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13 キーニの献身

 キーニはそれからも、ディーウィットの面倒を甲斐甲斐しく見続けてくれた。  キーニは「身体を治すまでディトの事情は聞かない。まずは治せ」と改めて宣言してきた。その為、ディーウィットはモヤモヤしながらも、体調を戻すことに専念せざるを得なくなる。  恐らくはキーニもその効果を狙って言ったのだろう。快活で聡明な男なのだろうな、というのがキーニに対する印象だ。  ディーウィットの身体は、自分で思う以上に弱っていた。上半身だけでも起こして自分で水分や食料を摂取しようとは思うものの、身体が一切言うことを聞かなかったのだ。結局はキーニに「いいから俺に任せろ」と何もかも口移しされる毎日を過ごしてしまう。  最初こそ抵抗があったものの、次第に慣れてきている自分が不思議でならなかった。キーニはこんな貧相な大人の男に四六時中口移しをして嫌ではないのかと尋ねてみたかった。だが実際口移ししてもらわねば水を飲むことすら叶わない今、「嫌に決まってる」などという言葉を聞くのが怖く、聞けていない。  しかし、できることなら早く自力で食べてほしいと思うのが普通だろう。そこで一度、硬さが残るものを食べてみた。ところが咀嚼する力がまだ弱く、そのまま喉に入り吐き戻してしまった。  以降、キーニがその頑丈な顎で咀嚼し柔くなった物のみを与えられるようになってしまっている。  正直なところ、恥ずかしくて仕方ない。だが、こうした献身的且つ幼子に対するような優しさを向けられたことがなかったからか、大事に扱われているのはこそばゆく、悪いものではないと思ってしまっている自分がいた。 「偉いぞ、沢山食べられたな」  ディーウィットが全て飲み込むと、キーニは必ず褒めながら頭を撫でてくれる。成人した大人の男が頭を撫でられて嬉しがるなど、気持ち悪いだろう。ディーウィットは必死で嬉しさが表に出ないよう抑えた。  このように、食事は恥ずかしくはあるものの、心が温まるものだった。だがそれ以外では、ディーウィットは己の尊厳とは何かを考える出来事に遭遇していた。  身体を清められるのは、キーニの手のひらと湯を使ってとなる。あらぬところまで素手で触れられるのだ。あまりの恥ずかしさに、清められている最中、終始両手で顔を覆って耐えることしかできなかった。  だがそれよりも一番の抵抗と衝撃は、排泄行為だった。  内臓が弱りすぎているのか、便意がなかったのは幸いだった。だがこれだけ水分を取らされていれば、尿意も出てくる。ディーウィットが意識を失っている時は、赤子にするようなおしめの布を巻いていたそうだ。だが、意識が戻れば己で訴えることができるようになる。その為、おしめは早々に取られてしまい、股間を隠す程度の細長い布を巻きつけただけのものに取り替えられてしまった。  キーニの説明によれば、これは部族の男性が履く下着なのだそうだ。尻の間に布が食い込み、心許なさが募る。祖国での男性用下着は腿丈のズボンの形をしていた為、大事な部分以外が剥き出しの状態はどうしても恥ずかしかった。  だがもう仕方ない。尿意に我慢できなくなり渋々告げると器を横に置かれ、あろうことか男の大事な部分をキーニの手により下着から出され、そのまま持たれる。「出していいぞ」と言われ、見守られながら排尿するのだ。あまりに倒錯的な図に、ディーウィットの情緒はどうにかなってしまいそうだった。  こうした献身的な看病のお陰で、数日で上体を起こせるまでに回復していく。これでようやく口移しから卒業できると喜んだが、キーニは口移しこそやめたものの、手ずから飲食させることはやめてくれなかった。  身体を起こしているだけで、すぐに疲れて寝てしまう。一進一退の日々を繰り返している内に、それでも少しずつ起きていられる時間が増えてきた。  食事の量も徐々に増えてきたが、今度は排便がなく下腹部がぽっこりと膨れてしまった。すると空腹感が徐々に薄れ、一度は増えていた食事量が落ちてくる。  現状に不服なキーニが、腕組みをして難しそうな顔で唸った。 「なんとかして出すのを促さねばならない」  己の排便について大いに悩ませている事実にディーウィットは非常に複雑な心境だったが、恥ずかしがっている場合ではない。 「その、腹下しのようなものがあれば」  鮮やかな青い布に覆われたディーウィットの薄っぺらな腹部を、キーニが円を描くように撫でる。 「折角ここまで回復したんだ。腹下しの薬など飲んだら体力を消耗する。絶対駄目だ」  あまりに脂肪が少ないディーウィットは、温かい気候にも関わらずすぐに冷えてしまう。その為、今は女性用だという上半身から下半身まで覆い隠す大きな一枚の布を身体に巻き付けている。冷え込む夜の添い寝は変わらずで、毎晩キーニの体温を感じていた。  このままこの部族の男の好意を受け続けたら、自分はどうなってしまうのか。キーニに対し甘えのような感情を抱きつつある自分の心境の変化を、ディーウィットは危惧していた。 ◇  それから暫しの後、「待っていてくれ」と小屋の外に出ていたキーニが、木彫りの器を手にして戻ってきた。  ディーウィットが身体を起こすと、キーニがニカッと歯を見せて笑いかけてくる。 「便秘の子がいる母親に教わった方法を試すぞ」 「どんな方法ですか?」 「肛門に指を突っ込み刺激する。すると内臓が動き始めると聞いた」 「は……」  キーニが口にした衝撃の内容に、ディーウィットの思考が停止した。 「四つん這いになれるか?」  キーニに訊かれても、あまりの内容に頭の中が真っ白になってしまい、反応することができなかった。するとその様子を見て、動けないと勘違いしたのだろう。キーニは安心させるような笑みを浮かべるとディーウィットのこめかみを撫で、言った。 「分かった。では俺の胡座に乗せてやってみよう。心配することは何もないぞ」  キーニの言葉を脳が理解した瞬間、ディーウィットは悲鳴に近い声を上げる。 「ま、待って下さいキーニ! そんなことをキーニにさせる訳には……っ」  後ろに這い擦っていこうとしたディーウィットの脇の下を掴むと、キーニはあっさりと抱き上げ膝の上に乗せてしまった。 「下着は取ろう。すぐに出ることはないようだが、暫くすると腹の中がグルグル言い始めるらしい」 「ま、待って……っ」  精一杯の抵抗も虚しく、キーニは巻きついた服を捲し上げると、下着もするすると解いてしまったのだった。

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