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第30話

 駅に到着し、電車に乗る。  鞄からスマホを取り出し、気分を紛らわそうとした。  けれど、それはできそうにない。  なぜなら、電車の扉が閉まる直前に乗車してきた男子生徒が颯希の前の吊り革に手をかけたからだ。 「ちっ。」  鋭い眼光で睨みつけ、舌打ちをするそいつ。 「おい。てめぇ。」  以前は颯希のことを「お前」と呼んでいたのだが、今は「てめぇ」と呼ぶ。  どうやら彼は、かなりのご立腹らしい。  無視しようかと考えたけれど、きっと意味のないことだと考えた颯希はそいつに顔を向ける。 「何?」  無表情で一言だけ返したのは、颯希がこの人物にとても会いたくなかったからだ。 「穂積になんか言っただろ!」  周りには他の客もいる中、自らのイラつきを隠そうともしないそいつ。  そいつはやはり、神崎だった。 「何かって、何?」  神崎とできるだけ言葉を交わしたくない颯希は、素っ気なく返す。 「とぼけてんじゃねぇよ。てめぇしかいねぇのわかってんだからな。」  荒い口調にどんどん鋭くなる眼光。 「だから、何を?  俺が、穂積に、何を、話した?」  正確な理由もなしに、ただキレられて、颯希もだんだんとイラついていた。  わざと言葉を切って、「自分には何のことだかわからない。」と主張する。  颯希の言葉を聞いた瞬間、神崎の手が怒りで震えだす。 「何を、だと?」  きっ、と今日一番の鋭さで睨みつけられる。  颯希は神崎の逆鱗に触れたことは理解したが、なぜそれに触れたかがわからない。  不思議そうな表情を浮かべる颯希に、神崎の怒りメーターが急上昇していく。 「てめぇが言ったんだろ。  俺があいつのこと好きだって、てめぇがあいつにバラしたんだろ。」  神崎がそう言った後数秒間、颯希は何も言えず、ただ固まっていた。 (何を言っている?  俺が、穂積に、神崎がお前のことが好きだってバラした?  そんなことはしていない。  そんなこと、頼まれたって言うわけない。  そもそも、俺は神崎のことを穂積の前で話題に出したくない。)  颯希が固まった数秒の間、その脳はフル回転していた。  なかなか口を開かない颯希に神崎が痺れを切らした。 「おい。」  それを聞いた颯希が神崎の方へと顔を向ける。  颯希の目の前には、相変わらず鋭い眼光で睨みつけ、怒りで手を震わせる神崎がいた。 「俺は、何も言っていないよ。」 「嘘ついてんじゃねぇよ。」  颯希は正直に答えたのだが、神崎はそれを認めない。 「嘘じゃない。俺は本当に、神崎に関しては何も言っていない。」  もう一度、しっかりと告げる。  颯希の言葉を理解した直後、神崎は小さく呟いた。 「じゃあ、なんで…。」

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