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第1話
「もう別れよう亮輔」
一瞬京が何を言っているのか分からなかった。
俺と京は一緒に暮らしてニ年になる。
男同士の恋愛、ばれないように過ごしてきた。
俺は最近同僚から紹介された人と会った。
彼女はいないことになっている俺に「なんでお前みたいなルックスして彼女いないの?」といちいち探りを入れられるのが面倒だったので一度だけ会うことにした。
半ば強引にセッティングされた飲み会。
もちろん形だけで付き合うつもりはなかった。けど彼女と会ってみると話しも価値観も合う美人だった。
俺には恋人の京がいる
彼女にはもう会わないことを伝えようと思った。
それを聞いた京に言われた。
「もう別れよう亮輔」
俺は京に心配させないように話しただけだった。
「俺出ていくから」
「…何言ってんだよ…なんでだよ別れたくない」
俺の声は震えていた。
「無理するなよ。俺はもう亮輔を解放してやる。その人のとこにいっていいよもともと亮輔はノンケだし俺がこっちに引きずりこんだから」
「俺は京が好きだ」
京とは会社の同期だった。
京は女にモテるタイプではなく比較的地味で社交的な性格ではない。一人でいることが多かった。
でも唯一俺とは話してくれて心を開いてくれていた。
俺にだけ向けてくれる笑顔がかわいいと思っていた。
京がゲイだと社内で噂が広がった。
俺は動揺した。
会社で京が仲良くしてるのは俺だけだから自分もそうじゃないかと周りに思われるのかと不安だった。
俺は京のことより自分のことが心配だった。
俺は最低だ。
京は辞表を出した。
それから自分の中にあった罪悪感もあり京の笑顔が頭から離れなかった。
京が会社を辞める日、告白された。
俺と京は付き合いはじめた。
周りには絶対ばれないように細心の注意を払った。
誰にも知られてはいけないと思っていたけど、俺は次第に深く京のことを好きになりずっと一緒にいたかったから二人で暮らすようになった。
俺達は上手くいっていた。
なのに、なんで一度彼女と会っただけで別れると言うのか
「京好きだ」
俺は京にしがみついてキスをした。
無我夢中だった。
「亮輔からキスしてくれるの初めてだよな」
悲痛な表情をする京に俺は何も言えなかった。
このニ年
京は溢れるほどの愛情を俺に与えてくれたのに
俺はできなかった。
嬉しいことも辛いことも寂しいことも京はちゃんと伝えてくれたのに俺は伝えてこなかった。
何も言わなくて分かってくれる。そんな風に思っていた。
いつも周囲を気にしていた俺
こんなちっぽけな俺を京は全力で愛してくれた。
京をここまで追い詰めたのは自分だ。
俺は初めて自分の罪の重さを自覚した。
「荷物はまた取りにくるから」
そう言って京は家を出た。
俺の頭の中は真っ白で今、夢の中にいるかのようにこの状況が現実なのか分からなかった。
京と別れる
別れることは、身体の一部がなくなるくらい
痛い
痛い
痛い
こんなにもこんなにも痛い。隣りにいて笑ってくれていた大好きな京がいなくなる。
玄関の閉まる音がして
俺は京を追って外に飛び出した。
「京!!」
京は振り返らなかった。
真っ直ぐに歩いていく京を追いかけて抱きしめたかった。
だけど
周囲の視線
結局俺は、それを振り切ることはできない。
[newpage]
亮輔と別れて半年俺は仕事に打ち込んでいた。
前の会社では周りとコミュニケーションをあまりとらなかったが、俺は変わった。
周りと無難なく会話をして同僚と飲みにいくことも増えた。
眼鏡からコンタクトに変え少しは性格も明るくなったと自分では思っている。
俺は変わらず亮輔が好きだ。
きっと誰よりも亮輔を想っているのは俺だという自信はある。
毎日夜寝る前に考えるのは亮輔のこと。
亮輔の不機嫌な顔
眠そうな顔
寂しそうな顔
でもやっぱり笑った顔を思い浮かべて眠る。
亮輔は夢の中で俺に優しく笑いかけてくれる。
俺を抱きしめてくれる。
一緒に暮らしていても抱きしめたりキス以上のことはしたことはなかった。
プラトニックな関係だったけど、幸せだった。
もうすぐクリスマスか、去年のクリスマス二人で過ごした時いい雰囲気になって俺からキスをしたっけ。
いつもより激しめのキスになりはじめて亮輔が興奮してきて押し倒された。
服に手を入れ俺の胸を触った瞬間亮輔が我に返った。
「ごめん」と謝る亮輔。
俺は逆に申し訳なかった。亮輔は二年もしていない。
浮気をするような奴じゃないから他で発散することはない。あんなにモテる奴なのに俺と付き合ってる限りセックスもできないし結婚もできない。
亮輔は周りの目を気にしていることを俺に申し訳なく思っていたけど俺はそんなこと気にしていなかった。
ただ、亮輔を縛りつけていることが苦しかった。
俺は今身体だけの関係の人がいる。
亮輔と別れたあと体調を悪くした俺は病院に行った時に診察してくれた医師の市川さん。偶然カフェで会って声をかけられた。
最初は患者に外で声かけるって変わった医者だと思ってたけど。彼もゲイで、俺を口説いてきた。
なんで俺?と思ったけど別れて寂しかったこともあって俺は市川さんに身を任せた。
それから誘われるがまま関係を続けている。
お互い特になんの感情もない関係は空虚だったけど俺はそれでよかった。
「京くんクリスマスどうする?」
「クリスマスは平日だから普通に過ごします」
「家に行っていい?」
「え…でも」
「京くんの家で二人で過ごしたい」
俺は強引に押し切られて市川さんが家に来ることになった。
仕事帰りに待ち合わせた。
クリスマスイブで普段より人が多い。
イルミネーションが輝く通りは川のように絶えず人が流れていく。
空からは雪が降ってきた。
「雪だ…」
今、一緒にいるのが亮輔だったら。二人ではしゃいだかな。
亮輔は今頃彼女と過ごしてるだろうな。
暗い夜空から降る白い雪
きれいだな。
こんな綺麗な雪は、俺には似合わない。
男の分際で求めてしまった。
好きな男と結ばれるささやかな幸せ。
白く淡い雪の光の先、人波の中から
見知ったシルエットが俺の方を見ていた。
亮輔…
驚いて声も出なかった
亮輔は俺達に近づいた。
「京、知ってるのか?その男結婚してるの」
え?
「何?君」
「京お前騙されてるんだよ」
「ちょ、ちょっと亮輔なんだよ?」
「これ以上京に近づくと家族や病院に知らせるからな」
「いきなり現れて中言ってんの亮輔。市川さんに失礼だろ」
「君は京くんの恋人?」
「いや、違う」
「違うの?なんの権利があってそんなこと言うんだ」
「…」
「好きだから京が」
「え?」
「好きなんだよ!!」
周りの人が一斉にこっちを見る。
市川さんはすぐにその場から離れていった。
「ごめんこんなことして。俺、やっぱり京じゃなきゃだめだ。俺、ずっと京と一緒にいたい」
「…亮輔…みんな見てる」
「京、このまま行って。ごめんなこんなとこで場所も考えずに」
俺は大注目の視線に耐えられずその場を離れた。
一歩
二歩
三歩
あの時の別れを思いだした。
あの時
「京!!」
と叫んだ亮輔を俺は振り返ることができなかった。
振り返っていても俺と亮輔の距離は一生縮まらないと思っていたから。
だけど、今はどうだろうか
亮輔は
今
俺のことを
雪が降りしきる中、佇んでいる亮輔に抱きついた。
亮輔は驚いて固まっていた。
周りから拍手がおこり
おめでとう!
という声が聞こえた。
亮輔は、ぎゅっと俺の背中に手を回して強く抱きしめた。
「京…全部っ全部っ好きだから。この先もずっと俺、もう逃げないから」
亮輔の俺への気持ちが溢れてきて胸がいっぱいになる。
「亮輔ありがとう」
クリスマスって自分のような人間には無縁だと思ってた。
街を歩くカップルや家族が幸せそうで。
キラキラしたイルミネーションは眩し過ぎた。
俺だって幸せになっていいんだよな
好きな人と
ーーーその夜俺達は初めて結ばれた
[newpage]
部屋の中に明るい光が差し込んできている。
カーテンの隙間から射す朝の光
次の朝、隣で眠る亮輔の顔を眺めて幸せが込み上げてきた。
と同時に昨夜のことを思い出して身体がまた熱くなりそうだった。
すごかった
ほんとに亮輔?
身体が痛い…
俺がこれまでぐるぐる悩んでたのはなんだったのだろう。
あんな亮輔を知ってしまったらもう亮輔の顔がまともに見られない。
「京、何考えてんの?」
いつのまにか起きていた亮輔は俺を優しく見つめていた。
昨夜興奮しきった目で俺を見ていた亮輔の顔を思い出す。
「ごめん俺止まんなくて」
「もうやめろって言ったのに」
「京がかわいくて」
「かわいくないから」
「もっと早くこうしてればよかった。京のこと付き合ってた時からずっと欲しくてたまらなかったから」
「二年暮らしてたのに全然わかんなかった。亮輔はノンケだから男の身体とか…生理的に無理かと思ってた」
「俺、京としたら多分豹変するから京に怖い思いさせられないって思ってた。それにプラトニックでも一緒にいるだけで幸せだったから。でも、京があの男とホテル入るの見て悔しくて堪らなくて徹底的に調べた。京が騙されてるんじゃないかって。あいつ、京に言ってなかっんだろ結婚してるって騙されて付き合ってたんだろ?」
「結婚してたのは知らなかったけど別に付き合ってないよ?」
「え?付き合ってないのにしてたってこと?」
「うん…寂しかったから」
亮輔は俺のこと誤解してるところがあるから、俺のこと幻滅するかもしれない。
「じゃあいつのこと好きじゃなかったの?」
「好きじゃないよ」
「なんか、複雑…。京が傷ついてないのは安心したけどあのエロ親父と気持ちいいことだけしたんだ?」
なんだか変な雰囲気になってきたような
「知ってると思うけど俺、器小さいんだよね」
そう言うと亮輔は俺の手を掴みベッドに押し倒した。
背中に柔らかな布団の感触、目の前には昨夜のような獰猛な野獣のような目をした亮輔の顔と天井。
「京、もいっかいするね」
「えっ、でも夜も沢山。それに俺シャワー浴びたい…」
「だーめ」
首筋に噛みつく、薄い皮膚に焼けつくような痛みを感じた。
「愛してるよ、京」
消えてしまったと思っていた想いに
また触れることができた。
神様感謝します
もう手放さないから
亮輔、ずっとずっと死ぬまで一緒にいよう。
end
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