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赦しのダンザイ

 どこに居ても行き場がない。  その持て余す感情を、お前はどうして抱えようとするのか。 「ファズ」  結局のところ、俺は、お前から逃げられないことが苦しいのかも知れない。  それはつまり、自分から逃げられないってことだからだ。 「ダンザイ」  なので、唾を吐いた。     「アイヨーアイヨーミズキちゃんにアイタイヨー」  高速道路を運転中のファズはうんざりしながら相棒の求愛を聞いていた。こいつはキャバ嬢に入れ込んで500万、スッたばかりである。 「ダンザイいい加減にしろ」 「あん? うるせえなァ、俺が悲嘆に暮れてるってのに惚れもしないし慰めないってのはなァ、いいか? お前ぐらいだぞ、ファズ」  だからお前こそいい加減にしろ。とダンザイは言いたいらしい顔でいる。  とんだナルシストである。  ファズはため息を吐いた。ミズキちゃんはダンザイの金を持ち逃げしてトンズラこいた。その尻拭いをファズは今回の仕事を入れることで受けている。  大体、賞金稼ぎなんて自分の性に合っていない。とファズは思う。  この男に巻き込まれる形で、いつの間にやら組んでいる。  平凡な幸せが、ダンザイのおかげで炭酸の泡沫のように抜けていくのが分かった。 「俺が不幸になったら、大体お前のせいだ、ダンザイ」 「へえそれはそれは」  ダンザイは丸いサングラスを指で押し上げて、短い金髪を掻き上げる。端正な唇にはチュッパチャプスを咥えていて、それは苺味だ。  ファズは運転しながらその甘い香りが鼻につくのに苛立っている。  それと、ダンザイがファズのチンポを取り出して、もてあそび始めたのにも苛立っていた。 「ふざけるな」 「ふざけてねえよ? 今日のノルマ、お前を落とせたら一億円チャレンゾ」  バカな石油王が、遊びでソンナコトを言い出した。ダンザイのブラックなつながりのフレンドだ。  ――相棒は男にも女にも興味ないらしくってぇ、へえ~じゃあダン、そいつ落とせたら一億あげるよ。  まじか。  あれから弐週間だ。毎日口説きという名のチンポチャレンジが発生する。 「場所くらい選べダボ」 「ダボじゃねえ、ダンザイだ。ン、とボじゃえらい違いなんだからな、ボはフェラの汚え音でェ、ン♡ は可愛いお姉ちゃんの喘ぎ声だ」 「作りもんだろうが」  お姉ちゃんの喘ぎ声は。 「あ~~? お前そういうところ良くないよ、本当に。現実を冷笑するな、していいのは戦争だけだぞ」  戦争もよくはねえだろ。 「ん……」  ダンザイがファズのチンポを咥える。その顔はやけに色っぽく眉がゆがむ。真剣なまなざしだ、こんなことでなければファズもその真摯さを歓迎したものを。 「……っ」  息を詰める。チンポをしゃぶられてて事故りましたなんてどこのバカップルかと思う切符の切られ方は勘弁されたい。  俺のチンポがチュッパチャプス苺味になる。  ファズはこめかみに血管を浮かべながらも必死に耐えた。  この状況と、少しの快感を。    ダンザイはいつも金に困っていた。この業界で仕事をしているなら、いくらでも入ってくるのに?  何を隠そう子供に金をばらまいていた。孤児院や病院や教会に寄付をしている。そんなわけで、ミズキちゃんへの五〇〇万も彼女の借金を肩代わりした結果だった。前半でごまかそうとしても、普通にやっぱりミズキちゃんの下りはカスだ。  お人好し。極度のお人好し。  カスでクズの人殺しだが、巷はダンザイをこう呼んだ。赦しのダンザイ、彼はまごうことなき聖人だ。  世界は終わってる。  キャバ嬢にハマる聖人がいてたまるか。    駐車スペースまでに間に合わず、ファズは道の途中で車を止めた。 「はっ、……ぁ、くぅ……っ」  じゅぼじゅぼと下品にダンザイが口で扱く音が聞こえていた。ファズは力強くダンザイの頭をつかんで引き剥がそうとする。しかし、駄目だった。ダンザイは上目遣いで弓なりに目元をゆがませ、嘲笑するようにファズを笑った。深く深く、くわえ込んでいく。 「う、くぅっ、…っ…ふ」 「っ、声出せよ。かわいー声、聞かせて? なァ、ファズ」  ファーズ♡  ファズは震える手で中指を立てた。ダンザイが激しく汚らしい音でチンポを吸い上げる。 「ぁア、ッ……くそっ」 「きもちい、気持ちいいなァ、ファズ♡」 「よくねえ、早く終わらせろ……っ」 「嘘つくなよ。嘘つきは泥棒の始まりって知らねえの? 泥棒になったら俺がファズをとっちめなきゃならねえじゃん?」  それは良くねえよ。だろ?  ファズはイかないように必死だった。必死だったので、ダンザイの軽薄な言葉もほとんど頭に入ってこない。 「くそったれ……っ」 「あー♡ かーわい♡ チンポビンビンじゃんファズ♡ ビクビク震えて泣いてんの」 「泣いてねえ、ただの先走りだろうが」 「ポロポロ涙流して、たまんないねえ」  ファズの言葉を無視してダンザイはチンポの先を食むように咥えた。 「ぐぅッ」 「あんあん♡ って喘いでいいぜ、俺ァ気にしねえから」  ファズは唇を噛んで強く結んだ。サングラスの向こうから、ダンザイの青い目が暗く濁るのが見える。 「強情」 「……――ッあ」 「俺の恋人にもなんねえし? つまんねえよファズ」  つまらなくて結構だ。その言葉は形にならない。ファズはダンザイをにらみつけた。 「……かわいいね」  隣からダンザイが乗り出してくる。 「おい、やめろ」 「やめろ?」  あ。地雷を踏んだ。とファズは気がついていた。  相棒に自分を拒否されるのに、ダンザイは慣れていない。 「うるせェな」  ダンザイは暗い目をして笑う。 「俺が俺のもんを好きにして、なにがわりーの?」  なあ、ファズ。  横暴な内容のくせに、その声はやたらと甘い。蜂蜜に砂糖と練乳を掛けたみたいに甘かった。  ファズは思う。誰にでも博愛気取るダンザイが、自分にだけはどういうわけだかこうなのだ。 「なあ、いい加減俺の恋人になって?」  やってられない。  ゲームだとか本気だとか嘘とか冗談だとかそういうものが、全部本心から汚い色で混ざっている。  ファズはため息をついた。  息が熱い。  潤む目を眇めて、諦めたように肩の力を抜く。のしかかってくるダンザイを車のシートを倒しながら、淡いキスで受け止めた。 「♡♡♡ ファーズ♡」  大型の猫がじゃれついてくるようなものだ。自分より大きなそれを、ファズは必死に受け止めている。 「んっふ、ぅ……んんっ」  舌を絡めてはぬるりと出て行く、と見せかけて深く混じり合う。  とろりとした顔でファズはダンザイの頭を撫でる。  ――ああ、こうなるから嫌だったんだ。ファズは内心で思った。  きもちがいい。気持ちが良いのが一番嫌だ。  ファズが五歳の頃だ。養父がファズに見せたものがきっかけだった。それは煌びやかで猥雑な空間だ。居ても経っても居られない恐怖で、ファズは家を飛び出し、そこから帰っていない。  それ以来、男も女も駄目だった。恋愛沙汰も一度だって経験がない。  弐週間前、石油王が余計なことを言わなければ、ダンザイも余計な『言い訳』を手に入れなかったのに。  ずっと檻に入ったライオンのままで向かい合って居られたはずだ。  臍をかむ思いでファズはダンザイの長いキスをしゃぶり味わう。  チンポがビンビンに勃起していた。それを、ダンザイは今度は触らないように別の場所ばかり愛撫する。  いつも、ダンザイはファズをイかせない。イけ、と言う割に、こうしてなし崩しにファズが受け入れると、触ってくれなくなった。  代わりとでもいうように、ファズの不浄の穴に侵入してくる。 「ここに毛が生えてるのも、かわいい」 「頭がおかしい」  フフ、とダンザイは笑った。トロトロに熟した桃みたいな滴りで、瞳を潤ませている。 「かわいいよ」  ファズは返す言葉を失って沈黙した。その間にもダンザイはファズの衣服を断りなしに脱がしていく。  ファズはぼんやりとダンザイの耳を見ていた。ピアスが縦に三つ付いている。これは、シスターたちからもらったものだったか。下の二つはキャバ嬢からの返礼品だった。 「ぁ、んっう……っ」  ソンナコトを気を紛らわすために考えた。  指でナカを探られて、吐き気のような違和感が体に起こる。そして同時に、怖気のような快感が走って、どうしようもなくなる。ファズにはこの行為が、愛だとか恋だとか、わからずじまいでいるからだ。 「っ……くっ、うあ」 「もっと声出せって、出した方が楽になるから」  ファズは息を乱しながら首を振る。ダンザイは笑った。 「ホントに強情だ」 「ァ、あっ!?」  指が引き抜かれて、代わりに剛直とした熱がもったりとした重さを伴って侵入してくる。  息を詰める。徐々に徐々にと押し入ってくるそれに、ファズの目から涙が零れた。それを、ダンザイは至って自然に舐め取る。 「きもちよくしてあげるからなァ?」  誰も望んでいない。期待も、していない。求めていない。  でもそれらの言葉も一度だって形になったことはない。ただ、熱の揺さぶりのさなかで喘ぎとなってとけていくだけ。 「ひう、っ、ああっ、っん、ぅう…っ」 「きもちいい♡ って言ってよ、ファズ。おねがい……」  甘える声で、容赦ない腰振りをするダンザイに、ファズは顔を真っ赤にしながら耐えている。  ファズの尻はすり切れそうなほど発火する熱に擦り上げられて限界だった。  ぴゅっぴゅっ、と先走りがダンザイ曰くの愛らしい泣き顔で飛び出ていく。  たまらない。  どうしたって逃げられない場所で追い詰められた。そうなったら乞うしかない。 「ゆるして、」  喉から絞るように声が出た。 「んー」 「ゆるし、て……っ」  とうさん。  かすむ目で喘ぎながら許しを請う相棒を、ダンザイは甘ったるい顔でなで回す。 「許されたいの? ファズは」  ファズはその言葉に、ぼんやりとした顔で腰を振っている。 「……し、て」 「んー?」  ダンザイにすがりつきながら、やわらかいところをむき出ししたような声でファズは言う。 「だんざい、もっと……して」  もっと、なにもわからなくして。  ダンザイは舌なめずりをした。 「了解」   「あっ、あっ、あ、ッ、あァッ……」 「かわいい、かわいいよ、ファズ……」  ダンザイはファズをかわいがりながら深くまで抉り、そして少しだけ抜いて再び剛直を押し込む。  ファズは濡れた声で舌を出しながら苦悩する顔で首をゆるゆると振る。  かわいい。可愛いと言われて甘やかされて、その気になってる自分がはずかしい。 「ダンザ、イ……ダンザイ……」 「あーマジで……なんでこれで俺のものって自覚がねえのかホントわかんねえや」  腰をゆるゆると回しながら、ファズが油断したところを一気に押す、悲鳴のような野太い声が上がってたまらずダンザイは目を細める。 「好きになってよ。てか、好きなんだろ? とっくに俺のこと」  ファズは白痴のような声でダンザイを見上げる。 「すきじゃない、おれはかわいくないから、すきになんかならない」 「そういうところが可愛いんだって! クッソー、でもなんだかんだいってえっちさせてくれるとことか、ずるくてバカですきだよ」  すきだよ。  ファズの頭の中でその言葉がなぜかリフレインした。 「お?」  ファズの足がぎゅう、とダンザイの腰を抱きしめるように交差する。  同時に、ダンザイの喉から奇妙な音が鳴った。 「~~~……抱き潰していいってこと?」  ファズはダンザイを潤んだ目で見返している。      ダンザイの腰振りがファズのそれと合致してリズミカルな踊りのようになっていた。  と、ファズはふわふわする頭で思った。ダンザイのえっちは気持ちよくて、怖い。  怖いのに、きもちよくて、甘えていいから嬉しいのに癪だ。 「あう、んっ、っふうう……~~っ」 「な、な、もっと言って? ファズ」 「う、あ……ダンザイ、きもち、いいっ…きもち、」 「はあ、ホント駄目。お前は駄目な子だよファズ。良い子すぎる」 「おれ、だめ……な」 「良い子~~~!!」  ファズが不安になる前にダンザイはファズの頭を撫で繰り回した。そうしてたくさんキスをする。 「好きだぜファズ、お前の不安が、お前だけのものじゃなくなればいいのにな」 「、う」  『スイッチ』の入ったファズはダンザイの言葉がわかるようでわからない。ただ、わからないなりに、今のセックスが気持ちいいことだけはわかるので、せかすような気持ちで後ろをぎゅっと甘く締め付けてやる。  ダンザイがたまらないとばかりにため息を吐いた。 「ファズの親父も、そのうち狩れたらいいんだけどなァ、リストには載ってんだからよ」  ファズは動かないダンザイのかわりに自分で腰を振りたくる。きもちよくなって、甘いと息が零れていく。  ダンザイは笑った。 「きもちいいな? 良かった、じゃあもっと気持ちよくなろうな」 「! あ、あっああ、…あ…っあぁああぁあッ」  ガツガツと獣のように掘りたくられる。頭がバカになる。おかしくなる。ダンザイのチンポのことしか考えられない。だめになる。気が、狂う。 「ダンザイ、ダンザ……イ、ダンザイッ」 「ああ、もっと呼んでよ、ファズ。もっと呼べ」  どんどん知らない高みに連れて行かれる。  怖い。 「ファズ」  でも、ダンザイは笑ってる。 「大丈夫だよ」  そう、優しくダンザイが笑っているなら、その間は怖くないのかもしれない。  深い悦楽が、ファズのイケない場所を刺激している。 「ね、おまんこきもちいい? ファズ」  その最低な煽り文句でイッたことを、『戻って』きたファズは後悔するのだろうけど。 「きもち、いい……ダンザイ……」  スイッチの入ったファズは、ただただえっちなことを言われたから、うれしい、というところまで壊れていく。   「二度と車でしねえ」 「エー?」  運転を再開しながらファズは宣言した。ファズはため息をつく。腰が痛い。座ってるだけで良いからマシだ、なんてことも言いたくないくらい腰が痛い。ダンザイはニヤニヤと笑っている。 「大体お前、運転くらい代われよ」 「ファズが切れるからだろ、俺が運転するとすぐ変われって言うくせに」 「当たり前に交通ルールを守んねえからだよカス」 「うるせえなカスって言う方がカスなんです~」  ガキかよ。  あきれながらファズはもう一度ため息をつく。  恥ずかしくていたたまれない気持ちを毎回持て余している。だっていうのに、ダンザイときたらいつもこの調子だ。わざとファズが居心地を悪くしないようにするために、こうして茶化した態度なのかも知れないと疑うほどだ。 「あ、トンボ」  いや本当に何も考えてないだけかも知れない。 「今日もファズが可愛くてよかったなー」 「感想が夏休みの研究すぎるだろ」 「植えたゴーヤがとれたのでサラダにしました」 「そこはトマトじゃねえのかよ」  くだらない会話をしている間にSAにたどり着く。一息ついて、ダンザイが売店に向かうのを見送った。  両手を組んで頭をかかえる。  車の中で小さくなりながら、ファズは全身真っ赤に染まっていた。 「ホントに、明日こそはああならねえ……」  バカみたいに、どうせ崩される予定の小さい決意が日常に溶け込む。  弐週間前から、悪夢を見なくなっているなんてコトはさっぱり忘れた様子で、ファズは祈る。 「どうかあのバカが気がつきませんように」  弐週間どころか。  俺がとっくの昔に堕ちてるなんてコトは、癪なので。

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