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第1話

赦すべきなのだろうか……。 忘れようとしても、肌にこびりついたあの痕は消えてくれない。 彼と出会ったのは5年前、アメリカのオクラホマシティだった。語学留学の名目で渡米したものの、勉強どころか、毎日パーティー三昧で遊び耽る日々。 酒の臭いと煙草の煙がどんよりと立ち込めるなか、目が合えば誰とでも個室へ入り、肌を重ねる。とりとめもない会話とともに夜明けを迎えることだけが、当時の私の日常だった。 そんな中、ひときわ背が高く、シニカルな表情を浮かべたブロンドの美男子、エリックだけは、派手な赤のドレスを纏い、ひたすら煙草をくゆらせる愛子をじっと見つめていた。 「一発、どうだい?」 エリックの軽い誘いに、愛子は虚ろな目を上げ、低く囁いた。 「私を満足させる自信、あるの?」 意表を突いたその反撃に、エリックは思わず吹き出した。 これが、二人の縺れ合う物語の始まりだった。 エリックと愛子は瞬く間に惹かれ合い、肌を重ねて、燃え上がるような恋に落ちた。 アングロサクソンとイタリアの血を引くエリックは、金髪に、緑がかったヘーゼルの瞳、そして凛とした鼻筋を持つ青年だった。長身で社交的な彼は、学業も優秀なうえにアメリカンフットボール部の主将まで務めており、誰もが憧れる存在だった。 一方の愛子は、チェリーブラウンに染めた長い髪に、派手なメイクと服装で周囲の目を引く生粋の日本人だ。自分に寄ってくる男を拒むことはなかった。時折、女性から誘われることもあったが、同性との情事には興味がなく、セックスに関してはあくまでヘテロ(異性愛者)を貫いていた。 平均最低気温が2℃から氷点下まで下がる真冬のオクラホマシティは、札幌にも匹敵する極寒の地だった。東京育ちの愛子にとって、その抉るような寒さは耐えがたいものだった。 広大なキャンパス内には日本人や韓国人のグループが存在し、特に女子学生たちの発言権が強かった。彼女たちの繋がりは濃く、さまざまなパーティーの誘いやクラブでのダンスなど、夜な夜な遊びの絶えない日々が続いていた。 愛子は裕福な親の援助もあり、大学1年生の時に渡米した。初めは喋れなかった英語も、現地の生活に浸るうちに自然と上達し、気づけば多くの友人に囲まれていた。 厳しかった親元を離れ、手に入れた自由は夢のようで、彼女は毎日遊び耽った。エリックと正式に付き合う前には、サイモンという恋人がいた。黒人と白人のハーフであるサイモンは敬虔(けいけん)なクリスチャンで、セックスさえも神聖な儀式のように丁寧な男だった。 特に別れを告げたわけではなかったが、愛子がエリックと付き合い始めると噂はすぐに広まり、内気なサイモンは自ら静かに身を引いていった。 だが、サイモンは愛子に強い未練を残していた。自由奔放な彼女が、いつか自分の真心に気づいてくれることを祈りながら、密かにチャンスを窺っていたのだ。 しかし、エリックとの激しい恋もそう長くは続かなかった。愛子に寄ってくる男は絶えず、彼女のあまりに自由な恋愛観が、二人の関係に決定的な亀裂を生じさせた。 エリックは、自分と付き合っていながら愛子が他の男とダンスパーティーや食事に出かけることが、どうしても許せなかった。ついに怒りが爆発した彼は、パーティー会場まで押し入り、愛子を無理やり連れ出した。あまりに突然の出来事に、周囲の友人たちはただ立ち尽くすことしかできなかった。 エリックは嫌がる愛子を自分の部屋に閉じ込め、力ずくで彼女を犯した。いつの間にか朝が過ぎ、昼が通り過ぎ、再び夜の闇が部屋に影を落としていた。愛子は疲れ果て、しんとして動かない。水に濡れたぬいぐるみのように力なく横たわる愛子を、エリックは鬱憤を晴らすかのように激しく揺さぶった。 エリックは今までにない歪んだ興奮を覚え、愛子を自室に監禁した。備え付けの浴室で彼女の体を洗わせ、自分は一階のキッチンから密かに食べ物を運び込んだ。 医師の母と弁護士の父を持つ上流階級の邸宅。両親はいつも不在で、朝十時から夕方五時まで家政婦が滞在するだけだった。その広すぎる屋敷の中で、愛子の存在に気づく者は誰もいなかった。 繰り返される情事のなかで、愛子はたびたび意識を失った。今ここがどこなのか、何時なのか、そして何日が過ぎたのかさえ、もう分からなくなっていた。大学へも行かず、家族との連絡も途絶えたまま、彼女の時間は止まっていた。 エリックもまた、学校を休んでいた。二人の不在を不審に思う友人たちの中で、サイモンだけは拭い去れない違和感を覚えていた。 サイモンは愛子にとって二番目の恋人だった。かつて彼女はジェームスという男と付き合っていたが、その執着心の強さに疲れ果て、逃げるようにサイモンとの穏やかな恋を選んだ経緯がある。 愛子は多くの男たちと浮名を流してきたが、誰一人として、彼女の虚ろな心を真に掴み、満たせる者はいなかったのだ。

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