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23.昔話

 何とか整った食事の席。  部屋の真ん中に出したテーブルに俺と大我くんは対面して座り、いただきますをしていた。  手作りをどう思われるか不安だったけど、どうやら大我くんは喜んでくれてるみたいだった。  美味しい美味しいと言って勢い良く食べて、俺のおかずにまで手を出したのには驚いた。  それでも嬉しかったから何も言わずに自分の鯖の味噌煮を差し出した。 「すげぇなナオキング~!サラッとこんな美味い飯作れちまうなんてよぉ!」 「父が仕事でいない時の方が多いから自然と自炊するようになったんだよ。大我くんも作るようになれば出来るようになるよ」 「いや~、俺は作られたいね♪今度伊吹に作ってもらおうと思ってんだ♪」 「……そうなんだ」  突然大我くんの口から伊吹さんの名前が出て戸惑ってしまった。  それは直接伊吹さんとの約束なのか、それとも大我くんの願望なのかは分からないけど、俺が伊吹さんと付き合う事になったのは知らない筈だ。  言うなら今しかない。  だけどもし今大我くんに打ち明けて機嫌が悪くなったら?  せっかく十分な睡眠をとって、ご飯も食べて機嫌良くしてるのに、気を悪くさせないだろうか?  かと言ってずっと言わないままでいたら何でもっと早く言わないんだって言われかねない。  むしろ体調が万全の今が打ち明けるのに一番ベストな状況なんじゃないか?  とうとう俺のインスタントのご飯にまで手を出し始めた大我くんに、俺は打ち明ける決心をした。 「大我くん、聞いて欲しい事があるんだ」 「何だ?恋愛相談なら任せろ♪」 「相談と言うか、話しておかなきゃいけない事があるんだ」 「いいよ、言ってみ?」  美味しそうに鯖を食べている大我くんは、優しい笑顔で話を聞いてくれようとしていた。  ああ、大我くんに嫌われたくない。  だからこそ話さなきゃいけないのに、怖くてなかなか言えない……    俺はいつもそうだ。  相手にどう思われるかを心配して、思っている事を口に出来ないでいる弱虫だ。  気付けばいつも一人になっていて、友達すらもまともに作れずに来たのを思い出して泣きそうになった。  やっと出来た友達を失いたくない。  でも裏切るような事もしたくない。  やっと決心した心が揺らいだ事にも泣きそうだ。  変わりたいのにそれが出来ない自分が嫌だ。  俺も大我くんのようにみんなと仲良く出来て、いつも笑っていられるようになりたいのに…… 「ナオキング」 「っ?」  俺は考え込んでしまっていた事に気付いたのは、既に食べ終わって膝を立ててこちらを見ている大我くんに名前を呼ばれた時だった。  満腹になったからか満足そうに笑いながらテーブルに肘をついて俺の事を見ていた。 「前によ、こんな奴がいたんだ」 「え?」  何か話が始まった。  俺はちゃんと聞かなきゃと心を落ち着かせて向き直る。 「小学生の時だったか?そいつはクラスでも大人しい方で自分からは何も喋らねぇ、まるで空気のような奴だった」 「…………」  大我くんの小学校の頃の話らしい。  「まるで空気のような奴」と言うワードに俺の心は痛んだ。  それは俺の事を言われているようで気が気じゃなかった。 「俺からしたらそんなの知るかって感じで普通に話し掛けてたんだわ。そしたらそいつは頷くしかしなくてよ、喋れねぇのかって聞いたら首を横に振った。そん時の俺は今よりバカだったから、喧嘩売ってんのかと思って酷ぇ事言っちまったんだ。テメェがそう言うんならもう話掛けねぇよ、ってな」 「……そうなんだ」  聞いていて悲しくなった。  もしかして今の大我くんも俺にそんな事を思っているんじゃないのか?  でも、そんな不安を打ち消したのは話をしている大我くんの表情だった。   「その日の内に兄貴達にそいつの事を話したら普段は優しいのに珍しく怒られたんだ。友達にそんな事を言うんじゃないって。俺は何で怒られたのか良く分からなかったけど、兄貴達が怒るのには意味があると思ったから次の日そいつに謝ったんだ。そしたらそいつはまた喋らねぇの!黙って頷くだけ!それだけ!だから俺はその日からひたすら一人でそいつに話し掛けてたな~」  初めは懐かしい思い出話をするかのような表情だったけど、段々嬉しそうな笑顔に変わり、その後もその子とのやり取りを話してくれていた。  俺は大我くんの話を一語一句聞き逃さずにただ聞いていた。   「まぁそれからそいつとはいろいろあったんだけど、中学上がる前に転校しちまったんだよ。俺は別に何とも思わなかったからいつも通りに一方的に話し掛けてさよなら言うつもりだったんだ。そしたらその日はそいつから声掛けて来たんだ」 「うん……」  ここで大我くんは垂れた目をトロンと蕩けさせて、はにかむように笑った。  見てるこっちがくすぐったくなるような甘くて幼いその笑顔に、自然と笑顔になれた。 「初めに声を掛けて来てくれた時、本当に謝らなくちゃいけないのは僕なのに、いつも仲良くしてくれてありがとう、ってね。それ聞いて初めてそいつの事が分かった気がしたんだ。あの時兄貴達に怒られた理由もな。周りがみんな俺みてぇな奴ばっかじゃねぇんだってそいつが気付かせてくれたんだ。だから俺は誰にでも同じように声を掛けるし、話す!」 「そうだね、大我くんはいつも俺の話を聞いてくれるもんね」 「そうだぜ♪つまり何が言いたいかっつーと、ナオキングが言いたい事あんなら話せる時まで待つからなって事♪その間に早く話せよとか、面倒くせぇなとか思ったりしねぇから安心しな♪」 「大我くん、ありがとう」  すっかりいつものようにニカッと笑っている大我くんに、俺はその子の事が羨ましいと思った。  俺もその子のように早くに大我くんと出会えていたならもっと違ったのかもしれない。    ああ、やっぱり大我くんは凄いな。

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