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媚薬を盛られた青年主人を慰める従者のお話(1/3)*

 その日、遠征先で勝利を収めた勇者隊は、全員が祝勝会に招かれていた。  勇者の様子がおかしい事にロッソが気付いたのは、宴が始まってしばらく経った頃だった。  金色の髪の青年は、宴の開始からずっと、この街の指導者とその娘達の相手をさせられていた。  勇者達に祝勝会を催してくれたその男は、リンデルを離す気配がまるで無かった。  酒を飲んでいるにしたって、顔が赤過ぎる。  息も心なしか上がっているように見えて、ロッソはリンデルの傍に寄る。  潤んだ金色の瞳が助けを求めるようにロッソを見上げてくる。  すぐさまロッソは男と娘達に慇懃に礼をすると、さもそれらしい事を言って勇者を回収した。  なおも取り縋ろうとしてくる男を、外交用の笑顔で艶やかに躱す。 「ごめ……ん、なんか、薬盛られたみたいだ……」  廊下に出たあたりで、リンデルが苦しげに呟いた。  あの男達に手酌で注がれた酒だろうか。  よろけた体を支えると、それは驚くほどに熱かった。 (発熱? 一体どんな毒を……)  フラつく足取りの勇者を、なんとか支えて部屋まで運ぶ。  ああ、確か以前にもこんな事があった。とロッソは思う。  あれは、リンデルの姉の村が潰された時だったか。  あの時は、隊長が共に勇者を支えてくれていた。  しかし、彼はこの春に足の怪我が元で引退してしまった。 (これからは、私が一人で、勇者様の心も体もお守りしなければ……)  そう決心した矢先だったのに、こんなミスを……。  部屋の戸を閉めると、リンデルはその場で床に蹲った。  隠しきれない荒い息、床にぽたりと雫が落ちる。 「……っ、くっ……」 「勇者様!? すぐに医者をーーっ」  踵を返そうとするロッソを、リンデルがその長い後ろ髪を掴んで止める。 「や……、大丈夫……」  時折びくりと痙攣するような勇者の様子に、ロッソは困惑を浮かべながら俯いたままの青年の顔を覗き込む。  赤い顔に潤んだ瞳。顎をつたう汗までもが、どこか艶っぽく色付いている。  そうだ。あの男も娘も、リンデルに恋人はいないのかだとか、勇者の子はさぞ勇敢な子だろうとか、そんな話ばかりをしていた。  つまりこれは……。 「媚薬ですか……」 「そう、みたい……だな……」  苦しげに眉を寄せて、リンデルがベルトを外そうとする。  見れば、その下には抑え込まれて同じく苦しげな物が布越しに浮かんでいた。  震える指先にリンデルが手間取っていると、ロッソがするりとベルトを外した。 「ごめん……もう、苦しくて……我慢できそうに、ないんだ」  リンデルが、息を必死で整えながら話す。 「ロッソ、悪いけど……ちょっと、外に出といて、もらえないか?」  申し訳なさそうに見つめる、その金の瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。 「いえ、そう言うことでしたら私が」 「……え?」  予想外の答えに一瞬固まったリンデルのズボンと下着を、無表情のままのロッソが容赦なく剥ぎ取る。 「ちょ、ロッソ!?」 「前にもお伝えしたように、私には、そういう役割もございますので」 「や、それは、聞いたけどっ、俺には必要ないってーーっっんっ!」  ロッソは、目の前でそそり立つそれを躊躇いなく口に入れた。 「……ぁ、……ンンッ……。く、ぅ…………」  青年が、初めての刺激に頭の隅まで快感に犯される。  顔を真っ赤に染めて。  両腕で恥じらう様に顔を覆ってはいるが、耳も首筋も、既に桜色へと色付いている。  そんな青年を追い詰めるように、ロッソは音を立てながら舌を絡めて頭を大きく上下させる。  リンデルの物が一際大きく、ガチガチになるほどに膨らむ。  薬のせいで、とっくに限界だったのだろう。 「ぅぁ、…… イ、ク……っっっ!」  それでも腰を振らずに堪える姿は、流石勇者と呼ばれるに相応しい自制心だと、ロッソは内心思う。  ロッソを気遣っているのだろう。  この人はどんな時も、自分より相手を大切にする。  そう、どんな時だって……。  ーー酷くしたって、構わないのに……。  いやむしろ、自分はこの人に、酷くして欲しいのだと思う。  前の勇者は、女が抱けないことに不満を露わにしていた。  そして、自分が抱けるのがロッソだけだと判った時、彼はその憤りも淋しさも悔しさも孤独も全てをロッソに叩きつけてきた。  けれどロッソは、その痛みにこそ、自身の生まれた意味を感じていた。  物心つく頃には、自分は勇者様に生涯を捧げるのだと教え込まれ、生きる全てをそのためだけに使ってきた。  同じ年頃の子達が楽しそうに走り回るのを、羨ましく眺めるほどの余裕もなかった。  毎日毎日が血反吐を吐く訓練の日々で、死を願う事も一度や二度ではない。  だからこそ、勇者に嬲られる時、自分しかこの孤独に震える方を慰めることはできないと、それが許される唯一の存在が自分なのだと気付いて、ロッソの胸は震えた。  やっと……、やっと今までの全てが報われる。  溢れ出す達成感と充足感に満たされて、体に増え続ける傷跡さえも、勲章であるような気がしていた。  そんな先代勇者が、代替わりをした。  ロッソはまだ当時二十八だったため、そのまま後任勇者の教育と護衛を受け持った。  新たな勇者は、まだほんの十七の青年で、とても頼りなく、不器用で、嘘をつくのが苦手だった。  永遠に続く戦いの日々に傷付き苦悩し、誰にも本音で話すことが許されない孤独に震える。  その姿は前の勇者と同じだったのに、どうしてか、今の勇者はいつになってもロッソを求めてはくれなかった。 「っ、ごめん、な。苦しかったろ……」  荒い息の合間から、いたわるようなリンデルの声。  しかしそれとは裏腹に、熱を放ち終えたばかりのそれは、ロッソの手の中でまたむくむくと強度を取り戻しつつある。  自身の唾液とリンデルの精でドロドロになっているそれを両手で扱くと、青年がびくりと声を殺して仰け反った。 「や、も……いい、から、自分でする、から……っ」  喘ぐようになりながらも、必死で堪えるリンデルの瞳から、ひと筋涙が零れる。  そんなに無理をして、一人で耐える必要がどこにあるのだろうか。  勇者に薬を盛られる事を防げなかったのは、私のミスだというのに。  もっと、私をなじったって構わないのに。 「私の不手際ですから、私が致します」  そう告げるロッソの声は、胸中とは裏腹に淡々としている。  せめてもう少し、素直な態度が取れたなら、この優しい勇者はもっと安らげるかも知れないのに。  そんな想いを吐き出せないまま、ロッソは勇者のそれに舌を這わせた。 「んっ……」  思わず腰を浮かせる勇者を追うように、ロッソが身を屈める。 「は……っ、あっ……」  リンデルの、息苦しさに開かれた口端から、ぽたりと雫がロッソの前に落ちた。  ロッソは、ゾクリと背が震えるのを感じる。  自身の奉仕でリンデルが感じている。  それは、堪らなく甘美な悦びだった。  浅く出し入れしていたそれを、奥まで咥え込む。  ロッソはえづかない位置に収める術を心得ていた。 「ぅ、あ……っ」  上擦った声から、彼が追い詰められているのが分かる。  リンデルは男性にしては高めの声をしていた。  乱戦の中でも指示がよく通る、溌剌とした声。  それが今、私だけに聞こえる細い声で、切なげに喘いでいる。  高鳴る鼓動に急かされるように、ロッソは夢中で頭を振る。 「ぁ、っぁぁっ……ご、め……イク……っっ!!」  謝る必要などないのに。  どくりと脈打ち吐き出される精を、ロッソは一滴も漏らさず飲み込む。 「は……ぁ……飲まなくて、いいんだぞ……?」  真っ赤な顔で膝立ちの脚を小さく震わせ、肩で息をするリンデルが、それでもロッソの心配をした。  しかし優しい言葉とは裏腹に、彼のそれはまだ衰えそうにない。  床ではリンデルに負担がかかると判断したロッソは、まだふらふらと足元のおぼつかない勇者をベッドまで誘導すると、そこへ横たえた。  ロッソはするりと勇者の上へと跨ると、自身の腰紐を解く。  それを、勇者の手が止めた。 「ダメ、だ、ロッソ」 「勇者様……」 「こういうことは、大切な人としか、しちゃダメだ」 「……っ」  潤んだ瞳が、それでも真っ直ぐにロッソを見ている。  まるで、自分を大切にしろと言われているようで。  まるで自分が自分を大切にしていない事を責められているようで、ロッソは羞恥と屈辱に胸の中を掻き乱される。  こんなに、私は勇者様を求めているのに。  彼は私を必要としていない。  そんな想いに心を囚われ、ロッソは力無くうなだれた。 「……」  俯いたままの従者に、リンデルが戸惑う。  こんなに淋しげな姿は、目にした事が無かった。  まさかとは思うが、俺が拒んだ事が、ロッソをこんなに落ち込ませたのだろうか。 「……ロッソは、俺と、したいのか?」  率直に尋ねられ、ロッソは顔を上げる。  そこにはまっすぐな瞳でロッソを見つめるリンデルがいた。  まだ赤く染まった頬に、額に、金色の柔らかな髪が汗で張り付いている。  自然と上がってしまう息を必死で整えながら、自身の欲を抑え込んで、なおリンデルはロッソの気持ちを問うていた。 「どうして……」  ぽつりと、ロッソの口から零れた言葉。 「あ、いや、違うならいいんだっ」  リンデルが慌てて顔の前でブンブンと手を振る。  その僅かな刺激にも体は反応したようで、一瞬苦しげに眉を顰めた。 「どうしてあなたは、いつも人の事ばかり……」  震える言葉と共に零れたのは、涙だった。

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