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臨六の恋路は煩悶だらけ―煩悩寺の息子、男サキュバスに狙われる―

 小さい頃の恋路(こいじ)は、それはそれは美少女と言って良いほどかわいらしかった。  臨六(のぞむ)は、ずっと恋路を守って傍に居るんだと思っていた。結婚の約束だってしていたのだ。 「のぞむ!」  恋路が男だと知るまでは。      ハッと我に返る。思わず美しい回想に意識を飛ばしていた。 「ね、ちゅーしよ、ちゅうして? 臨六」  そんなわけで、臨六は通学中の電車内でキレている最中であった。  恋路がこんな場所でもエロすぎるから。それでもナントカ紳士の皮を被ったまま、耐えていた。 「……恋路くん、少し離れて」 「やァだ。ナア、臨六。良いだろ? 俺、こんなに良い子にしてたんだぜ?」  恋路は眼鏡の向こうからいたずらに笑うと、自分のジーンズを舐めるようになで回した。    筋肉でパッツパツの太ももを愛撫する。  ひとつ、臨六の頭の血管が切れた音がする。 「恋路、離れろ」 「やだってば。一回くらい許せよ、俺ァ腹減ってんだから」  何を隠そう、恋路はサキュバスである。サキュバスは、人間の食事とは別に、精気を吸わなくては存在できないのだ。  そして臨六は寺の息子であり、煩悩からはド真面目に離れたいのである。  しかしそんな寺の息子にサキュバスはずっと目を付けていた。おいしそうだったから。彼はとてつもない偏食で、なかなか食事をとれていないという。  臨六は思う。  こんなに自分は健康的なのに、サキュバスに狙われているのはおかしい。  恋路をナチュラルに蚊扱いしながら、ロックオンされている現実から逃避していた。    臨六は童貞である。  『そんなの絶対おいしいに決まってるよね?』と恋路は言った。そんなの絶対、俺が食べてやりたいに決まっている。と断言した。  会話の全部が意味をちょっとずつずれていて、臨六は恋路を理解できたためしがない。わかるのは、恋路がずっと腹を空かせていること、それとクソほどにエロいこと。  思わず臨六の優等生の仮面が剥がれそうになるくらいには。 「ふざけないでくれ、恋路くん」 「アア、戻っちまった。素のしゃべり方がいいよォ、臨六お前」 「放っておいてくれないか?!」 「胡散臭いしゃべり方の臨六もわるくねえんだけどよ、俺ァもっと『お前』を感じたいからさァ」 「人の話をききたまえ」 「抱いてくれたら、聞いてやってもいいよ」 「……」  臨六が黙ると、ニタニタといやらしい顔で恋路は眼鏡を押し上げた。 「抱かせろとはいわねェ。そこまで俺ァ横暴じゃあねェ」  ただちょいーと、童貞を食いたいだけ。 「どこがちょっとだ!?」 「つまみ食い、ちゅーだけちゅーだけ、一回だけ! な?」 「何度駄目だと言わせる気だい」  そうしてなし崩しにことが発生したのが数え切れないほどあるというのに。  恋路は笑った。 「臨六が諦めるまで」  臨六は頭を抱える。ガタン、と電車が揺れて恋路の体がさらに密着した。頭一つ分大きい恋路の豊満な胸に、顔が埋もれる。 「……っ」 「やーらし、なァ、気持ちいい?」  おっぱい。  臨六は言葉を返さないまま、頭の中でキレ散らかした。      大学では一緒にならなくて済むと思ったのに、恋路はほいほい付いてきた。進路を変えて。  執着のほどはあっぱれだが、どうか別のことにその才能使ってほしい、臨六は気にしないから。  けれども恋路は、ずっと臨六を追いかけてくる。手を替え品を替え、臨六の知る限りでは中学時代から狙っている。  そのくせ、処女は知らないおじさんに手放した。      それを知ったとき、臨六は思ったのだ。  なーんだ。  こいつも、女どもと大して変わらねえな。  それは拍子抜けしたような気持ちと、小さな失望が入り交じった複雑な感情で、それ以来臨六は恋路の言葉を真剣に受け止めなくなった。    食事を絶っている、と言われても。  そんなこと知るか、臨六には関係ないことだ。  と、突っぱねて、突っぱねるたびチョットだけ恋路が傷ついた顔をする。そのたびに臨六は言葉に詰まって、その隙を突いた恋路に仕返しをされた。  『お前が何をしても、俺ァ嬉しいだけだけどね』  笑顔で吐き捨てながら恋路は言った。  そんなマゾ極まりない恋路による仕返しの結果、童貞なのに童貞の知らないテクニックを、身につけている。  たとえば、相手より先にイかないとか。  どうしてそんなことを知っている?  臨六が知りたい。清廉潔白でありたいのに、ドウシテ自分は、こんなことを身につけた。      電車から降りてすぐ、恋路はトイレに臨六を連れ込んだ。手洗いをしていたサラリーマンがぎょっとした顔で恋路を見た。大丈夫だよおじさん、そいつはただスケベなことを俺にする気なだけだから。  ああ。 「もう我慢できねえ」  臨六が電車で俺の胸揉むから。  揉んではいない。顔が埋もれただけである。  ひどく発情した様子で眉をつり上げた恋路が臨六に覆い被さってくる。大きな体に捕まっては逃れるのは至難の業で、臨六は個室に連れ込まれた時点である程度の自己犠牲を悟った。童貞を奪われないなら勝利である。苦い勝利だが。  恋路のキスはねちっこい。その外見によくマッチしているねちっこさだ。  舌を絡めて、口内をまさぐって、愛撫して、あふれた唾液を舐め取るようにまた絡める。  淫蕩な水音。  恋路は遠慮なく甘い鼻息(びそく)を漏らしながら、キスに浸る。余談だが臨六の初恋もファーストキスも恋路であり、それは4才の頃で、まだ恋路が男だとも知らなかった時代である。  あんなにかわいかったのに。あんなにかわいかったのに、今では190センチを超えるムキムキの大男だ。  なのに臨六に抱いてくれと言う。  『俺が臨六を抱くんでもいいけど、臨六そっちはいやだろうし、俺もお前には抱かれる方がす・き♡』      しらねえよ、マジで。  臨六は唇を離す。呼吸を互いに荒くしていた。  便器に座った臨六は、再び恋路がのしかかってくるのを黙ってみている。  発情していやらしい顔。  雌の顔だ。 「恋路くん……」 「ン、……臨六勃ってる」  嬉しそうに言って恋路はそっと服の上から臨六のそれをそうっと長い指でなぞる。エロすぎる。 「臨六……咥えていい? 臨六のチンポ、俺の口で咥え込んで、奥までジュボジュボしていい?」 「……っ」  逃げ道を探す。正面の扉は恋路の後ろ。  ない。  完。 「くそ……」 「なァ、臨六。いや? 俺は臨六をいーっぱい、気持ちよくしてやりたいだけ……」  低音ささやきボイスをやめてくれ。耳元でささやかないでくれ。どうかそれは需要のあるところで発揮しろ。  思考を逃避しながら、臨六はもぞついた。そして諦めたように恋路を見る。  その臨六の顔は恋路から見て、懇願するような色を帯びていた。  『頼む。お前の口でフェラチオして。たくさん気持ちよくして?』みたいな。  恋路はニコニコになって臨六のそれを取り出した。 「で、っか……♡」  何度見ても見慣れない顔で恋路は臨六のそれに夢中になった。恋路のチンポも大きいが、それよりひとまわりでかいので、いっそ細身のペットボトルを思わせる。  つまり、臨六は自分のチンポにコンプレックスがあるのだった。 「たまんねェよ、臨六の顔にこんなもんついてんだもん……♡」  喜ぶ相手は恋路くらい。だから絶対童貞だけは死守する。  そんな決意を新たにしていたところに恋路が臨六のチンポを扱き出す。恋路のでかすぎる手でやっと普通サイズに見えるチンポに、臨六は切ない気分になった。  『俺にはこいつ以外いない』とチンポにも言われているような気分でチンポからの裏切りを感じる。  臨六のチンポはすぐに大きくなって、恋路はその分厚い口で舐め始めた。 「ンッ、ちゅ……おっきい、のぞむ♡ いっぱいきもちよくしてやるからなァ♡」 「うるさい」  黙ってやれ。  その言葉にも亭主関白……♡ と喜ぶのだからマゾというやつは手に負えない。誰が亭主だ、泣いて暴れるぞ。  じゅぼじゅぼと音を立てて、恋路はつるつるとした腔内で扱き上げる。  『昔は歯を全部抜いて、それ用に仕立てたんだって。臨六、知ってる?』  とかなんとか潤んだ目で言っていたのを、フェラされるたびに思い出す羽目になっている。  恋路の陽気さに、たまに差し込む陰ははたして何事なのか。サキュバスだからか?  『俺、臨六が俺を使ってくれるなら、そのために歯ァ全部抜いても良いよ』  という言葉で射精したブラックメモリーが刻まれている。臨六は屈辱的だった。こういう話が恋路といるといくらでも出てくるので、臨六は恋路と居たくないのだ。  俺だけじゃなかったくせに。  俺は普通の性癖をしているのに恋路がいると、それだけでなにかを狂わされ、おかしくされていく。  まるでなすりつけるように被害者ぶる臨六のことを、それでも恋路は盲目になった瞳で見ていた。  どうにも救いようのない関係だ。  臨六は思う。自分以外だったらさぞ献身的な恋人として歓迎されるかもしれない変態が、よりにもよって臨六を選んだから過激なアブノーマルダークサイドに堕ちつつ健全な関係を保ってしまう。  健全? どこがだ。  自己突っ込みが止まらない臨六は、何を隠そうフェラチオをされている今を紛らわすために思考を展開していた。  激しく下品な音を立てて、恋路は不細工な顔をさらしながらも必死に舐めしゃぶっている。  そのブス顔にも反応しそうになって、思わず舌打ちをこらえるのに苦労した。  美形と言って良い造形の顔立ちが、頬をぼこぼこに膨らませながら、なんなら鼻をすすっている。  裏筋を舌で舐め上げられながら、思う。優越感がじんわり体を包み込む感覚が嫌だ。  圧倒的に自分より上の雄が、自分に屈服している姿に、満足感を覚えようとする浅ましさが、自分にあることが嫌だ。  煩悩にまみれすぎている。  俺は将来家を継いで坊主になるのに。  クソ、きもちいい。 「くそったれ」 「♡♡♡ 臨、ぶっ、……ぐっうググッ♡」  恋路の頭を鷲づかみ、好きにした。恋路は目を細めて、苦しげなのに嬉しそうに受け入れている。  『嬉しそうに』それが俺の勘違いだったら? いつも不安になる。  こいつが俺を好きなんじゃなくて、俺がこいつを好きそうにみえるから、こいつは博愛で俺を受け入れようとしているんじゃないのか?  恋路のすることなすこと、信用できない。  こいつの見せる、性を帯びた博愛と慈愛が、はたして本当に本人の心から出てきたものと、俺には断言できない。  サキュバスだからだ。  性を絞るために、すべて適応しているだけかも知れない。  感情も信用できない。  そう、俺はつまり、恋路を信用してないから、こいつとセックスしたくないのだ。  怒り任せにイマラチオを強制する。汚い水音。恋路の眼鏡がずれまくって、動きとともに上下する。  視線を向けてみれば、恋路の張り詰めたジーンズの中心が、いつのまにか色濃く濡れていた。      ずるりと恋路の頭を引きはがす。ねっとりとした唾液が糸を引きながら切れていく。ぼうとした顔で恋路は呼吸を荒く繰り返していた。 「ん、はげし……い、臨六……♡♡」  ――俺も、イっちまった……。  その吐息混じりの声に、胸元がぞわぞわする。心臓のところが、掻き毟りたいような気分になった。  うっとりした顔でもぞもぞと腰を揺らす恋路は、ソンナコトにも気がついていないみたいに立ち上がって後ろを向くと、ジーンズを下げていく。  スケベ下着。  か。 「……」  何も隠せていない紐状の下着の間から、形の良い豊満な尻が覗いている。その奥には使い込まれたみたいにぷりぷりのアナルが露出していて、これはサキュバス特有のそれなのか、やたらと濡れてテカっていた。  マンコみたいな尻穴だ。  そこをみたのは、初めてだった。 「ごめん、臨六……♡ でも、我慢できなくてェ♡」  ふりふりと恋路は尻を振った。何もしてないのにときおりびくんびくん、と尻が痙攣して、官能を貪っていることに気がつく。  こいつ視線だけで甘イキしている。  臨六は深く息を吐いた。 「臨六ぅ、みてて……」  指がするするとアナルにはいっていく。じゅぼっ、と汚い音が、指を出し入れするたびに鳴り響く。二本、三本まとめて出し入れする頃には、恋路は舌を出しながらあへっていた。 「あ、あ、っ♡ 臨六ぅ、臨六…♡」  一人で盛り上がる恋路に、それでも臨六も興奮していた。  恋路はここまでしても、臨六のチンポがほしいのだ。  それは食欲にほかならない。飢えている恋路と、むらついているだけ臨六とでは、求めている位相が違う。  だから恋路の好きも、信用に値しない。  だから臨六は、恋路とは違って童貞を捨てない。  目の前の光景に激しく欲情しながら、再び決意する。  だっていうのに。 「……♡ はあ、だめだ、やっぱりほしい♡」 「おいッ」  恋路はぴとりと尻にチンポを押し当てた。 「入れねえから……な?♡」 「いれないからじゃなくて、ちょっと、おい、恋路」 「あ゛ぁ~~♡♡♡」  ケツズリでたまらないよがり声を恋路は上げた。外で誰かが驚いた声がしたが、それに気を配っていられない。アナルに滑って行くチンポが、入りそうで入りきらないまま、上下に動く尻に翻弄される。  ヒクつくアナルがちゅぽっ♡ と先端を吸っては、裏筋までを舐めていく。  だめだ、と臨六は思った。このままでは入れてしまう。  なのに、気持ちよさで腰が抜けて動けない。我ながらなんて情けないチンポなのか。 「あん、は……ふ、っ、う…うん♡ ほしい、ほしいよォ♡」  そんな風に泣きながらも、恋路は堪えるようにケツズリだけをする。  本当は胎にほしいくせに、腹が減ってるくせに。  ――何かを証明しようとでも? 「この、クソビッチ……」 「はは…っ♡」  臨六の負け惜しみに弾けるような溌剌とした声で恋路は笑った。そして心底愛おしそうに臨六を見る。 「そのビッチが、童貞に翻弄されてるのを見るのは、楽しいだろ? 臨六」  臨六は恋路の視線の意味に気がつきもせず舌打ちをした。どっちがどちらを翻弄しているって? 馬鹿にしやがって。 「お前後で覚えてろよ」 「は、ン…俺ァ臨六の言葉を忘れたことは、ないぜ」  どこまで本気かわからない言葉に臨六はため息をついた。口調は普段のそれに戻っている。 「どうして君がそこまで俺に執着するのか、わからないよ」  恋路は再び笑った。笑った後に、どこかさみしそうに言う。 「人間そんな簡単にわかり合えたら苦労しねえだろ」  ――お前だって、俺がこうもお前を求めてる理由を、わかってる?  そう言われて臨六は歯噛みする。知ってるけど、信用できねえんだよ。 「俺ァ、臨六がわかんなくても、俺自身がわかってなくてもよ、お前が好きって言うのはたしかだから、それでいいよ」 「よくないよ」  何も良くねえんだよ。 「良いんだよ。大事なのは、大体いつもそれくらいの、シンプルなことだ」  リズミカルに恋路が腰を振りたくる。まるでセックスしているような光景に、臨六は自分のチンポがガチガチになるのがわかった。  めまいがする。 「う、くそ……」 「ああ……きもちいいぜ、臨六♡ 俺ァこの瞬間のために生きてんじゃねえかな……♡」  びゅくびゅくと精液は飛び散っていく。チンポに押し当てられた恋路のアナルは貪欲にそれを吸い上げていく。  ひくひく♡ としながら、飲み干すようにだった。 「ああ……」  ――ここまでしたらもはやセックスだろう。  でも恋路はそれを口にしない。哀れみからか、それとも本当にセックスじゃないと思っているのか。 「久しぶりに、腹ァいっぱい……♡ やっぱ絶食は、うまいメシを喰うためにするんだよなァ♡♡」  恋路は端正な唇を舌で舐め上げて、色っぽい吐息をこぼした。  臨六は。 「恋路くん」 「ん?」  お前、単位落としてしまえ。  恋路は笑った。幼少期によく見たような、可憐にはにかんだみたいな顔で笑って、言った。 「いやだね。臨六は院生になるんだろ? 俺もなる」  将来は坊主になるんだったよな。ずっと言ってたもんな。昔話した目標や将来の夢を指折り数えていく恋路のうっとりとした声を、臨六はぼんやりと聞いていた。何でそこまで話が飛ぶんだ。  嫌な笑顔を見てから、頭が痺れているみたいだ。 「全部について行く。ずっと一緒って、言っただろ」  懐かしむようにささやくその声に、臨六は不覚にも再び勃起した。

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