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煉丹

 櫟龍門は自分の店に女性が立ち入ることを嫌がる。彼の経営する男娼店「煉丹」には、神が気まぐれに生み出したような中性的な少年達が集められており、櫟はその中から毎晩夜の相手を選ぶ。これで彼が女性を店に立ち寄らせない理由に説明は必要ないだろう。  その櫟は商品に石の名前を与え、「煉丹」という箱庭にて磨きを施し、自分の手で愛で、厳選した一級品を店に並べる。それこそが櫟にとっての幸せに他ならなかった。  けれどその幸せに亀裂が入ることも少なくはない。現に櫟は商品であるベリルに馬乗りにされていた。 「櫟のどアホっ!!」 「なんや、朝っぱらから」  紺色のアンティークベッドの上で、ベリルの不機嫌な声が鼓膜を直接揺らす。寝起きに使うにしては強い言葉は櫟を完全な目覚めに導いた。脳の奥まで透き通るような開放感と共にだ。  そんな中、再びベリルが口を開いた。 「また蒼玉の代わりやった!!」  小柄な体格からは想像もできない眼力の尖さ。怒声。されどそんなものはベリルの端正な顔立ちの前では二の次でしかない。クリアな思考はそう称していた。 「可愛ええな、嫉妬してまうん?」 「話聞けや糞ったれ!!」  櫟は感情的になっているベリルを落ち着かせよう手を伸ばす。  だがその手は即座に振り払われてしまう。相当な怒りが溜まっているようだ。櫟は手の痛みを感じながらベリルを柔らかに見つめる。 「はぁ⋯⋯あんなベリル、俺はお前を蒼玉の代わりとは思ってへん」  今のベリルには言葉での説得が必要だった。頬に先ほど振り払われた手を添える。  その時。ベリルの体が櫟の上で僅かに跳ねた。ヘーゼルアイの丸目に惜しみなく使われている睫毛。 それが羽のような軽さで揺れる。 「ベリル」  櫟はベリルの唇に親指を横へ滑らせる。まるでチャックでも開けるように。  「⋯⋯なに?」 「ベリルは可愛ええよ」  櫟は軽く開かれた薄い桃色の唇に目を細める。昨晩この唇が自分に何をしたか知っている。その愉悦が滲み出ていた。 「ええ子に最後までご奉仕できるもんな?」 「⋯⋯バカにしてるやろ!」  「してへんて、ほんま可愛いな」  ベリルの肌色は空雲を彷彿とさせる程に白い。軽く触れるだけでも跡がついてしまう繊細な肌。その体には点々と柔らかな鬱血痕が散らされている。 「ベリルはなんでも似合ってしまうから困るなぁ」  事実ベリルはなんでも似合う。  櫟が作った服は勿論のこと、手作りの下着でさえも。  だから櫟は他の子にはしないはずのことをベリルにはしてしまうのだろう。  「可愛いお人形さんは大事にせんと」  櫟は一度そこで言葉を止めるが一拍置いてまた続ける。  「蒼玉みたいに逃げたい思ってまうからな」  櫟は聖母のような微笑みを浮かべ、ふと上に乗るベリルの腰骨を親指で擽った。 「ちょ、やめ⋯⋯っ、くすぐったい!」 「相変わらず弱いなぁ、ここ」  身を捩るベリルの頰に紅が差している。不自然に腰が揺れる様子から、擽り以外にもそうなる原因があるのだろう。 「やめてや!」   櫟の腕をベリルは振り払おうとする。櫟はそれが分かっていて再び腰骨に親指を充てがう。 「こら、嘘ついたら駄目やろ?」  「っ⋯⋯う、ウソやないも」 「可愛ええね、腰揺れてまう?」  ベリルがその言葉に反論しようとするタイミングだった。櫟が突然にベリルの二の腕を掴んで引き寄せた。  「うわぁ!?」  ベリルは驚愕の声を上げながら櫟の胸元へ倒れた。  「可愛ええ子、捕まえた」 「ず、ずるい!卑怯や!」 「うん、卑怯でごめんな?」  その悪びれもない返しはベリルの癪に触れた。文句を言う暇も与えずに櫟の顔を両手で挟んだ。 「櫟の性悪!!そんなやから蒼玉が」 「ベリル」  眼球が触れ合う距離だった。口腔に差し込まれた舌は長く、奥に押し込まれているのもあって、ベリルの顔は苦しげだった。顔から離れた手が櫟の胸元に触れている。  しかし櫟はその顔を見ても動きを緩めない。ベリルの逃げ惑っていた舌を絡め取り吸い付く。やがてどちらのものか分からない唾液が口端を伝い流れる。  櫟はベリルの頬を掴んでその事に気がつく。そのまま舌の絡みを惜しませるように解くと、ベリルの後ろ髪に指を絡ませる。 「ベリルは口ベトベトにするのが好きやな」  その言葉は羞恥心を刺激するように思われるだろう。  だけれど櫟が刺激したい部分は違う。案の定ベリルはその部分に感化された。 「はあ!?全然ちゃうわ!!」 「ほんまに?昨日も口周りべとべと(・・・・)やった気ぃするけど」 「それはっ、櫟の我慢が、足りんからっ!」  ベリルの言葉の後に場の空気は静まる。その言葉は今まで上機嫌だった櫟の表情に翳りを差した。 「⋯⋯へぇ。じゃあベリルは我慢強いん?」  櫟は敢えて明るく問いかけていた。昨夜から変えられていないサテンのシーツが櫟の臀部を擦る。その音はベリルの耳にも届いたようだ。   ただ何故かベリルは馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。 「なに?朝からしたいん?」 「したいなぁ」  互いに見つめ合う二人の瞳には他のものが映らない。ベリルの手が櫟の胸元を這い上がっていく。白い指先が首筋の産毛に触れると、ベリルは吐息をかけた。  途端に櫟の上半身がわざとらしく起き上がる。  その行動をベリルは甲高い声で笑った。 「やっぱ我慢弱いのは櫟やん、素直に認めればええのに」 「もう勝った気ぃなん?」 「俺は負けへんもん、負けるのはいつだって櫟や」  互いに見つめ合っている内に自然と、一糸纏わない肌同士が密着する。腰をくねらせて櫟の首元に腕を回すベリル。その意図を読み取った櫟は背の低いベリルに合わせて身を屈める。小さな唇に櫟の薄い唇が重なり、最初は軽く押し付けて、時折離して、それを何度か繰り返す。 「んっ、はっ、ぁ」 「演技やめや、ベリル」 「はーい」  まだ余裕のあるベリルの様子に櫟は愉しげだった。この愛らしい顔があと数分後にどうなるか。どちらが泣くのか。結果の見えている勝負を使って必死に構ってほしいベリル。櫟の目の前に置かれた状況全てが脳を興奮へ誘う。 「ベリルはええ子やね」  その言葉を口にした直後。櫟はベリルの唇を舌でなぞりながら腰骨へ手を伸ばすのだった

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