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第8話 Side 木田 8
佐伯が木田の腹を汚し木田が佐伯の中でイった後、佐伯はゆっくりと体を離して横になった。
「佐伯さん…」
木田はその熱い体を抱きしめようと近寄る。
「服着てください」
「え?」
「服を着てください」
体液まみれのまま、言われた通りチェストの上に畳んで置いた服を身につける。
「帰ってください」
「ええっ?」
木田がジーンズのジッパーを上げたことを確認し、厳しい口調で佐伯がそう言った。
「帰ってください」
「え、でも…」
「そして、もう来ないでください」
「ええっ?!」
木田は焦った。さっきまで肌を合わせていた人が?自分にしっかりしがみついていた人が?もう来るなって?
「ちょっと待ってください」
「近寄るな!」
いきなり怒鳴られた木田は、伸ばしかけて手を急いで引っ込めた。
「あ…あの…」
「僕はゲイだ。そして木田さんが僕に惹かれているのを知ってた。知っていて誘ったんだ」
佐伯の言葉が理解できない木田は、再び太平洋アパートにいる気分になった。
「初めて会った時から知ってた。木田さんが僕に気があること。でも様子を見てたんだ」
確かに駅の地下で、いや、大西洋の真ん中で出会った時、すでに取り憑かれた感じはしていたけど…
「僕はいつもそうなんだ。ノンケの…ノーマルな男に好かれる。僕が好きになるのもノーマルな男ばっかりだから…付き合って夢中になった頃、必ず捨てられるんだ」
意味がわからない話を聞きながらも木田は思った。こんな美しい人を捨てるなんて、なんてバチあたりな男どもだ。きっと今頃、呪われた人生を送っているに違いない。
「木田さんも他の男と同じ。そのうち僕が嫌になる。変な道に引きずりこまれる前に、正しい道に戻った方がいいですよ」
佐伯は顔を逸らしたままだった。だから木田は美しい顔を見たくて手を伸ばす。
「しつこいな!帰れって言ってんだろう!」
いつも品よく丁寧にしゃべる佐伯が荒っぽい言葉を使うのを見た木田は、大人しくベッドから離れた。それだけ佐伯の気持ちが高ぶっているということだから。これ以上一緒にいたら余計に苦しめてしまうと思い、木田は大人しく玄関に向う。
「また来ます。佐伯さんの気持ちが落ち着いた頃に」
そう言い残し、木田は佐伯の部屋を出た。
***
木田は自分の部屋に戻り、シャワーを浴びながら頭を整理しようと頑張った。
佐伯さんは男が好きな人だったんだ。そしてこれまで男と付き合って捨てられてきた。なぜ彼らは佐伯さんを捨てたのか。ノーマルな男って言ってたから…ノーマルな道に戻りたくなったんだろう。だけど、そんな理由で愛する人を捨てられるものだろうか。
これまで何度か恋愛経験のある木田は過去を思い起こした。彼女に別の男ができたり、忙しくて疎遠になったり、遠距離になって別れたり…別れた理由は様々だから…佐伯を捨てた男たちにも事情があるんだろう。佐伯さんは…一途なんだろうな。だからいつも捨てられて傷つけられたんだろう。
なぜか息苦しくなって、大きく深呼吸をした。傷ついた佐伯さん。俺がその傷を癒せないだろうか。
待てよ…傷ついた佐伯さんは今一人。俺は傷ついた佐伯さんを一人にして来てしまった。
とっさに立ち上がり、佐伯の部屋に向おうとして足を止める。このまま佐伯の部屋に行っていいのだろうか。自分はどうしたいのか。
これまでも衝動の波に押し流されるようにして人生の分岐点を越えてきた。そしてそのたびに反省はしたけど、我が人生に悔いなし。それなら佐伯を抱きしめたいこの衝動に従っても悔いは残らないはず。
木田は急いで自分の部屋を出た。
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