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第6話 再会しました?

 俺は今夢でも見ているのだろうか。  動悸がし、呼吸が早くなるのがわかる。  そんなわけがないと心ではわかっていても、理解が追いつかないこの状況に俺はただただ立ち尽くすことしかできないでいた。  今俺の目の前にいる男は前世の……元いた世界の親友と同じ顔をしているのだから。 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □  最初の二週間の討伐遠征は数名の負傷者を出したものの、死者は今のところゼロであり、初めての討伐遠征としてはかなりの好スタートを切っていた。  夜になり、周囲の安全を確保した俺たちは明日の打ち合わせを行っていた。  「明日からは第三騎士団の本部隊と合流をする。これまで道中の魔物に遅れを取らなかったのはトーラスの活躍もあるが、先行している第三騎士団の情報のおかげでもあるだろう。合流後は今まで通りにはいかないこともあるかもしれない。より一層気を引き締めるように。」  「「「はい!」」」  エリースの言葉は騎士全体の指揮を高めるもので、俺も不思議を気を引き締めた。  と、言ったは良いもののエリースの言葉に疑問が浮かぶ。  「あの……質問いいですか?」  「ん?どうしたトーラス。あぁそうか言ってなかったな。明日から属性魔法を付与する対象が一気に増える。お前には負担を掛けるが、お前なら信じているし信頼している。」  「ありがとうございます……あ、いえ、そうではなく。無知で申し訳ないのですが先行している第三騎士団がいるとはどういうことでしょうか?」  俺個人としては討伐遠征はまとまって行動したほうが良いと思うのだが、そうではないのだろうか。候補生のときは討伐遠征時のルールといったことは学ばなかったため正直知らないことが多い。  俺以外は討伐遠征に何度も参加したことはあるメンバーだったため、こんなおそらく初歩的なことを聞くのは恥だと思ったのだが、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うしここは思い切って聞いてみることにした。ただこのことわざがこの世界でも有効かどうかは知らない。  「トーラスは初めての討伐遠征だから知らないよな。一週間程度の討伐遠征であればトーラスのいう通り、全員まとまって行動することがほとんどだが、今回のような中距離遠征であったり、長距離遠征の場合は安全を確保するために調査部が先行するケースがあるんだ。これはまだ討伐遠征に行ったことのない土地だったりする場合はその地形を確認する必要があったり、どんな魔物がいるかの事前調査が必要だからね。今回はその調査を第三騎士団の団長と第三騎士団所属の調査部が事前に先行してもらっているんだ。」  それを聞いて俺は納得した。  おそらく魔物と戦う際の騎士のペアに関しては、その事前情報を元に決めているのだろう。ある程度の魔物に対処できていたのは、先行しているという調査部のおかげでもあるのだろう。  とは言っても、俺にお礼を述べてくれる騎士たちもいることから全てがそのおかげではなく、一部くらいは俺のおかげでもあるのだと信じている。  「……なるほど、ありがとうございます。では先行部隊と合流するということは明日は今回の討伐遠征の目的地に着くということでしょうか?」  「いや明日は先行部隊と合流することが目的だ。目的地の手前って感じだな。明日は第三騎士団団長のリオ・クライシスと打合せを行い、その翌日にこの討伐遠征の目的地って感じだ。だから明日はトーラス含め、騎士や医療班は体を休めることに専念しろ。午後は少しだけ打合せがあるが、それまでは休息なる。」  「「「はい!」」」  討伐遠征中も休息があるとは思っていなかった。ここまで移動しては戦闘の繰り返しで流石に疲弊してきていたところではあったため正直この休息は助かる。  それは俺以外もそう思っていたようで、騎士たちや医療班の人間も心做しか表情が柔らかくなっている気がする。  俺は明日の休暇に備えて、今日は早く休むことにした。 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □  二週間もすれば野営にも慣れてくるもので、討伐遠征初日の野営に比べると格段に早く寝られるようになったし、寝起きも初日は平らなところで寝ることに慣れておらず起きたときには体はバッキバキだったが、今では多少の違和感こそあるものの日常生活に支障をきたすことがないほどには寝起きも良くなった。  今日は休暇ということもあり、普段よりもゆっくり目に起きたのだが、騎士たちは普段通りの時間に起きたのか、周辺には騎士たちの姿はなく、すでに朝食の準備をしているものや筋トレをしている騎士の姿も見える。  俺も何か手伝えることはないかと近くの騎士に声をかけたが、誰に聞いてもいつも色々やってもらっているからと断られてしまった。しかし一人だけ何もしていないのも気が引けるため、汎用型の剣の修理や事前の属性付与を行っていく。  そんな様子を見ていた騎士たちから俺の剣も修復してくれないか?と若干刃毀れした剣や切れ味の落ちた剣を続々と渡された。昨日は休暇を喜んでいたが、結局のところ討伐遠征中の休暇など無いに等しいのかもしれない。  そんなことを考えながら剣の修理や属性付与を行っていると、野営の拠点としている場所の中央で何やら人だかりができていた。  「あぁ、トーラスさんは会ったことないんでしたっけ?」  「会ったこと?」  俺の視線に疑問を思ったのか、近くの騎士が声をかけてくれた。第一騎士団では見かけたことが無いため、おそらく第三騎士団の騎士だろう。  二週間もともに過ごしていれば、最初は俺のことをよく思っていなかった第三騎士団の人間も徐々にだが俺に優しく接してくれるようになった。  「今中央にいるのは、我らが第三騎士団団長のリオ・クライシス団長ですよ。」  第三騎士団団長。そう言えば昨日エリースが第三騎士団団長のリオ・クライシスと合流を果たし、打ち合わせを行うと言っていたことを思い出した。  この騎士が言う通り、俺は第三騎士団団長に会ったことは無い。  俺はエリースの元でずっと訓練を行ってきていたため、第一騎士団以外の人間と関わることはほとんどないのだ。今回の討伐遠征前の稽古で第二騎士団団長であるサシャと副団長であるエリアスと会話をしたが、実はあれば初めての会話だ。  「リオ・クライシス第三騎士団長……。確かにお会いしたことはないですね。」  「やっぱりそうなんですね。今は姿は見えないですが、リオ団長はかなりの美形なんですよ。女性人気もすごいんですが、男性からの支持も熱いんですよ。でも正直な話あまり近づかないほうがいいかもしれないですね。あ、でもトーラスさんなら大丈夫かもしれません。」  俺はその”俺なら大丈夫かもしれない”というなんとも煮え切らない騎士からの助言に引っかかりを覚え、そのことについて問いかけることにした。  「その……俺なら大丈夫かもしれないってどういうことですか?」  「あぁ……トーラスさんはリオ団長の噂とか聞いたことありませんか?」  「噂?」  「はい。リオ団長には二つ名がありまして、その名も”冷酷騎士”。顔も体つきもかっこいいし、仕事の速さも正確さも、そして強さも全てにおいてトップクラス。もはやトップなんですけど、性格に難がありまして……。仕事が遅かったり弱い騎士には本当に厳しくて冷酷なんですよ。」  「あぁ、だから冷酷騎士。」  「です。でもトーラスさんはサポート部とは思えないほどの戦闘スキルに属性付与の正確さに、第一だけではなく、第二第三騎士団の武器や備品も修理されているので、きっとリオ団長のお眼鏡にかなうと思いますよ。」  男性であるこの騎士が美形美形と言うくらいだ。その容姿には正直興味がある。しかし面倒事に絡まれるのは御免だ。冷酷騎士と呼ばれるほどだ、仮にお眼鏡にかなったところで何かしら依頼をされるに決まっている。  「ん?そんな厳しいってことは第三騎士団の皆さんは大変なんじゃないですか?」  「そうですね。大変ではありますが、騎士はどの騎士団に配属されるかで、自身評価がわかるんですよ。」  「評価ですか?」  「ええ、まず第一騎士団は勇敢さです。自分の身を顧みず誰かのために戦うその姿勢が評価される感じですね。防衛戦であったり、災害時に派遣されるのが第一騎士団ですね。」  「なるほど、第二騎士団はどうなんですか?」  「第二騎士団は正義感と順応の速さですね。王族などの護衛であったり、国の警備を務めることが多いのがこの第二騎士団ですね。守り抜くこと、そして何か不測の事態が発生した際の切り返しの速さが評価された者が所属する騎士団です。」  まさかどの騎士団に配属されるかで自身のどんな部分が評価されているかを把握することができるなんて思ってもみなかった。俺の場合は勇敢さが評価されたわけではなく、きっとエリースが無理やり自分の団に引き入れたのだろう。  「だ、第三騎士団は?」  「第三騎士団は単純な戦闘力の高さです。つまり第三騎士団に配属された時点で自身の強さが証明されたようなものなんです。それだけで誇りに思うことができるんですよ。そんな第三騎士団は今回のような討伐遠征であったり、魔物の事前調査など他の騎士団に比べると危険な任務に出ることが多いですね。」  これは少しおもしろいことを聞いたかもしれない。  俺は全騎士団の武器や備品の修理依頼を受けている。その中でもダントツで修理依頼が多いのは第三騎士団なのだ。どうして第三騎士団だけこんなにも修理の依頼が多いのかと疑問に思っていたのだが、それがまさかこんなところで解決することになるとは思わなかった。  ちなみに一番修理依頼が少ないのは第二騎士団なのだが、第二騎士団は武器より備品の修理依頼が多い。  勝手に各騎士団ごとに何かを競い合っているのかと思っていたが、そうではないらしくそれぞれ騎士団ごとの役割があると知ることができ、良い話を聞くことができた。  「それにしてもあの人だかりはいつもあんな感じなんですか?」  「ですね。冷酷騎士と呼ばれるだけあって普段は近寄りがたいんですが、それでも俺等第三騎士団の面々はリオ団長のことが好きなんですよ。」  「すごい人なんですね……。あなたは行かないんですか?」  「いきます!」  「あ、はい……」  そう言い残し、俺にいろいろと教えてくれた第三騎士団の騎士さんは人だかりへと向かって突き進んでいった。 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □  本日がこの討伐遠征の最終目的であるオーガキングの討伐日である。  オーガキングは通常個体のオーガとは全くの別物であり、大きさは五倍以上、腕力は十倍以上とも言われている。しかしオーガキングの脅威はこれだけではない。その真価は通常個体の統率能力にある。  オーガは一帯にいくつかの集落を持ちながら生活をする魔物であり、その一帯すべてを統率しているのがキングオーガだ。そのためキングオーガを討伐するということは、ここら一帯の通常個体のオーガを相手にするということだ。  「トーラス、頼むぞ!」  「はい!」  俺はエリースに背中を押され、前線に向かう。  一昨日までの討伐とは全くといっていいほど異なっており、正直戦いづらいの一言に尽きる。これが第三騎士団の先行部隊がいるかどうかの違いなのかと思い知ることとなった。  そしてこの討伐遠征に俺が呼ばれた理由を知ることとなる。  「トーラス!属性が変わるぞ!」  属性が変わる。これが俺がこの討伐遠征に呼ばれることとなった一番の要因だろう。  オーガキングは配下のオーガの武器に属性付与をすることができるのだ。オーガは本来棍棒であったり、冒険者や騎士たちから盗んだ剣を用いて戦うことが多い。その武器にオーガキングは一気に魔法属性を付与する。オーガキングが雄叫びを上げるたびに属性が変化するため、騎士だけでは戦いづらい場面が多いようだ。  オーガの武器に属性付与をさせる前にオーガキングを叩きたいのだが、その大きさと力の強さで簡単に近づくこともできず、その前に配下のオーガが行く手を阻む。  今回俺がするべきは、オーガキングが配下のオーガに付与する属性に対抗する属性を騎士たちの剣に付与し続けることだ。  しかし問題になってくるのはオーガキングの属性付与の速さだ。  オーガキングは配下においているオーガの武器に一気に属性付与できるのに対し、俺は一人ひとりの武器に順番に属性を付与していくしか無い。  それならどうするか。  今までの倍以上のスピードで戦場を駆け巡り、少しでも多くの騎士の武器に属性を付与する他無い。  「ぐああああぁぁぁぁっあああっ!!!!」  「くそっ!」  騎士の断末魔が聞こえる。  俺の移動していた方向とは真逆の方向だ。  俺は踵を返し、その断末魔のした方向へと急ぐ。  地面が血で染まっている。それだけ酷い傷を負っているのだ。  傷を負った箇所は脚だ。切断まではいっていないものの肉の断面が見え、その奥から白い骨も見えている。  俺はその騎士を抱きかかえ、簡易回復を施しながら医療班のテントまで急ぐ。  その間も俺は周りの騎士たちへの属性付与を辞めない。今ここで属性付与を辞めてしまっては、この討伐遠征は失敗に終わるだろう。  この戦いは俺にかかっているのだから!  「脚の負傷一名です!かなりの重症です!急いでください!」  「早くこちらに!」  「はい!」  俺は重症の騎士を医療班に預け、すぐに前線に戻ろうと振り返った瞬間、思考が停止した。  俺は今夢でも見ているのだろうか。  動悸がし、呼吸が早くなるのがわかる。  そんなわけがないと心ではわかっていても、理解が追いつかないこの状況に俺はただただ立ち尽くすことしかできないでいた。  今俺の目の前にいる男は前世の……元いた世界の親友と同じ顔をしているのだから。  「ゆう…………いち?」

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