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第58話 俺を好きって、ほんと?

俺の中に、どくどくと、熱いものが、注がれるのを感じた。 呼吸が荒かった。 全身が火照って、汗ばんで、頭が真っ白で、身体に残る快感が心地よかった。 ゆっくりと、ギルバートの雄が抜かれる。 軟膏と精液とでどろどろになっていた。 さっきまで満たされてたのに、ぽっかりと開いてしまったようで。 ………ていうか、 え、っと…………え? 頭が働かない。 ぐったりとベッドに倒れ込んでいると、ギルバートが俺の頭を撫でた。 「大丈夫か」 「え…………うん」 「魔素不足はこれで解消のはずだ。タオルを濡らしてくるから、エルマは待ってろ」 ギルバートはテキパキと身支度をして、そくささと洗面所へ向かった。 ーーー好きだ、エルマ さっき聞こえたのは、俺の妄想が生み出した幻聴? いや、でも、確かに……。 「聞き間違い、じゃ、ない、よな」 ぽつりと呟いて、言葉を噛み締めると、時間差で心臓がうるさく鳴った。 「エルマ、身体は大丈夫か」 ギルバートがタオルを濡らして帰ってきた。 洗面所はすぐそこなのに、かなり時間がかかっていた。 ちらりと顔を見遣ると、ギルバートの前髪が濡れている。きっと頭を冷やしてきたんだろう。しれっとした顔をしてるけど、多分、俺に見せてないだけで、色々隠してそうだ。 どうしよう。 あれってホント?とか、聞いちゃう? でも、聞き間違いだったら恥ずかしい。 けど、すごく、気になる。 「エルマ?」 「え、あ、うん! 大丈夫! おかげで魔素も行き渡った感じ」 ぼーっとしていたからか、ギルバートが心配そうに俺を見遣った。 やばいやばい。咄嗟に笑顔を向ける。 身体はホントに大丈夫だ。ちょっと行為後の疲れと腰が痛いってだけで。 ギルバートがどろどろになった俺の身体を拭いた。お湯で濡らしてくれたのか、暖かくて気持ちがいい。汗ばんだ身体が楽になった。 けど。 ぎこちない沈黙が落ちる。お互いそわそわしている。 柔いところが剥き出しになっているのを、どう触れようか、手をこまねいている感じ。 「………あのさっ」 気恥ずかしい空気に耐えきれず、俺は口を開いた。 「お、おれを、すきって、ほんと?」 口にした後で、急に恥ずかしくなった。 なにバカ正直に聞いてるんだろう、とか、ぐるぐると考えてしまった。 ギルバートは俺の身体を拭く手をぴたりと止めた。しれっとしていたのに、徐々に赤くなって、唇をきゅっと噛んでいた。 「聞こえてたか」 「うん」 「…………本当だ」 小さくて、聞こえきれない位の声で、ギルバートが呟いた。俺は頬がカッと熱くなる。 全身が高揚するように、飛び跳ねたくなった。 けれど、ギルバートはうつむいたまま早口でたたみかけた。 「でも、無理に応えなくていい。エルマが俺を恨んでるのは知ってるから」 俺は目を丸くしてしまった。 「恨むって? なんで?」 「……恨んでる、だろ。俺が………、俺のせいで、エルマは、騎士になれなかった」 「え?」 「選抜試験の時に怪我をしたのも、マナレギュレータをいれることになったのも、全部俺のせいだ」 ギルバートの顔は辛そうだった。 何を言ってるんだ。 確かに、ギルバートが狙われたところに俺が入っちゃったのはあるけど。 「お前のせいじゃないだろ」 「でも、俺が狙われたのに」 「狙ったヤツが一番悪いだろ。そこに偶然入り込んだ俺も間抜けだった。それだけだ」 ギルバートが、おずおずと俺の顔を見上げる。額に皺を寄せて、困惑したような表情で。 あんまり信じてないな、これ。 俺は、はぁ、とため息を吐いて、続けた。 「俺が恨んでるのはギルバートじゃないよ。もうギルバートと一緒に走れないこととか、対等になれないこととか……。そういう、どうしようもない変化が、嫌だったんだ」 口にした後で、ストンと俺の中に落ちてきた。 ずっとギルバートに抱いていた劣等感や焦燥感。言葉にすれば簡単なことに思える。 俺の態度はギルバートを勘違いさせてもおかしくなかった。今までとってきた態度を反省した。 「俺がいま生きてるのはギルバートのおかげだろ。あのまま死んでもおかしくなかったんだ。マナレギュレータだって、俺の家じゃ買えなかった。むしろ申し訳ないのは俺のほうだ」 「そんなの、当たり前のことだろ」 ギルバートが俺の手を取った。ぎし、と強く握り締めて。まるで咎人が罪の告白をするみたいに、懇願するように。 「エルマが俺のせいで死ぬなんて嫌だ。申し訳ないなんて言うな。そんなこと気負わないでくれ。エルマが生きててくれるだけで、それだけで、俺は嬉しいんだ」 叫ぶようなギルバートの声は、切羽詰まっていた。胸がぎゅっと締め付けられる。 いままで話せなかったこと。あの日のこと。 ずっと直視できなくて、お互いの中でトラウマとなって燻っていた。 口にできないだけで、すれ違って傷つけ合っていただけで。俺たちはどっちも悪くないのに。 「ありがとう」と、掠れる声で呟いた。 いままで言えなかったことが、胸の内に次々と溢れてきた。 俺を助けてくれてありがとう。 俺のためにマナレギュレータを用意してくれてありがとう。 あのとき、俺の様子を毎日見にきてくれてありがとう。 全然言えなくて、会うことができなくて、ふさぎこんじゃって、ごめん。 胸につっかえていた大きな黒い塊が、次第に溶けて消えていく。 ギルバートの瞳を見つめた。 金色の瞳は、ずっと俺を映していた。 まっすぐに受け止める。 唇が震える。唾を飲み込む。 こんな気持ちを口に出すのは、生まれて初めてだ。 でも、言わなきゃと思った。言いたかった。伝えたかった。 ずっと、俺が抱えてきた、気持ちを。 「俺も、ギルバートのこと、好きだよ」

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