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四十 陣破り

「!!」 幸一の魂が吸い取られる最中に、修良のは警告の波動を感じた。 (誰かが幸一の魂に術をかけて、私の封印に止められた!) 「幸一に何をした?」 修良は攻撃の意味を含めた視線で珊瑚を睨んだ。 「何もしていませんよ。幸一は自分の意思でそれがしについてきました。どちらといえば、興味があるのは修良さんの力のほうです」 「とぼけるな。今、誰かが幸一に魂を傷付けるほどの強い術をかけた」 「!」 (なるほど、おそらく爺さんは幸一に何かをした……しかし、そんなこと何故修良が分かるの。もしかして、何かの方法で幸一を監視している?) (この人は、一体どうして幸一にこんなに執着しているの?) (陣の修復に時間が掛かる。もうちょっと話を探ってみよ。) 珊瑚は口元を上げて、悪知恵が働いた。 「そういえば、確かに、幸一の魂に興味を持つ妖怪がいました。幸一の魂はこの世界のものではないとか、幸一に手伝うことを頼みたいとか言いました。幸一は修良さんの罪を軽減するために一生懸命だから、その妖怪の頼みを受けたのかもしれません」 「……」 修良の目が完全に影に覆われ、唇が小さく震えた。 いきなり、珊瑚の足元から四本の黒い棘が現れ、珊瑚の体を縛ろうと這い上がった。 「おっと!」 珊瑚の尻尾の光が揺れて、彼は魚のようにスルーと急浮上する。 棘は長い鞭となり、空中で珊瑚を追撃する。 珊瑚は逃げる同時に刀を抜き出す。 尻尾の光がふわっと時計回りをしたら、珊瑚は螺旋のように回転しながら逆に棘に突き進む。 あっという間に棘を切り刻んだ。 しかし、地に降りた珊瑚の綺麗な顔にも、小さな血痕が残された。 その傷に気付いたが、珊瑚は気にせず、再び修良を注目する。 「修良さん、交渉をしませんか?修良さんは本当に旧世界の力を持っているのなら、それを妖界に貸してほしい。そうすれば、幸一がこっちに手伝う必要がなくなるし、あの三人の百妖長を殺したことも水に流せます」 (……それがしは、何を言っている……昨日、爺さんに断ったことをやっているみたい。) 口で言いながらも、珊瑚の頭の中から疑問が生じた。 (幸一を人質に取って、死んだ仲間を交渉条件に使うのは、美しくなさすぎるだろ……) 「お前まで魔に浸食されたとはな」 修良は黒い棘の残骸を吹き飛ばし、残念そうに鼻で息を吹いた。 「魔?」 珊瑚の片目に深紅色の霧が浮かんだ。 「なるほど、それがしの中で、魔が生れたのか。通りに、久しぶりに妙な気分になったな」 自分を嘲笑うように、珊瑚は肩をすくめた。 「……」 (今のこいつから、確かに魔の気配がするが、人間界が襲われた夜にまだなかった。首謀は彼じゃなかったのか……) 修良は珊瑚の気配を細かく感じ取る。 「でも、魔の念があるとはいえ、それがしは侵食されませんよ。これまでの昇格で何回も自分の中の魔と対抗しました。ちょっといけない雑念があるところでそれがしに何の影響もない」 「どうやら話は無用だ。あの世の力にそんなに興味があるのなら、少しだけ与えてやろう」 修良は右手を後ろに振り、闇の力が彼の右腕に集中する。 修良の右手は枯れて竜の爪のように変形し、右腕一本がウロコを被る怪物のものになった。 「なるほど、だから幸一に見せたくないのか。確かに美観が損なわれますね」 珊瑚は興味津々に修良の変化を見て、刀を構えた。 「では、拝見させていただきます」 赤蓮陣の花びらから赤い光が溢れて、珊瑚の身に流れる。 その時、珊瑚は副将からの声が聞こえた。 「将軍、焼かれたところの修復が進まない……」 「それがしは補う」 即答したら、珊瑚は空を飛んで、刀の先を修良に指したまま修良の真上から落下する。 修良は変形した右腕を振り、珊瑚の刀を払った。 珊瑚はその衝撃の反動力を借りて、修良の後ろに跳んだ。 焼かれた道の先頭に立つと、珊瑚の後ろに広げる七本の光から強烈な炎が噴出し、焦がれた花びらの形を補っていく。 「そんなことをしたら、お前の消耗は半端じゃない。私は手加減をしないぞ」 修良は珊瑚に最後の忠告をした。 でも、珊瑚は全然気にしないようににっこりと笑った。 「修良さんと違って、それがしは『みんな』のために戦っているから」 「!」 みんなのために生きているって、やっぱり疲れちゃうね…… 今度は、キミだけのために生きていこう…… 珊瑚の凛とした姿は、時に封印された修良の古い記憶を呼び覚ました。 遠い遠い昔、ある鮮血に染められた少年が、彼にそう約束をした。 (類は友を呼ぶのか……ごめんな、幸一。たとえお前の友でも、あの世の事に触れてはいけない。「玄幸一」の存在を守るために……!) 心の中で幸一に謝り、修良は右腕から発された力を全身に燃やした。 「黒い刃」と「赤い光の柱」は、盛大に咲いている蓮の中心で何度も衝突する。 その襲撃波は陣を構える妖怪たちの足元を震わせる。 「もっと頑張れ!将軍を支えるんだ!!」 副将は兵士たちに呼びかける。 初めて強敵に遭った紅凛軍の精鋭たちも、強い危機を感じ、精いっぱいで力を出し切る。 珊瑚の身を包む赤い光の柱の輝きはどんどん増し、珊瑚の刀は修良の化け物の腕で深い切口を裂ける。 「見事な妖力だが、ここをどこだか忘れたのか?」 修良は半歩を後ずさり、軽く口を開いた。 修良の上下の犬歯が一段長くなり、口から灰色の霧が溢れてくる。 修良の両目は真っ黒になり、目の真ん中の一点だけが星のように光る。 霧は速やかに修良の全身を覆い、外に広げる。 修良の周りの空間がその霧に蝕まれたように黒い虚空に化する。 「!?」 一瞬で戦慄さを感じ、珊瑚はさっそく修良の腕を断ち切ろうと前に出たが、刀が霧に触れると、焼かれた炭のように崩れた。 「バカな、この刀は『妖界の礎』と同じ源の鉱石でできたもの……」 空っぽになった手もとを見て、珊瑚は呆気にとられた。 「世界を根源から滅ぼすのは、私の使命だ……」 修良は棒読みのように声を出しながら、右腕を天に掲げる。 霧の糸が黒い虚空を纏い、暗闇の球体を作る。 「総員最大出力だ!」 珊瑚は急いで指示を出すと、赤い蓮が強く輝き、光の流れが盛大な流星雨のように珊瑚に集中する。 珊瑚の七本の尻尾の光は彼の体を包み、彼より十倍も大きいつぼみになった。 すぐに、一匹の全身が燃えている烈火の狐がつぼみから飛び出した。 闇の球と烈火の狐がぶつかる。 闇と烈火がお互いにも譲らない。 対抗がもたらした強い波動に、妖怪たちの体がしびれる。 大地も空気も空も揺れる。 二つの色が強引に相手に突入する瞬間、爆発の轟音が天地を貫き、赤い蓮が炸裂した。 ********* 爆発の余韻が妖界城の動力部にも届いた。 幸一は足元の揺れを感じ、微かな爆発音も聞こえた。 「地震?」 「そんなはずがない。ここはなんの災害も届かぬように作られたのじゃ。その上に、結界が……」 古兀は怪しいと思ったら、いくつかの石板がチラチラと光って、警告の鳴音が響いた。 古兀は慌ててとある石板に手を触れて、状況を確認する。 「……な、なんじゃと!?」 石板に朽ち果てる深淵の俯瞰景色が映された。 周囲千米の広さもある土地が、濃厚な灰色の霧に覆われている。 霧の薄い境界線付近の土地に、蓮の花びらの形のやけどが見える。 「あの、もしかして、先輩が来て、何か大きな術を投げたのですか?」 煉丹炉の中で石板が見えない幸一は古兀に聞いた。 「この焼けどの痕跡、まさか、赤蓮陣が……そ、そんなはずがない……もっと探るのじゃ!」 幸一の話が耳に入らなかったように、古兀は杖で石板に触れて、命令を出した。 深淵の上空をかける一羽の隼が高さを下げて、霧の中へ飛び込んだ。 「本当に先輩だったら、妖界との誤解がますます深くなります。俺は先輩を説得するから、現場に連れてください!」 「いかんのじゃ!おぬしの魂を持って旧世界の扉を開くのじゃ」 「現に開けないじゃないですか!先輩の術はすごいものだぞ。山一つを丸ごと吹き飛ばせる。放っておくと、この妖界城が飛ばされる可能性だってある!」 修良のことを思うと、幸一の忍耐が切れた。 「そんなことはありえないのじゃ!せっかく出合った適材のおぬしを逃がすものか!」 古兀は断じて幸一の要求を拒否した。 「お爺さんは頑固だな……やっぱりそうするしかないのか」 幸一は舌打ちをして、袖から細剣を引き出した。 煉丹炉に入る時の扉がすでに消えたが、幸一はまず細剣でその扉のあったところをなぞって切る。 しかし、炉の壁にかすり傷一つもつかなかった。 幸一は剣に霊気を注ぎ、剣身に威力倍増の法術を付与してからもう一度炉の壁を刺す。 だが、結果はまた同じだった。 「これ以上強力な剣気を注いだら、この剣が持たない……」 壁から喰らった反動力が幸一の手に響いた。 「無理じゃ。その煉丹炉は世界の基盤と言われる幻の天晶石でできたものじゃ!いかなる法術も金属も破壊できぬ!」 古兀の話は逆に幸一に閃かせた。 「天晶石?それなら同じものでぶつかれば……!」 修良の話によると、幸一が肌離さず持っている誕生日の短剣は、天晶石でできたものだ。 幸一はさっそく短剣を鞘から抜いた。 短い剣身だが、不思議な光が流れていて、堅実で鋭く、独特な力が感じられる。 「先輩からの大事な贈り物。もうちょっと落ち着いてから研究するつもだったが……これでなら、あの究極な剣気を使えるかも!」 幸一は全身の霊力を動かし、無数の短い青白の光の線が短剣に集中した。 幸一は光がだんだん増していく短剣の先を煉丹炉の窓の下に突いて、一度深呼吸をしてから、術を放った。 「砕け――砕星剣!」 短剣が光と共に煉丹炉の壁に刺し込んだ。 剣に宿った光が瞬間に煉丹炉に広げ、無数の亀裂となった。 ガシャンと、煉丹炉が粉々に炸裂した。 短剣が反動力を受けて少々震えているが、元のままだった。 幸一は煉丹炉の殻の中で目を輝きながら、短剣を見つめる。 「なるほど、白厄龍の骨で補強されて、ある程度柔軟性をもたせて、衝撃を緩和したのか。さすが先輩だ!こんなところまで計算したとは!」 「お、おぬし、何を……」 古兀は言葉を失って、ただ幸一に指さした。 「さあ、お爺さん、俺はもう出たし、事件の現場に連れて行ってください!」 幸一は再度要求を出したが、古兀の態度が変わらなかった。 「む、無理じゃ!そもそも、ここは妖界城。たとえわしを殺すことができても、おぬしは、ここから脱出するのが不可能じゃ」 幸一は仕方なくふっと息を吐いた。 「じゃあ、こうするしかない!失礼するよ!」 幸一は米の袋を持つように、古兀を横から持ち上げ、腋の下に挟んだ。 「な、何を……!!」 古兀がいつも被っている葉っぱが落ちて、彼は驚きで反撃の術も忘れた。

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