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【 山神様の番 】〜生贄として捧げられた花嫁は、山神様に溺愛され本当の愛を知る〜 九、愛しい気持ち | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
【 山神様の番 】〜生贄と...
九、愛しい気持ち
作者:
柚月なぎ
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九、愛しい気持ち
銀花
(
ぎんか
)
の領域は外の時間と同一ではない。外が夜でも領域内はそうでない時もある。が、それは銀花の意思によって自在に変えられるので、夜にしようと思えばいつでも可能だった。
水月
(
みなづき
)
は「邪魔者は退散退散〜」と言って、つい半刻前に去って行き、再びふたりだけの時間が流れる。 (確かに、今のままでは楪は人間の身のまま、俺の加護も得られない。だからと言って、無理強いもしたくない。俺は、楪の気持ちを優先してやりたい) 神気を共有するということは、ひとではなくなるということ。老いることなく、共有したその瞬間から神の眷属と同等の存在となる。当然、今までと同じではいられない。まず、食べるという行為が不要になったり、人間らしさが失われることもあると聞いた。歴代の花嫁がそうだったように、義務的な番となる原因のひとつだろう。 (前の花嫁は、百年ほど山神の穢れを浄化し続け、最期は……) 前任の山神が話してくれた自身の
番
(
つがい
)
の結末はあまりにも不憫で、楪が同じような最期を迎えたらと思うと気が気でなかった。花嫁は皆が皆、山神に対して心を開いてくれるわけではない。清浄な身を保つためとはいえ長い間幽閉され、
他人
(
ひと
)
との関わりもほとんどなく、気が沈まないわけはない。 (百年もの間、その責務に耐え続けてくれたことだけでも、前任の花嫁に感謝すべきだろう) 山神が代替わりをする理由は大概ふたつだ。新しい山神候補が見つかり引退するか、番が亡くなって役目を果たすことが困難になった時。ほとんどは後者だと聞く。穢れはひとにとって毒のようなもの。いくら浄化できるといっても、あれがその身に入ってくる時のなんともいえない悍ましさは、この十五年で銀花も知っている。 (楪には……あんな想いはさせたくはない。だが、ただここで籠の中の鳥のように閉じ込めておくこともできない。俺の身がこのまま穢れに侵蝕されてしまえば、楪を危険に晒すことになる。それどころか、この地に住む者たちが生きていけない地になってしまうだろう) そうなれば元も子もない。少しでも長く楪と共に生きていくためにも、初夜の儀式を完遂する必要がある。水月の話が正しければ、交わらなくても神気は共有できるらしい。三晩はかかるが、その間だけでも我慢してもらうしかない。 領域内も夜を迎え、社は等間隔に通路に置かれた仄かな行燈の灯りしかなかった。儀式の手順としては、花嫁の待つ寝所に後から行くのが正しいようだ。楪はどんな気持ちで待っているのだろうか。不安しかない。 自室を出て大広間を通り、単衣に青い羽織を重ねただけの姿で歩く。先に楪に湯浴みをするようにと湯殿に押し込んだ後、しばらくして上がったのを確認してから、銀花も身を清めた。そういえば湯殿に入るのははじめてだと言っていたが、大丈夫だっただろうか。 あと数歩で楪の部屋の前というところで、銀花は口元を覆う。 (俺は三晩も耐えられるのか……?) 十五年間。 ずっと待ち続けた番。ほとんど毎日、村のあの屋敷の屋根からこっそりと見守ってきた大切な存在。触れることはできずとも、あの部屋の天井にある小窓から寝顔を覗き見したり、山やこの領域に咲いている、四季を感じられる花や木の実を投げ入れたりしていたなどとは、口が裂けても言えない。 山頂で籠から出てきた楪の姿が、ずっと脳内に焼きついている。 (……
邪
(
よこしま
)
な心で楪に触れたくはない) 口元に当てていた右手をゆっくりと離して、銀花はなにかを決意するかのようにぐっと握りしめる。とにかく、楪を怖がらせないようにしなければ。 十五年も耐えたのだから、三晩くらいどうということはないはずだ。この理性はそんなに簡単に崩れるほどやわではない。 襖に手を伸ばし、ゆっくりと開ける。部屋の真ん中に敷かれた白い布団の上に正座をし、緊張した面持ちでぴんと背を伸ばした楪が、銀花の姿を目にした途端、びくり! とわかりやすく肩が大きく跳ね上がった。 (……完全に怯えられている!) その反応を目にした銀花は暗い顔で俯き、部屋に一歩踏み込むのを躊躇う。 「ぎ、銀花様……私、どうしたら、」 ぎゅっと瞼を瞑って、衣の上で握りしめた指が真っ白になっていた。濡れたままの髪の毛から滴る雫のせいで、白い単衣の肩や胸の辺りが透けて見える。小さく震えているのは、湯浴みの後にうまく拭けなかったせいで、せっかく温まった身体が冷えてしまったからだろう。 銀花は自分が当たり前にできることが楪にはできないのだと知ると、愛しい気持ちがさらに強くなった気がした。 早足で楪のところまで行きその場に片膝を付くと、濡れた薄茶色の髪を撫でた手でそのまま頬に触れた。ひんやりと冷たい。青白い顔でふるふると小さく震えている楪が、きゅっと助けを求めるかのように銀花の袖を弱々しく掴んだ。 「楪、大丈夫か?」 「銀花様、私、湯浴みというものをしたことがなくて……できることも少なくて、今も、どうしたら良いのか、全然わからなくて······、」 「すまない。俺が気が回らなかったせいだ。身体が冷たい。もう一度湯殿に行こう」 楪の返事を待たずに、銀花はその軽い身体を抱き上げて立ち上がると、そのまま部屋を出て急ぎ足で湯殿に向かった。
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