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第1話

多分俺は、俗に言う平凡な人間だ。そこそこの大学を出て、そこそこの企業に就職した。今年27、大学から付き合った初カノ・・・いや、先週振られた元カノには 「アンタといると普通過ぎて楽しくないわ」 と吐き捨てられ振られたという事実・・・。仕事だって、普通の人より遅くて毎日課長にどやされる日々が続いている。いっそこのまま死んでしまおうかと考えるくらいだ。 そんな事を考えながらひたすらパソコンに文字を入力していると向こうの方からどよめきが聞こえてくる。 「村瀬さん!また契約取ったんだって!?」 「え〜!営業成績またトップですよ!おめでとうございます〜!!」 何やら騒がしいと思っていたら、営業の村瀬がまた契約取ったとかで女性陣の黄色い声が嫌でも聞こえてくる。顔もよし、性格もよし、気遣いも出来るのなんので課内の人気ナンバーワンであり、俺と同期である村瀬は完璧超人である。比べるまでもなく俺の完全敗退だ。まぁ、どう頑張ったって村瀬には勝てないし、比べる事は数年前に諦めた。他人を妬む事よりも、自分の今後のお先が真っ暗過ぎて死にたいとしか気持ちが向かなくなってしまう始末である。 時刻は19時過ぎ、定時なんてとっくに過ぎている時間帯に俺は一人虚しくデスクに腰を下ろしてプレゼン資料を作成していた。他の社員達は皆、村瀬の契約を祝う会なるものをしているらしく定時で上がり、俺も誘えよと少しは思ったが、誰からも結局は誘われない。一人カタカタとパソコンを打ちながら、今日は華金か・・・そんな事を思うと、不意に消えたい衝動に駆られ、今から飛び降りでもしてやろうかという気持ちになって俺は屋上へと向かった。資料を一応完成させてから、会社の屋上へと足を運ぶ。気持ちが高ぶっていて不思議と死への恐怖はない、それよりも早く楽になりたいとしか頭になかった。 カンカンカンと自分の足音だけが響き渡る。早足で階段を駆け上がり、屋上のドアを勢いよく開けるとそこには綺麗な夜のオフィス街が照らし出されていた。 「やっっっと・・・楽になれる・・・!」 自分の声だけが静かな屋上に響き渡る。手すりに手をかけようとしたその瞬間、ガチャっと誰かが屋上へ入ってくる音が聞こえてきた。 「佐々木・・・?お前こんな所で何やってんだ!?」 「へ・・・?村瀬・・・?」 よりによって一番見られたくない奴に自殺未遂を目撃されてしまうなんて―。それから無言のまま俺は村瀬と居酒屋に来ていた。こいつと何の話をしろってんだよ・・・あのまま死なせてくれたら良かったのに! 二人してカウンターに腰かけているカオスな状況に耐えきれなくなった俺は帰ろうと席を立とうとした瞬間、 「佐々木何飲む?」 「へ?お、俺?生ビール・・・」 「生な了解、すみませーん!生二つ!!」 緊張と焦りのせいで思わずビールを頼んでしまい、それから30分が経ち俺は酔いに任せてペラペラと色んな事を村瀬に話していた。 「ひでぇだろ!?俺はさぁ?そろそろ結婚かな〜?なんて思ってたのにさぁ〜!!!」 「 それは辛いなぁ」 「だろぉ‼︎挙句の果てに普通すぎて一緒にいて楽しくねぇんだとさ!!!クソがよぉ・・・どんな男が良いんだってだよぉ・・・!」 酒も回って情緒不安定になった俺は村瀬の前でグズグズ泣きながら生ビールを喉に流す。そんな俺を見て村瀬は飲めよと、酒を勧めてくるもんだから断れずにドンドン体内にアルコールが回っていく。 「あ〜俺もう飲めないよぉ・・・村瀬ぇ…」 「はいはい、ほら帰るぞ」 完全に出来上がった俺は村瀬に捕まることしか出来ずにヘラヘラと笑いながら居酒屋を後にする。警戒心がすっかり溶けていた俺は、普段だったら絶対にしないだろう行動をしてしまっていた。 「ん〜村瀬ぇ俺まだ飲み足りな〜い!」 「佐々木、お前飲みすぎだぞ・・・ほら、お前家どこだっけ?今タクシー呼んでやるから」 隣にいる村瀬が呆れた様な顔で俺を見てくるもんだから、なんだか新鮮でもっとこいつを困らせてみてぇな・・・そう思った俺は村瀬のスーツの袖口を引っ張って子供みたいに 「もうちょっと一緒にいたいんだけど俺ぇ」 「え?今なんて・・・?」 「だからぁ!お前と一緒にまだ飲みたいって言ってんの‼︎二次会しよ〜?」 困った顔をしながらしばらく村瀬はうーん、と唸りながら 「まぁ・・・いいか華金だし・・・今日くらい」 そして無事二次会が始まった。一軒目の居酒屋から割と家が近いとかで村瀬の家で飲み直す事になり、コンビニで適当に酒やらツマミやらを買い込んで村瀬の自宅へと足を運んだ。 「お邪魔しま〜す!!村瀬ん家めっちゃ綺麗じゃん!!すげぇ〜!!!!モテ部屋ぁ!!!」 「はいはい、褒めたって何も出ねぇよ」 そう言いながらどこか楽しそうな表情を見せる村瀬を見て、もしかしてめちゃくちゃ良い奴なのでは?と、不覚にドキリとしてしまう。慌てて缶チューハイを袋から取り出して、俺達は再び酒を飲み始めた。多分この辺りから記憶が定かではなくて、とにかく色んな話をしてしまっていたことは確かだった。 「んへぇ〜飲みすぎたぁ〜」 「佐々木、お前飲みすぎだぞほら水」 そう言って村瀬がコップを差し出してくる。こいつはやっぱりなんでもさり気なくて完全に負けた気がして俺の中の情緒がジェットコースターのように一気に下降していく。 「佐々木・・・?お前、泣いてんのか?」 「悪ぃかよ!・・・俺さ入社した時からお前が羨ましくて・・・顔は良いわ、性格も愛想あって人気だし、モテるだろ?上司からも有り得ないくらい比較されるわ、なんかもう全部嫌になって今日、死のうと思ったのに結局お前に助けられるわで・・・あまりにも情けなくて・・・」 アルコールが回っている頭で村瀬に泣きじゃくる始末だ。他の同期や女性社員に目撃されたらそれこそ俺は本当にヤバいと思われるだろう。だけどやっぱり村瀬は良い奴で泣きまくる俺の背中を必死にさすってくれながら 「こんな時に言うことじゃないかもしれないんだけど・・・さ?」 妙に言いにくそうな声色で村瀬が話すもんだから俺は 「んだよ、言いたいことあるのか?」 「佐々木・・・お前さっき俺はモテるとか言ってるけど俺、女に興味ないんだよ・・・」 予想外のカミングアウトに俺は涙が一気に引っ込むのがわかった。 「え?お前、そっちがタイプ・・・なの?いや、確かにそんな噂もちょっと出てたけど・・・え!?その話まじなの!?」 「そうだよ、まじだよまじ、そんで俺会社に好きなやついるんだけどさ・・・」 その言葉に俺がえ!?誰?と聞こうとしたがお互い目が合った瞬間、どちらかの唾を飲む音と、うるさいくらいに高鳴る心音だけが静かなワンルームに響き渡る。 「ッ・・・あのさ」 「な、何―」 言いかけたその瞬間、耳元で村瀬の低い声が聞こえる。―お前が好きだ。その言葉と同時に視界が反転した。 あっという間に優しくソファに押し倒される。状況がのみこめていない中、器用にシャツを脱がされてく。 「お、おい!シャツ・・・!ちょ、どこに手ぇ突っ込んでんだ!」 慌てて抵抗しても時すでに遅しといった感じで、あっという間に上半身のシャツを取り上げられた。 「あっ・・・!村瀬!てめぇシャツ返せ―!!」 「お前さ俺の事正直嫌いだろ・・・?」 「―は?何言ってんだ・・・嫌いも何も・・・お前の事羨ましいなと思ってたし、ちょっと嫉妬してたくらいだし・・・!それにさ・・・」 「・・・ん?佐々木?」 「それに―本当に嫌いだったら家なんて上がんねぇだろ・・・」 「―っはは、そうだよな・・・」 突然、笑い出すから何だよと聞こうとしたら 口が塞がれて―。

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