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消えない光

 白に染められた、窓がない無機質な空間。  音も、匂いもないそこには、大きなベッドだけが存在している。  それ以外、何もいらない。  だってここは、俺がトオルのために作った箱庭なんだから。 「放せ! ぶっ殺してやる!」 「殺し合いもいいけど、俺はトオルと抱き合いたなぁ」 「ざけんな!」    トオルの体を綺麗にした俺は、暴れるその体を抱きかかえて箱庭に足を踏み入れた。  クッション性の床とはいえ、落ちればそれなりに痛い。  トオルは、痛みに耐性があるのは知っている。  だからといって、俺は痛みを与えるつもりはない。  トオルに感じてほしいのは、俺自身。    何度も暴れないでって言っているのに、俺の言うことなんか聞きやしない。  ケツを洗浄していた時はじっとしていてくれたのに、困ったもんだ。  だから、こうするしかないよね。 「アツキ、てめぇ……!」 「トオルが暴れるからだよ。じっとしてたら強くしないって」  胸の前で祈るように重なった大きな手。  淑女のようにぴたりと閉じられた長い足。  重力を操り、トオルを固定する力を強める。    これでよし。  俺はスキップしながらトオルをベッドまで運び、その上に優しく横たえる。  ベッドは体が少し沈むくらい柔らかく、なめらかなシーツは肌触りがいい。  トオルのためにオーダーメイドで作ったベッドだ。  彼がここに来てから十三日。  毎日、大活躍している。  シーツに散らばった艶のある黒髪。  本来の白さを取り戻しつつある磨かれた肌。  透過の能力を使って俺と闘いに明け暮れていた体には、弾力のあるしなやかな筋肉がついていて、豹のように美しい。  きゅっと寄せられた眉の下には、翡翠の瞳が燃えていた。    情熱的に睨みつけられると、腹の奥底から熱いものが込み上げてくる。  俺にしか向けられたことがない、憎悪を孕んだ視線。  普通なら、恐怖を感じるんだろう。  でも、俺はそれが死にそうなくらい嬉しい。  だって、俺にだけしか向けられることがないそれは、熱烈な告白と同義なのだから。  その視線に突き刺されながら、指先を小さく動かす。  トオルの両手は頭上へ。  膝は曲げ、俺たちが繋がる大切なところが見えるように、足は大きく開かせる。 「悪趣味だ」 「何のこと? このベッド、体が痛くならなくていいでしょ」 「死ね」 「酷いこと言わないでよ」  トオルがつれないのはいつものこと。  それが、彼の魅力でもある。  俺は動けないトオルの足の間に体を滑り込ませ、その体に覆いかぶさった。  見下ろすのは、俺と縄張り争いをしていた組織のトップだ。  初めて見た時から、強烈にトオルが欲しかった。  どうやって捕えようか。  どうやって組み敷いてやろうか。  殺し合っている最中は、そんなことばかり考えていた。  トオルを手に入れるのには苦労した。  彼が操る透過の能力は厄介だ。    接近戦に持ち込んでも、俺の拳はトオルの体をすり抜ける。  かと思えば、一瞬だけ実体化したトオルの拳に殴られる。  最初のうちは、意味がわからなかった。  でも、何度か拳を合わせるうちに、トオルの弱点がわかった。  透過し、実体化した後、再び透過するには一秒かかるってことだ。  俺はその一秒を狙って、俺の能力――重力操作――を発動させた。  手と足を拘束するように、見えない重力の枷を嵌める。  すると、トオルはブチ切れて叫びながら、地面に突っ伏した。  能力で拘束されれば、透過できない。  この瞬間、仮説止まりだった俺の考えは、正解だったと証明してくれた。  そうして、俺は嬉々としてあらかじめ用意していたこの部屋にトオルを連れて帰ってきたんだ。  ようやく手に入れた美しい宝石。  夢中になるのは当然だよね。  俺は、きゅっと噛み締められたトオルの唇のあわいを舌でなぞる。  けれど、そこは余計に固く閉じてしまった。  これじゃあ、息を奪うような、濃厚で気持ちいいキスできないじゃん。    でも、それでもいいよ。  抉じ開ければいいんだからね。  トオルのために短く爪を切った人差し指で、柔らかい唇に隙間を開ける。  そこに舌を潜り込ませれば、あとは俺の勝ちだ。 「ん、ぐ……ぅ……」  たった十三日。  されど十三日。  まだ開発中のところはあるけれど、トオルが気持ちよくなるところは全部知っている。    そのひとつが、上顎だ。  ゆっくり、じっくり。  炙るように舌で撫でると、細められた目に違う色が浮かぶ。  根気強く待っていると、とろりと溢れた唾液が俺の指を伝った。 「ふ、ぅ……」  悩ましい吐息が、俺の頬を掠める。  翡翠の目に、嫌悪感が浮かんでいる。  俺を刺し殺そうとする視線は鋭い。  それが可愛くて、もっとトオルを可愛がりたくて、ざらついた舌を絡ませていく。  それと同時に、じわりと汗が滲んだ肌の上に指を躍らせる。  耳の輪郭を跳ね、首筋は特に念入りに。  浮かんだ鎖骨は川が流れるように指を滑らせ、むっちりと弾力のある胸で立ち止まる。  その中心でふるりと震えているピンクの突起。  ここはまだ、開発中。  でも、少しずつ快感を拾えるようになってきたそこは、本当に良い子だ。  脇から登り、円を描くように近づいていく。  でも、すぐに触るなんてもったいない。  お楽しみは取っておかないとね。  寄せては返す波のように、近づいたり、遠ざかったり。  そうしていると、固定していなかった腰がもぞりと動いた。  見なくてもわかる。  脱力していたトオルが反応し始めたんだ。    もういいかな。  いや、まだまだ。  ねっとりとトオルの舌に自分のそれを絡めながら、トオルの様子を観察する。  ずっと俺を睨みつけているその瞳には、僅かな怯えが滲んでいた。  ああ、もういいね。  ふっと指先を肌から離す。  そして、勃ち上がっている尖りをピンッと指で弾いた。 「んあッ!」  掠れた声は、悦楽が滲むと同時に、羞恥に染まっていた。  弱みを見せたら負け。  そうやって生きてきたトオルにとって、この上ない屈辱と恐怖なんだろう。 「可愛い声。もっと聞かせて」 「っざっけんな! 誰がッ……く、ぅ……」 「我慢はよくないよ」  小さな飾りを擦るように捏ねる。  芯を持ったそれは、興奮して真っ赤になっていた。  もうひとつの熟れた果実のように美味しそうなそれに吸い付けば、トオルの体が小さく跳ねる。    望まない体の反応に、トオルはますます眉を寄せるが、その顔も可愛くてしょうがない。  でも、どうせなら気持ちよさそうな顔が見たいな。  トオルの唾液で濡れた手で、ほんの少しだけ固くなった彼の男根を握る。  ぬめりを借り、強弱をつけて扱くと、塞ぐものがなくなった口から呻き声が零れ落ちた。    嫌がっていようと、俺が躾けた体は正直だ。  このあとにあるご褒美を期待して、手の中の熱は固くなり、頭を擡げた。   「どうする? 一回イッとく?」 「手ぇ、放せ……ッ」 「えー? やだ」  嫌そうに言われるとさ、逆のことしたくなるよね。    俺はひくひくと上下する喉に唇を寄せた。  突き出た喉仏に吸い付いて赤い痕を残し、舌を這わせる。  不規則に、慎重に吐き出されるトオルの息を感じながら首筋をねっとり舐めると、くっと息を殺す音が聞こえた。  本当、ここ弱いんだね。  首筋を攻めれば、トオルの頂は近い。  手の動きを早めると、小さな先端からトプトプと先走りが漏れてきた。  内腿が小さく震えて、限界を知らせている。 「イッて」 「くっ、そぉ……ッ……!」  耳元で囁くと、トオルは悪態を吐いて体を震わせた。  ビュッと飛んだ白濁は、見事に割れたトオルの腹筋に着地。  あ、もったいない。  俺は手についたトオルの一部を舐めた後、腹に散ったものに舌を這わせた。  自分のやつは不味く感じるのに、トオルのものは美味しく感じる不思議。  口の中でゆっくり転がすと、はちみつのような甘さが広がった。  ひくつく腹にも赤い印をつけながら、熟れた果実に労いのキスを落とし、下へと向かう。  それと同時に手を軽く振り、トオルの足を、その胴体に引き寄せるように動かした。  引き締まった尻が浮き上がる。  その奥には、少し腫れて柔らかい窄まりがあった。    俺を受け入れてくれる小さな入口。  可愛くて可愛くて、愛おしい。  俺は、毎日頑張って俺を咥えるそこにキスをした。 「ッ……やめろ!」 「なんで? 可愛いのに」  チュッと水音を立てて吸い付き、ねっとりと舐める。  ゆっくりと撫で解していくと、開花前の蕾のように柔らかくなってきた。  断続的に緩むそこに、先を固くした舌を挿し入れる。  すると、力強い肉輪が俺の舌にしがみつき、さらにぐっと中に入ると、ふわふわな媚肉が俺を迎えた。  健気な動きに胸が踊る。  ご褒美をあげなくっちゃ。  俺は窄まりに唾液を注ぎ込んで、舌の代わりに指を挿れ、グチュグチュと音を立てながら解していく。  そして、くたりと脱力したトオルの男根を優しく撫でた。   「抜、け……ッ! きもち、わりぃ、ッ……んだよ……!」 「嘘ついちゃだめでしょ。ここ、大好きじゃん」  トオルが大好きなしこりに、指を押し込む。 「ひッぁ……ぐ、うぅ……!」 「ほらぁ。好きでしょ?」  余裕のない掠れた声。  ビクビクと跳ねる腰。  感じていることを知られたくないと、全身が叫んでいる。    やばぁ……。  可愛い。  そんなことされたら、いやでも喘がせたくなる。  俺は快楽の芽をグリグリと押し潰し、トオルの反応をじっくり観察した。  苦しそうに、悔しそうに顰められた顔。  翡翠の目にじわりと滲んだ涙。  噛み締められた唇から、断続的に溢れる声。  それでも、俺を殺さんとばかりに睨みつけてくる。  どうしよう。  この目に射抜かれると、ゾクゾクしちゃう。  腹の奥底からマグマのような熱が滾ってきて、もっと泣かせたくなる。  もう、いいよね?  トオルの後孔にずっぷりと奥まで入れていた指を引き抜き、そこと、腹まで反り返った自分の昂りにローションをぶちまける。  扱かなくてもガチガチに勃ってる俺の、凄くない?  いや、凄いのは俺をこんなに興奮させるトオルか。  俺は、トオルのより少し大きくて血管が浮き出た赤黒い凶器を、トオルの淫らな蕾に擦り付けた。 「やめろ……!」 「欲しい、の間違いでしょ」  素直じゃないなぁ。  俺のコレ、好きなくせに。  何の前触れもなく、俺はズブ、とトオルの中に入っていく。   「ざけんッ……ぐ、ぁ……クソ……ッ死ね! ッあ……!」    ドスの効いた怒号。  力が入った腹。  おかげで、トオルの中はぎゅうぎゅうと俺の昂りを締め付けた。  それは、トオル自身をも追い立てる。  俺のをしっかり感じたトオルは、情けない声を上げた。  あーあ。  何回繰り返せば学習するんだろうね。  そういう迂闊なところが、可哀想で可愛い。  衝動のまま、トオルに口付ける。  遠慮なんてしない。  抵抗を捩じ伏せ、舌を絡めて、吸い上げて、唇を食む。  鼻にかかるくぐもった喘ぎが、俺の劣情を煽った。    小刻みに腰を揺すり、奥まで貫く。  グチュ、と俺の先端に吸い付いたトオルの奥。  でも、ここが最奥じゃない。  俺が繋がりたいのは、もっと奥だ。 「ここ、入れて?」 「入れる……とこじゃ、ねぇ……!」 「あは。じゃあ勝手に入る」  いつも泣いて叫んで喜ぶくせに、もったいぶるなんてさ。  俺のこと焦らしてんの?  トオル、最高。  それじゃあ、期待に応えないとね。  トオルの腹側にある快楽の芽を押し潰しながら奥を突き上げる。  先端を奥の壁に押し付けて捏ねるように腰を動かせば、トオルの口から絞り出すような嬌声が上がった。 「ぐッ、あ……あぁ……やめッ、いやだ……!」 「嘘。だってここ、俺のをギューッて締め付けてる」    食いちぎられそうなほどキツい締め付け。  元々ひとつの肉体だったかのように馴染む粘膜。  気を抜くとすぐにイッてしまいそう。  俺たち、相性がいいんだろうね。  もっと強く、もっと深く繋がりたい。  ひとつに混ざり合って、ぐちゃぐちゃになりたい。  ねえ、トオルもそう思うでしょ?  トントンッと根気強く奥を突き続ける。  気まぐれに唇を奪い、首筋に噛みつき、乳首に吸い付いた。  そうして、奥が開く時を待ち続ける。  そろそろかな、と思った時だ。  グポッと独特の水音が立ち、俺の先端が、トオルの最奥にずっぽり嵌った。   「ぁぐッぁあ……ッ……うぁ、ああ……!」  ビクビクッと痙攣する、悦楽に染まったトオルの体。  押し寄せる快感の波に飲まれ、愉悦と怯えを浮かべた瞳。  はくはくと戦慄く唇。  その端からつうっ、と零れ落ちる唾液は甘露のよう。  強気な表情は、この時ばかりは可愛く蕩けていた。    トオルの最奥を穿った俺の昂りは、媚肉に食まれて最高に気持ちいい。  痙攣する奥は、まさに天国だ。    トオルの痴態に煽られ、隘路をさらに押し広げた俺の劣情。  我慢できなくて、俺はトオルの前立腺を抉りながら結腸を容赦なく犯していく。 「あ゙ぁ、ぐッ……や、ぁ、待っ、あああ……!」 「待てるわけ、ない、ッじゃん!」  激しい腰の動きに、肌と肌がぶつかる音がする。  それに合わせて、俺とトオルの腹の間には、透明な先走りを飛び散らせるトオルの男根が、憐れにもビタンビタンと揺れていた。  あーあ。  結腸ぶち抜かれた気持ちよさを知ったんなら、もうコレは誰にも突っ込めないね。  いや、突っ込ませるつもりは毛頭ないんだけど。  誰にも渡さない。  外に出したりしない。  トオルのために作ったこの箱庭で、一生、死ぬまで、こうして愛し合うんだ。 「トオル、トオル……奥に出すよ。俺を受け止めて。一緒にイこう?」 「やだ、やめ、ろッ……ひ、ぁあッ……」  もう耐えきれない。  俺は激しく腰を振り、トオルの好きなところを全部穿った。  ぐにゃりと蠕動し、ギュウギュウに俺の昂りを締め付ける媚肉。  そこに、白濁を注ぎ込む。    同時にトオルも絶頂し、派手に白濁を散らした。 「ぅ、ああああ!」  でも、足りない。  もっともっと、トオルと溶け合いたい。  だから、吐き出した精のぬめりを借り、次の頂を目指してトオルの奥を穿ち続ける。 「好き、好き……愛してるよ、トオル」 「うッ、あ、ぁ、くぅ……こッ……殺して、やるッ!」  トオルの"殺してやる"は、"愛してる"だ。  だって、どっちも重くて強い感情を抱いていないと口にしない言葉だからね。  トオルから「殺してやる」って言われると、言葉にできない高揚感に支配され、どろりと黒い征服欲が溢れ出る。  口角が、じわりと上がった。  ギッと俺を睨みつけてくる翡翠の瞳。  涙に濡れ、快楽に呑まれそうなその瞳には、消えない光がある。    (アツキ)に絶対服従しない。  いつか殺してやる。  その揺るぎない決意を、完膚なきまでに叩きのめし、残ったプライドをへし折ってやりたい。  希望なんて捨てさせて、絶望に突き落としたい。  だけど、それを望まない俺もいた。  手に入れたい。  でも、まだ追いかけていたい。  消えない光を灯したまま、俺だけを見ていてほしい。  鋭い視線で突き刺して、罵倒して、抵抗して。  俺を夢中にさせて。  そうして一生、この箱庭の中で、俺と愛し合おう?

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