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第11話 エピローグ
「あの、先輩」
「何?」
翌朝、学校への支度をしながら俺は先輩に聞かなければならないことがあったことを思い出す。
「先輩は、βじゃなかったんですか?中学の時は、それで問題になったんですよね」
「ああ、そのことか」
「先輩は、どこからどう見ても、フェロモンも、αです。あの時は、何であんなことに?先輩を陥れようとした人がβだって噂を流したとか?」
「いいや。僕はβだったんだよ」
「えっ……」
黙った俺に、先輩は何ともないことのように言う。
「αやΩは、ごく稀にその性が発現するまで時間がかかる場合がある。子供の頃にαやΩの判定を受けなかった人間は、皆ひとまとめにされてβの判定を受ける。だから僕は高校1年の頃まで、βとして生きてきた」
「……でも、中学の頃生徒会長をやっていたのは……」
「僕、昔からα並みに優秀だったんだよ。βじゃおかしいくらいにはね。それで職員の間でもαだと思われてたらしくて、生徒会長の話が来た。僕はβだったけど、先生たちが勘違いしてるのがおかしくて、騙してやろうと思って面白半分で引き受けた。だからβがαのふりして生徒会長やってたってのは、本当だよ」
「面白半分で……」
「α性が出現したのは、高校1年の後半ぐらいかな。それまで普通のβだったのに、急にαのフェロモンが出るようになって、グレアだって出せるようになった」
αやΩを見分けるのは今でも難しいけれど、と先輩は続ける。
「去年生徒会をやっていたのは、αに性別が転換した僕に正式な勧誘が来たからだ。僕、βだった頃からSクラスの常連だったから。今もSクラスだし。まあ、今の2年生には皆して負けちゃったんだけどね」
先輩は話し終えると、俺の頬に手を伸ばした。
「ごめんね、βでもなければ純粋なαでもなくて。……がっかりした?」
「がっかりなんか、しません!!先輩は、ずっと先輩のままです!!」
俺は間髪入れずに答える。
「君は、僕がβのままだった方が良かった?αの恋人になれるのは、大抵Ωかβだ。僕はもう、αになっちゃった。こんな僕は、君には受け入れてもらえないかもしれない」
「そんなこと、ありません!!俺はっ」
俺は俺の頬を撫でる先輩の手を握る。
「俺は、βの頃の先輩も、αになった先輩も、両方好きです。……ずっと好きです!」
俺は告白する。
「先輩こそ、俺でいいんですか。αになったら、Ωと番になれる。はるきさんみたいな幼馴染とだって家族になれる。先輩はαになっても、αの特権を使わずに俺と一緒に居られますか」
真剣な質問だった。
βだったという先輩にはわからないかもしれないが、αとΩの間の結びつきはとても強いものだ。
αであるということは庇護すべきΩを守り、Ωという至福を手に入れることができる、特別な立場を手に入れるということだ。
それを捨ててまでもαの俺と、先輩は一緒に居たいと思ってくれるだろうか。
「当然だよ。元βとして言っとくけど、βの恋愛は感情や衝動だけじゃなくて頭も使うんだよ。計算して相手が自分に堕ちるように距離を縮めて、こうして告白させるためにカマかけて……。僕は君から引き出したい言葉はもう引き出した。言質は取ったからね、もう」
先輩は不敵に笑うと先輩の手を掴んでいた俺の腕を解き、俺の胸をトッと叩いた。
「君が最初に告白してきたときから、僕は君を手に入れるために頭で恋愛して来たんだ。もう君は、僕のものだよ」
自分ばかりが先輩を好きで、先輩に近付くために全力を尽くしてきたつもりだった。
しかし、「頭を使った」という先輩の言葉通り、俺が先輩の手の内で先輩の計算通り先輩を求めるよう仕向けられていたのだとしたら。
俺はいつの間にか先輩の策略に、見事にハマっていたのかもしれない。
先輩を好きな俺が、先輩の手によってもっとドツボにハマる。ハマった先は――抜け出すことのできない、底なし沼。
これは先輩を好きだった俺が先輩の手によって先輩に堕ちる、そんな物語。
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