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第52話 ひとつの時代#2

「――りっちゃんの実家、久しぶりだなぁ。いつ見てもデッカ」 「こんなに広くなくて良いのにね。管理するにも維持費がかかるし、手離しちゃえば良いのに」  世田谷区にある理月の実家の門前でハイヤーから降り、昴が気遅れしたような声を上げる。理月の実家の敷地は広大で、敷地をぐるっと囲むように高い塀で囲まれている。十八年暮らした生家だけれど、理月もこんなに広くなくて良いだろうと常々思っている。  祖母は五年前、祖父は一昨年の冬に亡くなり、母も居ないしで、残っているのは理月が生まれる前から執事長として住み込みで働いている山岡と父だけだ。住み込みではない通いの使用人等は数多と居るが。    理月がインターホンのボタンを押して「理月です。到着しました。昴も連れています」と伝えると『理月坊ちゃま、日向様、お待ちしておりました。お入りください』とインターホン越しに山岡の声が返ってきた。  門が自動で開き、敷地に足を踏み入れて玄関まで百メートルほどの距離を歩き進めていく。椿や梅の花が咲いていて、冬でも華やかに庭が色付いている。理月からすれば見慣れた家だけれど、傍から見たら要塞のような、桁違いの豪邸だ。  昨年末、山岡に『ピアニストとして、友人の日向昴を新年会に招きたい』と電話で連絡してみたところ、あっさりと了承を得ることが出来た。今年はヴァイオリニストを招いているらしく、ピアノとヴァイオリンのアンサンブルで演奏することに決まり、本日に至っている。    新年早々昴をこんな因習に付き合わせるのは気が引けたけれど、特段何の用事も無い日に昴を連れて二人で訪問だなんていうのも不審だろうし――屋敷の敷居を二人で跨いで父との話し合いに持ち込めるように考えた結果、昴を新年会に連れて行くのが手っ取り早かった。この恒例行事は先祖代々のもので、去年は祖父の喪中で開催が無かったから、親族と顔を合わせるのは一昨年ぶりだ。    玄関に辿り着くとドアボーイに恭しく扉を開けられ、軽く挨拶して中へと入る。百帖はあるリビングに向かうと、まだ少し早い時間だが既に八割方の親族が集まっていた。立食形式でテーブルには既に食事が用意されていて、理月と昴は給仕からシャンパンを受け取る。華やかな香りの良いシャンパンだ。 「理月くん、明けましておめでとう。隣の方は……ピアニストの日向昴くんじゃないか? 理月くんも大きいけど、君、間近で見ると本当に大きいねえ」  早速叔父に声を掛けられ、理月はよそ行き用の微笑を浮かべて返事する。   「宗二さん、明けましておめでとうございます。昴くんは僕の友人でして、本日のピアニストとして招待しました。――昴くん、此方は藤原物産の代表取締役をしていらっしゃる藤原宗二さん。僕の叔父さんだよ」 「初めまして、日向昴です。本日は親族の皆様が集まられる会とのことで、皆様に楽しんでいただけるよう演奏致します。宜しくお願い致します」  いつもはのほほんとしている昴が今日はしっかり者のようにキリッとしていて、うっかり笑ってしまいそうだ。同時にカッコいいな、と素直に思い、頬が緩む。叔父とは二、三言会話して離れ、以降も親族に新年の挨拶を交わしていく。 「――今日は昴を連れてるからか、君に興味が向いて面倒臭いことを言われずに済んで助かる。結婚はまだかとか、好い人は居ないのかとか」 「君の役に立ててるようなら良かった。君にどんな親族がいるとか全然知らなかったし、知れて嬉しい」  理月がコソッと昴に耳打ちすると、昴も耳打ちでコソッと返す。幼い頃もそれはそれで面倒だったし、大きくなれば恋人の有無を聞かれるようになり、ここ数年は結婚にも話が及んでいたから理月にとって新年会は毎年憂鬱な行事だった。昴に興味が向いて理月の方に質問されないから、というのもあるけれど、そもそも昴が隣に居てくれるだけで心強く、ほっと落ち着く。    入口側から順に軽く挨拶を済ませていったところで、最後に父の元へと足を向けた。父が親族との挨拶を終えたタイミングを見計らい声を掛ける。

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