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第1話
「橘、お前終電何時だ」
「えーと……あと30分でオフィス出ないと間に合わないですね」
「時間かかりそうなやつこっち回せ」
カタカタ、カチ。キーボードとマウスの音がいやに響くオフィス。最低限の照明に絞られた職場には、俺と部下の橘しか残っていなかった。壁掛けの時計はもうすぐ23時を指す。
橘はセットしていた茶髪をがしがしと崩しながら、遠い目をして笑った。
「いや、もう終わりそうなんで大丈夫です」
「あんま無理すんなよ」
去年から部下となった橘は、見た目のチャラさに反して仕事が速い。今では頼りにしている若手として、自分の知っていることを教えている最中だった。
「だーいじょうぶですって!急に客先から連絡でも来ない限り……」
プルルルルル……。
示し合わせたかのように鳴り響く俺のスマホ。表示された名前を見ると、そこには客先の代表者。別に橘のせいではないが、思わず目を細めて見てしまった。
「……フラグ、立っちゃいましたかね」
「そうかもな……。お前、先帰んな。あとは俺やっとくから」
「とか言って、いっつも柳川さん最後まで残ってるじゃないですか。今日は付き合います!」
「お前、言ったな?……はい、柳川です。……あぁ、はい……承知しました」
橘はなぜか妙に懐いている可愛い部下で。こうやって残業に付き合ってくれることが多かった。
応答しながらPCでメモアプリを起動する。打ち込んだメッセージを見て、橘は天を仰いだ。
『近くのビジホ、探しとけ』
「腹減った~~」
「お疲れ、よく終わったよ」
「ほんとですよぉ!さすが柳川さんっすね」
「いや、橘が頑張ってくれたからだろ。ナイス」
PCの電源を落とし荷物をまとめていく。電気を消して施錠をし、外に出ると生温い風が頬を撫ぜた。ここから飯食って風呂に入るのはめんどくさいが、明日は休みだし何とか踏ん張るか。
「ビジホ、この辺のとこ取れたか?」
「あー、えっとぉ……それが」
「は?なに、宿無し?」
「後で予約しようって思ってたら、忘れてました……はは」
お前、なにしてるんだよ、とため息をつけばウソ泣きをしてくる橘。最寄り駅を聞けば、タクシーで帰るにはなかなかな距離。金曜夜、終電が終わりにこの辺のビジホを探すのは難しいだろう。
仕方ない、経費になるし立て替えでタクシー代を渡してやるか、と財布を探そうとしたとき、橘が顔を覗き込んできた。さらりと流れた長めの前髪が触れそうな距離に、瞬きを繰り返す。
「な、なんだよ」
「ねぇ柳川さん。家、行ってもいいですか」
「はぁ?よくねぇよ」
「だってまだ柳川さんは終電あるんでしょ?」
「それは関係ないだろーが」
いつもはハツラツとしている眉毛と目じりが垂れ下がっている。やめろ、俺はその顔に弱い自覚があるんだ。放っとけなくなるだろうが。無視して駅に足を向ければ、当たり前のように着いてくる。
「ちゃんと始発で帰るんで、ちょっとシャワーと寝床を貸してもらえませんか」
「適当にネカフェとか入ればいいだろ」
「こんなに頑張ったのに~~!会社の経費も浮くし、俺もぐっすり眠れるし! あ、キッチンも貸してもらえれば夜食作りますよ!俺こう見えて料理上手いんです」
くそ、改札まで通ってきやがった。どうやって巻こうか、話半分で家に向かうホームへ急げば、ぐっと腕を引かれた。
終電間際の駅は、多種多様な人々が自分の世界に浸っている。密着する男女や缶ビールを煽る男性。見つめ合うサラリーマンだってまあ、目立ちはしないだろうけど。
「もうシャワー浴びて寝ちゃいたいですよね?美味しいご飯がなーんにも考えず食べれるし、めんどくさい経費申請もしなくていい。柳川さんにもいいこと尽くしですよ」
「……なんで俺の家なんだよ。他にも声かけやすい先輩とか同期とか、いくらでもいるだろお前」
正直、人気者の橘が俺なんかの家に来たがる理由が分からなかった。誰かに声をかければ、いくらでも受け入れ先があるだろうに。
「だめですか……?もう俺、今日疲れちゃって……」
「……あー、もう。分かった分かった。そんな綺麗じゃないけど我慢しろよ」
「わーい!やっぱ柳川さんなんだよなぁ」
「なんだよそれ」
これ以上、こいつを説得する方がめんどくさくなった。ただでさえ疲れて回ってない頭にそんなリソースは残っていない。橘に舐められてるのかなんなのか。わざとらしく抱き着いてくるのを適当にあしらい、ズレた眼鏡を直した。
男の一人暮らしなんて、ほぼ寝るだけのようなもので。散らかることも無いほど最低限のものしかない部屋で、今日は少し安心した。急な来客なんて早々ない。
橘に促されシャワーを先に浴びて出てくると、そこには簡単ではあるが夜食が並んでいた。湯気が立つうどんには卵が落とされており、横には冷ややっこ。サラダにはオリジナルらしいドレッシングがかかっていて思わず腹の虫が鳴いた。
「ちょっと付け加えたくらいですけど。嫌いなものないですか?」
「いや、全部食べれる……。コンビニ飯でもこんなちゃんとした夜食になるんだな」
「冷蔵庫を開いたらペットボトルと卵しかないのはビビりましたけどね」
悪かったな、と言いつつローテーブルの前に座り手を合わせる。柔らかめのうどんが疲れた体に沁みて、頬が緩んだ。
「……うまい」
そのまますぐ二口目を啜る。出汁の味がどんどん食欲をそそってきた。なんだか視線を感じてちらりと横を見ると、頬杖をついて橘がこちらを見ていた。
「おい、なんだよ。あんま見んな」
「いやぁ、眼鏡かけてない柳川さん、レアだなぁって」
「そうか?まあ確かに眼鏡かけだしたの、橘に会うちょっと前からかも」
「そうなんですか!?え~~眼鏡なしで出勤してる柳川さんも見たかったなぁ」
「目の前の俺と変わらねぇよ」
はは、と笑って冷ややっこをつまむ。うん、美味い。一人じゃあまりチョイスしない夜食に、疲れているはずなのに少しテンションが上がる。いつも空腹を埋めるための雑な食事が、適度に雑談を交えた穏やかな時間に感じた。
「冷ややっこ好きですもんね」
「そうだな、結構外でも食べるかも。てか、よく知ってるな」
「……この前の飲み会で頼んでたの、見てて」
そうやって何気ない事を覚えて、懐に入るのが上手い奴だ。だからお前、人たらしって言われてるんだぞ。と、教える義理の無い噂話を冷ややっこと共に流し込む。
つん、と頬を人差し指で頬をつつかれた。犯人を見やればいたずらっ子のように笑っている。なんだ、何がしたいんだと眉間を寄せると満足げ。
「へへ、柳川さんってかわいいですね」
「……お前、酒でも飲んだか?」
「さ~どうでしょう」
そうやって誰にでもちょっかいかけてるんだろう。30超えた男にその手は効かないぞ。しっしっ、と適当にあしらってうどんを啜った。
お互い、空腹だったからか短時間で平らげた。後片付けを引き受けて橘をシャワーへ促す。適当に部屋着とタオルを押し付けて、食器を洗い始めた。少し遠くから聞こえるシャワーの音をかき消すように、目の前の皿についた汚れを流していく。
仕事に没頭して、最低限人間としての生活をして。休日は寝て、溜まった家事を片づけるだけ。これといった趣味も無い、面白みのない生活を長く続けていたからか、こうして人とプライベート過ごすことがえらく久しぶりだった。少しだけ楽しい、なんて橘には口が裂けても言えないが。シャワーの音が途切れたのに気づき、俺は布団の準備に向かった。
「部屋着まで借りちゃって、ありがとうございます」
「……いや」
風呂上がりで血色のいい顔の橘は、俺の部屋着を着ている、のだがしかし。俺が履いたら少し長いボンなのに、橘のくるぶしは丸見えになっている。Tシャツも心なしか少し窮屈そうだ。それが少し……いや、だいぶムカつく。俺も別に小さいわけではないのに。長い脚を軽く蹴飛ばすと、なんですか!?と騒ぐ橘を無視して扉を開けた。
「一室余ってるここ、使っていいから」
「あれ、床でも全然良かったのに」
「疲れてる奴にそんなことさせねぇって」
会社に近いから、と決めた部屋。寝室に使おうと思っていたものの、結局リビングで寝落ちするため使わなくなった一室は季節外れの布団が置いてある。一応洗っているから、まあ大丈夫だろう。さっさと寝ろよ、と残して俺もベッドへと向かった。
空が白んだ頃、橘は目を覚ました。最初から長居する気はなかったため、布団を畳み音を立てないようにゆっくり扉を開く。顔を洗ってふと鏡に映る自分を見て、軽く頬を叩いた。
昨日着ていたスーツを着て、そっとリビングへと入る。奥に鎮座しているベッドは小さく上下していた。忍び足でそこを覗き込めば、柳川がまだ眠っている。
そっと額に唇を落としても、まだ閉ざされた瞼に口角を上げた。
「こんなにぐっすり寝ちゃって……まずは第一歩」
ぽそりと呟いて橘は、キッチンへと向かった。
どことなくオフィス全体が憂鬱そうな月曜日の朝、眠そうな顔で出勤した橘に声を掛けた。
「おはよう。作り置き、美味かったよ」
「おはようございます。え、食べてくれたんですか?」
「休みにな。あのー、お浸しみたいなやつが良かった」
「えー嬉しいな。いつでも作りますよ、俺」
嬉しそうに目を細める橘に、言葉にできない粘つきを感じた。思わず一歩後ろに退いたことに気づかれないよう、肩に手を置く。不思議そうな表情を返す後輩に、こちらもわざとらしく笑って返した。
「それもいいけど、金曜に作ってた資料で計算合わないところがあったから直しといた」
「えっ」
「あと、この前客先にもっと体裁こうしてほしいって連絡来てただろ。そこも対応しといた」
「す、すみません……ありがとうございます」
「いや、それを確認するのが俺の仕事ね」
「って、また休みの日に仕事したんですか!働きすぎですってば!」
やべ、バレた。橘の言葉を適当に流して、今週もよろしく、とポンポン肩を叩いてデスクへ戻った。ミスを直すだけなら誰でもできる。こうやって指摘して成長してもらわないと。うんうん、と一人心の中で頷いて業務に戻った。
昼休憩から三十分ほど経った頃、スマホへひとつの通知が届いた。
『ランチ』
送られてきたのはオムライスの写真。最近こうして、何気ない写真が橘から送られてくるようになった。別に俺は何も送らないけど、橘が言うには「最近のコミュニケーションですよ」らしい。
『いいじゃん』
適当に返信して俺も遅れて昼休憩に入った。今日はラーメンでも食べようか、とオフィスビルの外に出ると、植え込みに動く影が見える。近くに寄れば、茶トラの野良猫がこちらを見上げていた。警戒心が無いのか、にゃあと鳴いて座っている。
スマホのカメラを向けてシャッターを切った。
『近くにいた』
橘に送れば速攻で既読がつく。
『かわいいですね』
『な。仕事しろよ』
『まだお昼休みなんです~』
思わず緩みそうになる頬をぐっと引き締める。スマホを見てニヤニヤしているアラサー男性はだいぶ怪しい。
こんな、何気ないやり取りなんて面倒くさいと思っていたのに。気軽に、気を遣わずにできる日常に胸の辺りがじんわりと温かくなる。注文したラーメンも何となく、写真を撮って橘に送った。
「お前もう今月何回目だよ!!」
「え~~、まだ3回目ですよ」
「毎週毎週来やがって!今日は終電あっただろ!!」
「だって柳川さんの家の方が近いんですもん。それに今日は木曜日ですよっ」
「それにじゃねーだろ!これなら住んでるのとほぼ変わんねえじゃねえか……そろそろ家賃とるぞ!」
あれからほぼ毎週、橘はうちに泊まりに来るようになった。毎回ちゃんと始発で帰るし、作り置きしていくから。またそれが美味くて咎めづらくなっている。
夜のオフィス街で言い合っていると、急に橘は表情を引っ込めて見つめてきた。
「え、家賃払ったらここ住んでいいんですか?」
「はあ?お前何言って……」
「俺は今より職場に近くなって、柳川さんはご飯がついてくる。何なら掃除や洗濯もやりますよ、俺」
「なんでそこまでしてお前……」
「ほら、効率いいじゃないですか。仕事と一緒ですよ、ね?」
人懐っこい、俺からすれば胡散臭い笑顔。この顔をしてるときの橘がなかなか折れないことを、俺はここ一年で既に知っていた。橘の瞳の奥には、既に確信の色が見える。
人と生活を共にするなんて絶対めんどくさい。ただ、目の前のこいつを説得する理由も上手くまとまらない俺は、渋々頷いた。
もうそこからはトントン拍子で事が進んだ。サクッと引っ越し業者を手配し、一か月後の土曜日。スムーズに引っ越しを終えた橘は満足げな顔で頭を下げる。
「これからよろしくお願いしまーす!」
「転がり込んできといて、どの口が」
「邪魔しないので!ほんとに!」
「何をだよ。別に邪魔なことはないけどさ」
はは、と笑えば橘も笑ってひと伸びをした。気付けばもう窓の外はオレンジに染まっている。引っ越しの合間に食べた昼食は少し遅かったため、まだ夕飯には早いか。
「夕飯、もうちょい後がいいよな?」
「そうですね……柳川さんはどうします?」
「俺はゲームでもしようかなって」
「じゃあ俺は近くを散歩でもしてきます!お腹空いたら帰ってきます」
なにかあったら連絡してください、と一言残して橘は出ていく。自分が家に居るのに、鍵を閉める音が聞こえるのが何だかむず痒い。気を紛らわせるように自分のPCを立ち上げ、久しぶりのオンラインゲームに集中する。
ガチャ、と玄関から扉が開く音。まだ慣れずに少し肩を揺らし、椅子から立ち上がる。気付けば結構な時間が経っていたらしい。玄関へ行くと、ビニール袋を提げた橘がスニーカーを脱いでいるところだった。
「おかえり。特に面白いものなかっただろ」
「静かでいいところですね、この辺。これ、夕飯にどうですか?」
軽くビニール袋を上げてみせる橘。その中には、少し行ったところにある寿司屋のテイクアウトらしい。結構うちから距離あるだろ、あそこ。
「引っ越し祝いってことで、何かいいもの食べたくて」
「じゃあ自分で買うなよ」
「まあまあまあまあ」
上機嫌で手を洗いに行く橘を横目に、リビングで寿司を出して食べる準備を進める。一人の食事なんて腹が満たせれば何でもよく、寿司を家で食べるなんて選択肢が自分の中にはなかった。珍しい食卓に少しだけ、テンションが上がっている自分がいる。何となくそれを無視して、箸を並べた。
ゴウンゴウンゴウン。
洗濯機が回っている音で目が覚めた。一人暮らしだと絶対に起こらない環境に、重い瞼を擦りながらぼんやりと天井を見つめる。同居が始まってから何度目かの日曜日。ゲームが白熱して少し遅くに寝たからか、普段より昼に近い時間をスマホが示していた。
「柳川さーん、起きました?」
ペタペタと足音が聞こえて寝返りをうつと、部屋着のラフな橘がキッチンから笑いかけている。小さく返事をすれば、軽く笑って何か手を動かしていた。
少しするとふわ、とコーヒーの香り。更には何か焼く音が聞こえてくる。……こいつまた。寝起き特有の重たい身体を起こしてキッチンへ向かった。まだ橘はこちらに気づいていない。後ろからのぞき込むと、目玉焼きが二個出来上がっていった。
「うまそ」
「わぁ!?びっくりした!」
「お前はまたこうやって……」
「あれ、目玉焼きの気分じゃなかったですか?」
「……いや、ありがと」
顔を洗うために洗面所へと向かう。ふと、鏡に映った寝ぐせの付いた自分の顔があまりに緩んでいて、すぐきゅっと引き締めた。最近、橘から世話を焼かれすぎていないか。
仕事はいい、そりゃ俺が上司だからこっちが引っ張っていってる。でもプライベートはこの有様だ。家事はほとんど橘がやって、食事だってあいつの自炊を俺が食べるだけ。皿洗いだって最近やっと俺の仕事になった。
自分の生活力はどんどん下がるのに、QOLはどんどん上がっていく。
「一人暮らしに戻ったら、俺どうなるんだ……」
というか、流れで同居したけど橘って本当に彼女はいないのか?料理も出来て気配りも出来て……上司と一緒に住んで窮屈じゃないのか?
ぐるぐる回りだした頭を冷やすために、冷水で顔を洗う。いつまでも続くわけじゃないこの生活を手放せなくなってきた自分を、見ないふりするように。
「ここはもう少し体裁を整えてほしい。数字もこれだけだと弱いからもう少し分析進めて」
「は、はい……すみません」
「あ、いや……」
いかにも泣き出しそうな顔で、女性社員がデスクへ戻っていく。思わずため息が出そうなところをグッと押さえて、視線をPCへ戻した。
自分でも分かってる。眼鏡をしても目つきは悪いし、言葉遣いもいい方じゃない。気を付けてはいてもこうやって怖がられることが多かった。特に女性には距離をとられやすい。申しわけないが最近はそのままにしている。誤解されても、仕事が回ればそれでいい。
昼前、コピー機の前で資料をまとめていると、聞き覚えのある声が耳に入った。
「柳川さん、怖そうに見えるだけですよ」
思わず視線を向ければ、さっき指摘した女性社員と橘が立ち話をしている。思わず物陰に隠れて見つからないよう身を隠した。いや、聞かない方がいいのは分かってるけど、あまりにリアルタイムな話題に聞き耳を立てる。
「でも、私また怒らせちゃって……」
「怒ってないですよ。この前資料作りが丁寧で助かってるって言ってましたし」
「え?」
「数字の裏付けが弱いと先方に突っ込まれて、困ってほしくなかったんだと思います。ちゃんと考えてくれてるんですよ」
女性社員は驚いたように目を瞬かせ、視線を下げた。
「そうだったんだ……」
「柳川さん、不器用なんですよ。言い方はあれですけど」
あれですけど、って何だ。思わず眉を寄せるが、気づかれるわけにもいかない。誰に見られてるでもないのに、会議に使う資料の最終確認をしているように見せた。
「でも私、ちょっと怖くて……」
「あはは、第一印象はそうかも。でも困ったら頼って大丈夫ですよ。ちゃんと助けてくれるんで」
橘の言葉に女性社員も笑って、少し顔を赤らめた。誰が見ても分かる、人が恋に落ちる顔。なんとなく居心地が悪くなって、その場を離れた。なるほど、あいつはああやって人たらしと噂されてるのか。目の当たりにするとなんと分かりやすい。
「そりゃモテるわけだ」
自分で言った言葉が苦い。羨ましいとかじゃないこの感情が分からず、モヤモヤしながらデスクに戻った。
定時を告げる音楽が流れ、軽く伸びをする。ふとスマホを見ると、橘から『今日の夕飯なにかリクエストありますか?』と連絡が来ていた。オムライスとラーメン以外……和食か?作るのめんどうじゃなかったら、焼き鮭とか食べたい。
色々考えていれば、ふと近くを橘が通った。
「あ、橘。今日焼き鮭が食べたい気分かも。めんどうじゃなかったら」
「分かりました。準備しときますね」
「助かる。今日はこの後会議があるから、先帰っていいぞ」
ざわ……ひそひそ……。周りがざわついてふと我に返った。あれ、この会話って。
「橘くんと柳川さんってあんなに仲良かったっけ?」
「先に帰るって……もしかして一緒に住んでるとか?」
別に隠すことでもないが、何となく言い出すタイミングも無く同居の話はしていなかった。けど、秘密がバレたみたいで顔に熱がじわじわ集まってくる。何か否定しないと、と焦るほど言葉が出てこない。
すっと肩を抱かれる。驚いて見上げれば、橘がいたずらっ子のように笑っていた。
「俺ら最近、仲良しなんですよね~?」
「は、いや、お前」
「もー、柳川さん最近忙しくて全然飯連れて行ってくれないからなぁ~寂しいなぁ~」
「おい、ちょっと近いって」
俺の頭に頬ずりしてくる橘。さらさらと髪の毛が頬に触れてくすぐったい。大型犬が甘えてくるみたいでふふ、と笑っていれば耳打ちをされる。
「ほら、会議行っちゃってください」
「あ、ああ」
必要なものをまとめて会議室へと向かう。その間も橘は上手く立ち回ってくれたようで、大事にもならずその場はおさまったらしい。
別に言ってしまっても良かったのに、なんでこんなに言いづらかったのか。橘が変な噂をたてられるのは悪いし、それに。
「秘密にしたかった、とか?」
廊下で呟いた言葉は胸のどこかにすとんと落ちて、空気に溶けた。
「お前、ここには女連れ込むなよ」
橘が買って帰ってきたプリンを、食後に二人で食べる。そんな穏やかな時間に、雑談として話題に上げた。向かいの橘の手がぴたりと止まり、こちらを見つめてくる。その視線がうるさくて手元のプリンを見つめた。
「そんな予定ないんですけどね」
「そうか。……会うなら外で」
「あはは、分かりましたよ」
たまに見かける、何を考えているのか分からない橘の瞳。俺はそれから特に何も言わず、風呂場へ向かった。
冷蔵庫を覗く。食材を眺めて、明日何を買い足そうかと頭の中にメモをしようとして、口元に手を当てた。眩しい冷蔵庫の光なんて気にならないほど、橘はにやにやと喜びを顔に出す。
「ちょっとは、俺のこと気になってくれたりしてんのかなー……」
少し遠くで聞こえるシャワーの音を聞きながら、橘は鼻歌まじりに冷蔵庫を閉じた。
終わらない……いくら手を動かしても仕事が終わらない!!
会議、会議準備、会議、急な依頼にトラブル対応。色んなものが降りかかった今週のしわ寄せが、金曜日の今でも解消されていなかった。残っているのは俺以外できない業務ばかりで、橘を含む全員は既に退勤している。
オフィスに一人、最後まで残るなんて久しぶりだった。最近はいつも橘が付き合ってくれて、本当に助かっていたことが今になって身に染みる。ふと画面の時計を見ればもうすぐ終電。もう持ち帰って片づけるしかないか……。PCを一旦シャットダウンして、カバンに荷物を詰め込んでいく。連日の残業で重い身体を引き摺って、オフィスを後にした。
やっと着いた玄関の扉を開ければ、リビングから橘が出てくる。あー、人がいる部屋に帰ってくるって、なんでこんなに安心するんだろうか。肩の力が抜けそうになるが、俺にはまだ仕事が残っている。
「おかえりなさい、遅かったですね。ひと段落つきました?」
「いや、まだ残ってる。キリのいいところまで終わらせるつもり」
「とりあえず、お風呂にします?」
今風呂に入ったら絶対に寝る。とりあえずあれは終わらせて……いや、でもあれも早い方が……。仕事の段取りを考えながら適当に首を横に振った。
「じゃあ、俺に手伝えることあります?ほら、データ集めるとか、分析とか」
「いや、いい」
「ご飯食べました?軽く準備はしてるんですけど……」
「だからいいって言ってるだろ!先に仕事片づけるから」
そこまで言って我に返る。橘は静かに微笑んでこちらを見ていて。明るい暖色の廊下の明かりが目に染みる。「いいから」とぶっきらぼうに言って、リビングに入った。
橘は気を使ってくれたのか、リビングに立ち入ることは無かった。カタカタと自分がキーボードを叩く音だけが部屋に響く。オフィスと一緒、なのに孤独感が強くイライラが募っていった。タイピングミスが目立ってきた中、やっと一区切りがつく。疲れた、とんでもなく疲れた。これでまだ折り返しなのがゾッとする。
何か飲みたい、と一人用の冷蔵庫を開ければ、所狭しと食材が詰まっていた。少し前まで、ペットボトルと卵しかなかったのに。がらっと変わった同居生活は、堅苦しいところもあるけど基本的に快適で、世話を焼かれている自覚があった。
「これ、晩飯か?」
ラップに包まれた皿が目に入る。取り出せば、そこには好物のぶりの照り焼きが出てきた。残業している俺に好物を準備してくれていた相手に、俺はさっき……。罪悪感で潰されそうになりながら冷蔵庫を閉めると、橘がリビングに入ってきた。
「ひと段落しました?」
「あぁ……さっきはその、悪かった」
「悪気ないのは分かってますよ。俺、柳川さんのこと見てきたつもりなんで」
「え?」
「夕飯準備するんで、先にお風呂入っちゃってください」
着替えも用意してるんで、と半ば無理やり脱衣所へ押し込められる。服を脱いで入れば、湯けむりが立ち込め湯が浴槽に張られていた。身体を洗って浸かれば、全身からじんわりと力が抜けていく。思わずおじさんのような声が出た。
気持ちいい、このまま眠ってしまいたい。烏の行水が基本だった生活も、橘と同居し始めてから湯に浸かることが増えた。だから疲れがとれないんですよ!と小言を言われたのも記憶に新しい。
体の芯まで温まり、ほかほかでリビングに戻ると飯のいい匂いがリビングを制していた。急に腹の音が鳴る。その音を聞いて、橘が小さく笑った。
「もうちょっとなんで、座って待っててください」
「ん……あんま笑うなって」
少し恥ずかしくなって、キッチンにいる橘を小突く。そのまま飲み物と箸を持って椅子に座った。そういえば、同居しだして買ったダイニングテーブルとイス。生活にどんどん彩りが増えていくのが最近、当たり前になっていた。
「おまたせしました~」
「ありがと。俺がぶりの照り焼き好きなの、知ってたんだな」
「……はい、この前言ってて」
「そっか」
手を合わせて、みそ汁を一口。
「美味い」
「よかったです」
ぽつり、ぽつりと仕事の進捗や最近の何気ない雑談を話す。向かいに座った橘はスマホも触らず、穏やかに話を繋げてくれた。
「ごちそうさまでした」
「柳川さん、肩こり大丈夫ですか?オフィスで結構肩揉んでたので気になって」
「もうガチガチ。動かないとだめだな」
「俺、マッサージめっちゃ得意ですよ」
失礼します、と両肩に手を置かれる。くすぐったさも感じないほど肩が凝っているらしい。ぐ、ぐ、と親指で肩を解されるのが気持ちよくて、思わず息を吐いた。
「は、あ……お前上手いな」
「気持ちいいですか?」
「う、ん。きもちい」
じんわり身体が温かくなって少し眠たくなってきた。もう歯を磨いて寝るか……と思っていたら、耳元で橘がささやきかけてくる。
「肩だけじゃなくて、他も解しましょうか?俺上手いですよ」
「んー……頼もうかな」
「じゃあベッドに寝転んでください」
言われるがままベッドにうつ伏せで寝転んだ。リラックスさせるためか、照明も絞られて部屋は薄暗くなる。やばい、マジで寝そう。うとうとしていると、ベッドが軋んだ。
「橘?」
「腰とか脚やるんで」
俺の上に乗り上げて、体重を掛けてマッサージが始まった。ちょうどいい指圧が気持ちいい。ストレスで固まっていた身体が緩んでいく感覚に、内側から空気が抜けていく。
「あー……そこ、もっと」
「ここ?」
「うん、そこ……やばい寝れる」
「寝ちゃってもいいですよ」
とろとろと意識を眠りへ向けていく。あと少しで寝る、というとき、じわっと刺激が背中を走った。意識が藻掻くように浮上する。なんだ、今の。起き上がろうにも、上には橘が乗っかっていて動けない。
びくっ!
まただ。温かい手が内ももを撫でていく。ゆったり撫でて、際どい内側をぐーっと押し込まれると甘い刺激が身体に回った。
「ちょ、橘」
「この辺、リンパが流れてるんですけどくすぐったいですか?」
「……」
「じゃあ流れが悪いんですね。ちょっと重点的にやりましょう」
「あ、ちょ、うっ」
更に内へ内へと指が入り込んでいき、圧をかけて撫ぜられる。ただのマッサージなのに変な感じになるのは俺が悪いのか。最近忙しくて碌に自慰もできていない。外からの刺激なんて久しぶりで敏感になっているのか?
ぐるぐる考えているうちに手が離れてほっとする。今度は肩甲骨辺りに体重が掛けられた。気のせいか、とまた瞼を閉じると今度は胸の方まで手が伸びてきた。リンパってそんなところまであるのか?ぼんやり考えていると、爪先が服越しに乳首へ触れた。
ただ掠っただけだろう。でも、先ほどのマッサージで火照った身体は微かな快感を拾ってしまう。考えるな、考えるなと思うほど、じわじわ乳首を意識していく。わざと周りを擦るようにすりすり指の腹でなぞられ、声を出さないよう唇を噛みしめた。いやだ、部下の前でこんなこと!
「ふ……っあ」
「上半身も結構凝ってるみたいですね……次は前からやりましょっか」
「あ、だめ今は……っ!」
ぐるん、と仰向けにされると既に前が主張していた。情けなく手で隠そうとしても、橘が掴んでそれを阻止する。顔が熱い、今自分はどんな顔をしてるのか怖い。それよりもっと、橘がどう思っているのか怖くて見られない。こういうとき、なにか上手いこと言えたらいいのに、なんの逃げ道も思いつかなかった。
橘の指先が勃起した前を下から上へなぞっていく。顎が上がってその快感を受け止め、顔を見やるとそこには満足そうな部下がいた。
「んぁっ!?は……おま」
「マッサージ、気持ちよくて勃っちゃいました?かわいい」
「可愛いわけないだろ、ばか。早くどけって、あっ」
「どれが気持ちよかったですか?内もも?それともおっぱい?」
「ちが、きもちよくない、から!」
上半身を起き上がらせて橘の肩を押す。けど、太ももの上に座り込んだ橘はびくともせず、そのまま俺を抱き込んできた。同じボディーソープと柔軟剤の香り。その奥に橘の匂いがして落ち着かなくなる。なんだ、成人男性二人がベッドの上で抱き合ってる図は。
もしかして俺、まずい?
「柳川さん、結構乳首感じるんですね」
「感じない、やめろって、ば」
「普段もここ弄って遊んでるの?」
「ふ、う……っ♡」
首を横に振って口を塞ぐ。変な声が漏れないように身体を強張らせると、橘の手は無遠慮に服の中へ潜ってきた。脇腹、背中をゆったり撫でると、大きくない乳輪の周りを爪先でくるくる触る。無意識に身体を反らして、おねだりするよう動いてしまう。そんな俺を見て橘はくすくす笑った。
「触ってほしいですか?それとも、嫌?」
「あっ……くそ」
「もー、教えてくださいよ」
「あぁっ!♡あ、それ、や……っ!」
ぴんぴんっ!♡ぐにぐに~~♡
乳首を弱く弾かれ、もう片方は押しつぶすように指の腹で押さえられる。小さい飾りを触ったって何も無いはずなのに、頭には快感がびりびりと伝えられた。自分じゃないような高い声が部屋に響く。聞きたくない、止めさせないと。そう思うのに、橘の指を求める自分がいた。
「だめだ、橘……と、まれ!」
「ふふ、そうですよね。ちゃんと抵抗したって状況が必要ですよね」
肩を押され、Tシャツを捲られた。晒された乳首に吸い付きながら、橘は俺の腕を押さえる。熱い舌に包まれて、吸われて腰が浮いた。
「ほら、柳川さんは抵抗したけど止められなかった。だから仕方ない」
「やめ、あぁっ!……んんっ」
「仕方ないから、気持ちよくなりましょうね」
仕方ない、のか?やめろって言っても聞かないし、最近自分でシてなかったし。でもそんな、部下とこんなこと。
すり……。さっきから窮屈にしていた陰茎を擦られる。すぐに服が取り払われ、着替えたばかりの下着越しに弄られた。くすぐるようにさわさわと撫でるのがじれったい。もっと、とねだるように腰が浮けば、首元に顔をうずめて唇を落としてくる。
「溜まってました?っていうか、同居してから抜いてます?やっぱり人がいるとしづらいですか?」
「い、っそがしかった、から……うあっ、ずっと、ぬいてない」
「もう先走りでぐちょぐちょですね。一回抜いときます?」
「んん……っ!♡や、だ……」
「やだやだばっかり、どうしてほしいの?」
枕にうずめていた顔をぐっと引き寄せられる。視界いっぱいに橘の顔があって思わず視線を逸らした。許さないとばかりに下着の中へと手が侵入してくる。
亀頭をゆったり捏ねられて声を押さえたいのに、顔を固定されそれも許されなかった。
「あっ、そこむり!♡ね、たちば、なぁ……も、やめ、おねが……んんん!」
「えーかわいい……。ほら、寂しいからこっち見て?こうされるのは気持ちいい?」
「あぁんっ!?♡だめだめ、い……っは、ぁ♡」
「ふふ、反応で分かっちゃいますね♡気持ちいねぇ……かわいい」
橘の瞳にハートが見える気がする。砂糖菓子みたいな甘ったるい声と顔。その奥に見える本能的な熱が見えて身震いする。
ダメだ、喰われる。逃げようと脚をバタつかせても可動範囲はごくわずか。大きい手のひらは竿を握り込み扱いてくる。
ちゅこちゅこちゅこ♡
「ひっ、ああぁっ!♡も、だめ、だめだ!たちば、なぁ!」
「もうイっちゃいそ?」
「イ、く……も、でる!イ……っあ、え?」
「まだダメです」
楽し気な橘がするりと下着を抜き取った。下半身を晒されて脚を閉じようとするが、橘が割り込んでそれを許さない。ひた、と秘部に指を添えられて全身に鳥肌が立った。お前、それ、本気で?
「ここ、使ったことありますか?」
「あ、あるわけ、ないだろ……っ」
「あはは……よかった♡」
よかった?こいつ何言ってるんだよ。ぎゅっとシーツを握りしめる。弱々しい衣擦れが俺の負けを知らせている様だった。
「ねぇ、柳川さん」
どこで間違えたんだ。俺はただ、後輩と同居して。
「一緒に頑張ってくれますか?」
こいつの世話焼きに甘えて、それが心地よくて。
「初めての気持ちよさ、一緒に味わいましょうね♡」
罰が当たったのかも、しれない。
「うっ、あ……も、そこ……ぉ♡」
「2本も余裕になってきましたね。もうちょっと頑張りましょ」
橘が尻を解し始めて何時間経ったんだろう。異物感と圧迫感で気分が悪くなりそうだったのに、今は微かに甘い痺れのようなものを感じている。
こんな適正、知りたくなかった。部下にケツを向けて気持ちよくなる奴だなんて。たまに掠めるいいところが疼く。もう、いっそ一思いに終わらせてくれたらいいのに。
「もう、いいから橘……イかせてくれ、たのむ……っうぁ!」
「でも、俺の挿れるなら3本は入らないといけないんで」
ぐちゅぐちゅ♡シュッシュッ♡
ローションをまぶした3本目の指が追加され、圧迫感で声が漏れる。辛くなってくれば陰茎を扱かれ、射精するギリギリで手を離された。どんどん下腹部に熱が溜まって、快感がちんこからか尻からかもう分からなくなってくる。
「や、きつ、いぃ……!やだ、も、イきたい……っ!」
「んー、もう少しで見つかりそうなんですけどね」
「もう、やだ……んんっ、あ、あぁっ!?♡」
びくびくっ!♡
身体が痙攣し、頭からベッドに崩れ落ちる。なんだ、今のは。自慰とは違う、身体全体に広がる重たい快感。知らない刺激に脳みそが支配される感覚が怖くて、気持ちよかった。
「よかった、見つかって。やっぱり柳川さんは優秀なんですね」
「は、は……ぁうれしく、ない」
「ほら。リラックスして……気持ちいことだけ考えてくださいね。あー。かわいい、かわいいなぁ」
後ろから、わざとらしいリップ音を出して項や背中にキスを落とす。くすぐったさが快感に変換され、いちいち身体が跳ねるたびに自分のプライドが崩れていった。これからどうすればいいんだ、部下とこんなことして、どんな顔で会社に行けば。同居を続けるのか……。
ちゅぷ♡
「は……?あ♡」
「うーわ、この景色やっば」
熱い何かが尻に擦り付けられた。分かっている、分かっていても頭がそれを拒む。だって、そんな、俺で橘が……?秘部に先端が軽く押し当てられ、緊張が走る。いいのか、本当にこのまま一線を……。
「柳川さん」
「は、なんだよ……」
「嫌だったら今、逃げて。蹴飛ばしてもいいんで」
「なら最初っからやるなよ……!」
眉毛が思いっきり下がった、仕事でミスをしたときと同じ顔。その顔を見ると、俺はもう助けてやらないとって動いてしまう。今更そんな顔されたって、この熱い欲をどうしろって言うんだよ。
自分から亀頭をぐりぐりと押し付ける。熱いそれが少し入り込んでくる痛みに歯を食いしばった。
「ほら、大丈夫だから。挿れてみろよ」
「痛かったら、言ってくださいね」
ぷちゅん、にゅぷ~~♡
内臓が押し上げられる感覚に腰が引ける。橘が腰を掴んでぐーっと引き寄せられ、ナカをみちみちと拡げていった。指とは全然違う質量が苦しくて、熱がどんどん冷めていく。
怖い、痛い、苦しい。早く終わってくれ、と冷や汗が顎を伝い枕を湿らせる。白くなるほどシーツを握った手に、橘がそっと手を重ねた。
「ゆっくり深呼吸して、大丈夫。俺に合わせて」
「ひっ……は、はぁ……んんっ」
「そう、上手だね。よしよし」
頭と耳を優しく撫でられ、ぴくんと腰が揺れる。自分の想いとは別に身体が反応して追いつけない。知らない自分を暴かれる感覚が怖くて恥ずかしくて、必死に息を整えた。
「肌、真っ赤……柳川さんって結構赤くなっちゃうタイプなんですね」
「そんなの、知らない」
「知らない柳川さんのところ見ちゃった♡嬉しい、かわいい」
「うぁ……それ、やめろ」
くちゅ……♡じゅぷじゅぷ♡
ゆったりとストロークが開始された。まだ違和感のあるナカをできるだけ意識を向けないよう、ずっと呼吸に集中する。橘がイって、自分も前を触って終わればいい。枕に額をぐりぐり押し付けて違和感を散らした。
「柳川さん、気づいてる?」
「なに、が、あっ」
「かわいいって言われる度、ナカが締まってるの」
「は、あ?ん"~~~~~~っ!?♡♡」
びりびりびりっ♡♡
知らなかった、気持ちいいところを抉られる。目の前がチカチカして頭に靄がかかった。全身をめぐる快感に汚い喘ぎ声が喉から絞り出される。わざとらしく前立腺を重点的に攻めてくる橘に、ストップをかけようと腕を伸ばした。その手を優しく絡められシーツに戻される。
「まっ、で!たち、ばな……っ!♡やばい、これ!お"、あぁっ、ちょ、ストップ!♡」
「ここ気持ちいいね?もっと気持ちよくなろっか、ほら、ほら♡」
「あ"あ"ああああぁぁっ!?♡♡だめ、だめだっ……♡あ"、お"、おぉ……♡」
ばちゅばちゅばちゅっ♡ぐりぐり~~っ♡
一瞬、意識が飛んだ。気持ちいいことしか分からず、全身を震わせてベッドに身体を投げ出す。それでも止まらない刺激で現実へ無理やり引き戻された。
気持ちいい、苦しい、つらい、もっとほしい。初めての快楽は暴力的で、魅力的だった。
「あ"~~~~~~っ♡♡やだ、やだやだぁ!も、しんどい♡も"うイきたい、終わりにして、あ"っあっおぁっん"ぅ!♡♡」
「まだナカではイけないか。じゃあ一緒にイきましょ、ね?」
「うんうん、イきたい、いっしょ……あ、ああああああぁぁんんっ!♡♡は、は、たちばな、たちばなぁ……っ」
これ以上の快感に怖くなる。縋るように、握りしめた手に頬ずりした。
どくんっ♡橘の質量が大きくなる。ナカを押し広げるストロークに合わせて、必死で自分のちんこも扱く。目の前は真っ白で、怖くて、でもずっと浸っていたかった。
「ふ、ん……っ♡かわいい、かわいい……あっ、イきそ……」
「ひっ"あっ!お"、お"、お、い"あああああぁ~~~~~~~~~~っ!!♡♡んぁ……ふ、あ……♡♡」
びゅるっ♡どくどくどく……♡ぷつん。
身体が浮き上がるような、はたまた落ちるような感覚に抗えずに、俺は意識を手放した。
二人分の精子で汚れた身体を蒸しタオルで丁寧にふき取る。熱が引いて白い身体を撫ぜれば、快感が残っているのかぴくんと震えた。タオルをひいてナカの精子を掻きだせば、脚が痙攣して愛おしい。まだ自分を覚えて善がっているのかと思うと堪らなかった。
「あー……早くここに落ちてきてくんないかなぁ」
うつ伏せで意識を失っている柳川の背中に頬ずりして、橘はうっそり微笑んだ。
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急な在宅勤務で会議中にイタズラされちゃう柳川や
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