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28.ついにユレネを出発。セナの行く先は前途洋々!?※R18描写なし

 ふわ、と熱く濡れた感触が裸の胸元からしてセナは薄く目を開けた。薄暗い部屋の中で、濡れた温かい布がセナの胸から腹を拭っていく。ザーメンやら潮やら色々で汚れて乾いたりまだ乾いてなかったりするあれそれが拭い取られ、スゥっと水分の乾く冷たい感触が走った。 「あ、セナ起きた?」 「ルーシャさん……?」 「いいのよ寝てて」  手際よく服を着せかけられ、シーツを剥ぎ取ったベッドの中に押し込まれる。その間、セナは重怠い体でされるがままだ。ザーメンから魔力を取り込んだとしても、物理的な運動で疲労した体がすぐさま回復するわけではない。それでも一晩程度で回復するところを見れば、驚異的な速さだろう。 「やりすぎちゃったかしら」  隣に潜り込んできたルーシャは、恐ろしい回復力で何度も射精した。おかげで魔力はだいぶもらったが、出されれば終わると思っていたセナはほとんど休憩なしでひっきりなしに責め立てられる。火が付いたら止まらないと彼が自身で言っていたのはこういう意味か、とセナは揺さぶられ快感に翻弄されながら思った。 「セナ、何でこんな痩せてんの?そんなに貧乏だった?」  なぜ、と問われても、飯より仕事だったからとしか言えない。昼休みを返上して仕事を続けていたセナは、最初こそ片手で食べられるおにぎりやサンドイッチで凌いでいたものの、異世界転移する直前にはゼリー飲料を昼飯代わりにしていた。朝は食べないし、夜は適当に買ったコンビニ弁当をかき込んで眠るだけ。デスクワークのために筋肉もつかないし、完全に不摂生が原因の痩身だった。 「会社、商会みたいなところで働いてたんですけど、何か上司に目を付けられてたみたいで、色んな仕事振られちゃってだんだん食べる時間も寝る時間もなくなってきてた感じですかねえ」 「は?何で怒んないのそれ」 「毎日毎日、お前は仕事ができない、他の人間は同じ量のもっと責任のある仕事をやってる、会社に迷惑をかけるな、なんて言われ続けて、麻痺してたんですよ。事実、俺はあんまり仕事もできる方じゃなかったので」 「だけど、」 「まあ、それを差し引いたとしても上司は端的に言ってクソで、死んだほうがマシってぐらいの目に遭わせてやりたいんですけど」  目を見開いて固まったルーシャに、セナは首を傾げる。さっきまで一緒に怒ってくれていたはずの彼は、何かたいそう驚いているようだった。 「ルーシャさん?」 「……いや、セナも誰かを悪く言うことがあるのねって、ちょっと驚いちゃった」 「そりゃあありますよ。俺は別に善人じゃないので」 「なら今目の前にソイツが現れたらどうする?復讐する?」  ルーシャは試すような眼をしていた。問われた意味を考えながら、セナは考える。  今この世界にあの上司が現れたら?上司も自分と同じ異世界転生者のスキルを持って、色々なものから突然引き離されて転移してきた。右も左も分からない状態で、放っておけば死ぬ可能性を持って。 「いやあ、しませんね」 「アラそう?」  驚いたように言うが、表情はセナの答えを予想していたとでも言わんばかりだった。こういうところが散々甘いだの警戒心が足りないだの思われている要因かもしれないと薄っすら思う。 「関わりたくないというか、関わってる時間が惜しいというか……。一緒にいなきゃいけないわけでもないですし、向こうは向こうで好きにやってもらえればいいかなと。あの人が困って助けを求めてくれば、別ですけど」  あの上司がこの世界に来て行動を共にしていたら、何かと働かされるのが目に見えている。同じ会社に所属しているわけでもないし、正直な所上司に対して恩義は何も感じない。ならば、お互い離れている方が得策だろう。少なくともセナにとっては、この世界の粗雑な冒険者より余程関わり合いになりたくない人間だ。 「そうなの?やっぱり善人じゃない」 「この世界に来て、よく食べてよく寝て心に余裕があるからです。後は、皆さんが良くしてくれるので」  困っている人を自分から助けようなどと、前の世界では思いもしなかった。自分の事で精一杯で、周囲の誰もが自分の利益だけを見据えて動いていたように思う。けれどこの世界では、正体不明の自分を保護し助けてくれる。ギルドに届けて放っておけばいい立場であるはずのクロエネダのメンバーも、何だかんだと面倒を見てくれた。 「それはスキルがあるからでしょ」 「それでも、俺がこの世界で生きて行けるように配慮してくれるのは非常にありがたいです」 「見返りがあるからなのに?」 「……思うんですけど、俺あんまり返せてないと思うんですよね」 「返せてないって思ってるところがもう駄目ね」  ため息をつくルーシャは、それでもセナを突き放すことはない。ルーシャが気付いているかどうかは知らないが、彼はいつだってグロウがセナを害することを心配していた。そういうところが、この世界に来て関わった人全員に大なり小なりあって、それはセナの疲弊した心にいつの間にか染み込んでいた。 「でもまあそんなわけなので、俺はむしろこの世界に来て良かったと思ってます。家族と会えないのは寂しいですけど、……あんな生活に戻りたいとは思えないですし」 「そう」 「でも最近は良く寝てよく食べるので肉がついてきた方なんですよ?クエストに出るので、筋肉も少しだけですけど」 「だから肋骨浮いてんのよアンタ。後ろから突いたら骨が当たるし」 「…………」  身も蓋もない事を言われて、セナは自分の服を捲った。確かに、いまだ腹はへこんでいるし骨は浮いている。だが鍛えていない男などこんなものではないかとも思った。 「みんなこんなもんじゃ、」 「ないわよ。冒険者ならともかく、街中の若い男だってもうちょっと筋肉も脂肪もあるわよ」 「…………」 「鍛えなさいね。ギルド本部までは割と遠いから。途中でへばったって、アタシは面倒見ないわよ」 「はい……え?」  既にルーシャは目を閉じていたが、咄嗟に上げた声に反応して片目だけ開く。セナの顔を見て、口の端を持ち上げて笑った。 「なぁにその顔。嫌ならいいのよぉ」 「え、いや、そんな、あの」 「はいはい。ちゃんとね、明日みんなには説明するから。もう寝ましょ」  子供にするように胸元を叩かれ、セナは上げかけた頭を枕に落として目を閉じる。そういう所だぞ、と思っているのはセナだけではなかったが、口に出す前に眠りに落ちてしまった。 「あれ?」  クロエネダのメンバーに説明しに行くからと朝早く起きたルーシャを見送りに出たセナは、玄関の側でまだ寝ているグロウの植木鉢に何か貼られているのに気付いた。掌ぐらいの細長い紙で、黒い文字と魔法陣が書かれている。魔法陣が薄赤く発光している所を見ると、何か魔法効果が発動しているようだった。 「何だコレ」 「あぁ、忘れてた。ってもう剝がれかけてるじゃないの」 「何なんですかそれ」 「魔物封じの札よ」  その紙が半分ほど剥がれている上に薄赤い光も消えかけているのを見たルーシャが、舌打ちまりにその紙を剥がして丸めた。 「動けなくなるだけで他に悪影響はないわ。最も?魔人の方が魔力量は上だから、グロウが起きて動こうと思ったらこの札はあっさり剥がれてたでしょうね」  彼の言い分によれば、グロウは一晩中起きなかったという事だ。酔っぱらって一晩中眠りこけるのは魔人としての警戒心をどこかに忘れてきたのではないかと不安にもなるが、ルーシャが肩を竦めて言った一言にセナは苦情を飲み込んだ。 「アタシだって、盛ってるとこ後ろから襲われるなんて間抜けなことされたくないのよ」  セナに対する独占欲がグロウにあるかどうかはまだ不明だが、寝室へ乗り込んでくる可能性は十分にあった。セナに覆いかぶさるルーシャを見た時に、グロウがどういう反応を示すかはセナにもわからない。そうなれば、危険を避ける予防策として動きを封じるというのも頷けた。 「じゃ、アタシは行くわね。また後で」 「はい」  ルーシャを見送ってから、セナは荷造りを始めることにした。大体の荷物はこの間買った遠出用の物の封を開けて詰め直すだけで、割と簡単に終わる。着替えや野宿用の用品など、シルビオやクロエネダがユレネの洞窟で使っていた物を思い出しながら調達した。 「んん……セナ?」  荷造りが半分ほど終わった辺りで、グロウがもぞもぞと動き出した。目が覚めたらしく、口を大きく開けて欠伸をしている。ギザギザの鋭い歯が露になって、舌のようなピンク色の触手が何本も粘液を纏いながら口の中で蠢いていた。 「おはよう、グロウ。気分悪くないか?昨日たくさん飲んでたけど」 「うん。平気。何してるの?」 「出かける準備。しばらくは帰ってこないから、色々必要だろ」  ゼガイから家はしばらくこのままにしておくと言われたから、持って行くのは旅に必要な物だけだ。それでも荷造りを終えた頃には、購入していた革の背負いカバンはいっぱいになった。  ミルラから教えてもらった話では、国境の村デジャまでは馬車で2日間かかると聞いている。最低でも一晩は何もない場所で野宿をする必要があるだろう。ホテルや宿のように、何の設備もない所で寝ることになる。  ユレネの洞窟では、セナは依頼されてついていった扱いだ。必要な物資は全てクロエネダが用意してくれた。これはセナだからという訳でなく、サポートメンバー、ゲストメンバーという名称で広く知られた事だった。低ランクパーティーが高ランク冒険者を連れてランク上げのクエストに出たり、ケガや病気、あるいは突然パーティーを抜けたメンバーを急遽募集してパーティーメンバーとしてクエストに挑戦することがある。その際、必要な物資はパーティーの方が用意することが通例となる。  だが今回は違う。必要な物は全て自分で用意し、持って行くことが必須だ。購入した革の背負いカバンは荷物でいっぱいになった。滑車付きの荷台はかろうじて使う必要はなかったが、幸いにも折り畳める物であったためこれも背負いカバンにくくりつけて持って行くつもりだ。 「セナ、もう行く?」 「いや、まだだよ。昨日のクロエネダのみんなと一緒に行くことになったから」  グロウはふうん、と気のない返事をしただけだった。特に何かを思うような表情ではなかったし、不満を持ったような感じもない。  好きだから交尾をする、とは言っていたが、それもグロウが見かけた人間がそうしていたことから学んだだけで、本来の魔人の生態としては恋愛感情や独占欲みたいなものはないのかもしれない。 「準備が出来たらみんなと一緒に出発だからね」 「ロコも来る?」 「来るよ。って、名前覚えたんだな」 「うん。昨日たくさん食べさせてくれた」 「あぁ……それで」  ロコはそんなつもりなかっただろうが、餌付けが成功しているようだ。半ば楽しそうにグロウへ食べ物を差し出していたロコを思い出す。ロコはセナのスキルに対して感じる知的好奇心と同じものを、グロウに感じて接しているのだろう。 「しばらく一緒に行動するから、グロウはお行儀良くしろよ」 「おぎょうぎ?」 「そう。いい子にしなさいってこと」 「わかった」  神妙な顔をして頷くから、グロウの頭の木を撫でてやる。ぽぽ…と咲く花を突いて、セナは頬を緩めた。  結局出発の日はそれから数日後の事となった。クロエネダの出発準備もそうだが、馬車の出発のタイミングが合わなかったせいだ。おかげでクロエネダのメンバーと相談し万全の旅準備ができたため、ある意味でセナは助かった。彼らに軽い気持ちで聞いてみた所、足りないものが多すぎたからだ。  そんなわけで出発の日、彼らは乗合馬車の集合場所へ行く前に冒険者ギルドへ向かった。冒険者の移動に関して、特にギルドへ報告の義務はないがミルラが来るようにと言っていたことと、セナのガイドであるゼガイに挨拶をしたかったからだ。 「おはようございます、セナさん」 「おはよう、ございます?ミルラさん」  冒険者ギルドへ入ったセナは、受付の前にいるミルラを見て驚いた。彼の方は、笑顔でこちらに手を振っている。  長い髪をポニーテールにまとめたミルラは、珍しくパンツスタイルだった。とはいえ、大きめのフリルのついた襟と姫袖の白いブラウスに、ダークグリーンのジレと同色の細身のパンツを履いている。ぴったりフィットしたジレとパンツが、体のラインを際立たせている。細身でそれほど筋肉の目立たないミルラは、中性的な雰囲気が増していた。  問題は、彼のすぐそばに置かれたトランク型のカバンだ。明らかに、旅準備である。 「ミルラさんも、どこかへ?」 「ええ。私もセナさんと一緒にギルド本部へ」 「は!?」  大きな声を出したのはセナに同行していたウィルだった。セナも同感ではあったが、笑みを深くしたミルラに腕を絡められてそれ以上は声が出なかった。ぎち、と絡みつく腕の力は強く、振りほどけそうにない。 「異世界転移者の資料の中に返却必須の物もありますし、セナさんも長旅では不安でしょう?」 「俺らがいるから大丈夫だって」 「あら、クロエネダはケイロンへ行くと思ってたんですけど」  数瞬、見つめ合うウィルとミルラの間に何か走ったような気がしたが、近寄ってきたゼガイが話しかけてきたためセナの意識はそれた。 「セナ」 「あ、ゼガイさん。いろいろありがとうございました。今から出発しようと思います」 「ああ。何かあればいつでも帰ってこい」 「何から何まで本当にお世話になりました」  励ますように肩を叩かれ、セナは深く頭を下げる。身元不明のセナがほとんど不自由もなく過ごせたのは、ある程度自分の裁量で色々なものが融通できるゼガイの力が大きい。良く分からないFランク冒険者がいきなりCランクになり、魔人をテイムした後も他の冒険者から横やりが入らなかったのもきっと裏でゼガイやミルラが動いたからだ。 「セナさん、そろそろ」 「あ、はい。じゃあゼガイさん、また」 「ああ。ミルラ、頼んだぞ」 「ええ、もちろん」  ゼガイに応えたミルラに引きずられるようにしてギルドを出るセナは、最後までウィルとミルラが睨み合っていたのには気付かなかった。  途中、ウィルのマジックボックスに荷物を入れてもらい手ぶらとなったセナはグロウを抱えて、乗合馬車の集合場所へ向かった。街の入り口のすぐそばにある集合場所には、すでに数台の馬車が止まっている。この中にデジャ村へ向かう馬車も、ユレネの洞窟へ向かう馬車もあるのだ。 「デジャ村へ行かれる方ですよね?こちらにギルドカードの確認を」  青い布製の幌が付いた大きめの馬車が、デジャ村行きの馬車になるらしい。御者の隣に立っていた男に促されて、セナはカバンからギルドカードを取り出す。男はセナに続いてクロエネダのギルドカードも確認し、最後にミルラを見てえ、と声を上げた。 「ミルラさん、またお出かけですか」 「ええ。ギルド本部へ」 「ああ。……はい、確認しました。ではこちらの馬車へどうぞ」  簡易的な階段を上って馬車に乗り込む。床は板張りで、左右の端に木のベンチが備え付けられている。二人ほど先に乗り込んでいる人間がいて、彼らの荷物が隅に固めて置かれていた。他の馬車に比べて大きいが、それでもセナとミルラ、クロエネダの6人が乗り込むと荷物のせいもあって割と窮屈になる。幌は御者の座る前方と、セナ達が乗り込んだ後方が開けていてそこから景色が見られるようになっていた。 「では出発します」  パシン、という馬の尻に鞭を入れる音がして、馬車はゆっくりと動き出した。相変わらず揺れの酷い馬車ではあるが、歩くよりは断然楽で速い。  ベンチの一番端に座ったセナからは、馬車の後方の景色が良く見えた。見慣れたユレネの街中から、壁門を潜り抜けて初級のクエストで駆け回った草原に景色が変わる。舗装された道から砂利道に出たせいで揺れがひどくなり、慌ててベンチにしがみついて体を支えたセナはそれでも遠くなっていくユレネの街を眺めていた。 「不安ですか?」 「あー、いや」  ふいに隣に座るミルラから話しかけられ、セナは少し考える。不安、とは少し違う、どちらかと言えば前向きな感情だ。デジャ村のあるユンイン国では米も手に入りそうだし、ギルド本部へ辿り着ければスキルの知識も入るだろう。それは、セナが以前の世界ではとうに放り出してしまった期待という感情だ。 「多分、楽しみなんだと思います」 「……そうですか、それは良いですね。新しい場所を楽しみに思うのは、冒険者として素質アリです」 「ふふ、そうですね」  前途洋々、そんな言葉が脳裏を掠めて、自分に当てはまる時が来るなど思いもしなかったなあと笑みが零れた。

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