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癖
平凡な男子高校生である平中 優太(ひらなか ゆうた)は昔からどうしても好きなものが一つに決められないところがあった。
それもいつも全く正反対の、二つのものを同時に好きになってしまう。
両親が幼少期の彼にスマホやPC、TVの動画鑑賞で勧善懲悪な戦隊モノのヒーローアニメを見せてくれた事がある。それは主役である正義のヒーロー役の爽やかなカッコよさは勿論の事、悪役のどこか謎めいた怪しいミステリアスなカッコよさも捨てがたく、自然とどちらも好きになり、気が付けば夢中になって応援していた。
公式のアニメグッズが出れば両親にヒーロー役と悪役、必ず両方のものを買ってもらうようにねだった。
最終回の戦闘シーンで今まで下っ端達に指示を出していた黒幕の悪役がとうとう倒されてしまうとわんわん泣いて、どうして悪役はヒーロー達と一緒にいられないのか、涙声で両親に問い掛けては困らせていた。
好きな色はころころ変わるが、いつも二つセットが当たり前。
白と黒、赤と青だったり。
どちらが好きかと聞かれても困ってしまう。
何故なら彼にとってどちらも同じくらい好きだから。
それが彼にとって当たり前なのだ。
欲張りだと思われるかもしれない。でも彼にとってはこれが普通なのだ。
──そして彼は最近、ある悩みを抱えている。
「平中」
人も疎らな放課後の教室。
荷物を纏めていた優太は、控えめに話し掛けられた声にぎくりとする。
振り向くと爽やかな美形と目が合った。
「っ、あ、何、戸月(とづき)」
「いきなり話しかけてごめん。……これ……」
「……あー、それ俺の。落としたの全然気付かなかった……ありがとっ!」
戸月 泉(とづき いずみ)。同じクラスの優等生だ。
茶鼠(ちゃねず)色の髪と瞳。色素薄めな爽やかな美形といえる顔立ちで、一見するとモテそうなのだが、大人しい性格で最初は沢山の人に囲まれて話し掛けられているのだが、気が付くと最後は一人ぽつんと孤立しているのだ。
もしかしたら少しコミュニケーションが苦手なところがあるのかもしれない。
そんな戸月が自らこちらに話し掛けてくるのは珍しいなと思いつつ、相手の手の中にある、いつの間にか自分で落としてしまったらしい見覚えのあるデザインのシャープペンシルに目を落とす。
どこか逸る心臓を抑えつつ、相手に差し出されたそれをお礼を言って受け取る。
「、っ」
あ、やべ。
相手が近付いた瞬間、何とも言えない控えめで清涼感のある落ち着いた良い匂いが鼻を掠めた。おそらく香水などの人工的な香りとも違う、まるでこの世のものでない上品さがあって、それでいて優しく寄り添うような不思議な匂い。
これ、戸月の匂いなのか…………?
──ずっと嗅いでいたくなるような匂い。
下半身に熱が溜まっていくのを感じる。
「いや別に。たまたま見掛けたから……」
ぼーっとする。会話が頭の中に入ってこない。
こちらをじっと見つめる茶鼠の瞳がほんの一瞬揺らいだような気がする。
もしやこちらの異変に気付かれてしまっただろうか。
はっと我に帰り内心焦っていると、「平中あのさ、」と向こうから話を切り出してきた。
「この間の……その……」
「?」
今は丁度教室に二人きりだけ。
別の話だったことに優太は内心安堵するが、何故か今度は相手が言い淀んでしまい、話が見えない。
「何?」
「あれはその……いや、なんでも、」
ガララ。
「あれ?……優等生君と……ユタ君?」
突然開かれた教室の扉から顔を覗かせたのは、ホワイトのハイライトが入ったミルクティーの髪に薄いグレーの瞳の派手な美形──キリク・ドレアだった。
学校指定の制服を着崩し、耳はピアスで穴開けて、ボタンの開いた胸元にはネックレスが光っている。
彼は遠い外国から日本に引っ越してきて、優太達のいるこの学校にやってきた転校生である。……ちっとも聞いたことのない、果たして地球上に存在しているのかすら怪しい、首を傾げるような印象的な国の名前だったのだが、優太はすぐに忘れてしまった。
そんなキリクは不真面目な素行で度々教師から指導を受けているらしい。飄々としていて掴み所がなく人から何を言われてもにこにこしているかと思えば、一度暴力沙汰の事件を起こしていたり、実は男女問わず付き合っておりバイだとか真偽不明なものまで様々な噂が絶えない人物だ。
彼も綺麗な顔立ちをしているので最初は女子にモテていたが、問題行動が目立つ為自然とクラスから孤立していった。
──ユタとはもしかして自分のことだろうか。
優太は内心思った。
キリクは最初に来た頃より日本語が上手くなったとはいえまだ少し言葉がカタコトなところがある。
この場にはキリクを除けば戸月と自分だけ。優等生とは間違いなく戸月のことだろう。だとしたら残るのは自分ということになる。
──何故名乗ってもいないこちらの下の名前をこの美形が知っているのだろうか。
「転校生か……忘れ物かな」
戸月がそう呟くと、キリクは「ソーソー」と頷いて教室に入ってくる。
「オレ、課題、タクサン」
「そういえば四限目の数学でも先生から何か怒られて課題の量を増やされてたな……」
キリクが自分の席のところに行き、机の引き出し部分から課題を取り出してどさりと上に置く。
それらを全部鞄にしまうと荷物を持って先程入ってきた扉に向かう……かと思えば真っ直ぐ優太達に向かってきた。
そしてむわっと鼻を擽られるような甘い匂いがし、背筋がぞくっとなったのも束の間、「──ユタ、また後でね」と優太にだけに聞こえるよう耳元で囁いてきたのだ。
「え?」
どういう意味か、と優太が目で問うもキリクは一瞬意味有り気に微笑んだだけでそのまま踵を返し、扉から退室してしまった。
教室に残された二人は暫し呆然となる。
「何だったんだろう……俺初めて転校生と話をした」
「え……そうなのか?名前呼んでたしさっきも何か話ししてたからてっきり仲良しなのかと」
「違う違う。何なら今日俺達が話すのだって初めてじゃん?だから……」
「──え?」
優太がそう言うと何故か戸月が怪訝そうな顔をした。
そして戸月がこちらをじっと見つめてくる。
何かこちらが変なことを言っただろうか。それにしてもこんな美形に見つめられると流石に照れる。
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