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鎖*

「っありがと。……ケルトにいっぱい、俺の愛を、あげるから、ね……」  その言葉にケルトは心が躍った。  さっきから感じていたこの感覚は間違っていなかった。  二人は今、ケルトに愛を注いでくれていたのだと、ケルトはようやく理解する。  淡い緑の瞳が嬉しそうに潤み、涙がまた一粒溢れる。  カースは、そんなケルトの様子にリンデルの説明不足を知り、若干頭が痛くなったが、文句は飲み込んだ。  ぐい、と腰を持ち上げられ、ケルトの頭が下がる。  カースはそんなケルトの頭を自身の膝に乗せてやると、そっと優しく顎のラインをなぞる。  小さな輪郭は、やはりあの頃のリンデルを思い出させた。  まだビクビクと痙攣に襲われては声をあげるケルトの内を、ぐんと勢いよくリンデルが突き上げる。 「あぁあああああああっっっ!!」  少年は受け止めきれない快感に喉も背も仰け反らせた。  リンデルは、より深く少年の奥を突く。  その度、喩えようもない快感が少年を襲った。  繰り返し嬌声をあげる少年の視点が定まらなくなって、カースはリンデルを見る。  リンデルは、その金色の瞳に溢れんばかりの愛を浮かべ、その奥に悲しみを隠していた。  カースはリンデルの意図を汲むと、少年を追い詰めるべくその手を開いて少年の胸を愛撫する。 「んっ、……イクよ、ケルト。俺の……愛……受け取って……っっ」  ケルトの中で、リンデルのそれがもう一回り大きくなる。  淡い緑色の瞳が大きく見開かれる。  どくんと確かに自分の内で脈打つ感覚と、熱い何かが注がれる感覚に、少年は止まない絶頂を迎える。 「あああああああああああああああああああああ!!!!!」  リンデルの愛は熱く、少年の全てを溶かした。  愛を知らなかったその心も、熱を失っていたまやかしの肉体も。 「リン……デル……っっ」  びくりと肩を震わせながら、荒い息の隙間から、ケルトが名を呼ぶ。  伸ばされた小さな手を、リンデルは両手で握り締めた。 「ケルト……」  リンデルの瞳は、もう悲しみを隠しきれなかった。 「そん、な、顔……っ、すんな、よ……」  ケルトは無理矢理苦笑を浮かべる。 「笑えよ……」  言われて、リンデルは微笑んだ。  どんな時にだって、笑えるように。  そんな勇者時代の努力が、こんなところで役に立つとは思わなかったが、リンデルはそれはそれは美しい笑みを浮かべることができた。  天使のようだと、ケルトは思った。  美しく輝く金色の瞳に、金色の髪。 「ああ、やっぱ、リンデルは……それがいいや……」  ケルトは、胸いっぱいのあたたかな気持ちにうっとりと目を細める。  生まれて初めて、満たされた気分だった。  ずっと足りないと思っていた、自分だけがもらえないと思っていたものを、彼らは惜しみなく注いでくれた。  なんだかとても眠い。まだビクビクと勝手に跳ねる身体は心地良かったが、疲れきっていた。  注がれた愛は熱く重く、心も体も蕩けて愛の渦へ飲み込まれてゆく。  不思議と、怖れはなかった。  ただただ、幸せな気持ちに包まれて、ケルトは目を閉じた。 「ケルトっ」 「ケルト……」  二人の声が聞こえる。  けれどまぶたは重くて、もう目は開けられそうない。  リンデル、泣くなよ……。  オレが消えても、どうかお前は笑っていてくれ……。  カース……ありがとう。リンデルを慰めてやってくれよ……。  ……お前と釣りしたの、すげぇ楽しかったぜ……。  先に逝かせてもらって、……悪ぃ……な………………。  少年の体がほんの少し軽くなる。  人を看取った事のあった二人は、それが魂の重みだと知っていた。  少年の体は、透けるように儚く揺れると、その端々から砂のように零れ落ちた。  リンデルがそれを押さえようとするのを、カースがそっと止めた。 「もういい」 「俺……っ。俺は…………ケルトを助けてあげたくて……」  リンデルの瞳から、涙の粒が溢れる。  その間も、少年の体だったはずの砂の塊は、サラサラと崩れ続けた。 「お前は立派に、あいつを助けてやったよ」 「違うよ、俺は……ケルトを幸せにしたかったんだ」 「……幸せそうに、笑ってたろ……?」 「違っ……違うよ。こんな……。こんな簡単な幸せじゃなくて、もっと……」 「あいつにとっては、こんな幸せだって、今までずっと手に入らなかったんだろ」  カースも分かってはいる。  リンデルが、こうなる可能性を分かった上でこの行為に挑んだのだと。  それでも、腕の中で崩れてしまった少年の姿に、リンデルが罪悪感を感じずにいられないことも、またカースには分かっていた。  リンデルの腕の中で、砂塊は、ついに全てがただの砂山へと姿を変える。 「っ、カース……っ」  ぼろぼろと溢れる涙をそのままに、悔しそうに歯を食いしばって、リンデルが男を見つめた。  男は、本当に、あのタイミングで目覚めることができて良かったと思った。  リンデルひとりに罪を背負わせずに済んだことが、少しでもその罪に加担できたことが、せめてもの救いだと思った。  二人は少年だったものをかき集めると、風に飛ばされバラバラになる前に、穴を掘って埋めた。  その際リンデルは、ひと握り分のそれを、袋に包んでいた。  持ち帰るつもりなんだろう。  きっとこいつは、あの少年にこれから死ぬまでずっと、心のどこかを囚われて生きるんだろう。  それでいい、とカースは思う。  カース自身も、国を焼け出された頃には既に沢山の想いを背負っていた。  幾重にも巻きついた鎖で身動きが取れず、息をすることさえ苦しい日もあった。  何度全てを捨てようと思ったのか分からない。  けれど、人が人へとかける鎖は、ただ重く苦しいだけのものではなかった。  それをカースは幼いリンデルに教わった。  目の前で、作り立ての墓に黙祷を捧げる金色の青年を眺める。  その髪は後ろで括られ、括られた先は茶色に染まっている。  姿を偽らなくては移動すら難しかった、この青年。  きっとこの青年は、カースの知らない鎖を、それこそ数え切れないほどに巻き付けられて生きているのだろう。  けれどまた、そうやって自分からそれを掴む。  全てを分かっているのだろう青年へ、男がかける言葉は何も無かった。  今はただ、リンデルの零す涙を受け止めよう。  そのためなら、いくらでもこの胸を使ってくれて構わない。  そう決めると、カースはまだ疲労の残る自身の身体を励ましながら、リンデルと二人洞穴へと戻った。

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