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悲しみ*

「あ、あっ。ん……っ、カース……っ」 「なんだ?」 「は、恥ずかしい、よ……」  金色の瞳を隠すように、伏せられた睫毛が震えている。 「何が恥ずかしいんだ、お前は。俺を平気で誘う癖に……」  呆れたように返しながらも、男は青年のその新鮮な反応を楽しんでいた。  ゆるゆると扱いていると、次第にどちらのものか分からない汁でぬるぬると滑り始める。 「ん……ぅ……んん……」  水音が聞こえだすと、リンデルの堪えるような熱い息が男の肩へかかるようになる。 「ふ……、う……、っう……ん、ぁ」  くびれ同士を重ねて、その溝をくるりと撫でると、ビクビクと青年の肩が揺れる。 「あ……っ、やぁ……んっ……」  もじもじと何かを我慢するように、青年が身じろぎをする。  男にはリンデルの欲しがっているものが分かっていたが、残念ながら男の手は一つしかない。気付かないフリをしてさらにその手を早めた。 「ふ……、ぅ……、んん、んんぅ……っ」  ぎゅっと男の服を掴んでいた青年の手に力が篭る。  そろそろ限界だろうか。と男は少し残念に思う。 「ぅ、あ……。ん……やだ、カース……ぅ」  滲んだ瞳で切実そうに見つめられて、男は求めに応じる。  後ろへと手を回すと、青年のそこはすでにヒクヒクと震えて熱を持っていた。 「入れるぞ」  告げて、既に二人の体液でドロドロになった指を、ゆっくりと挿し入れる。  季節のせいか、いつもより冷たく感じる指にヒヤリと体温を奪われて、リンデルは身震いと共に息を吐いた。 「は……っ、あ……」  青年が、男の肩に顔を埋める。 「相変わらず、キツイな……」  日々重たい甲冑を支え、剣を振るう筋肉がぎゅっと詰まった体は、一見ごつごつとはしていない割に重く、その中までもが引き締まっていた。  何とかゆるゆると動かせる程度に解し、二本目を添える。 「ふ、う……っぅうん……っ」  ずぶずぶと内壁を押し広げて、二本目が根元まで入る。  緩やかに動かすと、青年から可愛らしい声が漏れる。 「んっ、あっ、あっ、ああっ」  それに合わせるように男が腰を揺らすと、二人のモノがぬるりと擦り合わさる。 「んぅっ、はっ、ああんっ」  うっとりと目を細めて快感に囚われる金色の青年を、男が上気した眼差しで見つめる。  髪と同じ金色の眉が切なげに寄せられて、滲んだ瞳の瞳孔は開きかかっている。  長すぎず整えられた金色の髪は、男の指が動く度にゆらゆらと揺れて、そんな艶めかしい青年の表情を彩っていた。  三本目をそっと当てがうと、入り口が期待に震えている。  求めに応じるように、男は中へと三本目を這わせた。 「は……ぁう……ううん……っっん」  金色の瞳を包む細い金のまつ毛が、悦びに震えている。  三本の指で青年の中を優しくかき混ぜると、その度愛らしい声が零れた。 「んんっ、ああっ、あっ、んっ、ああんっ」  グチュリと音を立て奥まで指を突き立てると、青年の体がびくりと跳ねる。 「ああああっ!」  青年が、縋り付くように、両手で男の肩を掴む。 「や、気持ち、い……っふあっ、ん、……カースっ、あっ、お願……んんんっ」  追い詰められてきた青年に、潤んだ瞳でねだられて、男は指をずるりと引き抜く。 「ぅあ……っ」  とろりと、半開きのリンデルの口端から唾液がこぼれる。  それをぺろりと舐め取って、男が尋ねた。 「入れてほしいのか?」 「ん……入れて……ほしい……」  金色の瞳が、期待に滲む。 「カースのを……。俺の、中に……入れて……お願い……」  待ちきれず男に跨り男のそれに手を伸ばしてくる青年に、男は口端を上げて応える。  ベッドの軋んだ音も、今は気にならなかった。 「力抜いとけよ」 「ん……」  リンデルは、甘く痺れた頭の隅で思う。  その言葉は……。  カースが……きっとゼフィアに言われた言葉なんだ……。  ずぶずぶと肉を割き、男のそれが入り込む。  それを迎え入れるように、青年も男の腹へと腰を落としてゆく。 「あ……っ、はぁっ……っあああっ」  切望していた男のそれが、自身に入っている。と、そう思うだけで、リンデルの頭の中は快感に埋め尽くされ、思考が途切れた。 「あったかいな……」  男は幸せそうに呟いて、下から突き上げ始める。 「あっ、あ、んんっ、あああんっ、あっあああっ」  リンデルの元々高い声が、さらに上がって鼻にかかったような甘い響きになる。  その声に誘われるように、男はさらに深く、強く突いてゆく。 「うぅ、ん、あっ、あああ、ああっ、んっ」 「リンデル……」  男に囁かれ、青年は熱の高まりを感じる。 「は、あっ、カース……、カース……っっ」  男は、まるで縋り付いてくるように自身をきゅうきゅうと締め付けてくるリンデルの内側に、背筋をのぼる熱を次々と感じる。 「ああ……、リンデル。お前は可愛いな……」  男の囁くような声に、リンデルは快感に押し潰されぎゅっと閉じてしまった金の瞳を何とかじわりと開く。  空の色と森の色は、今、愛しげに青年だけを見つめていた。 「……っ、カースっ、ああっ……、カー、ス……っっ」  嬉しさに、涙が込み上げる。  じんと熱くなった胸に呼応するように、下腹部へも熱が集う。 「ぅ、あ、……っあっ、イ、イキそ……う……っっ」  必死で堪えるような表情とともに告げられ、男が速度を上げる。 「あ、あっ、ああっ、あああっ、あっああんんんっっ」  ガクガクと膝が震えて、リンデルの瞳から涙が零れる。 「ああっ、はぁっ、うあっ、あっあああんっ、イイっ、気持ち、い、……っ」  涙声の訴えに、男が青年の腰をぐいと引き寄せる。 「あっあああっ、カースの、気持ち、いい……よぉっ、んっ……」  頬を赤く染めたカースの眉間に、皺が深く刻まれる。 「……俺もイクぞ」 「あああっ、きてっ、俺の、ナカっ、ああんっ、いっぱい、来て……っっ」  男が、激しく腰を突き動かすと、青年もそれに応えて腰を振る。  ずくんと痛いほどに大きくなった男のそれが、青年の中を満たす。 「あああああっ! おお、き……っ!」  それを、さらに男が奥まで突き立てる。  ミチミチと内側を広げられて、青年がビクビクと跳ねながら仰け反る。 「ぅぁあああああああああっっっっっ!!」 「……っ」  男の熱いものが中に注がれ始めると、呼応するように青年のそれも男の上に精を吐いた。 「……っあ、…………はぁ…………っふ……」  体がびくりと痙攣する度に、吐息と共に声を漏らす青年。  溢れる快感を飲み込みきれずに大きく仰け反っていた青年は、涙と涎に濡れた顔に恍惚とした表情を浮かべている。  反対に、男は何かを堪えるように顔を顰めて背を丸めていた。  しばらく、静まり返った室内に、二人の荒い呼吸が続く。  少し息が整ってきた男が、自身のそれを抜こうとすると、青年が縋りついた。 「あっ、や。待ってカース、抜かないで……」  しがみついてこようとする青年を、男が体の間に腕を入れて制する。 「……カース……?」  不安げに青年が尋ねる。  男は答えないままに手探りで枕元にかけてあった手拭いを取ると、自身の腹から胸元にかかった青年の精液を拭き取った。 「来ていいぞ」  許可をもらって、リンデルが素直に男に抱きつく。  ぎしり。と耳元で鳴った音に、男が眉だけを顰める。  男はそれを思い出すまいと、青年の金髪をゆっくりと撫でた。 「カース……好き……大好き……」  男の首筋に顔を埋めて、青年が囁く。 「ああ、俺も………………」 『愛してる』と言いかけて、男はそれを飲み込んだ。  ここでだけは、それを口にしたくなかった。  まるであいつと同じになってしまいそうで、それだけは、どうしても嫌だと思った。  ……俺は違う。  あいつのように、一方的に奪ってはいない。  埋め合わせのような言葉ではない。  リンデルは俺を求めてくれて、それで……。 「……っ、リンデル……」  掠れた声で囁かれて、青年は男の顔を覗き込む。  まるで、助けてくれと、言われたような気がした。 「カース……?」  その透き通る空のような瞳にも、深い森の瞳にも、抱えきれないほどの憂いが滲んでいる。 「……カース……悲しいの?」 「悲しい……?」  問われて、男は小さく繰り返す。  俺は、悲しいのだろうか。あいつが死んで。  居なくなればいいと思っていた奴が死んで、果たして悲しいものだろうか。  喜びこそすれ、悲しむ理由などどこにもないと思っていた。  拾われたことへの、生かされたことへの借りはあった。  けれどそれ以上に、いっそ殺してくれればよかったと、ずっと思っていた。  だから、悲しいなんてこと、思うはずが…………。  青年の長い指が男の頬に触れる。 「カース……」  そっと森色の目元を拭われて、熱い雫が青年の指を伝う。  つられて空色の瞳から溢れた雫を、青年は唇で拭った。 「ごめんね……」  金色の瞳を揺らして、青年は男の頭を胸元に抱き抱えた。 「……どうして、お前が謝る……」 「俺が、我儘言ったからだね……」 「それは違う。お前は何も悪くない。悪いのはーー」  青年が、胸元の男をぎゅうっと胸に押し付ける。  胸板に口を塞がれ、男の言葉は途切れた。  すっかり萎えた男の物がずるりと抜け落ち、青年がほんの僅かに肩を震わせた。  姿勢を変え青年が男の隣に横たわると、男は黙ったまま溢れる体液を手にしていた手拭いで拭ってやる。 「……ねえ、ゼフィアは今、どこにいるの?」  リンデルの言葉に、男は動きを止めた。  金色の瞳が自分を見つめているだろう事は分かっていたが、男は視線を上げないまま答えた。 「土の下だ」 「そう、なんだ……」  リンデルがしょんぼりと肩を落とす気配に、男は何故だか焦った。 「お前は……、悲しいのか……?」  思い切って顔を上げると、悲しみを浮かべた金色の視線がやはり男を包み込む。 「うん……悲しいよ」 「あいつが死んで、お前が悲しむ必要がどこにある? お前だって、あいつには酷い目に遭わされただろう!?」 「……でも俺は、お頭の事好きだったよ」 「……っ!!」  男が激しく動揺したのが、リンデルには分かった。 「カース……」 「…………そんなにも、簡単に……。お前は悲しめるんだな……」 「カースは、悲しめないの?」 「俺は…………」  それきり言葉を紡げなくなった男の頬を、青年が優しく撫でる。 「悲しい時に、悲しむのを我慢してたら、辛いよ……」 「俺は別に……悲しくなんか……」  しかし、そう呟く男の瞳からは、まだ静かに涙が溢れ続けている。 「ゼフィアは、いつ頃亡くなったの?」 「もう……五年も前の話だ……」  その言葉に、青年の胸がギリっと痛んだ。  五年前……。  俺と再会する少し前まで、カースはずっと、ゼフィアと一緒だったんだ……。  沸き出る暗い感情を押し隠して、青年は続ける。 「ゼフィアはカースの恩人なんだよね?」 「それは……」 「カースがゼフィアを嫌いなのは知ってるよ。憎んでるのも知ってる。でも、だからって、死んだ人を悲しんじゃいけない事にはならないよ……?」 「……っっ!!」  男の瞳から、涙が堰を切って溢れ出す。  堪え切れずに声を上げて泣き出した男の頭を、青年は苦笑を浮かべて優しく抱き寄せた。  どうしてこんなに、この人はいつも我慢してしまうんだろう。  不器用なのは、結局のところ、彼が純粋すぎるせいなのかも知れない。  リンデルは、そんな彼を愛しく思う反面、至らない自身を歯痒く思う。  カースがこんな風に誰にも頼れずに、泣くことすらできずにいた事を。  俺は今まで三年も、どうして気付けなかったのか……。 「カース、ごめんね。今まで気付いてあげられなくて……」  後悔の色濃い青年の懺悔に、男が青年の胸で首を振る。  まだ嗚咽の止まない男の黒髪を、リンデルは繰り返し、愛を込めて撫でた。

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