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道標 2

 齊藤の言葉の意味を理解したのは、それから少し後のことだった。  学校に復学し、2年生をもう一度やり直そうとした時に、担任が齊藤ではないことを知った。  それどころか、齊藤恋という教師は学校に存在しなかった。  何がなんだか分からなかったが、齊藤が元刑事だと言っていたことを思い出し、その可能性に思い至る。  してやられたと思ったが、刑事として近づくよりも、親身な新しい担任として近づいた方が、陽介の元恋人の死の原因を探れると思ったとすれば、筋が通っている。 「覚悟って何だよ、会うことさえできないじゃないか」  独り言で嘆いた時、俺はとっくに齊藤に囚われていたのだと知った。  行き場のない感情を持て余したまま、陽介が入院する病院に向かう。  すると、面会の手続きをしようとした時、看護師が困ったような顔をした。 「すみません、今、実は他の方が水無月さんと面会中でして。もうすぐ終わられるとは思うんですけど、待ちますか?」 「……えっと、はい」 「ではそちらの長椅子で……」  座ろうとした時、厳重に封鎖された扉が開く。  そこから現れた人物に、はっと呼吸が乱れた。  齊藤恋が看護師に頭を下げ、こちらを向く。  俺と目が合うと、ふわりと笑った。 「せん……齊藤さん」 「水無月君と会って来て下さい。ここで待っています」  今すぐ問い質したい気持ちをぐっと堪え、齊藤と入れ違いで扉の中へ入った。  相変わらず陰鬱な空間だった。長い廊下を進み、一番奥の一室の前で、案内していた看護師が振り返る。 「こちらです。面会終了時間が迫っているので、できるだけ手短にお願いします」  頷くと、看護師はきびきびと立ち去った。  息を吸い込み、ドアをノックする。  毎回、この瞬間が相当緊張した。酷い状態の時を知っているだけに。 「はい」 「陽介?俺だけど」 「入っていいよ」  促されるままに入ると、いつも以上に生気を瞳に宿した陽介に出迎えられた。 「調子良さそうだな」 「まあな。あの刑事さんと知り合いなんだって?」 「齊藤さん、俺のこと話していたのか」 「詳しくは聞いてないけど、俺のために戦ってくれたんだってな」  戦っていた。齊藤は、そう思ってくれていたのだ。  涙腺が緩みそうになるのを堪えていると、陽介は思わぬことを言った。 「俺も勉強についていけないから、2年からやり直すことにした。だからよ、失った1年分、一緒にやり直そうぜ」 「うん……っ」  拳をぶつけ合い、病室を後にした。

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