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猫と鈴と夕暮れの神社8
ポタージュを飲んで、猫に食べさせてはいけないものを伝えると、レオニスさんはメイドさんを呼び、器を下げさせて自分も出て行った。部屋には俺とルナだけになった。ルナはいつの間にか起きて、窓辺で外を眺めている。窓からはなにが見えるのだろう。まだ頭も体も重いけれど、昼間よりはマシになってきているから、ベッドから出て窓辺へと行く。そして空を見て俺はびっくりした。星がたくさんキラキラと光っている。いや、それはいい。空気が綺麗なら普通に見れるものだ。でも、俺がびっくりしたのはそんなことじゃない。俺がびっくりしたのは月だ。空には月がふたつ出ていた。
「月がふたつ?」
それを見て、これは俺の夢じゃない現実なんだと思った。だって、俺に月がふたつだなんて想像力はない。だって月はひとつって決まってるじゃないか。だから夢なのなら月はひとつのはずだ。だけど空にはふたつの月。ということはここはほんとに異世界ということになる。なんで異世界になんて来たんだろう。いや、それより、帰る方法はあるのか? 来たのだから帰る。来れたのだから帰れる。ということになる。ここに来たのはルナを追いかけていて、転んだらこちらに来ていた。としたら、こっちでも転んだら戻れるのだろうか? それとも全ての条件が揃っていないとダメだろうか。ルナを追いかけて転んで。そのときに光に包まれて、鈴の音が頭の中で響いて……。いやいや。ルナを追いかけて転ぶまではいい。ルナを追いかければいいだけの話しだ。でも、目の前に白い光ってどうやって作り出すんだよ。多分、それがキモだと思うんだけどな。あ、あとは場所も関係あるだろうか。俺がこの世界に来たときにいたのは、フォロ・ロマーノの遺跡みたいなところだった。ということは、またあそこへ行けばいいのだろうか。でも、あの遺跡は森を抜けたところにあって、グリフォンの背にだって、それなりの時間乗っていた。ということはかなり距離があるだろう。とても歩いていける距離ではないだろう。としたらどうやってあそこに戻るんだ? レオニスさんにお願いする? お願いするのは、ちょっと申し訳ない気がするけれど、仕方ない。でも、問題はそうしてわざわざ遺跡まで行って転んでみても、ただ転ぶだけで戻れなかったらどうしようもない。それなら戻る方法を調べる? でも、どうやって。大体、字がわからない。……ん? 俺、普通にレオニスさんと話してる。俺は英語もなにも外国語は話せない。日本語オンリーだ。それならレオニスさんが日本語を話してる? いや、まさかな。でも、そうしないと俺とレオニスさんは会話をできないはずだ。それとも、耳が自動翻訳してくれてるのか? そんなファンタジーみたいなことあるわけが……ある。大体、俺がここに来たこと自体がファンタジーだ。としたら、こっちで書かれているものも読めたりする……んじゃないか? 明日、レオニスさんにここで書かれた本かなにかを借りてみよう。それで読めたらラッキーだ。でも、そこで気づいた。本が読めたって、向こうに帰る方法について書かれた本をどこで見つける? 図書館なんて……あるんだろうか? 文字はどうだっていいや。申し訳ないけど、レオニスさんに時間があるときにでも、あの遺跡まで連れて行って貰おう。そして、ルナを離して、ルナを追いかけて転ぶ……。って、転ぶのって、転ぼうと思って転べるものなの? わからないけど、再現してみるしかないんだ。別に1人暮らしだし、ルナが一緒にいるのなら、ルナの心配をする必要はないけれど、訳のわからないところに来てしまったんだから帰ることを考えるのは自然だと思う。それにしても一体なんでここに来たんだろう。なにか意味があるはずだよな。でも、その意味がわからない。その意味を探すのなら、しばらくここにいる必要がある。でも、ここに来た理由なんてなんでもいい気がする。でも、大学ももうあと数日で夏休みに入るから、旅行だと思って、少しここにいるのもいいかもしれない。でも、ずっとここにいるわけにはいかないしな。旅館とかホテルはあるかもしれないけど、お金持ってないしな。それこそレオニスさんに言って、なにか仕事をさせて貰おう。そして対価としてお金を貰おう。そしてどこかに泊まって、観光でもしてから遺跡に行って転べばいいかもしれない。うん、まずはなにか仕事をさせて貰おう。そう思うと俺は安心して、ベッドに戻り、明日には体調が良くなっていますように、と祈りながら眠りについた。
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