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六十一 神を求める

一人(一魔?)になった紫苑は、森でしばらく漂っていた。 幸一たちを追うつもりだが、閻婕妤を忌憚して、なかなか進まなかった。 遠回りはできなくもないが、幽冥界に彼より強い存在がほかにもたくさんいる。また閻婕妤みたいなやつに出くわしたらどうする? まして、彼は今、とても怪しいの指輪を持っている。珊瑚はそれに興味を示していた。ほかにもそれに興味を持つ者がいるかもしれない。 自分の力じゃ、狙われたらきっと無事で済まない。 一刻もそれを修良に渡して、任務を終了させたい。 いろいろ考慮した結果、紫苑は勇気を出して、閻婕妤の領地の隣を通ることにした。 でも、どうやら運が悪く、すぐに閻婕妤に感づかれた。 お酒の香りと共に、周りに不気味な霧が現れ、森道は閻婕妤の屋敷に変わった。 「しまった!」 紫苑は逃げようと身を翻したが、閻婕妤はすでに彼の後ろに立っていた。 「あら、家畜の紫苑さんじゃない。おかえりなさい~」 「!」 閻婕妤の両袖から蜘蛛の糸のような黒い糸が大量に噴出して、紫苑の両腕を縛った。 「どうしておのれを見逃してくれないですか?おのれは、あなたの欲しがる恋心がないじゃないですか!?」 紫苑は必死に足掻いたが、黒い糸がとても丈夫で、彼をさらにきつく縛る。 閻婕妤は紫苑の顔を掴み、カエル舌のような長い舌を伸ばして紫苑の顔を舐める。 「あんたの顔、好みだわ~食べられなくても、観賞用に取っておきたいわ。特に、あんたがボロボロな姿で小屋で絶望にもがいている姿、見てて本当に愉快だわ」 「そんな、悪趣味です!!」 紫苑は全身の力を絞って、やっと閻婕妤を押しのけた。 その反動力で彼は後ろへ倒れた。 「あのおせっかいな玄幸一との決着はまた今度にするわ。まず、あなたを誰も見つからないところに縛りつくわ」 閻婕妤は黒い糸を紫苑の頸にも巻いてから、思いきり糸を引っ張った。 「あっ!」 魔がこの程度の苦痛で死なないが、紫苑はひどい屈辱を味わった。 (おのれは、どうしてこんなにも弱いんだ……!) もう一度自分の弱さを憎んでいたら、紫苑の頭の中から不思議な声が響いた。 (力が欲しいのか?) (自分の名前を思い出せ――) (そして、失われた神に奪われた力を呼ぶのだ) その同時に、懐に入っている指輪から不思議な波動が広げて、紫苑に共鳴を求めるように彼の胸を打つ。 (おのれの名前……?おのれは、おのれは……) 頸がきつく縛られ、紫苑の意識がだんだん薄れていく。 意識が消える寸前に、その答えがやっと浮かび上がった。 (そうだ。おのれは――「心魔」だ……) 紫苑はぱっと目を開けた。 (幽冥界は意識のみの世界。まして、魔であるおのれには、実体への攻撃が効くはずがない。今まで感じていたすべての苦痛は、この怨霊が糸に通じて、おのれにかけた幻像だ!) 閻婕妤の攻撃の仕組を理解した紫苑は冷静を取り戻した。 初めて自ら閻婕妤の目を直視した。 「そんなに、おのれが怖いですか……?」 「!」 紫苑の変化と言葉に、閻婕妤はびっくりした。 「やっと思い出しました。初対面の時、おのれに恋心がないことに気付いたあなたは、おのれを閉じ込めるつもりはありませんでした。おのれは、自分の力を口にするまでに――」 「!!」 初対面の時に、掴まれた紫苑は命乞いのために閻婕妤に言った。 「おのれは魔だけど、武力が全くないです。できるのは、人の魂の傷や心の悩みを覗くことくらいです……貴方様の領地に入ったのは本当に偶然です。今すぐ離れます。決して、貴方様の妨害をしません!」 しかし、それを聞いた閻婕妤は逆に暴走して、紫苑を小屋に縛り付けた。 「その時から、あなたの名前がおかしいと思いました。『婕妤』は生前の宮廷内での肩書、死んでもそれで自称するのがおかしいではないですか?ひょっとして、あなたは、自分の名前や過去を隠しているのですか?」 「!!」 閻婕妤の顔が青ざめて、両目が獣のように充血した。 「ふ、ふざけるなよ!この無能な弱虫!!」 閻婕妤は口を大きく開けて、紫苑の頭を飲み込もうとしたが、紫苑は必死に避ける衝動を抑えて、そのまま閻婕妤の口に入った。 すると、一瞬にして閻婕妤の生前のすべての出来事を読み取った。 幽冥界の官職を求める魂は、人間界の少女に転生した…… 家は貧乏だけど、隣人に助けられ、隣人の家の可愛い娘と友達になった…… まもなく、その友達は、皇帝の妃候補に選ばれた…… 運命の「不公平」に悔しく思う少女は―― 友達を崖の下に突き落とし、嘘をつき、友達の両親の養女となり、友達の名を騙って後宮に入った…… 聡明と美貌で初老の皇帝のお気に入りになり、婕妤の地位を手に入れたが、皇帝の心がすぐにもっと若くて美しい女性のほうに移した…… その時、死んだはずの友達は皇太子妃の身分で目の前に現れた…… 友達の噂を捏造し、皇太子を誘惑したが、厳しく断られた…… 皇太子を蹴り落すための政治反乱に加担したが、反乱が失敗して牢屋入り…… 罪人という烙印を付けられ、遠い貧しい土地に追放された…… 人生を終えて、魂が幽冥界に戻り、試練失敗だと判定された…… (ああ、なんでいつもいつもわたくしだけが不幸になるの!?わたくしはただ愛され、恵まれる人生が欲しいのに!何が悪いの!?) 閻婕妤の魂の高い叫びは紫苑の耳を貫く。 「何度も貪欲や嫉妬に負けて、あなたは人間としての試練を超えられませんでした。その『心魔』に捕らわれて、怨霊となったのですね」 屈辱な記憶に浸し、発狂しそうな閻婕妤に、紫苑は淡々と彼女の偽装を剥がした。 「違うわ!その審判がおかしかったの!!世の中の者、皆自分の幸せのために頑張ているんじゃない!?わたくしは正当な努力をしてただけだよ!間違っていないわ!」 「素直に自分を見つめないあなたは、過去も、今も、未来も、『心魔』に勝ちません――」 紫苑は指輪を中指につけて、その共鳴に答えた。 たちまち、紫苑の体が黒い霧となり、閻婕妤の頭を貫通して、外へ吹き出した。 「いやあああああ―――!!!」 閻婕妤の体は黒い霧い蝕まれ、灰色の煙と化した。 彼女の力によって作り出した石の森や屋敷が、幽冥界の闇の中で音もなく消えた。 「これは……おのれがやったのですか?」 もとの姿に戻った紫苑は、失神したように森道を見つめて、さっきの一連のできことを振り替えた。 「失われた神に奪われた力……」 しばらくして、紫苑は指につけた指輪に視線を移した。 「その力があれば、おのれは、強くなれるかもしれません……!」 その時、一種の逆らえない意志が彼の頭に刻みつけられた。 (そう、旧世界の力を求めよう、失われた神を連れて、旧世界の扉を開こう!) 紫苑は閻婕妤を消滅したのは、幽冥界の片隅での小さなできことに過ぎない。 もっと面倒なことは、まだ|閻羅《えんら》殿で上演している。 修良と冥清朗の力が起こした爆発に飛び込んだ幸一は、背中で冥清朗が作った壁を抑え、両手を突き出して修良が打ち出した竜巻を受け止めた。 竜巻から飛ばされた風の刃は、幸一の顔と体のあちこちを切りつける。 「!!」 幸一を傷付けないように、修良はすぐに竜巻を収めた。 対抗する力がなくなり、冥清朗のほうも壁の前押しをやめた。 一息がついた幸一は、ムキムキに修良に問いただした。 「先輩!説明してくれないか!俺が来る前に、幽冥界の者と衝突しないと約束したんじゃない!!」 「……」 修良は内心で少し焦った。 幸一が来る前に玄誠実の一件を解決するつもりだったが、冥清朗は思ったよりも厄介だった。 見られたらしょうがない、まず問題を冥清朗のほうに投げよう。 運が良ければ、幸一の父のことを誤魔化せるかもれいない。 「約束を違反していないよ」 修良はいつもの沈着を装って、軽く笑った。 「そのもの、幽冥界の者ではないから」 「!」 幸一は修良の視線を沿って冥清朗を見る。 その修良と瓜二つの顔が不信と疑問に強く引き締められている。 「またそれか、なんのことか意味が分からない」 修良は鼻で笑って、答えを明かした。 「まだ思い出さないのですか?あなたは我が玄天派を立てた、仙道の始祖と呼ばれる者――清明神君様ですよ」 「冥清朗が、清明神君!?」 修良の言葉は、見事に幸一の注意力を移転させた。 「幸一、清明神君の小説の最新話、覚えてる?」 「最新話?最終話ってこと……?」 幸一は物語を思い出した。 「世界を救った清明神君の前で、天からの使者が現れた。使者は、神々が清明神君に神の職位を用意されたことを伝えて、清明神君を天に召そうとした。清明神君は自分の一生を振り返って、仲間たちを思い出して、微笑んだ……そこで終わり」 「その後、どうなったと思う?」 修良は冥清朗を見つめたまま、片方の口元を上げた。 「もちろん、その召喚を断って、みんなと一緒に人間界に残った…と思う!」 楽観的な幸一だから、いい結末を想像した。 でも、修良の口から告げられた結末は別物だ。 「一度断ったのは間違っていないが、清明神君は天に召された」 「!?」 「清明神君はもともと『神の卵』だった。彼が人間に転生した任務は仙道を立て、世界の秩序を維持すること。任務を完成した彼は、神としての試練を乗り越えた。神としての使命を思い出した彼は天に戻って、神となった。その代わりに、人間だった頃の仲間も、弟子も、恋人も、すべてを忘れた」

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