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第2話作業を終えるまでチュートリアル終了は待ってください
プリエスティラ新農場物語とは、農場ゲームに戦闘も加え、そこに死にゲー要素を加えてしまった前代未聞の問題作である。
農場ゲームとは与えられた土地を耕し、野菜を育て、出荷し、またそれを料理しては回復道具として使うなど、れっきとしたゲームジャンルの一つとして確立しているものである。また大抵のゲームには結婚候補が存在しているように、このプリエスティラ新農場物語にも嫁候補・婿候補がおり、好きな相手と結婚をするという楽しみ方をするユーザーも多い。
そんな農場ゲームに戦闘要素を追加しているのが本作である。しかしこれも昨今は増えてきた。町の外には魔物がたむろし、魔物を倒すことで素材を入手する。そして農具や武具の材料として強化していき、行動の幅を広げていくゲームである。
そしてそして。そこにさらに死にゲー要素を加えたのである。死にゲーとは、コンティニュー前提で構成されたゲームである。高難易度戦闘ゲームに多いもので、例えば罠の場所や相手の動きを「死を経験することで」プレイヤーが学習し、初見殺しをよけていくことをメインにしたゲームである。
さて、ここで大半の人は思ったと思う。農場をやってていつ死ぬことがあるのかと。
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このゲームを購入当時、俺はゲームの知識が深いかと問われればそれほど経験が多くは無かった。故に、最初に深く調べもせず、ただプレイ動画だけで購入を決意したのだ。
このゲームにはメインストーリーだけでもバッドエンドが複数存在した。
代表的なものは家賃滞納だ。これは30日に一回徴収してくる。これを払うことが出来なければゲームオーバーになる。主人公の実家に滞納の連絡がいくのだが、お家騒動で主人公を排除したい者たちが主人公の住居をそこで認知し、暗殺者を差し向けられエンディングを迎える。
しかし問題はここからだ。肝心のその資金を一定の期間で集める行為が、きわめて難しいのである。野菜のみを売りさばいているだけでは収益はなかなか上がらず、結局種代にとられてしまい主人公のふところは寒いままで一つの季節を終えてしまう。
そうして死を経るごとでゲームの時間が巻き戻り、食品の加工や作物の品質、耕地面積の計算を組み込みを学習し、大体4回ほどやり直したところで次に進めるというものだ。
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「なんで農場にそんな死に要素を組み込んだんだろう??いまだに謎だよなあ」
カツ、カツ、と木を伐採する音が広大な土地に響いている。遮蔽物は少ない土地だ。音の響きは遠くまで聞こえる。
今、俺は家の前にある、荒れ放題にあれた畑にいる。
主人公に憑依した俺、改めルナリオは、農場ゲームとしては非常に|肝《きも》となる畑を整備していた。
農場系ゲームの最初は、与えられた土地の整備から始まる。それを当然熟知していた俺は、家の倉庫にしまわれていた錆びたハンマーや斧を勝手に借りては駆使し、今一生懸命耕作面積を広げているのであった。
家の前の畑はもう、とても広かった。自分は都会暮らしだからこれほど広い土地をいじっていいというのが初めてで、もう興奮がとまらない。どうやってここからこの土地を自分好みにしていこうか。そうやって考えるのがとにかく楽しいのだ。
雑草を抜き、エリアを広げる。身をかがめるのは大変だが、綺麗な土のエリアが増えていくのを見ると何とも楽しくなる。手袋がないため素手でやっているが、泥まみれになるのも気にならないくらい興味深い作業だった。
種は現在手元にないけれど、近くに井戸があったため水をバケツに貯めてきた。ゲームで得た知識を活用し、俺はここで生きていくための準備を進めていく。
「とにかく、一定のお金を稼がないと俺は死んでしまうんだ」
楽しさが優先し意気揚々とやってはいるものの、本当はこのゲームは時間との勝負。常にその日のうちにやるべきことを計算し、限られた時間でどう動くかを常に考える。
農場者とはほのぼのゲームと思いきや、時間計算はバトルゲームよりある意味で厳格になる。シビアな戦いがそこにはあるのだ。
「ゲームではボタンを押すだけで簡単に伐採できたけれど、やはり実際にやるとなると難しいな」
今は畑に点在する切り株を伐採していた。
しまわれていた斧は錆がひどかったものの、柄と金属部分の固定はしっかりとされており、安全面では問題ないと素人目で判断した。
どうしても農場ゲームの初手は壊れかけの道具で開始するが、これはもうお決まりのようなものでどうしようもない。しかし、持ち手の木の部分がところどころ湿っていたりささくれていたり、持ち手に神経を払わなければならないほど使いづらいものであった。
一生懸命作業をする俺に気が付いたのか、後方から素っ頓狂な声が聞こえる。
「あー!!おまえ、うちの切り株を叩いて何してるんだー!?」
ルナリオの思考を遮るように、畑を囲む森の方角からやや高めの声が聞こえてきた。この声の主のことを知っている。
荒れ放題に生えている森の木の間をぴょんぴょんと跳ね、こちらに近づいてきた。
「ああ。しゃべるスライム。君はスラリスか。会いたかったよ。」
「え?おいらのことしってるのか?うん。おいらはスラリス!」
スラリス。主人公のお供となるアドバイス役兼マスコットキャラだ。
スライムと聞くと某ゲームの頭が少しとんがった例のモンスターを思い浮かべるが、このゲームのスライムは二頭身のぷっくりした妖精のようなフォルムをしている。短い手足で、出来るのは水をぱしゃぱしゃかけるくらいなので、最弱種なのは変わらないが。
「ひょっとしておいらの家に遊びに来てくれたのか?友達になってくれるのか?」
「ああそうだよ。訳あって俺はこの家に住みたい。よければ一緒に住んでくれると嬉しいな」
「うん!いいぞ!!嬉しい、一緒に住んでくれる友達ができた!!」
スラリスは制作会社の意向で子供受けを視野に入れてデザインされたとディレクターがインタビューに応じていた。レートが付いているため、このゲームは子供向けではない。やってることがちぐはぐだと批判を受けた要因の一つである。
スラリスはつまりは警戒心が非常に薄く、俺のようなポッと出の人間がいきなり押しかけても快く受け入れてくれる優しいキャラである。
「なあ?あんたのお名前聞いてもいい?」
「俺はルナリオ。」
このスラリスへの返答は、要するにプレイヤーの名前の記入を行う場なのだ。
なおこのルナリオという名前は公式デフォルトネームである。俺はプレイヤー名を考えるのが面倒くさい派だった。
「実はおいら、体が小さいからあの家もこの畑も荒れに荒れててどうしようもなかったんだ。もしよければ手伝ってほしい」
「ああ、そう言うと思って今一生懸命やってるんだよ」
「ルナリオはこういった力仕事に詳しいのか!?すごいなあ!!だったらおいらから説明は不要かな?」
スラリスは友達が出来た興奮から俺の後ろをぴょんぴょん跳ねている。かわいいマスコットだ。俺はこのスラリスが大好きだったため、勉強の合間によくノートにスラリスの落書きを描いては癒されていたものだ。
「いいや、よければ最初から説明してくれると嬉しいな」
「でも残りは畑を耕すくらいしか説明残っていないような」
「いや、知識の再確認をしたいんだ。ダメかな?」
とはいうものの、実のところルナリオにとってそんな確認は本当のところは不要である。彼はゲームの進め方は熟知していたからだ。
しかし、ではなぜ説明を欲しているのか。スラリスの役目はプレイヤーにゲームの説明をしてくれるチュートリアル的存在。色々プレイヤーに現実の厳しさを教えてくれるこのゲームも、チュートリアルの間は優しさを見せてくれたためだ。
そもそもどうしてこのゲームで資金集めに限界が訪れるのか。その原因はMPにある。このゲームは農耕や戦闘などのアクションを行うとMPがどんどん減っていき、MPが0になったときはHPが減っていき、0になれば死亡となってしまうのだ。しかしチュートリアル中は特別にMPが無限となっており、スラリスの説明が終わるまでにどれだけ行動を詰めるか。いわばサービスタイムなのである。俺はスラリスと話はしつつも、手はせわしなく働かせていた。
「でもなんか、おいらが話しているときルナリオは忙しそうだな。おいら、邪魔したくないから家に」
「そんなことない!スラリスの話を聞いているだけで俺はこうやって力がみなぎってくるんだ。」
「そっか!」
優しすぎるスライム、スラリス。魔物にあるまじきその温かさは、群れからは異端と認識され、一人寂しく朽ちた家に勝手に住み着いていた。そこで同じく故郷を追われ孤独にあえぎ、でも明るさを失わない主人公と出会い、運命が変わっていくのである。
スラリスはそれから俺に大まかな農作業のことを伝授してくれた。時には雑談も交え、MPのことを考えると切迫した状況にもかかわらず、非常に楽しい時間であった。
スラリスと話をしていて分かったことがあった。チュートリアルと関係のないことをやってもそれは判定には入らないということだ。斧の話をされているときに鍬を振っても意味がない。
このため本日は手元にあった鍬、ハンマー、斧の説明を受け、初日で開拓できるぎりぎりまで作業をこなすことができた。
「ルナリオは種をもってないだろ?今日はおいらがニンジンの種Lv1をわけてやるよ!ほいどうぞ」
にんじんはこの世界の初期野菜である。俺はニンジンの種を受け取り、先に土に水を撒いてからパラパラと種をまいていった。じょうろがないため、手元には穴の開いた雑なバケツしかない。ゲーム通りに先に種をまくと種が流れていく可能性が高いのだ。
「確認だけど、にんじんは大体何日で収穫が可能なんだ?」
「五日くらいだな!初心者でも育てやすいからにんじんっていいよな!」
現実の世界では、にんじんはほかの野菜とは育て方がやや特殊なため難しいと感じる人も多い。なおかつ五日で成長を終える野菜などではない。やはりここは俺の暮らしていた世界とは異なるのだろう。
俺は種をまく作業を終え、道具を片付け始める。
明日には芽が出てくるだろう。早速始まったスローライフ。確かに死は怖いが、今は出来ることを一つずつやっていこう。
「今日はもうお疲れじゃないか?一休みして作業はまた明日にしようぜ!明日は街の紹介もしたいしな」
「そうだな」
俺とスラリスは互いにあってまだ数時間だというのに、かれこれずっと家族だったかのように微笑み合い、はじまりの朽ちた家に戻っていった。
この世界には五人の嫁候補と五人の婿候補がいる。俺はゲームをプレイしていた時に旦那として連れ添った最愛の伴侶のレインさんを思い浮かべる。一応このゲームは同性婚もできるので、実は男性が好きな俺はレインさんにゲームでは猛アタックしたのだ。
レインさん、早く会いたいなあ。
俺はこの時、明日は畑を拡充することを一生懸命考えており、もう一つの頭の痛いイベントについてはすっかりと忘れていたのであった…。
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