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第1話
あ、これは恋だ……。
少女漫画の様に、ただ落ちたハンカチを拾ってくれただけなのに、僕は恋をしてしまった。
「これ、落ちましたよ!」
後ろから声を掛けられ振り返る。
そこには、スラリとした長身。色素の薄い長めの前髪をサイドに流して形の良いおでこが覗いている。瞳は同じく色素の薄い綺麗なブラウン。薄めの形の良い唇。日本人離れした美形が爽やかな笑顔でこちらを見つめていた。
「椎名 優希 くん。これ君のだよね?」
ボーッと彼を見つめていたら突然フルネームを言い当てられビックリして、彼の手元を見る。
「え、あ!はい、そのハンカチは間違いなく僕のです!」
「なんで敬語。俺の事誰か分かってない?」
クスクス笑いながら僕の顔を覗き込む。
こんな美形の知り合いなんて居ないはずだけど……。
そう思いながら整った顔をジッと見つめる。
んーー?でもこの色素の薄さは見覚えが…。あ、目尻にホクロ。この小さくて見えるか見えないかのホクロも見覚えが……
途端、引っ張り出される記憶。
あーーーーー!!結城 聖也 くん?!」
思わず大きな声を上げてしまう。
「そうだよ。久しぶりだね」
「うわぁ!久しぶり!!高校受験からお互い忙しくなって連絡取らなくなっちゃったよね。クラスも3年生の時は離れちゃったしね
……」
本当は何度も連絡を取ろうとしてた。でも口実が見つからなくて……そうしてタイミングを逃すとドンドン連絡取れなくなってそのままになってしまった。
「今もそういう可愛い物が好きなんだね。変わってなくて嬉しくなる」
結城くんが僕の手の中のハンカチを指差して言う。
ハンカチにはボールの様にまん丸なシマエナガが一面に描かれていた。
ギャー!!恥ずかしい〜!!
慌ててハンカチをポケットに押し込む。
「今度優希が好きそうなの持ってるからあげるね。そういう可愛い絵柄を見ると優希の事思い出すんだよね」
まだ恥ずかしさを引きずってしまうが、僕の事を覚えてくれていた事が素直に嬉しい。
「髪と目が嫌だって言ってたけど、もう気にしなくなったんだね」
結城くんは母方の家系に海外の血が入っているそうで、色素が薄く、それでいじめられていたらしい。
僕と出会った時はメガネと長い前髪で顔を隠しており、目立つ事を極力避けていた。
僕は目立つ事を避けていた訳ではないけど、友達が少なく、インドアで常に教室に居たから、陰キャ扱いされ「Wユウキ」と、ニコイチで括られる事が多く何をするにもペアになっていた。……懐かしい。
「うん、もう気にならなくなったかな」
「その方が良いよ。僕は結城くんの髪と目の色が綺麗で好きだよ。太陽に当たるとキラキラ光るんだ」
今も日差しを浴びてキラキラ光っている髪を綺麗だなと思いながら見上げて言う。
「……実はメガネを外して前髪を上げたのは今日が初めてなんだ」
「そうなの?メガネは伊達メガネって言ってたね!今のが絶対良いよ!カッコイイよ!モテるよ!絶対!!」
「優希に言われると自信になるな。優希からも俺はモテる?」
「モテるモテる!こんな美形に知り合い居たかなって考えたもん!」
「じゃあ、デートに誘っても?」
「へ?デート?」
ポカンとしてたらキュッと手を握られた。
「ごめん、ハンカチ落とす前からずっと後ろ付いて歩いてた。高校違うけど同じ電車なんだ」
「え!?そうなの?!知らなかった!」
「なんかさ、一回離れるとどう戻ったら良いのか分からなくて……。しかも離れてる間に優希への気持ちが分かったと言うか……」
「分かる!!僕も連絡しようと思ったけどなかなか出来なくて……!!じゃあ、明日電車で会えたら一緒に行く?」
後半の言葉に被せる様に言ってしまった。結城くんが僕と同じ様に連絡取るタイミングを逃していた事を知り嬉しかったから。
僕の勢いに気押された様に一瞬沈黙したけど、フッと優しい笑顔になり
「うん、駅で待ってる」
と嬉しそうに言ってくれた。
突然の再会に驚いたけど、とても気持ちがふわふわ温かい。
何度も容姿が変わった結城くんを思い出してしまう。
握られた僕より大きな手の感触も……。
ドキドキが止まらない……。
元々一緒に居て居心地が良い関係だったけど、それに緊張感と言うか、ずっと捕まえておきたい衝動と言うか、離れたくない気持ちというか、今までにない感情がプラスされた気分。
こ、これが恋なのでは……?
だけども、生まれて一度も恋をした事が無い僕には刺激が強くて持て余してしまう。
明日から電車であの爽やかイケメンの結城くんと一緒に学校行くってか?!簡単に決めちゃったけど、凄い緊張するゾ!!
初めての恋の道。
フラフラ歩いている僕の後ろ姿を見送っている一つの影。
サイドに流していた前髪をクシャクシャと元に戻し、ポケットから伊達メガネを取り出して掛ける。
「俺の目が綺麗と言ってくれるのは優希だけで良いよ。ハンカチを落としてくれてありがとう。神に感謝だ」
お互いようやく一歩踏み出したばかりの恋。
終わりなき旅が始まろうとしていた。
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