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第24話 星降る夜に#5

「うわあ、めっちゃ良い部屋だ。ありがとう。りっちゃんの卒業旅行だし、僕が旅行プレゼントしたかったのに」 「そんなの気にしなくていい。昴は二泊三日の運転と、観光地の案内に、天体解説までしてくれるだろ。それでチャラだよ」  離れにある広々とした平屋建ての和洋室で、寝室は洋間にセミダブルのベッドが二台。居間は和室で、襖を開けると中に布団が入っていて、布団で寝たい場合は座卓を退かして布団を敷く形。    掃き出し窓をがらりと開けてテラスに出てみると、五人程度までなら足を伸ばして入れそうなヒノキ造りの露天風呂と、アウトドア用の寝転がれるリクライニングチェアが二台置かれていた。本館側から見えないように一部は屋根があり周りも囲われているけれど、屋根の隙間から裸眼でも星がよく見える。明かりを消せばもっと綺麗に見えることだろう。  部屋に用意されていた浴衣に着替え、茶羽織を上に羽織る。食事は部屋食となっていて、給仕の女性が次々と料理を運んでくる。郷土料理をアレンジしたメニューで、お品書きには信州で育った黒毛和牛のステーキ、信州産のサーモンのお造り、野菜や茸と鶏肉を煮込んだ郷土料理の煮物、蕎麦、等々と書かれていた。   「どれも美味しいねー。地元の料理のはずなのに、家で食べてたのと全然違うや。ばあちゃんが作ってくれる実家の味も好きだけど。お酒も美味しい」 「うん、料理もお酒もすっごく美味しい。明日は昴のおばあちゃんが作ってくれるんだったよね。家庭料理の味も楽しみだな」  一人暮らしをするようになってから自炊はするようになったものの、一般家庭の味というものをよく知らないから本当に楽しみだった。昴も二十歳になっているから、料理に箸を進めながら甘めの地酒を一本頼み二人で酒を酌み交わす。アルコールの度数は十六度だ。  ビジネスの付き合いで二十歳から酒は嗜んでいるし、家でもたまにワインを飲むが、理月はそう酒に強いわけじゃない。三杯飲んだ現時点で顔も身体もぽかぽか熱くなり、頭がふわふわ心地良くなってくる。    よく食べる昴に「僕の分も気にせず食べて良いからね」と言って食事を勧め、たらふく食べる昴を眺めてケラケラ笑う。昴は酒に強い体質らしく、同じ分だけ飲んでも顔色が全く変わらない。 「りっちゃんはもうお酒禁止ー。あんまり飲むと流星群見る前に寝ちゃうでしょ。まあ、零時ごろから観るつもりだし、仮眠取ってから観るでも良いけど」 「これ、甘くて飲みやすくて美味しいのに……」 「甘くて飲みやすくて美味しいから酔いやすいんでしょーが」  口を尖らせると、昴も口を尖らせて反論する。少し渋ったけれど、それ以上飲むのは止めておく。  ぺろっと食事を平らげたところで時刻は二十時少し前だ。流星群の観測予定時刻まではあと四時間。 「眠くなってきた……風呂は起きてからにして、歯磨きしたら、ちょっと寝る……朝早かったし、昴もちょっと寝た方が良いよ」  昴に指摘された通り、うとうとと眠くなってきた。若干足元がおぼつかなく、よろよろと立ち上がる。よろけたところで昴が身体を支えてくれた。   「ほら、眠たくなったでしょ。りっちゃん、気持ち悪くない? 大丈夫?」 「んー……気が緩んで、少し、酔いが回ったのかも。吐きそうな感じは無いから、まあ大丈夫……」 「やばかったら言ってね。とりあえず、洗面所行こう」  昴に肩を軽く抱かれて、支えられながら洗面所へと歩き進んだ。瞼が重たく、今にも寝落ちそうだ。昴に若干ハラハラした様子で見守られながら、互いに歯磨きを済ませる。部屋に戻る時も昴に支えられ、ベッドまで連れて行かれた。   「はい、到着。しっかり肩まで布団掛けて」  理月はベッドに座らされ、そのままひょいと寝転がされる。昴は理月の肩まで布団を掛け、ベッドに腰掛けて満足気に笑った。 「おやすみ、りっちゃん。良い夢を」  昴の手が、くしゃっと理月の髪を撫でた。眠る前、昴はいつもおまじないのように『良い夢を』と口にする。昴が部屋に転がり込むようになってから、一緒に寝ていた時に理月が魘されていたらしく、以降お決まりのフレーズだ。  昴がベッドから腰を上げ、髪に触れていた手がそっと離れた。隣のベッドに移動してしまう。   「昴、そっちで寝るの?」 「ベッド二つあるし、別々に寝るのかと思ってたけど……一緒に寝たいって意味?」 「だって、いつも一緒に寝てるし……昴、温かくて気持ち良いし」  今にも瞼が落ちそうな中、そう口にする。昴と一緒に眠るのは心地良くて、悪くなかった。なんというか、大型犬と一緒に寝ているような感じだ。温かくて癒される。母は物心ついた時にはもう居なかったし、父ともやはり一緒に眠った記憶がない。だから理月に人と一緒に眠る心地良さを教えてくれたのは昴だ。 「りっちゃんが良いなら、勿論。僕も一緒に寝かせて」 「うん。……やっぱり、昴は温かいね。落ち着く」  昴がベッドに上がってきて、同じ布団に潜り込む。自宅でもそうだから慣れているけれど、セミダブルはやっぱり、ちょっと狭い。布団の中の温度が上がる。   「りっちゃん、あのさ……」 「んー……なに?」  話し掛けられたけれど、もう瞼が閉じかけている。   「やっぱり、眠たそうだし後にする。ちょっとだけ、おやすみ。良い夢を」 「うん、おやすみ……昴も、良い夢を」  まどろみながら返事して、そっと重たい瞼を閉じた。

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