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七 百八回も売られた!

「た、確かに、先生の話は一理がある……し、しかし、これら、全員が!?」 さすがこの結論は衝撃的すぎで、捕快たちがすぐ飲めなかった。 「大丈夫です。彼らを官府(かんふ)(*2)に連れ戻して、調べてみればすぐ分かるはずです。妖魔なら、人間の牢屋からすぐ逃げられます。妖魔に操られた人間なら、意識がぼやけになって、まともな話ができないです。分かりやすいですよ」 *2 官府:中国古代の役所・警察署・裁判所 (いや、意識がぼやけになったのは、お坊ちゃまにやられたせいかもしれない……) なんとか冷静を維持できた二郎は心の中でツッコミをした。 「どのみち、一気にこんなにたくさんの怪しいものを捕まえたのは偉い功績です。後ほど、私からもみんさん宛てに感謝状とお礼を送ります」 「いや、どうもどうも、大したことでは……」 修良の二言三言で、捕快たちはノリノリで現場の片付けを始めた。 捕快たちは取り立て人の山を黒い虎の背中に乗せて、手を振りながら官府に戻った。 捕快たちが見えなくなった瞬間、修良の顔から笑顔が消えた。 「ありがとう、先輩!助かった!」 幸一の感謝に対して、修良は振り向かないまま、硬い声で呼び返した。 「幸一」 「!!」 幸一はシャキッと背中を伸ばした。 その冷たい声は、修良が怒っていることを意味するから。 「顔云々でムキになったのは、未熟の証拠だ」 「……はい」 幸一は恥ずかしそうに頭を下げる。 「頭を上げろ」 修良は身を翻して、真剣な表情で幸一の顎を掴んだ。 「あなたはきれい、美しい、可愛い、笑顔が太陽よりも輝かしい、静かでいる姿が月下の花よりも愛らしい……これらはすべて事実だ。事実を聞かされたくらいで、何も怒ることはない。以前からあんなに訓練を受けたのに、いざとなったらなぜまたこうなるんだ?」 修良のまっすぐな目に見つめられて、幸一は更に恥ずかしくなる。 「奴らが、奴らが先輩と違うんだから。どれも変態みたいに、汚い話ばかっり……俺を馬鹿にしている!」 「汚い言葉でも、あなたの美しさに届かい悔しさと無力さから生まれたものだ。強者でいるつもりなら、褒め言葉だと思え」 「はい、謹んでご教訓を心に刻みつけます」 修良の厳しい言葉は自分のためだと分かって、幸一は再び頭を下げた。 (えっ、な、なんだ!?顔をそこまで言われたのに、お坊ちゃまはまったく怒っていない!) 二郎は唖然として二人のやり取りを見ていた。 (その先輩は一体なにもの?これは玄天派の賢人の力なのか!?) 不意に、修良の体が大きく揺れた。 「先輩!」 (任務から戻ったばかりなのに、一気にあんなに喋って、先輩の体力が持たない!) 幸一は慌てて修良を支えようとしたが、修良はただ幸一のを肩に手をかけた。 修良の弱まった顔から厳しい表情が完全に消え、純粋な心配だけが見える。 「万が一、あなたが役人たちに捕まえたら、私は……」 「ごめんなさい先輩!俺が悪かった!」 「次は、あんなことをしてはいけない、約束できる?」 「ああ、約束する!」 「そうです、お坊ちゃま。次は、正当な手段で……」 二郎は手伝おうと前に出たら、自分の耳を疑わせるような言葉を聞いた。 「せめて、人のいないところでやれ」 (えっ?) 二郎は思わず足を止めた。 「目隠しの術も忘れずに。身隠しの術も使うといい。相手に正体を見せてはいけない。バレない前提でやっていても、事前に説得力のある言い訳を考えるんだ」 「私は肉体攻撃に苦手だから、あなたが掴まれたら術を使うしかない。あなたのせいで官府が飛ばされたらどうするの?いくら玄天派の弟子でも、官府に睨まれたらまずいだろ」 (なんだなんだなんだこの人!一瞬賢人だと思ったら、お坊ちゃまに何を教えるんだ!!) 実は、二郎の勘はかなり冴えている。 彼はただちに気付いた――幸一の暴力鎮圧は、この先輩の教育と深い関係があることを。 「分かりました、先輩!ご教訓を謹んで心に刻みつけます!」 幸一は疑いもせず、修良の話を丸呑みした。 (だめだお坊ちゃま!刻んではいけない、絶対何か違う――!!) 二郎の心の叫びは、幸一の耳に届かなかった。 ********* 六年ぶりの実家に入り、幸一がまず見たのはガラガラになった部屋と、あちこちに張られている「売」の文字が書かれた紙だ。 幸一の心が小さな棘にさされたように、じわじわと痛みを感じる。 自分がいない間、家はこうなったなんて、やはり信じられない。 家族たちに申し訳ない気持ちもあった。 とはいえ、商売に長けている父も再起不能になった以上、自分がいたといても役に立たなかっただろう。まして、家族は自分のことが嫌いだった。 憂いの気持ちを一掃し、幸一はできるだけ元気な笑顔で朱執事の部屋に入った。 「朱執事!お久りぶりだ!」 「!?ほ、本当に、幸一お坊ちゃまですか……!?」 寝台に横になった朱執事は、隣に座っている妻の支えで身を起こした。 玄家が倒産した当初、たちまちに逃げる使用人もいたが、彼は玄家に忠義を尽くした。 その結果、疲労と精神の重圧で倒れた。 幸一の元気の姿を目にして、朱執事はようやく一安心を得た。 幸一と朱執事一家が感慨深い会話を交わしている間、修良は外に出て、一輪の白い花に伝言を託した。 「宗主に伝えてくれ、幸一のことは私が責任もって解決する」 白い花は一羽の蝶となり、九香宮へ向かった。 晩ご飯の時に、幸一は修良のことを「小さい頃からお世話になっていた頼もしい先輩」として紹介した。 朱執事夫婦は修良に感謝を述べて、修良の気品と人柄を褒めつくした。 小さい頃の幸一はいつも寂しい目をしていたが、今の幸一の目に楽しいそうな光が宿っている。しかも、幸一は一人で取り立て人立ちを追い払ったそうだ。 幸一を強く、美しく育てた修良だから、きっと賢人に間違いない! と朱執事夫婦は思った。 二郎だけが、複雑な気持ちで四人を見守っていた。 「ごちそうさまでした。そろそろ黒玉虎を迎えに行きます」 食事が済んだら、修良は玄関に向かった。 朱執事は幸一を書斎に連れて、韓婉如が落とした買い手名簿と身売り契約を幸一に渡した。 「ありがとう。俺はすべて解決するから、心配しないで」 幸一は笑顔で名簿と契約を受け取って、自分部屋に帰った。 部屋の扉を閉じた途端に、幸一は表情を引き締めた。 分厚い契約を手にした時から、すでに怒りが止まらない。 名簿にある名前を数えてみたら、なんと、百八家もある! 契約内容を読んだら、怒りの炎が更にも燃え上がる。 彼を「妾」や「愛玩物」として買い求めたのはまだましのほうだ。 隠しもせずに、「種馬」、「生贄」、「食材」、「美顔薬材」などとして購入と書かれたものまであった。 署名と押印のころに、明らかに人間の手ではない形の押印もあった。 一番馬鹿馬鹿しいものは、署名も押印もなく、備考だけが記入された:実体がないから、署名も押印もできない。何かある場合、城北の墓場の緑の墓碑の前で三本の香を焚く。 (継母は俺に一体なんの恨みがあるんだ!!) 幸一は名簿と契約を粉々にする衝動を必死に抑えて、机を叩いた。 小さい頃の彼に叩かれてもびくともしない机は、ただちに数えきれない欠片へと化した。 (だめだ、今すぐ出発し、この名簿にあるやつを全部やつける!でないと夜が眠れない!) 幸一はダッシュして扉を開いたら、修良が外に立っていた。 「修、修良先輩、九香宮に戻らなくていいの……?」 幸一は後ろめいて、さっそく契約と名簿を後ろい隠した。 「あなたが約束を守ってくれるのか心配でね」 修良は幸一を部屋内に押し返して、扉を再び閉じた。 「いや、もう、顔のことで怒らないから」 「つまり、今の人殺しでも行こうとする眼差しは、別のことのためか」 「!!」 修良は粉々になった机に一目して、幸一の腕を掴んで、彼が隠した契約と名簿を前に出した。 「何回も言っただろ。他人の過ちで、自分の情緒に負担をかけてはいけない」 「道理はわかっているけど、けど……あんまりだ!見てみろよ!」 幸一はいっそ契約を修良に押し付けた。 修良はひとため息をついて、幸一の目をまっすぐ見つめて、質問を出した。 「幸一、正直に答えて。あなた一人で、玄天派や世の中に迷惑をかけないまま、この事件を解決する自信はどれくらいある?」 「もちろん!十分……」 幸一が勢いで威張ろうとしてら、修良はにっこりと笑った。 すると、幸一の口調が一変した。 「十分……な自信がなくても、八割はある!」 「ほう、八割か?幸一もかなりの自信家になったのね」 修良の笑顔は更に輝いた。 「五、五割……」 修良は笑顔のままで一歩近づけて、幸一に迫る。 幸一は降参し、目を逸らした。 「三割……未満だと思う……」 「だから、私は九香宮に帰らない。事件が解決するまで、幸一の傍で手伝いをする」 「それ、俺が問題を起こらないように見張っていて、ついでに、俺がやらかした場合にお尻拭いをするって意味だよな……」 幸一は見くびられていた気分になった。 「先輩と一緒なら心強いが、先輩の体は大丈夫?この人数だと、長期戦になるかもしれないよ」 「九香宮であなたのあれこれを心配するほうが身心に悪い」 「分かった。お願いする。でも、お体の調子が悪かったらすぐ教えてくれ」 仕方なく、幸一はその提案にうなずいた。 「もちろん、幸一に迷惑をかけなように注意する――縛り!」 不意に、修良の腕から二本の水色糸が飛び出して、幸一の腕に纏った。 「!?」 「幸一が夜中にこっそり抜け出さないように」 修良はニコニコと理由を説明した。 「俺はそんなに信用できなのか!?」 「幸一が十四歳の時に、夜中に抜け出して、昼間に自分の顔を馬鹿にした弟子と決闘し、相手の手足を折ったことがあるだろ」 黒歴史の前で、幸一は反論できなかった。そのまま、修良と自分の部屋の寝台でうずうずの一夜を過ごした。 翌日の朝、同じ寝台から起きた修良と幸一を見た二郎は思わず冷汗をかいた。

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