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第17話

 待ち合わせに指定されたのは東京駅からほど近い公園だった。  駅に降り立つと、雅は息を白くして言う。 「この寒いなか、なんで公園なんですか」 「さぁ」 「さぁ、って」  俺はマフラーを巻きなおしながら肩をすくめる。 「……北小路さんの考えることなんて、俺にはわからないよ」 「訊いておいてくださいよ」 「それができれば苦労しないって」 「……あなたと北小路さんって対等じゃないんですか」 「うーん」 「今さらですが、どんな人なんですか」 「ううーん」  北小路先達部長。  悪い人ではないが、つかみどころがない人。  頭がキレるが、突拍子もない人。  彼を形容するのに、ふさわしい言葉が見つからない。  俺は苦笑する。 「まぁ、どんな人なのかは、会ったらわかるよ」  それから、声を落とす。 「……雅。北小路さんがどんな感じの人でも笑って受け入れてくれると、うれしいんだけど」 「なんの確認なんですか、それ」 「いや、その、お前だから変に当たってるわけじゃなくて、普段からそういう人なんだっていう……確認?」  雅は眉根を寄せる。  仕方ないじゃないか。  部長は、いつも俺の想像の斜め上の2歩先を行く人なんだから。    そしてやっぱり、部長はどこまでも部長だ。  公園に入ってすぐ、俺は彼を見つけて、雅を小突いた。 「ベンチにいるのが北小路さんだ」  雅は目を眇める。 「……12月にアグリーセーターを着る文化圏の方なんですか?」  部長は今日はグレーのだぼっとしたコートに、真っ赤なセーター――今日はペンギン柄だ――を着て、大量の鳩に囲まれて、ベンチの上で胡坐をかいて目を閉じていた。  アグリーセーターは、確かイギリスでクリスマスの時期に着るダサいセーターのことだ。  誰が一番ダサいかを競うらしい。  俺は首を振る。 「いや、あれは普段着」 「鳩は」 「……たぶん、野生」 「何をしているんですか」 「……瞑想、かなぁ?」  雅から返事がない。  関わりたくない、という言葉を彼の眉間の皺が言外に伝えている。  しかし、その願いはかなわない。  部長は俺たちがやって来たのに気が付くと、大きく手を振った。 「藤堂~!」  おまけに大声つきだ。  公園でまったりしていた人々の視線が一斉に俺たちに集まる。  俺は慌てて走り出す。 「あ、はい! ……ほら、雅、行くぞ」 「はぁ」  ベンチに近づくと、鳩が一斉に飛び立った。  部長は照れたように笑う。 「いや~なんだか好かれちゃってさぁ。ボクってモテ男~」  いつも部長は軽薄だが、今日は特にすごい。  俺はこめかみを抑える。 「エサ撒きました?」 「まさか。僕は公共のルールを守る人だよ。自前の魅力で引き寄せたの」  部長はベンチから足を下ろして、これまたド派手な赤のスニーカーを履いてベンチに座りなおす。 「どうも。君が雅くん? その節はどうも。北小路先達だよ」 「……榎原雅です」  ふたりの目が合う。  アルファは目を合わせると互いにアルファであることがわかるのだという。  雅と部長は、目を合わせたまま、動かない。  先に視線を逸らしたのは部長だった。  彼はけらけらと腹を抱えて笑う。 「えー、雅くんってしっかりしたいい子そうだねぇ。藤堂みたいな適当な奴といたら、ストレスたまっちゃわない?」  雅は答えない。  代わりに俺が乾いた笑みを漏らした。  部長はベンチの隣を叩いた。 「雅くん、座る?」 「いえ」  部長は足を組み、そこに肘を置いて、こちらを見上げる。 「……聞いたよ。藤堂と番ごっこをしてるんだって?」 「……あなたも泰斗さんと番ごっこをしているそうで」 「そうそう。ええと、藤堂が20歳のときからやってるよ」 「……はぁ」  この2週間で、俺についての設定はある程度部長と共有していた。  部長の流れるような嘘に、雅もうなずくしかない。  部長は尋ねる。 「……ねぇ、訊きたいんだけど、藤堂のどこがよかったの?」 「どこがって」 「だって、仮にも番ごっこしようってくらいなんだから、いいところのひとつやふたつ、あるでしょう?」 「……」  俺は慌てて言い添える。 「北小路さん、あの、一応確認なんですけど、雅との番ごっこは……俺から誘ったんですよ」 「ああ、そっかそっか。じゃあ、雅くんは藤堂に誘われて無理やり番ごっこをしているんだ」  雅が弾かれたように言う。 「無理やりではありません」 「へぇ? でも、他のオメガを比較検討して、それでも藤堂にするってなったわけじゃないでしょ?」 「……」 「若さに任せて勢いで物事を決めるのはよくないよ。番ごっこで大事なのは相性と、お互いがWin-Winであることだと思うんだよね」  部長は小首を傾げる。 「まず、藤堂と君の相性はどうなのさ?」 「……あなたには関係ありません」 「関係あるよ。藤堂のうなじを噛んだのはボクなんだから」  雅の肩が揺れる。 「藤堂のことが気になってさ。ほら、藤堂って仕事はできるけど、私生活はいろいろだらしないし」  急に悪口を言われて、俺はつっこむ。 「おい、おっさん、アンタが言うな」 「おっさん呼ばわりはオジサン泣いちゃう」  俺たちのいつものやりとりだ。  雅はさめざめと泣き真似をする部長のつむじを見下ろしていた。  風が吹く。  今日は雪は降らないらしいが、さすがに冷える。  俺はマフラーを巻きなおして提案する。 「ぶ……北小路さん、どっか移動します?」 「いや、ここで」  彼は腕時計を見る。 「もうひとり待ってるから」 「もうひとり?」 「そう。おふたりに紹介したい子がいてさ」  雅が深く息を吐いた。  彼はゆっくりと首を振る。  そして冷静な声で言った。 「……僕、コーヒー買ってきましょうか」  公園の片隅にはコーヒーの移動販売車が来ているようだ。  雅がそれを指さす。  俺が口を開くより先に、部長が言う。 「だめだめ」  彼はにっこりと笑う――挑発するように。 「藤堂はコーヒー飲まないからさ。そんなことも知らないんだねぇ?」

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