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5.ダンジョン脱出、異世界転移者のスキルってなんだそれ!?※R18描写なし

 全部夢なら良かったのに。  目を開けたセナが一番最初に思ったのはそんな事だった。全部夢なら、自分はまた薄っぺらい布団の上で目が覚めて、疲れと睡眠不足で重怠い頭と体をどうにか支えて起き上がる。短い時間で身支度を整えて、満員電車に乗りに行く。会社では些細なミスで鬼の首を取ったかのように怒られて、優秀な同僚と、あるいは後輩とさえ比較されて疲弊しながら時間を過ごす。くたくたになって帰りの満員電車にまた乗って、誰もいない、暗い家へと辿り着く。逃げ出したいほど孤独で、灰色の日々。面白味もない日々ではあるが、セナにとっては慣れ親しんだ日常だ。これまでの常識が何もかも通じない状況よりは、とうっすら思ってしまった。  しかし現実は石造りの天井が視界に広がっていて、自分は最初に寝ていた毛皮の上に横たえられている。薄暗さも饐えた空気も気を失う前と何も変わらず、セナは落胆してため息をついた。 「お、気が付いたか?」  上から覗き込んでくる赤毛の人影は、先ほど片手剣で狼の首をぶった切った剣士らしい男だ。やや気まずそうに眉尻を下げながらも明るい茶色の瞳でこちらを見て微笑んでいる。垂れ目がさらに下がって、お人よしそうな雰囲気がする。体を起こすと宝箱に入っていたあの麻の服が着せられており、ごわついた感触が肌に擦れた。何となく、据えた匂いがするのも不快だ。目線だけで自分の服を探したが、隅っこの方でぐちゃっとなっていた。 「俺はウィル。アンタは?」 「……セナです」 「そうか。で、アンタは何でここに?どうやって来た?ダンジョンの最下部だぞ?」  矢継ぎ早に質問しながら、赤毛の男・ウィルが腰に下げた剣に手をやっているのをセナは見た。ちら、と周りに視線をやると、他にも三人の人間がこちらに警戒心に満ちた視線を送っている。意識を失う前に見た、短剣を持った軽装の男と巨躯の男、そして記憶にはなかった紺色のローブに身を包んだ男だ。慌てて両手を上げ、自分には敵意がない事を示して口を開いた。 「あ、あの、あの俺、日本から来たんですけど、気が付いたらここにいて、外は何か化け物がいて、外に出たくても出れなくて……」 「今、ニホンって言ったか?」  警戒を解かないウィルの後ろから、ローブを着た銀色の長髪男が近寄ってくる。男は切れ長の目でセナの体を頭からつま先まで見聞すると、ふうん、と唸って一つ頷いた。 「んぶっ!?」  スッと手を伸ばされて大きな手がセナの顎を鷲掴む。そのままセナより少し身長の低い男の方に引っ張られ、セナは僅かに身を屈めることになる。 「ニホンだと言ったな?」  男の顔が近づいて、銀色の髪がこちらに垂れかかった。ランタンの僅かな光でも反射し艶めく、よく手入れされている髪だ。研ぎ澄ませた紫色の鋭い瞳の奥に、頬を掴まれて潰れた顔をしている自分の顔が見える。やや面長で、鼻筋は神経質そうに整っていた。冷たそうな印象を受ける美丈夫だった。 「は、はい……日本の東京から……」 「つまりお前は異世界から来たということか」  見つめる視線は人を見る物ではなく、観察対象を見るそれだった。情も温度もない、対象を余すところなく観察し、分析し、判断する視線だ。 「え……何で知って」 「文献が残っている。この国には古来より時々異世界から人間が飛ばされてくるという。日本という国から来た人間もいたという話だ。……それにお前のその破られた服装はこの辺では見たことがない物だ」  銀髪の男は自分の肩越しに振り返って、セナのスーツだったものの残骸に視線をやる。それと共に、頬を掴まれた手も離れていくが未だ近くで観察は続けるようだ。ウィルも銀髪の男には同意だったようで、顎に手を当てて考え込んでいる。 「非常に珍しい事象だ。あるいは、その特性から秘匿されている可能性はあるが……」 「特性……?」 「ああ。文献には、異世界転移者には共通のスキルがあると記されている」  ジロジロと観察されていい気のする人間は少ない。そもそも人との距離感が遠いタイプのセナは居心地悪く感じ、間近の美形から何とか目を反らしながら居住まいを正した。  ただでさえあんな、狼型のモンスターに犯されて盛大に乱れているのを見られている。気まずいなんてものではない。 「まあ、とりあえず」  パン、と手を叩く音がして、そちらに視線をやると武闘着を着た男が両手を合わせていた。ボブに切り揃えられた紺色の髪を揺らして首を傾けると、彼らが入ってきた扉に視線をやってから続ける。 「外に出ましょ。自己紹介はおいおい、道すがらでもいいでしょ。その子がホントに異世界から来たなら保護しなきゃダメだし、そうじゃなくてもイロイロ疲れてるでしょうし。ね、ウィル?」  イロイロ、の部分に含みがあるような気もしたが、セナは敢えて触れずに頷いた。名前を呼ばれたウィルが剣から手を離して立ち上がり、セナ以外のメンバーを見渡す。 「よし、じゃあとりあえず持ち帰る戦利品を見繕ってからダンジョン脱出だ」 「おう!!」  手分けして金銀財宝を集め始めた彼らは、時々アイテムを手に取って話し合っているようだったが一度に持ち帰ることのできる量を把握しているのかその動きに迷いはない。  セナもとりあえず金貨をポケットに突っ込み、破られた服を名残惜しく見下ろして床に落とした。例え繕ったとしても、もはや雑巾程度にしかならないだろう。後生大事に持つほどいい思い出もなかった安物のスーツだ。置いて行くことにした。 「よぉし、準備はいいか?」  ごく短い時間で身支度を終えた面々が、ウィルの声に口々に同意する。恐らく彼がこのパーティーのリーダーであるのだろう。先ほどから何度も相談を受けては指示を出していた。 「セナ。ダンジョンの出口まではすぐだから、少し歩けるか?」 「あ、はい。それは大丈夫です」  ウィルに問われ、セナは頷いて立ち上がった。その拍子に、ポケットに詰められるだけ詰め込んだ金貨の重みで紐で縛っただけの麻のズボンが落ちそうになり慌ててウエスト部分を掴んでから足を踏み出した。  セナが体重をかけて押し開けた扉を、大きな盾を持った男が片腕で押し開ける。見上げるほど大きな体格の彼が、隣の部屋の中を見渡してから振り返って頷いて見せる。 「まだ魔物は復活していないみたいだ。さっさとずらかろう」  明るく言うウィルの後に続いて、セナもようやく部屋を出ることができたのだった。  ダンジョンの出口はすぐだと聞かされてはいたが、思いのほか遠かった。冒険者である彼らと、一般人のセナとの感覚の違いだろうか。途中何度かモンスターと遭遇したが、ウィル達があっさりと倒してしまうためセナはただ後ろからついていくだけだった。  その道中で、セナはパーティーメンバーから自己紹介を受けた。  最初に話しかけてきたウィルはやはりパーティーのリーダーで、剣士をしているそうだ。次に話しかけた銀髪の男が、ロコ。魔術師であり、魔術の研究をしているのだとか。紺色の髪の男は武闘家のルーシャ。セナに話しかけてくることはなかったが、扉を片手で開けた大男が戦士のゴルシュといった。  彼らはCランクの冒険者パーティーで、このダンジョンにはダンジョンマスターのゴブリンキングの討伐クエストで入ったのだとか。隣のボス部屋にいたひときわ大きなゴブリンが、ゴブリンキングだという。  セナのいた部屋は、ダンジョンマスターを討伐した者のみが通ることのできる宝物庫。普通であれば、ゴブリンキングを倒した者でなければその部屋に入ることができない。だからこそ、ゴブリンキングが生きている状態で宝物庫にいたセナを警戒したのだ。ゴブリンキングが通過を許すのは、ゴブリンキングよりも上位の魔物か魔族であるからだということで。その他にも、この世界の概要を教えてもらいながら歩き続け、ようやく出口まで辿り着くことができたのだった。 「そ、外だ……」  セナはようやく外に出られたことに安堵しつつ、改めて周りを見回した。  そこは森の中で、木々の間から光が差し込んできている。地下の淀んだ空気から新鮮な森の空気に晒され、思わず深呼吸する。緑と水の匂いを肺一杯に吸い込んで、セナは大きく息を吐き出した。近くに川が流れているのか水の流れる音も聞こえている。  入口の付近には野営している他のパーティーがいたり、小さな屋台が出ていたりと割と人が集まっていた。ダンジョンの入り口はどうやら簡易的な休憩所を兼ねているようだった。  武装したパーティーの後ろから出てきたのが、麻布の服だけを纏ったセナであるのに不思議そうな顔をする者もいた。しかしそれよりも、ウィルの上げた声に人々の注目が集まった。 「ゴブリンキング討伐完了だ!我々は最深部に到達した!」  クエスト達成の認定はギルドに証拠を持ち帰ってからとなるが、宣言することで無茶をする人間を抑制する目的があるのだという。あるいは、周囲に知らしめてクエスト達成の証拠を奪われるのを避けるためもあるらしい。冒険者はそれなりに荒くれ者も多いのだとロコが辟易した顔で言っていた。いわく、下品で低能、だとか何とか。 「セナ、こっちよ」  わぁと歓声を上げた人々がウィルの側に集まるのを避けながら、ルーシャについてくとダンジョンから少し離れたところに馬車が止まっていた。よく見ればそこは小道になっているらしく、そこだけ雑草の生えていない砂利の部分がまっすぐ森の中を突っ切っている。 「これは……」 「乗合馬車よ。ここは割と有名なダンジョンだからね。クエストが出れば乗合馬車が出るの。クエスト受注者は無料だから」 「え、じゃあ俺は……」 「大丈夫よ。ほら乗った乗った」  馬車の荷台に押し込まれるように入ると、木でできたベンチに腰を下ろす。隣にルーシャが座り、正面にロコが座る。ロコの隣にゴルシュが腰かけると、御者から声がかけられた。 「もう出ますか?」 「あぁ、待って。まだ一人来るわ」 「ウィル早くしろ!」  ロコが身を乗り出して大きな声を出すと、冒険者たちに囲まれていたウィルが駆けてくる。身軽な身のこなしで荷台に乗ると、ルーシャの隣に腰かけた。 「よし、全員乗ったな?出してください」  ウィルの言葉に全員が頷き、御者に声をかけるとすぐに馬車はゆっくりと動き出した。徐々にスピードを上げていくと、揺れも大きくなる。舗装されていない道を走っているためか、これは仕方がないのだろう。他の人たちは慣れているのか、体幹の違いか大して気にもしていないようだった。ガタガタと揺れながら木のベンチが尻を叩く感触に、何とかバランスを取りつつ断続的な痛みに耐えるしかなかった。  馬車が止まったのは、小一時間ほどが経ってからだった。痛む腰と尻を擦りつつ馬車から降りたセナは、そこに広がる光景に目を見開いた。  石畳の街がそこにはあった。セナの見慣れたコンクリートの町並みなど一切なく、映画やゲームで見るような西洋風の街並みだ。石造りの建物、あるいは木造の家。人々の髪の色が西洋などぶっ飛ばしたカラフルさであることから、日本どころか地球上ですらないのだと分かる。 「マジで……日本じゃないんだ……」  思わずそう呟くと、近くにいたウィルがセナに声をかける。 「ここはダンジョンの近くにあるユレネの街だ。冒険者たちが集まるから宿や酒場が多いんだ」 「へぇ……」  確かに周りを見れば、冒険者らしき武装をした人々がたくさんいるのがわかる。ウィルのように金属の防具に身を包んだ屈強そうな人や、ロコのように長いローブに杖を持った人、ルーシャが着ている軽装と同じような人もいた。上半身裸の男性や、極端に露出の高い女性もいてそちらを見るのはどうにも気まずい。 「こっちだ」  ちょうど馬車が止まった目の前の大きな石造りの建物の中に、ウィルたちが入っていく。追いかけて中に入ると、そこはどうやら冒険者ギルドのようだった。セナにそれが分かったのは、様々な出で立ちをした冒険者がカウンターの中にいる人間に向かって何か話していたり、壁一面に張られた紙を見ながら仲間内で話しているからだ。記憶の中にあるゲームのギルドによく似ていた。  扉を入って右側のスペースにはカウンターと掲示板などがあり、反対側のスペースにはイスやソファ、テーブルにバーカウンターがあり飲食ができるようになっているらしい。数人がテーブルを囲んで食事を楽しんでいた。 「報告はウィルが行くから、アタシたちはこっちで話しましょ」  さっさと右側のギルドスペースに行ってしまったウィルをよそに、ルーシャが左側の飲食スペースに向かう。  ちょうど一番隅のソファ席が空いていたため、そこに座ることにした。ソファ席は二人がけがテーブルを挟んで向かい合って置かれ、いわゆるお誕生日席に一人がけのソファが置いてある。  ルーシャに一人掛けソファに座るよう指示されたセナは、右側のソファに座ったロコ、左側のソファに座ったルーシャに挟まれてしまった。ゴルシュは、食事を注文しにカウンターへ行っている。 「で、セナ。帰り道にこの世界の事は少し話したわね」 「あ、はい」  ルーシャがテーブルの上に紙を広げる。少し丸まったそれはどうやら地図のようで、大きな大陸が真ん中に描かれていた。ルーシャの深い緑色をした爪の先が、大陸をぐるっと囲むように動かされ、次いで大陸の中央やや南を指さす。 「これがラメドラ大陸、5つの国に分かれてるけど、割と国の領土になってない場所も多いわ。で、ここが私たちのいる国、トストアル王国。代々トストアル王族が統治する国。それから、ここがこのユレネの街。さっきのダンジョンは、この町から一番近いユレネの洞窟」 「ダンジョンって、何種類もあるんですか?」 「あるわよ。ユレネの洞窟はゴブリンキングがダンジョンマスターだけど、他にも色々なダンジョンがあるわ」 「へぇ……」 「そもそも、ダンジョンの作られ方というのはだな」  ロコが我慢できないという風に口を挟んでくる。  ダンジョンというのは、世界のどこにでもある魔素という物が集まる土地にできるのだという。魔素というのはいわゆる魔力の元であり、世界中のあらゆるものに含まれている物質の一つらしい。魔素の濃度が高くなると、その地域に生息する動物や植物が魔物になる。更には土地自体が魔素を溜め込み、その場所がダンジョンに変化するという訳だ。  そしてダンジョンはダンジョンマスターという魔物を据え、その他の魔物を生み出し独自の生態系を作り出す。寿命や争いで死んだ生物は魔素を求めるダンジョンに取り込まれ、溜め込んだ魔素を使いさらにダンジョンは大きく複雑に広がっていく。  そのため、ダンジョンは定期的に最下部まで踏破し調査する必要がある。魔素濃度が上がりダンジョン内が魔物で飽和状態になれば、溢れ出て人里を襲うこともあるからだ。ダンジョンを踏破して魔素濃度を下げることは冒険者ギルドだけでなく、各国が力を入れている事業の一つだ。 「魔素濃度が高いと、魔物はどんどん強くなる。ダンジョンマスターも強力な魔物になるし、ダンジョン自体が広く複雑になっていく」  ロコの説明を聞きながら、セナはただただ頷いていた。頷くしかない。30年以上生きてきた自分の常識とは到底違うが、今はそれを受け入れるしかなかった。  ウィル、ロコ、ルーシャ、ゴルシュの4人はパーティー名をクロエネダというCランクの冒険者だそうだ。主にダンジョンの探索クエストをこなしており、結成して1年ほどの駆け出しであるとか。ちなみに、パーティー名はこの土地に伝わる戦女神の名前らしい。 「最近、ユレネの洞窟の魔素濃度が上がってるって報告があってね。ゴブリンキングの討伐依頼が出たからみんなこぞって洞窟に潜ってたの。で、最下部でセナを見つけたってわけ」  ルーシャが言う傍ら、カウンターから戻ってきたゴルシュがテーブルに銀色のゴブレットを5つ置いていく。真ん中に酒が入っているらしい瓶もいくつか並べ、またカウンターへ向かってしまった。 「で、洞窟で少し言いかけた転移者の特性に関してだが、異世界転移者には共通しているスキルがある」 「全員同じってこと?」 「ああ。それ以外のスキルが開花する場合は人によって違うようだが、最初から持っているスキルは共通している。それがステータスアップの宿る体液だ」 「は……、ステ?体液?」 「お前の血液、汗、涙、唾液、精液、尿全てにその力がある」  何を大真面目な顔をして言っているのかとセナは思うが、ルーシャも頷いているところを見るとどうやら本当らしい。にわかには信じられないその話を、ロコは更に続ける。 「悪いがお前の素性を調べるため先に鑑定させてもらった。やはりお前にもほかの異世界転移者と同じく、体液にその効果がある。あとは魔力変換効率だな」 「あら、セナにとっては当たりね」 「俺にとっては?」 「そう。異世界転移者の話って珍しいけど、実際にいくつか事例が認められてるの。昔は見つかればお祭り騒ぎだったらしいわ。だって手軽にステータスアップできるんだからね。時間制限はあるけど、副作用はない。でも異世界転移者は生きてるだけで魔力を大量に使うの。つまり、異世界転移者の魔力と体液が混じりあってステータスアップの効果が得られるってことね」 「体内の魔力が枯渇すれば人は死ぬ。だが異世界転移者は汗をかくだけで大量の魔力を消費する。魔力は時間経過での自然回復か、薬か、食事などの体外からの摂取によってしか回復しない」 「つまり、異世界転移者はすごく魔力が枯渇しやすい、死にやすいのに、素早く回復するのはなかなか難しいってことよ」 「その点、お前は体内に取り込んだ物を魔力に変換する効率が飛躍的に上がるスキルを持っている。魔力回復のスピードが恐ろしく速いということだ」 「昔の異世界転移者はすぐに魔力が枯渇して死んじゃったのよね」  ロコとルーシャが交互に行う説明を、セナは口をポカンと開けたまま聞いていた。そうしてダンジョン内でのことを思い出し、まさか、と思い至ったことを口にした。 「じゃ、じゃあ俺が、その魔物に襲われたのって……」 「魔力変換効率が最大に発揮される物質は精液なの。そのために、スキル持ちは魅了の効果があるのよ。それに加えて体液にステータスアップでしょ。匂いに惹かれて寄ってきたんじゃない?」  楽しそうだったわね、とルーシャににんまり笑われてセナの顔が熱くなる。確かに、あの植物の魔物も狼の魔物もセナの体液を舐めることに固執していた気がする。そしてあんなに射精したのに無事でいたのは、揃いも揃って魔物たちがセナの体内に射精したからだ。魔物の精液を己の魔力に変換し、取り込んだという事だった。 「おーい、待たせたな」  話がひと段落したところにウィルが戻ってきて、テーブルの上にからの袋を置いた。ジャリ、という金属の擦れあう音が聞こえたところを考えると、報酬の金貨が入っているようだった。  ほぼ同時にゴルシュも戻ってきて、ローストチキンや茹でたジャガイモ、ソーセージなどの乗った大皿を置いていく。 「クエスト達成の乾杯ね」  空のゴブレットが全員に配られ、瓶から酒が注がれる。ワインのような赤い色をしたそれは、何かの果実酒らしくふわりと香る匂いは甘かった。勿論セナにもゴブレットは渡され、ウィルが全員に回ったことを確認してから改めて口を開いた。 「それじゃ、クエスト成功を祝して、乾杯!」 「かんぱーい!」  ガチン、と音を立ててゴブレットがぶつけられ、セナ以外の4人は一気に酒を飲み干す。見慣れないものだからとちょびっと口を付けたセナは、見た目通りワインによく似た少し渋みのある酒に目を見開いた。 「おいしい」 「だろ?セナも生き残った記念だ。俺たちの驕りだからいっぱい食べていいぞ」  気を失っていた間があるため、転移してからどれくらいの時間が経っているのか不明だがこれが初めての食事になる。自覚すると急に空腹が襲ってきたような気がして、余計に目の前の料理が美味しそうに感じた。  セナは早速フォークを手に取り、大皿からローストチキンを1つ取った。たっぷりと香辛料のかかった鶏肉を頬張り、その美味しさに目を見開く。 「おいしい!」 「そりゃよかったな」  ウィルが嬉しそうに笑い、セナの皿にソーセージやポテトも乗せてくれる。ロコとルーシャも食べるように促し、あっという間にテーブルの上がいっぱいになった。4人は酒を片手に食事を進め、ダンジョンでの冒険話が続く。  主に口を開くのはウィルとルーシャで、時々ロコが鋭く突っ込む。ゴルシュはひたすら寡黙に食事を続けているが、表情が柔らかく、時折声を立てて笑うのでこの場を楽しんでいることは見て取れた。しばらくして、思い出したようにウィルがセナを見る。 「それで、一応セナの話もギルドにしたんだ。あとで話がしたいって」 「え」 「ほら、家も身元の保証も何にもないだろ?この先どうするかなって。そうじゃなくてもさ、人を引き寄せるスキルがあるわけだし」 「……確かに」 「この世界に慣れてないセナが騙されて奴隷落ち、何てこともあるんだから気をつけなさいね」  笑いながらルーシャが言うけれど、セナにとっては奴隷制度があるという事自体が笑えない事実だ。右も左も分からないこの世界で、知らないうちに売り払われてしまう事態もあったという訳だ。 「体液を絞るだけ絞られて飼い殺し、というパターンもあるな」 「ヒェっ……!」 「そうねえ」  ロコとルーシャの物騒な言葉に背筋がぞっとする。そうでなくとも、彼らに見つけてもらえなければセナはあの部屋の中でずっと魔物に襲われるままで閉じ込められていた可能性だってあった。 「ほんと、皆さんに見つけてもらって、良かったです……」  色々と思い出しながら、セナは絞り出すような声で言った。

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