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二十九 それがしは妖怪だ!

人間界と妖界を往復するには、「妖界の扉」を潜る必要がある。 「妖界の扉」は「総門」と「子門」の二重構造になっている。 総門はそれぞれの側に三つがある。 総門に入れば、子門を開けられる。 子門の行先は自由に設定でき、人間界と妖界のほぼすべてのところに繋げられる。 柳蓮県に一番近い総門は九香宮の付近にあるが、珊瑚は幸一を大陸の南西側の無人森付近にある総門――「双樹門」に連れた。 その門は名前通り、天に向かってそびえ立つ二本の木の間に存在する。 しかし、普通の人の目ではそれが見ない。 二人は木の間に立ち、珊瑚が合言葉を念じる。 次の瞬間、二人のいる場所は大きな樹洞に変わった。 目の前に粗布を着ている老婆がいて、老婆はゆっくりと珊瑚に一礼をした。 老婆はここの門番、本体が石像の妖怪だ。 人間の町が繁盛していた頃に人々に崇められた石像は、町の衰退と共に破棄された。 人間の念力を集めてきた石像は、長年に森で自然の恵みを吸収し、やがて妖怪としての体を得た。 昔の信者は年寄の女性が多いのか、石像が手に入れた姿は白髪交じりの老婆だ。 「珊瑚様、また人間をそちらに連れて行くのかい?」 「石松(せきまつ)婆さん、またお願いします。場所はいつものところです」 珊瑚は瑠璃色の石でできた通行札を老婆に見せた。 「分かりました」 老婆は通行札を確認する隙に、短く幸一の姿を観察した。 すると、残念そうにため息をついた。 「しかし、こん美しい子も虐げられたとは、人間は同族にひどいことをするものですね」 「虐げられた?」 幸一は頸をかしげると、隣に珊瑚の笑い声がした。 「違います。こちらの玄幸一はそれがしの友達、この前の人たちと違います」 「これは、失礼しました」 老婆もほほっと笑って、両手を木枝でできた壁に触れる。 老婆が触れたところを中心に、二人が通れるくらい大きさの穴が開いた。 「この前の人たちって?」 「すぐ会えるから、行こう」 幸一の質問に珊瑚は勿体ぶった。 穴に繋がるのは不思議な光が流れている隧道。まるで夜空に無数の蛍が舞い踊っている。 幸一は不思議そうに周りを見回した。 「幸一は初めて妖界に?」 「ああ、そうだ。扉のことは本で読んだが……」 幸一は何かを思い出したように、珊瑚の顔を見つめる。 「そういえば、珊瑚はあの門番の婆さんと親しい感じだったのね」 「長年の付き合いだから」 「長年の付き合い?ということは……」 珊瑚は口元を上げた。 ついに幸一は自分の正体に気付く。 「珊瑚は、仙道だけはなく、妖界とも深い縁のある人だよね!」 「……っ!」 幸一の結論を聞いて、珊瑚はうっかり躓いた。 「大丈夫!?」 幸一は珊瑚を支えようとしたら、珊瑚にムキムキな表情を返された。 「あのな、幸一、もうそろそろそれがしの正体に気付いてくれ!わざと気づいてないふりしてるんじゃないよな!」 「正体?わざと?どういうこと?珊瑚は見習い捕快で、朝廷の要人の息子じゃ……」 「柳蓮県のことを見てもう分かるだろ!それがしは――妖怪だ!!妖界軍の妖怪だ!」 もう幸一の鈍感に我慢できず、珊瑚は自分の胸を叩いて正体を明かした。 「あっ、そうか」 幸一は驚きもせずに、秒でそのことを飲み込んだ。 「気付いてなくてごめん!人間の官府に妖怪絡みの事件を処理する役人がいるから、てっきり珊瑚もそっちだと思った。でも、本当は妖怪だよね」 「『そうか』って何なんだ……もっと驚いてくれないか」 幸一の反応に失望した珊瑚は小さい声で文句をつけた。 「なるほど、だから、あの二人が殺されたことにあんなに怒ったんだ……」 幸一はやっと珊瑚が修良と争った理由が分かった。 「まあ、そういうことだ」 珊瑚は表情を整えて、先に進んだ。 「それがしはあの修良先輩の話を信用しない。あんなやり方、きっと何か裏がある」 「俺は先輩を信じる。何か裏があっても、きっとそうしなければならない事情がある!」 頑固に修良に信用を寄せる幸一を見て、珊瑚は苦笑いで独り言を呟いた。 「幸一がいなければ、あの人はどうするのか……」 二人の話が一段落につけて、隧道も果てまで来た。 光った出口を抜けると、二人が大きな屋敷の前にいた。 屋敷全体は厚みのある紫檀木でできている。屋敷の周りは豊かな緑植物と季節の花に包まれている。大きさは幸一の実家――五十人も余裕に住める玄誠実の屋敷――の三倍もあり、紛れもない豪邸だ。 「ようこそ、我が家へ」 珊瑚は誇りそうに微笑んで、幸一を屋敷内に案内した。 屋敷の内装もかなりおしゃれで、格調のいい装飾品がたくさん置かれている。 使用人たちの衣裳も質がいい。 「あなたたちは……」 お茶を運んできた使用人たちを見たら、幸一はすぐ思い出した。 この二人の少年少女は、以前左大類の家から救出した人たちだ。 「あら、恩人さんですわ!ご無沙汰しております!」 先頭を歩く少女の使用人は幸一のことが分かって、笑顔を見せて、小走りでお茶を幸一の前に置いた。 「恩人さん、ようこそいらっしゃいました!」 少年の使用人も足を速めて、お菓子を運んできた。 「なるほど、珊瑚の家の働くことになったのか!元気にやっている?」 聞かなくてもその明るい雰囲気からすでに二人の状況が分かる。 幸一も喜ぶと思う。 「はい、もちろんです。珊瑚様はとってもいい人です。大変お世話になっております。恩人さんに助けていただいたみんなの中で、半分の人も来ています」 「珊瑚様は妖怪だと聞いた時、ちょっと戸惑ったけど、実際に働いてみたら、珊瑚様は本当にやさしくて、人間よりもいい人です!」。 「珊瑚、お前はやっぱりいい人だ!」 二人の好評を聞いて、幸一は改めて珊瑚を褒めた。 「三人そろっていい人っていうな!もっと美しい言葉があるだろ……!」 褒められた本人はその言葉にあまり気に入らなかった。 使用人たちに幸一の接待を頼んでから、珊瑚は軍服に着替えた。 「それがしはこれから軍部のほうに報告しに行く。幸一はここで待っててほしい。大将軍たちとの会見許可が降りたら迎えにくる」 真の姿でかっこつけながら、幸一にこれからのやることを伝えた。 珊瑚の軍服は幸一が柳蓮県で見た妖界軍の軍服と形が似ているが、色が深紅で、装飾もより複雑、明らかに高い階級のものだ。 それでも幸一は特に興味を示さなくて、普通に返事をした。 「分かった。待っている間に庭に出てみてもいい?花がきれいに咲いているから」 (これでもだめか……) 自慢の軍服姿になんの反応もない幸一に、珊瑚はいろいろ諦めた。 「いいよ、ご自由にどうぞ……」 「珊瑚様、かっこいい!」 という使用人たちの賛美の中で、珊瑚は屋敷を出た。 幸一は使用人たちの案内で屋敷を見学しながら、珊瑚の人柄、いいえ、妖柄を褒める言葉を聞いた。 時間が大分経って、そろそろ珊瑚が戻るところと思ったら、意外なことが発生した。 「!」 前庭で御庭番と話している幸一はいきなり攻撃性の強い妖力を感じた。 その妖力は屋敷の正門方向から発されたもの。 幸一はすぐ正門に駆け付けた。

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