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第16話 天然か強かか

俺が鼻息荒く部屋に戻ってくると、瑆さんはすぐに現れた。 「おかえり~」 相変わらずの微笑みを浮かべて。 さっきまでセフレと会ってたくせに、平然と何事もなかったように。 あ、れ? 早くない? 俺の方が先に帰路についてたわけだから、ラブホには入ってなかったとしても脇道に入り込んでた瑆さんは俺より後のはずじゃ? 見間違い? いや、俺が瑆さんを後ろ姿とはいえ見間違うはずがない。 男に送らせたのか。 でも帰宅ラッシュで渋滞してたような…。 ちょっと決心が鈍るというか、頭が冷静になってきたみたいだ。 「…瑆さんこそお帰りなさい」 俺が言うと瑆さんはふふふ、と笑った。 「ただいま、良くん」 くらりと瑆さんの微笑みに揺らぎそうになった決意を頭を振って奮い立たせる。 やばい、誤魔化されそうだ。 勿論、瑆さんは俺の心中など知る由もないので、誤魔化すつもりなんか毛頭ない。 たぶん、刷り込みに近いこの微笑みに俺は弱いのだ。 「大丈夫だよ、良くん」 なんて俺の全てを肯定するようなセリフとともにこの微笑みを向けられ続け、俺は無条件に瑆さんの微笑みに安心するようになっているんだろう。 勿論瑆さんに他意はない、はず。 もし、全てが瑆さんの企てなら、いつもの天然お馬鹿な雰囲気は完全に作り物で、本当の瑆さんは相当な策士で、したたかだ。 実際、俺はその片鱗を見ているじゃないか。 準備万端で俺を襲ってきてるし。 ここぞというところで涙を見せたり、拗ねたり。 ハイレベルな演技を見せられてるんじゃないか? 頭脳も俺なんかより相当良いんだから。 幼馴染なんだから、俺の性格なんか把握できてるだろうし。 疑いだしたらきりがない。 今まで一度も疑ったことのない瑆さんの微笑みに、ここまで懐疑的になるとは…。 俺も相当きてるな。 と言うことで。 俺もちょっと策を講じてみる。 「瑆さんはどこ行ってたんですか?」 「ん~?」 「メールの返信来なかったから、忙しかったんじゃないですか?」 「ああ、あれね。ちょうど大学から帰ってる途中だったの。電車の中だったからマナーモードに気付くの遅れちゃった。ごめんね、席で電話取るのマナー違反だと思ったから車両間まで移動してたら、出るの遅れちゃった」 「そうだったんですか」 うーん、やばい。 辻褄合ってる。 しかもあの時電車の中だったら俺より先についててもおかしくない。 となると、あれは見間違いってことになる。 でも俺が見間違うとか、ないはず。 …………。 あ、だめだ、無理。 俺には難解すぎる。 ただしつこく宣言する。 俺は見間違いなんかしてないっ! 俺は確かに瑆さんがセフレといるのを見たし、ラブホ街へ入っていくのを見た。 なぜかその時覚醒した俺の望遠機能ではっきりと。 どうやって俺より先に、いや俺と変わらない時間に帰って来れたのかはわからないけれど。 その証拠が一つだけある。 瑆さんがきている服。 俺は瑆さんがどんな服を着て今日大学に行ったのか知らなかった。 だが今着ている服とセフレと並んで歩いていた服は同じだ。 よし。 ちょっと自信を取り戻せたぞ。 「良い参考書あった?」 瑆さんは無邪気に俺の買い物袋に手を伸ばす。 無邪気、てのも俺が思い込まされてるだけかもしれないよな。 …なんか、黒いな、俺… 「よくわからなかったので適当に買ってきました」 袋の中から参考書を取り出すとぺらぺらとめくり始める。 「大丈夫、肝心なのは数をこなす事だよ」 そう言った瑆さんがちょっと頬を染めながら、参考書越しに微笑みかける。 「じゃあ、始めようか」 いつものセクハラを含む家庭教師の始まりだ。 俺も思わずごくりと喉がなる。 「はい」 今日はいつものようには行きませんからね。 最初はいつも通りの展開。 悪戯を含みながら瑆さんがその場をリードしてる。 「じゃあ、ここの例題やってみようか」 参考書の1ページを示しながら、瑆さんがペロリと舌舐めずりした。 「いつも通り間違えたら悪戯ね」 俺は黙って問題を解き始めた。 ここまではいつも通り。 でも今日はわざと全問、だと流石にちょっと怪しいので半分ほど間違えてみる。 わざと間違えるって意外と難しいんだな。 わざとだってバレないように考えながらやるから、かえって勉強になるのかも。 「あれぇ、良くん今日は不調かなあ」 答え合わせをしながら瑆さんに呟かれ、ちょっとどきりとした。 「そんなに間違えてます?」 俺はしれっと答える。 瑆さんは採点しながら、ちょっと口端を緩めながら俺を見上げた。 「うーん、ちょっとハードな悪戯になっちゃうかな?」 ふふふ、とどこか嬉しそう。 良かった、バレてない。 「…悪戯抜きに出来ません?」 俺がいうと、瑆さんはさらに楽しそうに言う。 「だーめ。良くんが間違えちゃうのがいけないの」 「じゃあ、後でまとめて」 「えー、どうしようっかなあ」 瑆さんは考えるように参考書をぺらぺらめくってる。 先の方を確認するみたいに。 それから俺を振り向くとにっこり笑った。 「やっぱりダメ。今悪戯しまーす」 瑆さん的に一応家庭教師としてのスケジュールみたいなものがあるのだろう。 そして悪戯できるタイミングが今しかなかった、って感じなのか。 まあ、俺的に本当はどっちでもいい。 後でも先でも、結局やることは一緒だし。 さっきの発言は、ただ演技とか作戦がバレないようにするための伏線でしかない。 すっと寄り添うように体を寄せた瑆さんの手が、俺のズボンの股間辺りを撫でる。 悪戯だ、と言いながら俺を弄ぶのはそんなに楽しいのだろうか。 瑆さんの口元が緩んでいる。 ズボンの上から指先で軽く撫で回し、時々形を確かめるように強く押してくる。 指先から手のひら全体で触れ始めると、まだはっきりした形を主張していないペニスを探すように輪郭を包むように撫で摩る。 薄っすらと頬を染め、口元を緩める瑆さんの表情を俺はじっと見つめた。 セフレのペニスにもこんな顔して触れるのか。 そう思うと怒りが爆発しそうなほど、こめかみがジンジンしてくる。 別のことに夢中なせいか、俺のペニスの反応が悪い。 いつもならとうに瑆さんのなすがまま、硬くいきり勃ち愛撫を待ち焦がれているのに、今日はまだ立ち上がりさえしない。 瑆さんも少し首を傾げる。 やばいなあ。 俺自身が役立たずじゃあ意味がない。 「そんなに勉強がしたいの、良くん」 幸い瑆さんは別の意味に捉えてくれた。 「そうですね。わざわざ二駅先まで出向いて買ってきた参考書ですから、もう少し勉強したいかも」 反応も悪いことだし、そうゆうことにしておこう。 もう少し時間を置けば。 そんな俺の言葉に瑆さんはぷうっと頬を膨らませた。 それから徐にズボンのファスナーを下ろし始める。 瑆さんに反応しなかったことで機嫌を損ねてしまったらしい。 柔らかい俺のペニスを取り出すと、手の平で包み込みながら揉み込み始めた。 ちょっと膨らませた頬の中でくちゅくちゅ音がする。 「瑆さん?」 何をする気だろうと見つめる俺の前で、瑆さんはペニスに向かって唇を開き舌を差し出す。 そこからとろりと唾液が滴り落ちてきた。 生暖かい濡れた感触が先端に落ちてきて、広がりながら滴り落ちていく感触に、俺は思わずぶるりと背を震わせた。 そんな俺を見上げながら、瑆さんがにやりと笑う。 「ほら、勃った」 嬉しそうな瑆さんに、俺は別の意味でごくりと喉を鳴らした。 よし、いよいよか。

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