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第1話 プロローグ―戦争の終わり

 ぶつかり合う金属音。空は憎らしいほどに晴れ渡り、穏やかな風が吹いていた。  十九歳の俺――サーシャにとってこれは初めての戦場だった。着慣れないプレートメイルは重く、動くたびにガシャガシャと音をたてる。  俺はブロードソードを振るい、違う色の鎧をまとった騎士と対峙する。  我が国は隣国と戦争が起きていた。いわゆる侵略戦争だ。我が王はぎりぎりまで隣国との交渉を続けていたが、併合の条件はとても受け入れがたい不平等なものだったという。  これは見せしめだと、誰もが言った。我が国を力でねじ伏せ、他国が刃向わぬよう、不利な条件を飲ませて併合しよう、という魂胆であると。  どこかで爆発音が響く。きっと魔法だろう。俺も炎の魔法が使えるけれど、そこまで強力な力はない。  あれをくらったらひとたまりもないだろうな。死への恐怖が俺の身体をこわばらせ、剣を握る手がぶるり、と震えた。  気が付けば辺りに敵兵の姿がなくなっていた。これは何を意味するのか? それに気がついたときにはもう遅かった。  大きな魔法の攻撃が来る。そう思うのに、身体は鉛のように動かない。 「サーシャ!」  誰かが俺の前に立ちはだかりそして、爆発音が続き俺は目を閉じた。  上がる悲鳴、沸き起こる風。血の匂いと肉が焼ける匂いに吐き気を覚えてしまう。  ゆっくりと目を開くと景色が一変していた。俺の目の前に立った同僚は地面に臥し、身動きひとつとらない。 「う、あ……」  ブルブルと震えながら呻き、俺は視線を巡らせ現実を目の当たりにした。  周りに転がる人だったものたち。その多くは黒く汚れ、地面に臥し動くものは少なかった。  このままでは戦争に負ける。そう確信した。  戦力の差は歴然だしこちらは中規模の王国。あちらは大陸でも大きな皇国、勝てるわけがないんだ。  最初は、皇国が圧勝してすぐ終わると思われていた。  だけど我が国は耐え続けている。けれどそろそろ限界だろう。徐々に戦力は低下し、民は疲弊してきている。  そして今、王たちは皇国と停戦交渉をしているはずだ。彼らが欲しいのは我が国にある天然資源だ。俺たちの戦いで、少しでも有利に進められられていたらいいのだが。  けれど、死んだ者たちはかえってこない。今俺の目の前に臥している騎士。さっきまで動き、戦っていた友の姿を見て、俺は昨夜彼から聞いた話を思い出す。 「四十年前、勇者が魔王を倒しただろう。その時、死者をも復活させる魔法使いが同行していたと」  その話は聞き覚えがある。でもそれはおとぎ話だろう。そんな魔法は今存在しない。  俺もその話は信じていなかったし、信じている者に出会ったこともない。 「でもな、いるんだよ」  そう言って、彼は笑った。  そんなわけあるか。死者を甦らせるなんて自然の摂理に反している。そんなの、神が許すはずがないから。 「俺のじいさんは勇者と一緒に戦った戦士、ダレンなんだ」  その名前はもちろん知っている。魔王を倒した勇者一行は四人。勇者と戦士、そしてふたりの魔術師だったはずだ。 「マジかよ、勇者一行のひとり?」  思わず身を乗り出した俺に、彼は大きく頷きエール酒が入ったジョッキをあおる。 「そうなんだ。だからな、本当にいるんだよ。治癒魔法を使う魔術師が。なんでもマルフェス国のブリューエ地方に住んでいる一族に伝わるら秘術らしい」 「へえ、そうなんだ」  初めて聞く国と地方の名前だった。ということは、ここリデューから離れた地だろうな 「その魔法があれば、死者も負傷者も減るし、皇国に負けずに済むだろうにな……」  彼はそう呟き、ジョッキを一気に飲んだ。  その時は深く考えなかったが、今ならわかる。  視界いっぱいに広がる死体の山たち。治癒魔法さえあれば、この多くを救えただろう。俺を守って倒れた仲間だって生きていられたかもしれない。  そう思うと虚しさに心が埋まっていく。  その時、ブォー、というラッパの音が大きく響いた。ひとつじゃない。相手の軍からもラッパの音が響く。  ――これは。 「終わった……」  動くものはいない、と思われていた死体の山の中から、そんな声が聞こえた気がした。  そうだ、このラッパの吹き方は戦争の終わりを告げるものだ。けれど喜びはない。  終わったのか? そうか、終わったのか……  俺はその場に座り込み、動かない仲間たちを見る。すると胸の奥が熱くなり、俺は口元を抑えた。  あと少し早かったら彼らは死なずに済んだんじゃないだろうか。  あの治癒魔法があったなら――この地獄は少し違ったものになったんじゃないだろうか。  その思いは戦争が終わり、国の名前が変わった今でも――残り続けている。  

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