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ローションガーゼでお仕置きされる話

「しゅ、柊~……?」  やけに大きく聞こえる自分の声が情けなくて、いっそ笑えた。  呼びかけに反応はない。いや、実際反応はあったのかもしれないけれど、俺はそれを知覚できなかった。  目にかけられたタオル地のせいで何も見えない。耳まで覆った目隠しのせいで、自分の息づかいだけが頭の中で反響する感じは、ちょっと気持ちが悪かった。  落ち着かなくて手を動かしてみると、クンと突っ張った。……やっぱり動かせない。  目隠しとか拘束とか、そんな趣味あったのかよ、むっつりスケベめ。  仕事の後の打ち上げは、無給の残業だと思う。オレは本当に打ち上げという文化が嫌いなのだが、業界は違った。  ライブやイベントごとの後には必ず打ち上げがある。アイドルという仕事自体は気に入っているけれど、業界に馴染みたいかと言われると、それはまた別の話だ。  それでも、柊とアイドルユニットとしてデビューしてからというもの、ライブ後のこういう席も、仕事のうちだと割り切るしかなくなった。 「里央、乾杯以外は飲むなよ」  小声で、隣に座った柊に釘を刺される。  仕事中の顔をしていても、こういう時の柊は恋人のそれだ。世話焼きで、少し過保護。……悪く言うと、ちょっとうっとうしい。 「わかってるよ」  何を隠そうオレは下戸だ。少しなら飲めないことはないが、飲み過ぎると記憶がなくなる。この体質も、オレの打ち上げ嫌いに拍車をかけていた。 「お疲れ様でした! かんぱーい!」  あちこちでグラスがぶつかる音がする。オレも笑顔を作って、お偉いさん方やスタッフさんに挨拶をして回った。 「最終公演、里央くんも柊くんも凄くよかったよお。特に、里央くんの笑顔は本当に元気になるよねえ」  恰幅の良い男が、並々と注がれたジョッキをカチャンと当てながら話しかけてきた。  ……メインスポンサー企業の上役だ。この飲み会も、この人の厚意で場所を借りさせてもらっているらしい。良い迷惑だ。 「藤堂さん! ありがとうございます!」  笑顔のままぺこりと頭を下げると、藤堂は腰を浮かせてスペースを空けた。 「よかったら僕とここで少しお話しないかい?」  こいつの悪い噂は、よく聞いていた。なんでも男色で、気に入ったアイドルは片っ端から食っているらしい。スポンサーとしての立場を利用した卑劣な行為だ。  だが一方で、こんな噂が流れこそすれ、その不貞が黙認されているのには理由がある。こいつの手腕は確かで、藤堂と寝たアイドルは一躍有名になるという話もあった。  逆に、拒んだ場合は……。 「……僕、里央くんのこと、前から興味があったんだよねえ。世間では柊くんの方が人気だとか聞くけど、僕は断然里央くん派だなあ」  無遠慮な視線が、顔面から首筋をなぞった。手を伸ばして、太ももの側面をするりと撫でてくる。ぞわりと鳥肌が立った。 「里央」  背後から、柊に呼び止められた。振り返ると、頭を小さく横に振っていた。静かな瞳が、「やめとけ」と言っている。  オレだってこんなのは御免被りたい。気持ち悪いし、普通に怖いし、出来るなら今すぐ逃げ出したい。  でも、もしここで機嫌を損ねたら。柊と立つはずのステージがなくなるかもしれない。せっかく苦労して掴み取ったチャンスを、無駄にしてしまうかもしれない。  そっちの恐怖の方が、よっぽど強かった。 「……。いいんですか? オレも藤堂さんとお話ししたいって思ってたんですよ~」 「本当かい? 嬉しいねえ」  藤堂の隣に腰を下ろす。肉厚な掌で、肩を抱かれた。香水と酒の匂いが混じって、吐き気を催しそうになる。 「っ里……!」 「あ、柊くん! ちょっとこっち来れる? 長島さんがお話したいみたいでさあ」  長島は事務所の上層部とよくつるんでいる古参のスタッフだ。そっちも無碍に出来る相手ではない。 「……柊、行ってきなよ」  笑顔を作って大丈夫、と口だけで言うと、柊は藤堂を恨みがましい目線で一瞥した後で、仕方なさそうに踵を返した。  ちびちびとビールのジョッキを消化しているだけでもしんどかったのに、藤堂はあろうことかワインのボトルをオーダーした。「これ、美味しいんだよお」とちゃっかりオレのグラスも勝手に調達していて、深紅の液体が注ぎ込まれる。乾杯、とグラスをぶつけられると拒めなかった。笑顔を必死で繕って、口をつける。なんとか飲み下すと、追加で注がれる。……断れない。  その最中にも、掘りごたつになっている足下で、藤堂の指がオレの膝を執拗に撫でていた。 「里央くんって本当に可愛いよねえ。そうだ、僕たち、もう少し親密になってみない?」 「ぇ……? はい……?」  頭がぐらぐらする。自分が何を言っているのかもわからない。 「連絡先交換しようよ。あ、このまま一緒に抜けちゃっても良いけど。近くにホテル、取ってあるんだよね」  小さな声で囁かれる。  ホテル……?  言葉の意味はわかるはずなのに、アルコールのせいで危機感がお留守だ。絶対にまずいはずなのに、逃げ出すための足が全く動かない。  やばいなあ、このままじゃ。オレ、普通にお持ち帰りされちゃうのかも……。  ……柊、怒りそうだなあ……。  鈍った思考で考えているうち、ぐらりと頭が大きく揺らいだ。 「あ……」  やばい。もう、限界かも。  そこから、ふつりと記憶が途切れている。  次に目を開いたときに見たのは、薄暗い部屋の、知らない天井だった。  まだうまく力の入らない身体は、肌触りの良いベッドに寝かされている。ふかふかの枕で、裸の上半身を支えられていた。頭はぐらつくけれど、気持ちが良い。 「……」  再度目を瞑り、ふう、と落ち着いてしまってから、はっとする。  ―― 知らない天井? ふかふかのベッド? 上裸?  ……おいおいおい、されてんじゃんよ、お持ち帰り!!  左の方から、ガチャ、と音がした。バタンと閉じる音。続いて足音が近づいてくる。オレは咄嗟に目を瞑り、眠ったふりをした。  やばい。やばいやばい!  今のところ腰は特にしんどくはないけれど、だとしたらこれからお楽しみが始まっちゃうってわけ? 最悪だよ。そんなことなら一生目を覚まさない方がマシだった……!  足音は、迷わずオレの横たわっているベッドのすぐそばまでやってきた。  身を固くする。どうしよう。どうしよう……。 「……里央」  小さく呼びかけられる。その声は例の脂ぎったおっさんのものではなく、よくよく聞き馴染みのある声だった。  目を薄らと開く。セットのとけた黒髪。切れ長の目が、こちらを見ていた。 「……柊……?! え、なんで?!」 「なんでって。……お前が潰れたから連れてきたんだろうが」 「……じゃあオレ、なんで服着てないの?」 「吐いたから脱がせた」 「…………ごめん……」 「いいよ、慣れてるし」  柊はため息交じりに言いながら、腕に引っかけていたコンビニの袋から、ミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出した。そいつをひたりと、オレの頬に押し当てる。 「っ……つめて……! と、藤堂さんは……?」 「居ない。適当に撒いた」 「よかったー……!」  言いながらペットボトルを受け取って、封を切った。喉に流し込むと、身体に染みていく感じがする。段々と生きた心地がしてきた。  何口か飲んでいる間、柊はベッドに腰掛けて、オレのことをじっと見つめていた。  オレはその瞳をよく知っていた。養成所時代、先輩から理不尽な扱いを受けた時にしていたのと、よく似ている。 「……怒ってんの?」 「当たり前だろ」 「なーんでよ……。オレのケツは無事だったんだし、まずそこだけでも喜んでくんない?」 「……冗談じゃない」  柊は吐き捨てると、オレの方へぐっと顔を寄せた。暖色のライトに照らされて、形の良い顔のパーツがよく見える。  本当、格好いいんだよなあ。  養成所で初めて会ったときからそう思っていた。まさか付き合えるとは思わなかったけど。ダメ元で告白してみるもんだ。 「……お前、あのままだったらどうなってたかわかってるのか」 「だから、ケツ掘られてたかも知んないんでしょ」 「それがわかってるのに、なんで平気にしてられるんだよ、お前は!」  肩を掴まれた。鼻先がぶつかりそうな距離で、真面目な顔が、静かな怒りをまとってオレを見ていた。 「……だって……」  掛け布団の中で、ぎゅ、と拳を握った。  本当は全然、平気じゃない。  怖かったよ。逃げたいのに逃げられなくて、それでも笑顔でいなきゃいけなくて。  でも、俺たちのユニットで売れてるのは藤堂の言っていた通り柊の方だ。格好良くて頑張り屋な柊の足を、これ以上引っ張りたくなかった。  そんな気持ち、柊にだけは知られたくない。弱音を口にしたら、何かがあふれ出しそうだった。  一生懸命、どうやってこの場を切り抜けようかと考える。結局、酒で馬鹿になった頭では、妙案は浮かばなかった。 「だってほら、そういうことなら柊とだってシてんじゃん? 掘られたくらいじゃ大したダメージになんないかなって、思って……」  思いついたことを、ついそのまま口にしてしまう。  目の前の柊の顔色が、さっと変わった。 「……本気で言ってんのか?」  鋭い視線で覗き込まれる。気持ちを見透かされそうで、目をそらした。 「……。うん……」 「俺とするのと、ほかの奴とするのが大して変わらないって?」  ……それは、そんなことは、絶対にないんだけど。 「……えっと……」  こういうとき、なんて言ったら良いのかわからない。  内心は「柊が一番! 柊しか考えられない!」という気持ちでしかないけれど、この空気でそれをド直球に伝えることも躊躇われる。  ただこの場を丸く収めたいだけなのに、うまく誤魔化す言葉が見つけられなかった。 「……そうか。知らなかったな、俺がお前にそんなに軽んじられてたなんて」  柊は低く言うと、形の良い唇を嫌悪にゆがめた。瞬間、ひやりと空気が冷える。 「違……っ! 軽んじるとかそんなの、あるわけないじゃん……!」 「どうだか」  ……地雷を踏んだかも知れない。  オレは本能的に柊の手から逃れると、ベッドから滑り落ちるようにして、カーペットに足をついた。 「おい里央」  手首を掴まれる。振りほどこうとしても、びくともしない。 「……どこ行くつもりだ」 「帰る……」 「まだ話の途中だ」 「……でも、……だって……」 「……黙って逃がすわけないだろ」  肩に、小さな衝撃を食らった。 「うわっ……?!」  ドサリ。  ついさっき立ち上がったはずの身体が、いつの間にかベッドの上に逆戻りしている。理解が追いつかないで居るうちに、引き締まった身体が上から覆い被さってきた。 「酔いつぶれてた割に、ずいぶん元気そうだな、里央」  両手首を、掴まれる。 「その分なら、手加減しなくていいよな?」  底冷えするような笑顔は、ステージ上で見せる物とはまるで別人だった。 ***  柊は驚くほど手際よく、辺りの物をうまく使ってオレを拘束した。  例えば、今頭上で両手首をひとまとめにしているのは柊の着ていたコートのベルトだったし、目隠しをしているのはバスローブの帯だ。  最初こそ少し抵抗してみたけれど、アルコールの残った身体ではうまく逃げ出せなくて、結局オレは大人しく、ベッドの上に転がされていた。 「柊……? いるんだよな……?」  ずいぶん長いこと、こうしている気がする。拘束が終わったところで満足したのか、柊は触れてくるでもなく、オレを放置していた。  さっきから、何度話しかけても反応がない。もしかすると、部屋にすら居ないのかも知れない。  ……だんだん怖くなってきた。このままどれだけ放っておかれてしまうのだろう。時間の感覚がない。そもそもさっき目を覚ました時点で、何時頃だったんだろう。外から明かりが漏れてくる気配はなかったから、まだ夜だとは思うんだけど。 「……ね、柊……」  無駄だとわかっているのに、どうしても呼びかけてしまう。自分の声を聞いていないと、本当に自分が暗闇の中に溶けてしまいそうで不安だった。  そのときだ。物音が聞こえた。近づいてくる気配と、ベッドが沈む感覚。サイドテーブルに何かが置かれた。たぷん、と鳴っている。音の感じから言って、洗面器と、なにかの液体か? なんだろう。 「柊……? っ……」  呼びかけると、不意に右側の頬を指先で撫でられた。びくりと身体が震える。そのまま、指先が首筋をたどって、鎖骨から脇腹へ流れる。  思わず身を捩った。暗闇の中に置かれていた身体は、敏感に触れられた箇所の熱を拾い上げる。ほんの少し触られただけでも反応してしまうのが恨めしい。 「ぁ……っ」  ふ、と、無防備な胸に息を吹きかけられた。腋に、ぬるついた物が押し当てられる。  どうやら、舌だ。理解した瞬間、顔がかっと熱くなる。 「や、ゃだ……」  ステージの後にシャワーは浴びたけど、その後当然汗くらいかいている。  格好良くて世話焼きな恋人に、そんなところを舐められるのは嫌すぎる。 「っ……舐、めるな、ぁ……」  ずいぶん上ずった声になった。オレの反応を見てわざとやっているのか、舌先でつんつんとつつきながら、何度も舐め上げられる。くすぐったいやら恥ずかしいやらでびくつくのが止められない。  もう片方の腋にも指先が触れた。揶揄うように柔く引っかかれると、くすぐったくて大げさに身体がしなる。 「ゃ……っ! ぅっ……やだ……っ」  くすぐったいだけなのに、別に気持ちいいことをされているわけじゃないはずなのに、感じてるみたいになるのが嫌だ。  頭の中がむずがゆい。何か知らない場所がこじ開けられるような気がして、怖い。  逃げるように身を捩っても、すぐに押さえつけられる。まったく面白くないのに喉の奥が痙攣して、息だけの笑い声みたいな物が漏れた。  息が荒くなる。舐められてばたつく身体を諫めるように、乳首がきゅっとつねられた。何度もなんども、指に挟んで捏ねられる。 「あっ! ……あ、ぁ、ぁ……っ」  くすぐったいのか、痛いのか、気持ちいいのかもわからないで居るうちに、喉から漏れる声が甘くなる。耳にかかった目隠しのせいで、自分の声が頭の中に響くのが耐えられない。たったそれだけの刺激なのに体中のそこかしこが自分の物じゃないみたいに跳ねて、滑稽だった。 「……っは……、は……」  ようやく腋と乳首が解放された頃には、全身にじっとりと汗をかいていた。  ああ、頭がふらふらする。アルコールのせいなのか、快感のせいなのかわからない。ただただ、もっと欲しいと思ってしまう。  余韻に浸っている間に、腰のところでかちゃかちゃと音がした。なんだろう、と思ったのと、俺のズボンのベルトが外されていたことに気づいたのは同時だった。  慣れた手つきでジッパーを下ろされて、ズボンを脱がされる。外気に触れた性器が、少し冷たい。 「う、……」  ゆるく勃ち上がったそれを、柊の手が撫でていく。指先が、鈴口を割った。  ぬちゃ、と音がする。ぐちぐちと抉られると、腰がびくついて仕方がない。ゆるゆるとしごかれて、簡単に勃起した。 「嫌とか言ってたくせに、いつもより感じてないか? ……拘束されて興奮した?」  少し遠くで、小馬鹿にしたように柊が言う。 「ちが……」 「ま、別に何でも良いけど」  柊はベッドから降りると、先ほど枕元に置いた何かを手に取った。たぽん、たぽん、と音を立てながら、足下の方へ移動した。 「……なに……?」  何をするつもりなのか、まったく見当もつかない。ただ、そこはかとなく嫌な予感がした。オレのことを拘束するだけして放置してまで用意していたものだ。ろくでもない物に違いない。 「ちょっとしたお仕置き」  程なくして、ちょろ、と液体が落ちる音がした。ぎ、とベッドが鳴る。 「……つめた……っ!」  腹に、とろとろとした液体が降りかかった。冷たさに、全身に鳥肌が立つ。  水ではない。たぶん、ローションの類いだ。続いてそいつは、オレの性器に降りかかった。 「っ……」  粘度の高い液体がゆっくりと這うように性器を撫でたかと思うと、薄い布地が亀頭を覆うようにピタリと張り付いた。 「柊、まって……っ」 「これ結構ヤバいらしいから、頑張れよ」  身震いした。何か強烈に嫌な予感がする。 「な、に……いッ……!!?」  ―― なぐられたのかとおもった。  ゴシュ! と音がした……と思う。それを知覚した瞬間には、頭をぶん殴られたかのような快感が襲っていた。  ……何が起こったのかわからない。でも確かに、剥き出しの性感帯を、何か、強烈な衝撃が舐めていった。 「え、待、……な……あ゛っ?!」  ゴシュ!  訳がわからないまま、心臓が破裂しそうなくらいに早鐘を打った。意味もなく涙がでてきて、タオル地を濡らす。 「ッや゛! め……っ」  ゴシュ!  何度も。何度も。  先っぽを擦られるたび、腰が馬鹿みたいに震えた。電撃を浴びせられたかのように身体の中を好き勝手に跳ね回る。  自分が自分じゃなくなるレベルの快感は、恐怖だ。見えない視界が今度こそ怖くてたまらなくて、不自由な両手で必死にシーツにしがみつく。 「へえ。そんないいんだ、これ」 「っな゛、に……ごれ……っ」 「ローションガーゼってやつ?」  ちゅこちゅこと、小刻みに先端を磨かれると駄目だった。背中がピンとしなり、腰が揺れる。 「むり゛! も、むり、あ゛、ぁ……イぐ……ッ」  腰を持ち上げるようにして、大袈裟なくらいびくん、びくん、と痙攣した。  それから、青臭い匂いがした。堪えきれない快感を食らって馬鹿になった陰茎が、堪え性もなく精液を吐き出したらしい。吐精の後もへこへこと腰が動くのを止められなくて、太ももがガクガクと震える。その間もガーゼで優しくしごかれ続けて、脳が焼き切れた。 「だめ゛! それ、だ……あ、ぁ゛……――ッ!!」  イっている最中のはずなのに、もう一度イった。睾丸がぎゅっと窄まる。身体のびくつきが収まらない。足が、無様にバタバタと揺れた。息ができなくて、潰れたカエルみたいな声が出る。 「ざぁーこ」  精液を受け止めたガーゼで、今度は性器全体をしごかれる。  熱くてどろどろで。溶けそうなのに刺激はつよい。  きもちがよすぎて、わけがわからない。 「ちが、ざこじゃないっ……らって……これ、……っ」  しらない。こんなの。  だって、こんなの、せっくすじゃない……! 「じぬ……っしんじゃ、う……ッ」  ズルリ、と竿をしごきながら、揺すられるように先端を擦られると堪らない。すぐに精液が這い上がってきて、とぷとぷと簡単に零れていく。 「里央、イきすぎ」  呆れたような声が降った。それでも手は止まらない。パンパンに腫れ上がった亀頭を、ガーゼのザラザラが執拗に舐めてくる。 「だ、って……ぇっ」  逃げられない。にげたいのに、いくら腰を逃がしても、ぴったりとガーゼがついてくる。逃がす動きですらそこが擦れて、簡単に絶頂に導かれた。 「ゃだッ……!しゅぅ、ちんぽみがくの、や、……っや゛めでぇ……!」  何回イったかなんて、もうわからない。ただ自分の陰茎から太腿にかけてがびしょ濡れなのはなんとか認識していた。  全身を殴打されるような快感を与えられて続けているせいで、比喩でなく死にそうになる。  このままじゃ心臓が爆発するんじゃないか、イきすぎたらおかしくなっちゃうんじゃないの、だってもう、からだ、へん……  ゴシュ! 「ッ……あ゛?!」  何かが一線を越えた確信があった。  破裂寸前の心臓がひときわ大きく跳ねる。何かがせり上がってくる感覚……?! まって、やだやだやだ! 「ッゃ、でちゃう、な゛んか出ちゃ…………ッ!」  プシャッ!と音がした。それを皮切りに、シャーッという音と一緒に、何かが身体から出ていく。 「ぁ……」  恍惚とした。ぴく、ぴく、という、全身の痙攣が止められない。  なにこれ、きもちい。あたま、ふわふわする。 「うわすご。すげえ出た」  引いてるんだか褒めてるんだか分からないトーンで柊が言ったところで、ハッとした。 「っ!!」  ―― え、漏らした? 人ってイきすぎると漏らすの?  息も絶え絶えなくせに、頭の端っこの方でギリギリ生きていた理性が、能天気にそんなことを呟く。  ……やめてくれ。今そんなこと考えたくもない。位置的に、絶対柊にかかってるし。 「……里央」 「ん……?」  するりと、目隠しが外された。続いて手の拘束も解かれて、ゆるゆると頭を撫でられる。 「しゅぅ……」  焦点の合わない目でその顔を見遣ると、唇が寄った。優しく重ねて、どろどろに溶け切った舌を、柔く食まれる。    あー、いま、すげーしあわせかも。  イきすぎた身体が重たくって仕方がないけど、俺があんなにも無様なところを見せても、柊がこうして受け入れて、キスしてくれるなら。  たまになら、こういうのも、わるくないな……。  その腕に抱き締められるのとほぼ同時に、俺は意識を手放した。 ***  「里央、起きれるか?」 「……」  一つのベッドで一緒に眠っていたらしい柊の声に、薄く目を開く。右側の方から、白い光が差し込んでいた。……朝みたいだ。 「え……?」  何の気なしに起き上がろうとしたら、身体が重たくてびっくりした。アルコールは流石に分解されているだろうから、十中八九昨晩のプレイのせいだろう。 「……おきれないっぽい」  ……ついでに声も終わっていた。  今日明日とオフで助かった。そうじゃなかったらへなちょこダンスにガサガサボイスでレッスンを受ける羽目になるところだ。 「水は」 「のむ……」       たぷ、と音がした。カラカラというのは、ペットボトルのキャップが回る音だろう。そのまま飲ませてくれるのかと思ったら、柊が口に含んだ。お前が飲むんかい、と思ったところで、そろりと近づいてくる。唇が重なった。 「ん……っ……」  口の隙間から、冷たい液体が入り込んでくる。ゆっくりと、与えられるままに飲み干した。喉の渇きが少し楽になる。 「大丈夫か?」  ……一体どちら様のせいでこんなことになってるんでしょうかね。  といいつつ、自分が原因を作ったことくらいはわかっている。柊はいつも優しいし、俺のことを気遣ってくれる事のほうが多いのだ。こんなに無茶をさせてきたのだって、交際開始から一年経ってこれが初めてだった。  手加減しないとか言っていたくせに、今朝になったら結局優しいんだもんな。ほんやりした頭でそう思う。 「柊、もっかい……」  水もそうだが、キスが欲しかった。柊の薄くて冷たい唇が。  柊はまた口に水を含むと、口づけて寄越す。 「ん……」  触れるだけで終わらせたくなくて、柊の口内に舌を割り入れた。 「っ……」  冷たい舌に絡ませると、息を呑む気配がする。直後、頭を押さえつけられた。舌がオレの口の中に入ってくる。  ぬるり。舌先が上顎をなぞると、ぞくりとした。思わず顔を動かそうとしても、強く押さえつけられていて叶わない。  何度も角度を変えて口内を犯されると、酸欠で目が回ってきた。 「しゅ、……くるし……っ」 「……っ……お前が、わるい……」  離れる間際、ちゅ、と唇を食まれた。  昨晩のほうがよっぽどすごいことをしていたはずなのに、キスはやっぱりドキドキする。   「……柊、あのさ」 「ん?」 「オレ、柊のことしか考えてないよ」  柊はハッとしたような顔でこちらを見た。 「だから……たまに、柊のために変なこととか、しちゃうかもしれない」 「……。俺はお前に軽んじられるのも嫌だけど、お前がお前自身を軽んじる方がもっと嫌だ」  大きな手のひらが、俺の肩を抱き寄せる。細いのに逞しい胸板に擦り寄ると、またじわりと顔が熱くなった。 「……ごめんね」 「心配をかけるな」 「うん、ごめん」  でも、また次に似たようなことがあったら俺はきっと迷わず地獄に飛び込んでいってしまうのだろう。  柊がどれだけ心配してくれても、叱ってくれても、それだけは譲れないんだ。 「……ごめんね、ほんとに」  俺がもう一度言うと、柊はオレの髪をゆるゆると撫でた。一旦は、オレの言葉を受け止めてくれたってことなんだろう。 「……あと」 「うん?」 「俺としてることを、他と一緒みたいに言うな」  真面目な様子で言われて、オレはつい笑ってしまう。 「それは、ほんっとにごめん! オレの特別は、柊だけだよ」 「……。ならいいけど」  柊は、わずかに微笑んだ。 「あ、ねえ柊、オレ腹減ったんだけど」 「……朝食のバイキング、もう終わったぞ」 「マジ?! どうしよ?!」 「ルームサービスでも頼むか? なんか買ってきてもいいけど」 「えー、プリンあるかな。パフェとか食べたい気分かも」 「朝からパフェ……」     呆れたようにため息をつきながら、ルームサービスのメニューを取りに行くためにベッドを降りる背中を見て、俺は小さく笑った。 「ねー、朝食べたらどうしよっか」 「どうって?」 「もうちょっといちゃいちゃしたいかなー、とか」 「……」  柊は頭を掻きながら、ルームサービスのメニューをこちらへ渡してきた。 「え、やだった?」 「いや。 ……さっさと飯を済ませよう」  頬にキスを落とされて、またふわりと気持ちが軽くなる。  朝の白い光のなかで、オレはその身体を強く抱きしめた。   終

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