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28 帝都へ

 キーニが購入した乗車券は、帝都とジュ・アルズを往復している、旅客も乗せる貨物船のものだった。  ジュ・アルズへの入港予定は三日後。そこから一日かけて積み荷を陸揚げし、空いた場所に今度は船積みしていく。積載量が一定数に達したところで旅客を乗船させ出港するのだが、積み荷が集まらないと波止場に停泊した状態が数日続くこともあるのだとか。  そんな訳で、本船入港までぽっかりと時間が空いてしまった。だが焦ったところで船は早くやってこない。 「折角だ。色々と見て回ろう」というキーニの提案に乗り、町や港を散策する穏やかな日々を過ごした。  その間、キーニと様々な話をした。打てば響くというのはこのことだろうか。キーニは見た目は森の戦士と呼ぶに相応しい原住民族の青年だったが、話せば話すほどその博識さと聡明さに驚かされるばかりだった。奇譚のない意見を交わせるキーニとの会話は楽しくて、やめられない。  そもそも帝国語を操れる時点で、港町周辺の部族出身ならともかく、こんなに流暢に喋れること自体が謎なのだ。  キーニ曰く「首長と次期首長は話せなければならないからな」ということだったが、だからといってこうも問題なく操るだろうか。相変わらずキーニは、色々と謎が多い。例の『ムウェ・ラデ』の意味についても再度訊いてみたが、「帝都に着いたら語ろう」と言うだけで、教えてくれなかった。  だが自身を顧みれば、ディーウィットとて、王家の恥とも言える事実はキーニ以外にはアルフォンスにすら語っていないのだ。人には人の事情があるのだと、それ以上尋ねることを控えるしかなかった。  それに知ったところで、キーニとの縁はあと少しで嫌でも切れてしまう。ならば最後まで不快な思いをさせずに穏やかに共に過ごしたいと思ってはいけないだろうか、と考えるようになっていた。  そして今日、二人は幾度目かの港を訪れていた。昨夜本船が入港したと聞き、出港予定を確認しにきた帰りである。今日は風も少なく波も穏やかだった為、キーニに誘われて波止場に並んで座り、海風を受けながら他愛もないお喋りに興じていた。 「成程……定期船は空きが生じることがあるのが欠点でもあったんですよね。貨物が溜まるまで待つのはいい考えです」  中には赤字が出ることもあったので、そこが悩みの種だったのだ。だが、キーニが返す。 「アーべラインの定期船の寄港は月に二便しかないのだろう? 青果などのなまものだと腐ることもある。待つのは得策とはいえないだろうな」 「なら本数を増やしてみたら?」 「全体の交易量が増えねば余計赤字が広がるだけだぞ」 「そうか、ですよねえ。ううん……」  ディーウィットが唸っていると、キーニが男臭い顔に苦笑を浮かべながらディーウィットの腰を掴んで引き寄せた。 「アーべラインの部下に最後に手紙を送り役立てて貰いたいと思っているのはディトらしいといえばらしいが、見知らぬ男のことばかりを考えているのは気に食わん」  キーニの言葉に、ディーウィットの顔がポッと赤くなる。 「な……っ、アルフォンスはそういった関係ではありませんからっ」 「こんな宝石を贈ってもらっておいてか?」  キーニが不服そうに、自身の胸元にある『夜の光石』の首飾りに触れる。 「そっ、そうです! 彼はデアーグに振り回され路頭に迷いそうだったところを拾い上げた僕に忠義をですね!」 「まあそういうことにしておこうか」 「キーニ! ですから……んっ」  視界が翳ったと思った次の瞬間、キーニに唇を奪われていた。キーニは下唇を軽く喰んだ後、少し意地悪そうな笑みを浮かべる。 「だが今は俺の物だ。誰にも渡さないぞ」 「キーニ……」  上がってしまった息を整えることで精一杯で、それ以上言い返すことができなかった。これはまさかアルフォンスに対抗意識を燃やしているのか。聞いてみたいが、やはり聞くことはできない。  結局はなんと言い返せばいいか分からなくなって、キーニの胸板に額を付けることしかできなかった。  こうすることで、キーニから贈られた額飾りの存在を感じることができた。

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