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藤田と新田
「ちょっ、新田ー!知ってる?藤田、今好きな人がいんだってよ!」
藤田、その名前を聞くと少しだけ僕の心拍数はあがる
背が高くて明るくて、顔も整っている野球部の藤田
どうやら彼は最近告白された女子を振るさいに好きな人がいる、と明言したらしい
「羨ましいよな〜!藤田なら誰とでも付き合えるだろうな〜」
実際藤田は学年1人気があり、男子生徒たちは常に彼を羨ましがっていた
しかし、僕が知る限りでは彼は彼女をつくったことはなかった
今までにも告白はされていたようだったが、誰かと交際を始めでもすれば、今回のように学年中の話題になっていただろう
「てかさ〜このお前の隣の席って藤田だよな?こっそり誰が好きなのか聞いといてくれよー!藤田の好きなやつマナちゃんだったらへこむわ〜」
そう、その話題の男は自分と隣の席なのである
ラッキーな事に僕の席は廊下側端の最後列
その隣が藤田だった
それ故にいつ戻ってくるか知れない藤田の話をするのは少し背徳感とスリルがあった
聞かれたからといって藤田は気にも留めないだろうが
ともあれ友人に頼まれた、という大義名分ができ藤田との話ができる事に喜びを感じているのは事実である
様々な思考の元今まで自分から話かけはしなかったが、勇気を出してみる事にした
藤田と少しずつ話をしてみてから数日がたった
いまだに彼の意中の女子を特定することに成功していない
様々な噂はあれど、本人は聞かれても答えないらしい
彼は授業開始のチャイムがなり終わる頃に席に着いた
無意識に彼に意識がいく
話し始めてからやはり彼は愛想が良く男前であることを再認識した
今日も少し話してみることにする
「暑いな」
「ほんとだよな!ここってクーラー効きにくいよな」
「最近は授業中でも起きてるんだな」
「あはは、前までは寝てたんだけどな!最近は起きてる!てゆーか前寝てたのバレてたのか!はずかしっ」
「藤田ってまだ例の人が好きなのか?」
「…え?」
気さくでころころ表情の変わる藤田の顔がこわばった
テンポ良く話せていたので調子に乗っていたがやはりまずかったか
「なに...その例の人って?」
「あ、いや、噂になってたから…好きな人がいるって」
「…」
「気にしないでくれ、それよりこの先生さ、」
「気になる?」
「…えっ?」
触れて欲しくない話なのかと焦り変えようとした話題を本人によって戻される
「気になるなら新田には教えてやってもいいけど」
新田には…となんだか気に入られているような言葉遣いにすこし口元が緩まるが、気まぐれであろう彼の言葉に操られるのがすこし悔しく感じた
さらにいつもの優しい口調ではなく少し上からな言葉遣いに戸惑う
「え、あ…いいのか?」
「新田になら、いいよ」
僕だけ特別なのかと錯覚する言い方に嬉しさを隠せない
しかし自分の弱みを晒すというのに彼の、自分の方が優位である、といった口調が混乱させる
彼はいったいどういう心境なのだろうか
「え、じゃあ教えてもらっても…」
「おーい!全体的に騒がしいぞ!今から書くとこテストに出るからな!しっかりノートにメモしとけよ!」
空気が変わりみんなが一斉に黒板に集中する
「にった」
「え」
名前を呼ばれながらぐっと腕をひかれた
静まり返り先生含め全員の視線が黒板に向いた、一瞬だった
それは僕の心拍数を今までにないほどあげるのには十分な出来事であり、顔中に血が巡った
気付いた時には「テストに出る」と黒板に書かれたはずの文字が綺麗に消されたあとだった
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