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十一 美男子殺し

食事後、連絡方法を約束してから、珊瑚は任務に戻った。 戸籍文書を回収したし、左大類のも牢屋送り、幸一と修良は旅館で一夜を過ごしてから次の町に出発すると決めた。 珊瑚は救出された少年少女を旅館に預かったせいで、旅館が満室になり、幸一と修良はまた一つの部屋で寝ることになった。 「珊瑚って、いい人だね!」 初対面がちょっと気まずかっただけど、結果的に幸一は楽しかった。 こんなに話の合う友達は始めてだった気がする。 玄天派のみんなも親切だったが、自分が修行に夢中しすぎるせいか、修良以外の人と距離がなかなか縮まない。腹を割って話せる友達はまだいない。 「珊瑚の刀もすごかった、また機会があったら、手合わせてもらおう」 「幸一、以前も言ったように、あなたは仙道との縁が深く、特別な素質を持つ人間だ。だからこそ若い年で今の|修為《*2》に到達できる。一般人があの若さで、あなたと互角でやり合えると思う?」 *2 修行を重ね、手に入れる力のこと 修良は遠回しの言い方で幸一に珊瑚の異常さに気付かせようとした。 「珊瑚は一般人じゃないのか……つまり――」 幸一は少し考えたら、キラッと目が光った。 「俺と同じ、仙道と深い縁がある人ってことか!ここまで経歴の近い人と出合って、すごい偶然だね!」 「……」 「違うか?」 「……さあ」 修良は言葉に詰まった。 珊瑚の正体が妖怪だと言っても幸一は別に差別視しないだろう。 今のところ、珊瑚から邪悪な気配や危険な匂いも感じない。 珊瑚はただ興味本位で幸一に近寄ってきたのかもしれないが、何処か嫌な予感がする。 その時、扉がノックされて、外から旅館の人の声が響いた。 「あの、玄幸一様の知り合いの朱二郎様がいらっしゃいました。通してよろしいですか?」 「二郎さんが?母の消息があれば、鳥書簡で連絡するように言っておいたはず、どうしてわざわざここに?」 「かなり重要な情報があるだろう」 「かもな」 幸一は扉のほうに返事を出す。 「すみません、その朱二郎を連れてきてくれますか?」 「重要な情報って、ひょっとして、母の居場所を確定したのか?」 「だとしたらいいけどっ……」 そう言って、修良の体がフラと揺れた。 「先輩!」 修良は彼を支えようとする幸一を止めて、片手で机に支え、ゆっくりと椅子に座った。 「ふぅ……大丈夫、ちょっとめまいがしただけだ」 「ごめん!あの変態の家の前であんなに長く立たせて……珊瑚との食事も俺がずっと喋っていて、先輩の体調に気付かなかった!」 「いいんだ。これからなるべく用事を早くすませば……」 修良は一度自分の額を軽く触った。 「見せてくれ、熱はあるのか?」 幸一はさっそく修良の髪を掻き揚げて、自分の額で修良の額の温度を測る。 二人の顔が重ねた場面は、ちょうど部屋に入る二郎に目撃された。 「お、お坊ちゃま!なにを――!!」 「二郎さん、どうした?」 幸一は平然とした顔で二郎に聞き返した。 「……い、いいえ」 二郎も何を言えばいいのか分からなくて、とにかく、見たことに対する疑問を胸の中に収め、来意を説明した。 「奥様の情報を追って、錦羅(きんら)城まで行きました。ついでに、そこにいるお坊ちゃまの戸籍文書を購入した買い手を調べました。その買い手のことを報告するために戻りました」 「錦羅城か、確かに、金芬飛(きんふんひ)という人だ」 「そう、その金芬飛という女性は、とても危険な人物です。お坊ちゃまが自ら回収に行ってはいけません」 「危険?どうして?」 「それは……」 二郎は気まずそうに、自分の頬を指で掻く。 「『美男子殺し』、という異名を持っているらしい」 「!?きれいな男子を殺すのか!?そんな殺人者はなぜ捕まらないんだ!?」 「いいえ、そういう意味の殺しじゃなくて……ただ、容姿のいい男子が錦羅城に入ると、彼女の手下に捕まえられ、彼女の屋敷に送られます。大体、三日三晩もないと出られません……」 「は?」 二郎の五里霧中の説明を聞いても、幸一は全然意味が分からなかった。 「幸一、つまり、そういうことだ」 修良は幸一の耳元で何かを囁いた。 「なん、だと!?!?」 幸一の顔がサッと真っ赤になり、両目と頭の上から噴火した。 (お坊ちゃまにどんなふうに説明したんだ!?) いきなり爆発した幸一を見て、二郎は思わず震えた。 「殺人に行かなくても、そんなことまでしたのに、なぜ捕まらないんだ!!」 「通報する人は、いないから……」 「通報がない?男たちは馬鹿か!」 「そ、それは……俺もよくわかりません……」 二郎が困っていたら、修良は淡々と話を続けた。 「金芬飛はお金で解決したのか、威嚇で解決したのか。それに、そういうのが好きな男もいるだろう。さらに、弱いはずの女に強制されたことは男にとってかなり屈辱的なことだ。たとえ不服しても、なかなか訴えづらいだろう」 「男も女も関係ないだろ!あんな人間のクズをほうっといてはダメだ!俺がやつを成敗する」 今でも飛び出すように、幸一は拳を強く握りしめた。 「いけません!お坊ちゃま!」 「大丈夫だ!二郎さんは俺の実力を見ただろ!」 「お坊ちゃまの実力がすばらしいです!しかし、そこが問題です!」 二郎は慌てて幸一の腕を掴んだ。 「ここに来る途中、新しい噂を聞きました!玄家の息子は復讐のために、とある商人に百対の少年少女の生贄を要求し、断られたら猛虎に変身し、民衆の前で商人を八つ裂きにした、と……」 「なんでそんな噂になるんだ!」 「受けがいいからだろう」 修良は落ち着いた顔で冷たいお茶を一口飲んだ。 「とにかく、お坊ちゃまはもう官府の黒名簿入りだそうです。これ以上、『実力』を行使してはいけません!」 「……」 幸一は深刻な顔でしばらく考えていたら、結論を出した。 「じゃ、夜にやるしかない……」 「お坊ちゃま!!」 「まあまあ、二郎さん、落ち着いてください」 修良は幸一と二郎の間に入った。 「幸一がやっていることはあくまで魔物退治、正当防衛、不正契約の解除、偽物の公的文書の回収。真相の知らない無能な役人に睨まれても捕まれる理由などありません。私がついているから、何かあったらすぐ最適な対応法を出せます。心配はいりません」 「……」 (最適な言い訳をつけるの間違いじゃないか……そもそも、お坊ちゃまが凶暴になったのは、お前の教育のせいじゃないか!?) 直感的に修良からやばい匂いを嗅いで、二郎は文句を腹の中で殺した。 「逆に、幸一は何もしなかったら、買い手たちがまたこの前のようにお宅に殺到するかもしれまん。なので、幸一がやっていることは玄家の最後の誇りを守るための行為とも言えるでしょう」 「……」 「先輩……」 修良が示した理解に、幸一はちょっと感動した。 「二郎さんは奥様の追跡を続けてください。奥様が捕まれば、幸一は責任から解放されます。すべては解決できます」 「……」 修良の巧弁の前で、二郎は話すことがなくなった。 「ふー」 話が終わったら、修良は額を触りながら長い息を吐いた。 幸一はすぐ修良の肩を支え、彼を寝台に送る。 「ごめん、二郎さん、今日はここまでにしてくれ。修良先輩はもう大変疲れた。早く休ませてあげたい」 「……」 「母のこと、お願いする!」 明らかに不要なものにされた二郎は、黙って仕事に戻るしかなかった。

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