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カフェラテ少年

「今日も雨かよ。」 七五三掛朔也(しめかけ さくや) は、コンビニでのアルバイトに勤しみながら、窓の外の梅雨空を眺めてひとり呟いた。 そして、電線に引っかかった、誰かが手放したであろう風船をぼーっと見つめた。  彼の苗字は、『七五三掛』と書いて『しめかけ』と読む。彼は、どこに行っても「変わった苗字ですね」と言われ、そのたびに「そうなんすよ!”シメサク”って呼んでください!」と答えてきた。 そのお陰で、彼の友人達は全員漏れなく彼の事をシメサクと呼ぶ。 自分のあだ名を自分で考えて、それを他人に呼ばせるなんて、さぞかし自分の事が好きなんだと思われそうだが、実際はその逆。 彼は、自分の事が大嫌いだ。 大学卒業後、周りが就職している中、彼はフリーターとして大学の時のコンビニでのバイトを継続する事とした。 中学・高校時代は部活動に参加せず、成績が良い訳でもなく、明確の意思もないまま偏差値の低い大学に入学。 これといった特技もなく、唯一の趣味は大学時代から続けているバンド。それも楽器を覚えるのが面倒でボーカルを担当。声が大きいだけで歌がうまい訳でもない。 コミュ力だけは妙に高いので友人は多い方だが、そんな周りの友人達に比べて何の取り柄もないと彼自身は感じている。 せめて何か目標があれば変われるかと思い、子供が好きという理由もあって、小学校の教員免許を取得するための通信大学に通っているのだが、心のどこかで、こんな自分が教員になるなんておこがましいとすら思ってしまっている。 そんな物思いに耽っていると、「よう。お疲れさん。」と声をかけられ、シメサクはふと我に返る。 声のする方を向くと店長が立っていた。 「店長、お疲れ様です!」と、シメサクは元気に挨拶をする。 奥さんと子供3人の大黒柱である、髭をボーボーに生やした少し強面の店長、49歳。昔はボクサーだったらしいが、足を怪我して辞めたのだそう。 「今日はどんな感じだ?」 「雨のせいか客は少ないっすね。」 店の様子を確認する店長にシメサクが答えると同時に一人の少年が店内に入って来た。 「あ…!」 シメサクは、思わず声を出した。 よく店に来る少年だった。 その高校生くらいの少年は、毎回決まってカフェラテと肉まんを買う。 初めて見かけた時、あまりに可愛い顔をしていたからボーイッシュな女の子かと勘違いしたが、レジで「肉まんをひとつ下さい」と言った声が女の子にしては少し低めで、男の子だとわかった。 どこか影のある雰囲気で時々凄く寂しそうな顔をしている彼のことをシメサクは気にかけていた。 「あの子、いつも肉まんとカフェラテを買っていくよな。」 シメサクの目線の先を追った店長がシメサクに耳打ちをした。 「あ、店長も気付いてました?」 「俺を誰だと思ってんだ?いつどんなお客様がいらっしゃって何を買うのか、ちゃんと把握済みに決まってんだろ。」 店長が腕組みをしながら言った。程なく、カフェラテを手に持った少年がレジにやって来た。 「肉まんをひとつ下さい。」 いつもと一語一句変わらない一言を彼が放つ。 シメサクは「お待ちください」と言い、肉まんを取り出すと、カフェラテと一緒に纏め、レジに金額を打ち込む。少年はスマホで決算をする。 商品を渡す際、数秒、目と目が合った。 くっきりとした二重幅にクリクリとした黒目がちの目。 憂いを帯びたような睫毛。 薄い唇に白い肌。 サラサラとなびく髪の毛。雨に打たれたのか、少しだけ毛先が濡れている。 改めて見ると、非の打ち所のない美少年だとシメサクは感じた。 「あの…?」 シメサクがぼーっと少年の顔を見ていると、少年が怪訝そうに首を傾げた。 「あ、ごめ…すいません!」 つい長い時間見つめていた事に気付き、シメサクは慌てて謝ると視線を反らした。少年は不思議そうな顔を向けつつも小さく一礼し、店外へと出ていった。 「お前、お客様を睨みつけるなよ。来店しなくなるだろ。」 店長に軽い肘打ちをされ、「睨んだつもりないっすよ…。」とシメサクは力無く答えた。

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