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第1話 この日常
日曜の朝、
目が覚めると、天井に星座表が貼ってあった。
淡い蛍光のラインで描かれた星座たちが、暗い寝室に静かに浮かんでいる。
「……また貼ったのか」
眠い目をこすりながらも、自然と笑みが漏れる。
慎二の趣味らしい。
寝ぼけながら天井を見上げると、小さい点が無数に光を反射していた。
暖かな布団の中で、まだ半分眠っている頭に、ふわりと甘い匂いが漂う。
ホットケーキの匂いだ。
甘い匂いで目が覚めた。
バターが溶ける匂いと、
少し焦げる寸前の、生地の甘さ。
目を開ける前から分かる。
ダイニングにいる。
起き上がると、床が少し冷たい。
パジャマの裾を引きずりながら、ベッドを抜け出す前に引き戸を少しだけ開ける
匂いが濃くなる
まだ起きるつもりはなかったが、
……食欲には敵わない
するすると戸を引いて起き出す準備
目蓋はまだ半分閉じてる
やっとのことで動き出したら、
そこには振り向かない背中。
じゅわっと、音がした
「何枚?」
「 五 」
フライパンの音が、一瞬止まる。
「……相変わらず、よく食うなぁ」
背中越しの声は、呆れてるくせに、
ちゃんと次の生地を流してる。
椅子に座っておとなしく待つ
運ばれてくる温度のある朝食
コーヒー付き
「いただきま~す」
「ほーい」
「……んまっ」
ホカホカの一枚目を切ることもせずフォークで頬張る
やっぱり日曜はこれだよな
メープルシロップかけ放題
バターなし
目の前で出かける準備を始めた男は
俺の好みを分かってらっしゃる
感心、感心。
「今日、遅くなる」
「そなの?何時くらい?」
「…あー7時くらい?」
「おけ」
またフットサルか
まぁ、いいけど
「あ、やっぱ8時
ジムも行く」
「……相変わらず、よく動くなぁ」
「だろ」
ふっと笑った顔
その顔、好き
「じゃ行ってくる」
「えーまって」
食べかけの朝食を置いて
玄関まで追いかける
「…ん!」
「…ん…あま」
あのメープル、こんな甘かったっけ
とかなんとか言いながらやつは出ていく
俺はというと?
触れたばかりの唇で
再び甘い朝食の続きを楽しむ
ただ、それだけ
この平穏が続けばいいーー
俺はそう思っていた、慎二と並ぶ朝の温もりに浸りながら。
だが、目を背けていた問題が、静かな日常を壊す影となって忍び寄っていることを、俺はまだ知らなかった。
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