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第3話

 洗面所の鏡を見つめ、おれはちょいと前髪を引っ張ったり襟足を掻き上げてみた。  「ん〜なんかイマイチだな」  ゆうちゃんの髪をセットすると一発でカッコよく決まるのに、自分だと全然だめだ。やっぱり顔が野暮ったいせい?  なら髪型は諦めて服だ。  中学のときに買ってもらった量販店の黒のシャツになんの変哲もないデニムを合わせているけど、なんとなく垢抜けない。  いかにも「お母さんが見立てました」って感じ。事実そうなんだけどね。  「せめて服は変えよう」  洗面所を出ると、運よく兄ちゃんはリビングで母さんたちと話をしている。  チャンス!  音を立てないように階段をのぼり、そのまま兄ちゃんの部屋のドアを開けた。  兄ちゃんの部屋はおれと同じ間取りなはずなのに、なんかオシャレだ。  てかベッドのシーツがグレーで大人っぽい。いつのまにこんなやつに変えたんだろう。おれも同じの買ってもらおう。  そっとクローゼットを開けると中は見たことのない服ばかりだ。  おれはその中の一枚を手に取った。  「え、これブランド物じゃん! このTシャツもズボンも……えぇなんで〜」  兄ちゃんはバイトをしてないはずなのに、なぜこんなオシャレな服ばかりを持っているんだ。きっと母さんが買ってあげてるんだろうな。  くそぅ、これだからイケメンは!  おれはその中から淡いブルーのシャツと黒のスラックスを出した。  その二枚だけ一緒のハンガーにかかってたから、セットなのだろう。  いま着ている服を脱ぎ捨て、おれは兄ちゃんの服を着た。  「……なんだこれ」  そでは余りまくって指先すら見えないし、ズボンに至ってはゆるゆるだ。ベルトを閉めても裾を引きずってしまう。  兄ちゃんとの身長差を痛感した。  なんで両親が同じなのに、おれはこんなに小さいんだ。  「これじゃゆうちゃんとお出かけ行けないよ〜」  おれがその場でしゃがんで頭を抱えていると、廊下から声がする  「飛鳥、結が来たぞ~飛鳥?」  兄ちゃんが隣のおれの部屋を開けた。やばい、隠れなきゃ!  だけど裾が引っかかっておれは派手に転んでしまった。  「なに俺様の服着てるんだよ!」  案の定兄ちゃんにバレてしまった。でもこうなったら仕方がない。  「兄ちゃんばっかりズルい! なんでこんなブランド品ばっかなの!」  「おまえと違ってカフェに散財してないからだよ。いいからそれ脱げ!!」  「や~だ~!」  「ちんちくりんが似合うわけないだろ!」  おれは一瞬で兄ちゃんに服を脱がされ、シャツと下着姿で廊下に蹴飛ばされた。一度扉が閉まったと思ったら、おれがさっきまで着てた服を投げつけられる。  「うぅ〜酷い。横暴だ」  「……飛鳥?」  おれが廊下でめそめそ泣いているとゆうちゃんが階段をのぼってきた。下着姿のおれを見て、首まで真っ赤にさせている。  「な、なんで下着!?」  「兄ちゃんの服着ようと思ってたら追い出されて」  「いいから服を着ろ!」  そう言ってゆうちゃんは階段を降りようとしたけど足を滑らせたらしく、ガタガタとすごい音がした。  「本当に怪我してない?」  「あぁ」  「本当に本当?」  「大丈夫」  ゆうちゃんはそう言ってくれるけど心配だな。  だって階段から落ちるなんてそうそうないじゃない? フローリングが滑ったのかな。  おれはちらりとゆうちゃんを見上げた。  黒のインナーに薄いグレーのジャケットとシルエットがきれいなボトムスを合わせている。ショルダーバッグもシンプルでオシャレだ。  制服とスウェット以外の服装は久しぶりに見るので新鮮。  おれが無遠慮に見つめていると、ゆうちゃんはゆっくりと口を開いた。  「てかどうして……下着でいたんだ?」  「兄ちゃんの服を借りようと思って」  「なんで?」  「だって自分の服じゃダサいし」  結局おれは最初に着てきた服にしている。中学生って感じが抜けてなくてちょっと恥ずかしい。  「なんだそんなこと」  「おれにとったら重要なの! せっかくゆうちゃんとお出かけするのに、これじゃ子どもっぽいし」  「そうか? 可愛いと思うけど」  「え、まじ?」  「ん」  「そっか〜」  ゆうちゃんに褒めてもらえるだけで、この服は今日から一軍。いつでもどこでも着て行っちゃおう。我ながら単純だ。  駅まで歩き、そこから学校とは反対側の電車に乗った。休日だからかなり空いている。  座席も空いたので二人並んで座った。  「ゆうちゃんとこうしてお出かけするの初めてだね!」  「中学のときも映画観に行っただろ」  「あのときは兄ちゃんいたし」  兄ちゃんとゆうちゃんが遊びに行くと言えば、おれは金魚のフンの如くについていった。  ま、それは仕方がないよね。ゆうちゃんは兄ちゃんの友だちなんだし。おれはオマケだ。  だから二人きりは初めてでつい浮かれてしまう。  反対側の車窓から流れる景色を見ていると横から視線を感じた。  「髪、ワックスついてる?」  「自分でセットしようと思ったんだけど、さっき着替えたからぐちゃぐちゃになっちゃった」  おれが手櫛で直そうとすると、ゆうちゃんの長い指が伸びてきた。  前髪をやさしく分けられ、後頭部を撫でられる。毛先をちょんといじられるのがちょっとくすぐったい。  こんなに至近距離なのにゆうちゃんの肌は白くてきれいだ。睫毛は長いし、くるりとしている。ビューラーいらずで女子は羨ましがりそう。  「ん。できた」  「ありがとう!」  おれがスマホのインカメで髪型を確認した。前髪をセンターに分けて額を出し、毛先は外に跳ねていた。  でもこれって    おれは隣を見た。  「お揃い?」  ゆうちゃんはおれとまったく同じ髪型をしている。自分でセットするようになって、ゆうちゃんはよくこの髪型だ。  「ん。そうだよ」  ゆうちゃんとお揃いは嬉しいな。  でもそれっておれがセットした髪型が気に食わなかったから覚えろってことなんだろうね。  ちゃんと記憶しておこう。  駅に着き、おれたちは歩いて映画館に向かった。ゆうちゃんが観たいと言ってた洋画だ。  おれは正直映画とかよくわからないので、こういうのはゆうちゃん任せ。  おれは映画館のロビーでキョロキョロ見回した。  「えっとチケットどこで買うんだろ?」  「あっち。買ってくるよ」  ゆうちゃんはそう言うと端っこにある券売機で慣れた様子でチケットを買ってくれた。  「これ、飛鳥の」  「ゆうちゃん、チケットの買い方わかるんだね」  「……俺のことなんだと思ってるんだよ」  「お世話対象?」  「飛鳥の中の俺って小学生のときから変わらないんだ」  「そういうわけじゃないよ。なんか染みついちゃってるんだよね」  ゆうちゃんは庇護されるべき対象で、おれが守らなくちゃって思っちゃう。  ほら、ゆうちゃんママにも任されてるしさ。  だからおれがしっかり導いてあげたいって責任を感じる。  「じゃあ今日でその認識変えさせる」  「どういう意味?」  「俺が頼れる男って証明する」  「ん〜?」  よくわからないけど、ゆうちゃんが自立したいってことだよね。前も世話なんてしなくていいって言われちゃったし。  そりゃ彼女さんとも映画デートとかして慣れてるよね。チケット買えなくてオロオロしてたらダサいしさ。  そうか。  「ゆうちゃん、おれが知らない間に立派になったんだね」  ゆうちゃんの成長を目の当たりにし、目尻に浮かんだ涙を拭うと「こいつ、わざとか?」とこぼしていた。  映画を観終わるとちょうど昼過ぎていたので、ランチを食べようとおれたちは大通りに移動した。  休日のせいか人が多い。合法的にゆうちゃんとくっつけて、ちょっと幸せ。  「ゆうちゃん、なにか食べたいのある?」  「飛鳥は?」  「おれはなんでもいいよ!」  おれは好き嫌いがないのでなんでも食べられる。あ、でも辛いものはちょっとだけ苦手かな。  ゆうちゃんはスマホを出した。  「じゃあ俺のオススメの店でもいい?」  「ゆうちゃんのオススメ!」  なんてわくわくする響きなんだろう。おれがうんと頷くと「こっちだ」とゆうちゃんが案内してくれた。  「うわ〜可愛い!」  ゆうちゃんが連れてきてくれたのはおれ好みのカフェだ。看板やガラス張りの窓にうさぎのシルエットがあって可愛い。  「ここでもいいか?」  「もちろん!」  おれはゆうちゃんと一緒に店に入った。  コーヒーの大人っぽい匂いに出迎えられると、期待が風船みたいに膨らむ。椅子やテーブルは飴色の木板で統一され、落ち着いた雰囲気だ。  所々にうさぎのモチーフがアクセントになってて可愛い。  幸い混んでいなかったのでおれたちはすぐ一番奥のソファ席に案内してもらえた。  「ゆうちゃんがこんな可愛いお店知ってるなんて意外!」  「……まあな」  「えへへ。嬉しいなぁ」  可愛い店内もそうだけど、ゆうちゃんのオススメに来れたのが嬉しい。  「あ……」  でも気づいちゃった。  もしかして彼女さんと来たことある感じ?  それでおれ好みだと気づいて、連れてきてくれたのかな。  あ〜ダメダメ。最近ネガりすぎる。  おれは気持ちを切り替えようとメニュー表を開いた。  「んん?」  まさかのメニューが全部英語だ。しかもイラストも写真もなくて、なにがなんだかわからない。  辛うじてCoffeeは読める。  だけど他はさっぱりだ。  「これ全部英語なんだね」  「あぁ、一個ずつ読んでやるよ」  ゆうちゃんはおれの隣に移動してくれて、メニュー表を指しながら本当に一つずつ説明してくれる。  ゆうちゃんの英語の発音が心地よい。  時々腕がぶつかってドキドキしちゃう。嗅ぎ慣れたワックスの匂いなのに、妙な気が起きてしまいそうだ。  だめだめ。集中しないと。  おれはこぶしを握りながら爪をたてた。  「……どれにする?」  「ん〜じゃあカレープレートと食後にバスクチーズかな」  「ん」  「ゆうちゃんは?」  「コーヒーとチーズオムレツ」  「わかった。すいませーん」  おれが店員さんを呼ぶとポニーテイルが似合うお姉さんがすぐに来てくれた。  「ご注文伺います」  「カレープレートとチーズオムレツ。食後にバスクチーズとコーヒーお願いします」  「かしこまりました。少々お待ち下さい」  おれが言うより先にゆうちゃんが注文してくれた。あまりない行動におれの目は丸くなる。  「ゆうちゃんが注文してくれるなんて珍しいね」  「別に」  ぷいと顔を背けたゆうちゃんの耳がちょっと赤い。もしかして    「あ〜あの店員さん、きれいだったもんね」  もしかして店員さんと話したくて注文してくれたのかな。ゆうちゃんも可愛いところがある。  店内を歩き回っているお姉さんの髪が、ゆらゆらと揺れて視線が自然と向く。おれと同じように見ているお客さんは多い。  もしかしてモデルさんだったのかな? それだったら納得する美人さんだ。  ゆうちゃんって面食いなんだね。  だけど顔をおれの方に戻したゆうちゃんは、鼻に皺を寄せている。  「違う」  「ありゃ?」  てっきり店員さんと話したいと思ったけど、そうじゃなかったみたい。珍しいことが続くな。  料理が届くまで、さっき観た映画の話を振るとゆうちゃんは嬉しそうに話しだした。推理もののせいか途中で難しくてぼんやりしちゃったけど、ゆうちゃんは最初から最後まで楽しめたらしい。  「そっか、だからあのとき金髪美女が拳銃向けたんだね」  「そこもわからなかった?」  「うっ……ごめん。おれにはちょっと難しくて」  バトルシーンは爆発や銃撃戦が楽しかったけど、謎を解き明かすシーンはテンポが速くて追いつけなかったのだ。  字幕だと読むのに時間かかるでしょ?  ゆうちゃんは居住まいを正した。  「今度は飛鳥が楽しいやつ観よう」  「それだとアニメになっちゃうよ?」  「別にいい。飛鳥と一緒にいられるなら」  「じゃあ調べておくね!」  また次も映画に一緒に行っていいんだ。次の約束ができて嬉しい。  そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。  「スパイスの香りがいい匂い〜」  おれのカレープレートはスパイスの効いたカレーとカボチャのサラダ、紫キャベツのラペと彩りが豊かだ。  ゆうちゃんのチーズオムレツは焦げ一つないオムレツにとろりとしたチーズソースがかかっていて美味しそう。  「写真を撮らなくちゃ!」  おれがスマホを取り出してカレープレートをパシャパシャ撮ってると、ゆうちゃんがチーズオムレツの皿を差し出してくれた。  「こっちも撮るだろ?」  「よくわかってるね!」  「ん」  おれはチーズオムレツも写真におさめ、満足してスプーンを手に取った。  「いただきます!」  カレーを一口食べると辛味のあるスパイスと鶏肉の旨味が合わさって美味しい。  美味しいんだけど。  「……辛い」  「そんなに?」  「美味しいけど、舌がピリピリする」  おれはガブガブとお冷を飲んで、舌を冷やした。一口食べただけこれなら、全部を食べるのは無理かも。  でも残すのは勿体ないし、お店にも失礼だ。  「交換するか」  ひょいと皿を取られてしまい、ゆうちゃんはおれの前にまだ手をつけていないチーズオムレツを置いてくれた。  「え、でも……いいの?」  「ん。これは前にも食ったことあるし」  「あ、あぁ」  そっか、彼女さんと来たときに食べたんだよね。  カレーは食べられそうもないし、ここはゆうちゃんのやさしさに甘えよう。  「ゆうちゃん、ありがとう!」  「ん」  おれは気を取り直してチーズオムレツを食べた。チーズの柔らかさと少し酸味の効いたケチャップライスの相性が抜群だ。  「ん〜美味しい。一口食べる?」  「食う」  「はい、どーぞ」  おれはゆうちゃんにチーズオムレツを食べさせた。するとどうだろう。なにかがチクチクと刺さる。  隣のテーブルの女性二人が、おれたちを見てヒソヒソと話している。さっきの美人な店員さんもお盆で鼻から下を隠しているけど、 驚いたように目を見開いていた。  んん? なんで注目されてるんだ?  おれはスプーンに視線を落とした。  ゆうちゃんは昔から朝が弱くて、朝食を食べさせてあげることが多い。そのクセが抜けずに未だに食べさせてたけど、高校生にもなってやってるのは変だよね。  おれはさっと血の気が引いた。  この前、泉先輩たちとカフェに行ったときにもゆうちゃんに食べさせていた。そのときみんなの様子がおかしかったのは、このことだったんだ!  「旨いな。飛鳥、もう一口ちょうだい」  ゆうちゃんは周りの視線などお構いなしに顔を寄せて、口を開けている。ちょっと油断した姿が可愛い……じゃない! おれは首を横に振った。  「いいよ! はい、どーぞ!!」  おれが皿を差し出すとゆうちゃんは眉を跳ねさせている。  「いつもみたいに食べさせてくれないのか?」  「ほら、高校生にもなって食べさせるのは変でしょ」  「別に普通だろ」  そう言っておれの手を握り、スプーンでオムレツをすくうとゆうちゃんはぱくりと食べた。  いや、これもう自分で食べた方がよくないか?  「ん。旨い」  ぺろりと赤い舌を出して口の端を舐めるゆうちゃんが色っぽい。  もう完全にアウトだよ、これ。十八禁レベルでいかがわしすぎる。  ほら、隣のお姉さんたちが顔を真っ赤にさせて昇天しそうだよ!  おれがあわあわ目を回していたが、ゆうちゃんは気にせずカレーを食べ始めた。  結構メンタル強いね?  恥ずかしがっても仕方がない。おれもちびちびとチーズオムレツを食べた。  さっきまであんなに美味しかったはずなのに、味がわからなくなっちゃったよ!  でもデザートを食べるころにはいつもの感覚が戻ってきた。  バスクチーズケーキが言葉にできないほど美味しかったせいかも。  「これ本当にチーズが濃厚! だけど後味がさっぱりしてる。生クリームが甘さ控えめなのかな」  おれはじっとチーズケーキを見下ろした。店主さんにレシピを聞いてみたい。でも企業秘密だろうし、だめだろうな。  レシピを想像しながらおれはメモに書き綴った。  「それノート何冊目?」  「いま三冊目に入ったよ」  ゆうちゃんはノートをパラパラと捲った。  「俺が知らない店もあるな。誰かと行ってるのか?」  「一人だよ」  おれは昔から一人でも行動しちゃうタイプで、カフェ巡りもそうだ。たまに貴志も付き合ってくれるけど、女性ばかりの店内に気後れしちゃうらしい。  確かに女性ばかりの中に男がポツンといると気を使うよね。だから邪魔にならないよう食べたらすぐ帰るようにはしている。  そのぐらいの配慮はあるよ。  「今度から俺を誘ってよ」  「え、でもお金もかかるし大変じゃない? 一日に三軒はしごしたりするよ?」  「付き合う」  「ん~」  ゆうちゃんの申し出は嬉しいけど、迷っちゃうな。  だってほらゆうちゃんには彼女さんがいるしさ。休日のたびにゆうちゃんを連れ回してたら、デートする時間もないじゃない。  それにおれは一人でいる時間も大切にしたいタイプなので、ゆうちゃんの申し出は嬉しいけど悩むな。  カフェ巡りが好きなのは、心を休めることができる空間だからだ。  家だと兄ちゃんが友だちや彼女を連れてくることが多く、休日でもほっとできない。  でもカフェだと気を使わなくていいから楽だ。  友だちと行くのも楽しいけどね。  ここのところ一人の時間がなかったし、そろそろ一人になりたい。  おれは腕を組んでうんうん唸った。  「だめなの?」  「だめってわけじゃないけど、おれ結構一人の時間も大切にしたいから」  「知ってる」  「ならーー」  「だけど俺とも一緒にいて欲しい」  それってどういう意味?   世話をして欲しくないと言ってたくせに、本当はお世話して欲しかったってこと?  「あれ……宮澤じゃん!」  顔を上げるとボブカットがよく似合う女の人が隣に座っていた。さっきの二人組は帰ったらしい。  え、てかいまゆうちゃんの名前呼んだ? ってことは知り合い?  ゆうちゃんは目をちょっとだけ丸くしている。  「野中……」  「学校の外で会うの新鮮~。私服おしゃれだね!」  野中さんはゆうちゃんと親しいようで、隣のテーブルなのに結構距離を詰めて座ってきた。  この距離感、もしかして彼女さんだったりするのかな?  おれがじぃっと見ていると野中さんはおれに気づいたらしく、口の端を上げた。  「あ、凛の弟くんだよね。教室で見たことある」  「……は、初めまして」  「こんにちは。私は宮澤と凛と同じクラスの野中」  人懐っこい笑みにおれは肩を竦めた。  絶賛人見知り発動中である。  ゆうちゃんの身体に隠れるように身を縮こませた。  「私のオススメの店に来てくれたんだね。紹介したかいがあったよ」  その言葉におれはにゅっと首を伸ばした。  「ここって野中先輩のオススメなんですか?」  「そうだよ。宮澤に訊かれて教えたんだ」  ね、と同意を示すように宮澤さんはゆうちゃんを見てる。だけどゆうちゃんは顎に皺を寄せていた。  もしかして野中さんのお気に入りのお店だからゆうちゃんも気に入ってるのかな。  ってことは彼女確定じゃん!!  「お、おれ……帰ります!」  「飛鳥!」  残ったバクスチーズケーキは一口で詰め込んで、お金を置いて店を飛び出した。  いや、どう考えてもあの状況はおれが邪魔者だったよね。  おれ的にナイス気遣いじゃない?  でも、胸が詰まってしまう。  ケーキを無理やり詰め込んだせいじゃない。心のもっと柔らかいところがチクチクと痛む。  おれはどうにかチーズケーキを飲み込んだ。  「そっか……ゆうちゃんの彼女」  想像していた通り、可愛い人だったな。それにおれにもやさしく声をかけてくれたし、きっといい人に違いない。  なによりゆうちゃんが選んだ人だもん。素敵なところがいっぱいあるんだろうな。  口の中に残るチーズケーキに苦みが増した。

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