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36 デアーグが語るディーウィット
ディーウィットは自分でも不思議に思うほど穏やかな気持ちで、その後自分に起きた事実を淡々と告げた。
アルフォンスは、口を挟まずに最後まで聞いてくれた。キーニたっての願いで互いに帝国語でという話だったので、ディーウィットよりは帝国語に慣れていないアルフォンスに全部きちんと伝わっているからは不明だが。
「――ということで、僕はこうしてここにいるキーニの協力を得て、帝都までやってこれた。正直、デアーグが皇配の立場に満足するとは思えない。その時、アーベラインにどうにかしてほしいと要望する筈だ」
一旦息継ぎをして続ける。
「そうなった場合、あの王家なら帝国に喧嘩を吹っ掛けるくらいやりかねないのはアルフォンスも分かるだろう? だが今ならまだ間に合う。皇帝に謁見しないままアーベラインに戻るようデアーグを説得してくれないか」
アルフォンスの目をまっすぐに見つめながら、誠意を込めて頼んだ。だが、アルフォンスは答えない。やはり一度失った信頼を取り戻すのは難しいのかと溜息を吐きたくなった、その時。
ディーウィットの目に、アルフォンスの手や顎がガクガク小刻みに震えている姿が映った。
「アルフォンス? 一体どうした――」
驚いて見ている間に、アルフォンスがズルズルと床に膝を突き、額を床に付けてしまう。
「アルフォンス!?」
慌ててディーウィットがアルフォンスの前に膝を突くと、ディーウィットの手をしかと握った硬い手があった。アルフォンスの手だ。
「ディーウィット殿下……! 愚かな私をお許し下さい……!」
「えっ!? なんだ、どういう意味だ……?」
アルフォンスが額をディーウィットの手の甲に当てる。指先に温かい液体が付着した。アルフォンスが泣いているのだ。ディーウィットはどうしていいか分からず、狼狽える。
「ど、どうした……っ」
「私は殿下が去ってしまわれた後、殿下から引き継いだ政務を懸命にこなしておりました……! ですがろくな協力者もおらず、王家の散財はタガが外れたように増えていくばかりで……!」
「……!」
やはりそうか、というのがディーウィットの素直な感想だった。これまでも散財はされていたが、止められる部分はディーウィットが王族の特権を使い水際で止めていたのだ。それがなくなった途端こうなることは分かっていた筈なのに、ろくな対策も残さず去ってしまったのはディーウィットだ。
「……何もかも押し付けてしまって悪かった」
「殿下が国を守りたいと願っていたことは分かっていたつもりです……! ですから歯を食いしばり耐えていました。ですが毎日デアーグ様が私の元にやってきては仰ったのです。『これは内緒だけど、ディーウィットはこれで政務から逃れられると喜んでいたんだよ』と」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「そもそも僕は話が決まってから出立するまで、デアーグと会話すらしていないぞ」
なんなら別れの挨拶すら交わしていない。
「私もおかしいとは思ったのです……! ですが疲弊していく中、デアーグ様がやってきては『僕はディーウィットを解放してあげる為にお父様に頼んだんだよ。なのにアルフォンスは全てを押し付けられて可哀想に』と囁かれ……!」
ディーウィットはあまりの内容に呆れてしまい、相槌すら打てなくなった。我が弟ながら、どうして悪知恵だけはそこまで働くのか。その頭を少しでも他のことに回せなかったのか。
アルフォンスが苦しそうに続ける。
「私は信じたくない、そんなことある筈がないと自分に言い聞かせました……! ですが殿下の訃報が届いた時、デアーグ様が『ディーウィットに逃げられちゃった。折角協力したのに、酷いよ!』と泣いてしまい……。怖いから帝国行きについてきてほしいと頼まれ、断れる状況ではなくなってしまったのです」
「……デアーグの語る僕は、僕ではないぞ」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
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