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第29話 ・・・〈 side一ケ瀬家・執事 〉
一ケ瀬家筆頭執事の門脇と申します。
「門脇、すまないが明日、大和の様子を見て来てくれないか」
一ケ瀬家のご長男で次期当主の雄大様にそう頼まれたのは、一月も十日ほどを過ぎた頃でございました。
「大和様……ですか」
「ああ。大和、今年の正月は来なかっただろう? 友達との約束があると言って。まあいい大人だし、たまには家族よりも優先する事があるのは別に構わないのだが……。それにしても全く連絡が無いのもどうかと思ってな。前に大和に会ったのは夏だ。で、昨日から電話してるんだが、繋がらない。聞いていた勤務時間は避けて、朝と夜。流石に気になってな。そんな訳で頼めないだろうか」
私は勿論、お引き受け致しました。次期当主様のお願いですし、私個人といたしましても、電話に出られないだけならともかく、着信履歴を見ても折り返してこない大和様が気になりましたから。
本当は雄大様自ら、会いに行きたいのでしょう。ですが、昨年、一ケ瀬家が経営する会社の社長に就任なされた今の雄大様に、その様なお時間はございません。一ケ瀬家現当主で先代社長で現会長になられた旦那様と、その秘書でもある奥様は揃って、次男の大智様が社長を務めるアメリカ支社に、年末から長期出張中ですから、雄大様はとにかくお忙しいのです。今現在は、休日すら満足に取れない状態でございます。ですので、雄大様の健康管理については、雄大様の奥様と使用人一同で苦慮しております。倒れられないか、と。ご本人様は、αの中でも私は特に丈夫に出来ているようでね、と笑っておられましたが。
私は翌朝、大和様のお住まいであるアパートを訪問しました。インターホンを押しても反応はなく、二度目を押して暫く待つも、応答はありません。腕時計を確認すれば午前九時過ぎ。既に出勤したのかと思い、大和様の勤務先のカフェに行った私は、オーナーだという男性から、大和様は『年末に仕事を辞めた』という事実を聞かされました。ただ、オーナーが言うには、辞表はまだ受理しておらず、休職扱いにしてくださっているとの事。私は事情を聞く事に致しました。
十二月の中頃から、大和様がよくミスをする様になったという事でした。ミスと言っても、新人時代なら誰もがする様な小さなもので、大和様は新人ではありませんが、周りのフォローでカバー出来たので、気にする程の事でもなかったようです。誰だって失敗くらいありますからね。そのうち、寝不足なのか目の下に隈を作って出勤してくる日が増え、それに比例する様に顔色も悪くなっていったそうです。
流石に見兼ねたオーナーが、暫く休んで静養した方が良いと提案したところ、辞表を出された、と。オーナーとしては大和様の調理師としての腕を買っており、体調が回復したら是非復帰してほしいと思っていた為、給料は出せないが復帰を願って休職扱いにしているそうです。
有り難い事です。
ですが、私は同時に胸騒ぎを覚えました。
慌てて大和様のアパートに引き返し、雄大様からお預かりした合鍵を使って室内に入った私が目にしたのは……。
日中だというのにカーテンは閉められており、薄暗い室内を大和様の名前を呼びながら歩きます。返事はございません。
そして……。
大和様は寝室にいらっしゃいました。ベッドの上に仰向けで寝ておられる様に見えました。周囲には空の水のペットボトル…でしょうか。散乱しております。入り口から呼びかけるも、返事がないどころか身動ぎすらなさらない。嫌な予感に私は大和様に駆け寄りました。大和様の口元に耳を近付けると、浅い呼吸ではありましたが息をしておられ、一先ずは安堵し、ですが危険な状態である事を察し、救急車を呼びました。
救急車が到着する前に一通り室内を確認してから雄大様に電話をし、私は救急車に同乗し、大和様は雄大様が指定された病院に搬送されました。
私は大和様の寝室のチェストの上に『メモ』を見つけました。
それにはこう書かれていました。
渚、会いたい——
渚、愛してる——
渚、αで……ごめんな——
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