかも!
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