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第15話 満ちてもなお(※性描写あり)
街の高台に据えられたオスマンサス公爵邸は、眼下に望む海が月の光を反射し、照らしてくれるおかげで、夜でもそれなりに明るい。
だが、咲玖が住んでいた場所には“デンキ”なるものがあり、夜でも昼間のように室内は明るかったという。
闇夜を照らすものが月と密かなランプの明かりくらいしかないこの世界ではさぞかし不便を感じるのではないかと心配したが、その穏やかな明かりに心安らぐのだと教えてくれた時にはホッと胸を撫で下ろした。
今夜は細く弧を描く月が夜の帳を下ろした街並みを頼りなく照らしていた。
そのはかなげな光を咲玖の黒曜石の瞳が吸いこめば、途端に満天の星空へと変わる。
沈むようにその瞳に捕らわれたまま、ラインハルトは体をこわばらせていた。
「“続き”しないの?」
ラインハルトの太ももをまたいで上に座り、首の後ろへと腕を回す咲玖の瞳に思わずゴクリと口内に溜まる唾液を飲み込む。いつも美しく輝く純黒の瞳には、これまで見たことのない熱が宿っていた。
その熱に煽られるように咲玖の甘い香りがさらに増し、口内には止めどなく唾液が湧きあがってくる。小刻みになり始めた息ととも理性の檻を圧迫するほど欲望は膨れ上がっていた。
今、この状況は、今日、ラインハルトの元縁談相手が突撃訪問してきたことが多分に影響しているのだろう。
ラインハルトが席を外している時の咲玖とリナの会話は、その後ろに控えて居たオットーから聞き及んでいる。
咲玖の深い愛に思わず涙が出たと、常に冷静なオットーには珍しく、感情を露わに声を震わせていた。
味覚を失ってから、常に満たされない渇きをごまかすため、成人前には鍛錬と勉強に、爵位を受け継いでからは仕事にひたすら没頭した。
恋人を作れば、もしかしたら欠けてしまった本能も満たされるかもしれないと考えたこともあった。だが、都合よく好きになれる相手が現れるわけもなく、ただ欲を満たすためだけにする行為は虚しさが増すだけだった。
そんなラインハルトをオットーはずっと心配していたのだろう。
「これまで何をされていても、どれだけ成果をあげられてもどこか他人事で、寂寥たるお心を満たせずにいるご様子を勝手ながら心配申し上げておりました。ですが、サク様がいらしてから、旦那様のお心は確かに動いていらっしゃる。それがどれほどに代えがたく、尊いものであるか。じいは本当に嬉しゅうございます」
オットーには幼いころから世話になっている。それこそ忙しい両親に変わってどれほど面倒を見てもらったことか。幼いころは「じい」と呼んで後をついて回ったものだ。
きっと、オットーの中ではまだそのころの印象が強いのだろう。
幼いころは未来には希望しかなく、盲目的に自分自身を信じられた。
しかし、あの時の熱病は、味覚だけではなく、希望も自信も奪っていった。
それをごまかすように自らを追い込もうとするラインハルトを、オットーは静かに見守ってくれていたことを知っている。
自分は何もできなかったとオットーは言ったが、ただそこにいてくれるだけでどれほどに心強かったか。感謝しかない。
なんて、ちょっとしんみりとして欲望を少しだけ落ち着けることができた。そう思ったが、首を傾げて上目遣いでこちらを見つめる咲玖の愛らしさは、理性など一瞬で吹き飛ばせるほどの破壊力を持っている。
触れたいと思う気持ちと、本能を恐れる気持ちが天秤のように揺れて定まらない。
そんな様子で視点も定まらないラインハルトを見て咲玖は眉を八の字に下げ、目を伏せた。
「やっぱり俺じゃ、そういう気分にはならないよね……」
「なっ、そう言うことでは、」
むしろ逆だ。なりすぎて困るんだ、と言いかけて寸前で口ごもる。
「俺は柔らかくもないし、小さくてかわいいわけでもないし……。“味”ならキスだけで十分だもんね……」
「そんなわけないだろう?! 私がこれまで出会った誰よりもサクは愛らしくて、美しい。その黒い髪も瞳も、白い肌も、甘い香りも、きみの全てが私にとって特別で、唯一だ。いつも欲しくてたまらないと思って、…あっ……」
何を言うのか、という想いが先走りすぎてつい早口で捲し立ててしまい、途中でハッと止めた。
――またやってしまった……。
咲玖のことになるとどうしても感情的になってしまう。こんなことでは“本能”なんてものに抗えるわけがない。心の中でため息を吐きながら、恐る恐る咲玖を仰ぎ見た。
ところが、ラインハルトの視線が捉えた咲玖は、目じりを下げ満足げにほほ笑んでいた。
たった一撃で心臓を止めてしまいそうなほど破壊力抜群のとろけた笑顔に戸惑っていると、咲玖は「ごめん」と笑いながら、ラインハルトにぎゅっと抱き着いた。
「そう言ってくれるかなって思ってた。ちょっと予想以上だったけど」
「そんなことない、全て本心だよ」
思わず安どのため息を吐く。もちろん本心だ。
だが――。
「もっとサクに触れたいと思っている。だが、それ以上に私はきみを傷つけてしまうかもしれないこの本能が恐ろしい。きみを傷つけたくないんだ」
咲玖と恋人関係になってから、夜になると寝支度をした咲玖がラインハルトの私室へと例の扉を使ってくるようになった。
少し話をしてからおやすみのキスをし、ラインハルトのベッドに二人で入って眠りにつく。そして、咲玖を腕に抱いたまま朝を迎える。それがなんとなくいつもの流れになっていた。
キス以上のことだってもちろんしたい。だが、咲玖はベッドに入るといつもすぐに寝付いてしまうし、何より咲玖との触れ合いの中でそういう欲望を抱いても、ラインハルトが自分自身でいつもストップをかけてしまう。怖気づいてしまうのだ。
咲玖に触れたいという男としての本能が膨れると、まるで連動しているかのように咲玖がおいしそうだと感じるフォークとしての本能も膨れ上がってしまう。
男の本能を満たそうと欲望のままに咲玖に触れてしまえば、まだ『おいしそう』だと感じるにとどまっているフォークの本能が、『食べたい』という明確な欲望を持ってしまうかもしれない。
そうなったとき、自分でも恐ろしいと思ってしまうような欲望を押さえつけることができるのか。
ラインハルトには自信がなかった。
「ライが俺を大切に想ってくれてることはわかってるよ。だから、ライがいいと思えるまで待とうって思ってた」
咲玖はラインハルトから体を離し、「でも」と話を続ける。
「待っているだけじゃダメだってわかった。俺はライの隣を誰にもとられたくない。だから、あっ!」
続く言葉が出る前に、咄嗟にラインハルトは咲玖を強く抱き寄せた。
被食者 と捕食者 という関係で、間違いなくフォークは優位な立場だと言えるだろう。だからこそ、ケーキにとってフォークにその身を任すということは、命を預けるということとほぼ同意だ。
あの日、そこまでの覚悟を持って咲玖は扉を開いてくれた。
だからこそ恋人になることができたのだ。
そしてまた、咲玖は次の一歩を踏み出そうとしてくれている。
咲玖はラインハルトが躊躇う様子を見て、本能を恐れていることに気が付いていたのだろう。そして待っていてくれたのだ、自分は疾うに決めていた分と同じだけの覚悟をラインハルトが持てるまで。
そんな咲玖の想いに報いるどころか、自分自身を恐れてばかりいるなんて、なんと情けないことか。
咲玖に回した腕に少しだけ力を入れると、それに応えるように咲玖はそっとラインハルトの背を撫でた。
「俺だって怖いよ。でも、ライなら信じられる。信じてる。だから、大丈夫」
それは、サク自身に向けた言葉のようで、「自分を信じても大丈夫」だとラインハルトに向けた言葉でもあった。
自分では自分を信じられなくても、咲玖に言われるとう素直に心に入ってくる。“大丈夫だ”と思えるから不思議だ。
それは、咲玖がラインハルトを深く思いやってくれているからだろう。
これまで公爵家の人間として己を律し、強くあろうとしてきた。他者からもそう望まれていた。
だが、作り上げた鎧は咲玖の前では何の意味もなく、弱くて情けない姿ばかりをさらしてきた。
それなのに咲玖は、そんなラインハルトを受け入れ、信じていると、隣にいたいと言ってくれる。
そんな咲玖の優しさに甘えていただけのくせに、何が『咲玖を傷つけたくない』だ。
ただの体ていのいい言い訳じゃないか。
本能を恐れる気持ちはおそらく消えることはない。
それでも、咲玖と共に生きるということは、この本能と共に生きるということなのだ。
「すまない、サク。私は本当に情けない」
「そんなことないよ。でも、どんなライも俺は大好きだから」
その言葉がどれほどラインハルトの心を救っているか、きっと咲玖は気づいていないだろう。
もう逃げるのはこれで終わりだ。汗に濡れ、冷たくなっていた手を握りしめた。
「愛しているよ、サク。きみにもっと触れたい」
腕を少し緩めると、その中にいた咲玖は大きな目をさらに丸めていた。
白く滑らかな頬にそっと手を添えると、咲玖は丸めた目を今度はくしゃりと細め、微笑んだ。
「うん、俺もライに触れたい」
もう一度咲玖をぎゅっと抱きしめ、唇を重ねた。
緩く開いたその隙間から舌を挿し込めば、途端に蜜の味が口いっぱいに広がる。
その甘さを目いっぱい味わうように、咲玖の舌を絡めとり啜り上げる。表面も、その裏側も、余すところなく舌先を這わせると、咲玖は小さく体を震わせ、その味にも負けぬほどに甘い吐息を漏らした。
男の本能も、フォークの本能もキスだけで堪らないほど刺激されてしまう。
もっと、もっと、と先走ろうとする本能たちを宥めつつ口内を貪りながら、ラインハルトに跨る咲玖の太ももに指先を這わせ、そのまま上へと手を滑らせる。
途中に見つけた服の隙間からそっと内側に入り込めば、滑らかな素肌に触れた。
指先で触れた咲玖の素肌は少し冷たい。いや、おそらくラインハルトの手が熱を持っているのだろう。
わき腹からそのまま背まで撫で上げると、始めはサラサラとしていた素肌も、ラインハルトの熱が移ったかのようにしっとりと汗ばんでくる。この全てが甘いのだと思うと、全身がゾクリと疼いた。
服に吸わせてしまうのすら惜しい。
手早く脱がせれば、まるで咲玖の素肌は食べごろの果実のように紅く熟れ、甘い香りが立ち込める。
その香りは花が盛りとなる頃の中庭よりも、もっと甘く、もっと濃い。
幼いころから嗅ぎ慣れたはずの香りに、ゴクリと喉を鳴らした。
まずは首筋から、と舌の腹を当て舐め上げていく。やはり堪らなく甘い。
でも、先ほど味わった口内とは少し違う。味は同じだから、濃さだろうか。
もしかしたら場所によって違うのかもしれない。そう思って、咲玖の手を持ち上げて今度は腋下をべろりと舐めると、咲玖は驚いたように悲鳴を上げた。
「そ、そんなところ舐めないで!」
「あぁすまない」
謝ったところで、もちろんやめないが。
逃れようと身をよじらせる咲玖をベッドに倒し、今度は胸の真ん中で赤く膨れる突起を口に含み、舌先で転がすようにつつけば、咲玖は「くすぐったいよ」とビクビクと小刻みに肩を揺らした。
――あぁ、ここも、甘い。
きゅうっと吸えば、甘い蜜が湧き出てくるような錯覚に陥る。
夢中で吸い付きながら、反対側を指先ではじくと咲玖は小さく嬌声をあげた。
舌でまさぐればその甘さに喉が痺れ、指先で弾けば漏れる声に下半身が疼く。
どちらも“快楽”として二つの本能を刺激し、急激に体も精神も昂らせていった。
「お、俺は男だからそんなところ感じないから、んぅっ」
「そうだね、でもじっくりかわいがっていれば、よくなるかもしれない」
今だって少し強く吸い上げたり、つまんだりすると細い腰が揺れる。咲玖がここで快楽を得られるようになる日は、きっとそう遠くないだろう。
「……そこ、おいしいの?」
しつこくいじっていることにしびれを切らしたように、不満げに、でも少し恥じらいながら尋ねる様子にまた下半身がズクンと疼く。
本当に咲玖は本能を刺激する天才だ。
「ここだけじゃなくてどこも甘くて美味しいよ。ここも、ここも、ここも」
首、胸、腹と順にキスを落とし、最後に下履きのギリギリの位置を少し強く吸い上げると、また咲玖はビクンと身体を跳ねさせ、甘く声を漏らした。
「でも、肌ならやっぱりここが一番濃いかな」
そう言って、また咲玖の腕を持ち上げ、頭の上でベッドに縫い留める。そしてさらけ出された腋下を舌全体でべろりと舐めた。
首筋もなかなか良いが、やはりここが一番匂いも味も濃い。
おそらく汗の量が多いからだろう。部位によって濃淡に違いがあるというのはなかなかに探究心が――ついでに興奮上乗せして――そそられる。
「さっきそこやだって言った! も、やだ、やだぁ」
じたばたと抵抗されても正直かわいいだけだし、いちいち下半身にクる。
でも、初めから拒否感を持たれても困るので、今日はこのくらいにしておこう。
「すまない。かわいくて、つい」
「もうっ!」
そう眉を眉間に寄せ、唇を尖らせる咲玖のかわいさと言ったらない。
かわいい、本当にかわいいが過ぎる。
必死に平静を装っているのに、正直あまり煽らないでほしい。
深く口から――鼻から吸い込むと香りにヤられる――息を吸い込み、心を落ち着ける。
少々心の内で発する言葉が荒くなってきているような気もするが、まだ大丈夫。
心を強くもて! と自分に言い聞かせながら、ラインハルトは咲玖の下穿きに手をかける。
するりとずらすと不自然に盛り上がるその中心部に思わず目を奪われた。
――咲玖も欲しいと思ってくれている。
欲望を明確に表すその昂りに、全身からざわめくように欲望がせり上がってくる。
そこに触れたら咲玖はどんな反応をするのだろう。
そこは、どんな味がするのだろう。
隠し切れない興奮で、早鐘を打つ心臓に合わせて息は荒く、飲み込みきれないほどの唾液が口内にあふれ出る。
だが、まだそこには触れられない。
ラインハルトは元々、食事に時間をかけたいタイプだった。
じっくりとその味を堪能し、噛みしめる。その全てを楽しんでから、腹に収めたときに得られる満足感を知っている。
もう得ることができないと思っていたそれを得るためには、咲玖をじっくりとしっかりとその全てを味わいつくさなければならない。
そんなフォークとしての本能にラインハルトは知らず知らずのうちに呑まれ、無意識のうちに上がった口の端から垂れた唾液をぺろりと舐めた。
白く細い足首をとり、足の指を一本一本、その間も歯を立てないようじっくりと舐っていく。
汗の溜まりやすい場所はやはり味が濃い。
夢中になって舐めとっていると、恥ずかしそうに身悶えしていた咲玖がくすりと困ったように笑った。
「どうかしたかい?」
平静を装えていると思っていたのに、自分でも驚くほどに息が上がっていた。
これは、引かれてしまったかもしれない。
慌てて唾液にまみれた口元を拭ったが、咲玖の答えは想定外すぎるものだった。
「ごめん、なんか、かわいいなって思って」
えっどこが、という言葉が自然と頭に浮かぶ。
そんなこと子供のころですら言われたことないから、確実にかわいい顔立ちではない。それなのに、三十路近くの体格の良い男のどこにそんな要素があるのか本当にわからない、と言う顔をして見せると咲玖はまたクスッと笑っている。
「ライのことたまに大きなワンちゃんみたいだなぁって思ったことはあったけど、今日ははちみつを舐めてるクマさんみたいだなぁって……」
そう咲玖は言ってまたクスクスとかわいらしく笑う。
そんな風に思われていたことも知らなかったし、随分と余裕がありそうで悔しい限りだ。
怖がられているよりかはましかもしれないが――。
「そんなこと言われたのは初めてだよ」
おかげで少し冷静さも取り戻せた。
もう一度深呼吸をし、体を起こして咲玖に軽く唇と重ねる。そして、最後の砦のように残っていた下着に手を掛けた。
「脱がしてもいいかい?」
「……今まで何も聞かなかったのに、なんでそこだけ……」
「さすがに同意が必要かなと」
気を回したつもりだったが、逆に意地悪のようになってしまった。
断じてワザとではない。
聞いた手前勝手に脱がすわけにもいかず返事を待っていると、咲玖は真っ赤になった顔を手で覆いながら、小さく「いいよ」と呟いた。
かわいすぎて、さっき取り戻した冷静さなんて一瞬で蒸発してしまいそうだ。
深呼吸、深呼吸、と頭で繰り返しながら、そっと下着を下ろすと、かわいらしい昂りが顔を出した。
先は薄く濡れ、ラインハルトの視線に怯えているのかビクビクと小さく震えている。
ゴクリと口内に溢れ出る唾液を飲み下し、壊れ物に触れるように手を添え、そのまま先から漏れ出ている透明な液体を舐めとった。
唾液よりも濃い甘さが口内に広がる。もっと、と逸る気を抑え込みながら、そのまま先を口に含み、形を確かめるように丁寧に舌を這わせていった。
「わっ、あっ、ら、らい、うぅ~~~」
根元まで深く飲み込むように咥え込むと、咲玖は体をしならせ唸りをあげた。その瞬間、今まで最も強く、熱を持った蜜がラインハルトの口内に弾けた。
その深い甘味に全身が歓喜するかのようにざわめき立つ。
堪らず吸い上げると、咲玖は腰をわななかせ、悲鳴にも似た嬌声をあげた。
「イッ、イッたからっ、もぅはなしてぇっ」
逃れようとする咲玖の腰を捕らえ、残らず全てを搾り取るようにしごききると、すでに力を無くした咲玖の中心をようやく口内から解放した。
息を荒げ、だらりと力なくベッドに沈み込む咲玖を見下ろせば、今度は男としての本能が痛いほどに疼く。
その愛らしい初心な反応を見るに、恐らくこういうことをするのは初めてなのだろう。
まだぐったりと横たわる咲玖の太ももを持ち上げ、開かせると、その間にまた顔をうずめた。
今度は先ほどの場所よりももう少し下。
まだ花開く前の蕾のように固く閉じたそこは、どんな味がするのか。
こぼれ落ちるほどにあふれ出る唾液を舌に乗せ、たっぷりと塗り付けた。
「ひゃあっ!!! な、なにしてっ?! えっ、やだっ!」
まだ外側から舐めただけだ。この中を味わうところからが本番。
なんて言ったら全力で拒否されそうなので、申し訳ないが静止は聞かぬまま、じっくりとその周囲を揉みほぐしていく。
初めこそ抵抗して見せた咲玖だが、すでに過敏になっている体には力がはいらないようで、少しずつほころび始めたその中へとゆっくりと舌を押し進めた。
するとまた咲玖は、やだやだと脚の間に埋もれるラインハルトの頭を弱弱しくも押し返そうとする。
「そんなとこ、ほんとに、だめ! きたないっ」
「汚いはずがない。それに、ココもすごく甘い」
それはもうどこよりも濃厚なほどに。
その味をしっかりと堪能し、舌で届く範囲が十分に柔らかくほぐれたことを確認すると、今度は、ベッドの脇にあるチェストから小さな瓶を取り出した。
中の液体を手に垂らし、はやる気持ちを抑えながら掌の熱を移していく。それはとろみを帯びたオイルで、当然体を繋げるために使うものだ。
実は結構前から用意だけはしていた。
「それなぁに?」
咲玖は整わない息を漏らし、声も表情も気だるげだ。初めて味わう羞恥と感覚に体力を奪われているのだろう。その様子もまた堪らなく艶っぽい。
「これは、サクのココを拓くために使うものだよ」
温もったオイルをまとった指先でそっと後孔に触れると、咲玖はビクリと目を丸めた後、一気に全身を紅潮させた。
先ほど舌でほぐしはしたが、それだけでは体を繋げるには無論足らない。少なくとも指が三本は入るようしなければ。
「ゆっくりするから、無理な時はそう言ってほしい」
なるべく早めに、と付け加える。そうでなければおそらく止められないから。
こくりと咲玖が頷いたのを確かめてから、宣言通りゆっくりとあてがった指をそっと中へと進めていく。
少しずつ、焦らないように、怖がらせないように。
「痛くはないかい?」
「う、うん、大丈夫」
まずは中指を一本。ゆっくりと抜き差ししながら咲玖の様子を伺う。
探るように咲玖の内側をなぞり、上部の壁を押し上げると、咲玖はそれまで強張らせていた体を飛び跳ねさせた。
「なに、いまの?! あっ! 押したらやっ、うぁっ」
「大丈夫、ここはきみが気持ちよくなるための場所だから」
まだ芽吹く前の快楽の種を指先でトントンと押し上げ、刺激を与える。その度に咲玖は少し怯えたように声を震わせた。
声に甘さが含まれ、次第に体のこわばりが溶け始めたところを見計らって指をもう一本、またもう一本と増やしていく。
三本で中から押し広げられるようになったころには、咲玖はまた体中から甘い香りを発し、小刻みに息を吐き出しながらうっすらと涙を大きな瞳に湛えていた。
こぼれ落ちてしまってはもったいない。
その甘い香りに誘われるように、瞳の端にそっと口付け、飲み干すと、優しい甘みが乾いた体に染み渡っていく。
この優しい甘みも、先ほどの濃厚なものも、全てが自分のために設しつらえられたものだと思うと、この上ないほどに欲求が膨らんでいく。
――誰にも渡さない。この至高の存在 は私だけのものだ。
咲玖が欲しい、食べてしまいたい――そう叫ぶ本能をギリギリのところで押さえ付けながら、咲玖の中が充分にほぐれたことを確かめ、指を引き抜く。
すると、咲玖はぶるりと体を大きく震わせた。
「サク、大丈夫かい?」
「ふっはぁ、だいじょうぶ……かなぁ……」
「残念なことに私は大丈夫ではない」
「えっ?!」
「もう、きみが欲しくて欲しくてたまらない。頭が焼き切れてしまいそうだ」
くつろげた下穿きから欲望を固めた昂りを取りだし、咲玖の蕾へとあてがった。
ずいぶんと柔らかく拓かれたそこは自ら収縮を繰り返し、ラインハルトを迎え入れようとしているように見えた。
「サク、入ってもいいかい?」
どんなに落ち着いて見せようとしても、どうしても息荒くなってしまう。あふれ出る唾液も止まらず、口の端から漏れてしまう。本能を抑えられない姿はまるで野生の獣のようだ。
みっともなくて、情けない。そして、恐ろしい。
それでも、きっと『大丈夫』だから。
ゴクリと溜まった唾液を再び飲み下し、そっと咲玖の手を取って指先に唇を付ける。
すると咲玖はふわりと目じりを下げ、こくりと頷いた。
「あっ、あぅん、らぃ、あぁっ」
まだ硬さが残っていた咲玖の中もしばらくすれば柔らかくうねり始め、今では自ら性感を得ようとラインハルトに吸い付いてくる。
奥を穿つたびに瞳からこぼれる甘い雫も、口の端から漏れ出す蜜も、余すことなく舐めとりながら得る快楽は、どんなご馳走よりも贅沢で、美味だった。
何度も吸い付いた咲玖の白い肌には “食べられた”痕跡が赤くいくつも浮かんでいる。
もちろん噛んだりはしていない。
だが、その衝動に駆られる瞬間は何度もあった。
涙も、唾液も、汗も、精液すらも甘いのだ。
それならば、まだ味わっていない血は、肉は――。恐ろしいどうしても頭をよぎる。
そんなときは、“男としての本能”に意識をやり、咲玖の声が一層甘くなる場所を探る。そうして探し当てた場所を擦り、突き上げれば、また咲玖は涙をこぼし、汗を滲ませる。
至高のループだ。
そうして極限まで高めた快楽はもう限界を超えようとしていた。
「ライ、もうイキたいっ、あんっ、い、イかせて、おねがい、」
「あぁそうだな、一緒に……」
「あぅあっ、あぁぁっ!」
咲玖の昂りを握りしごく手の動きに合わせ、抽挿を早め、そして同時に絶頂を迎えた。
満ち足りて動けなくなるほどの快楽の余韻にしばらく浸った後、体を起こし、咲玖の様子を確かめる。
初めてであれば、受け入れる方は快楽だけでは済まない。それなのに随分としつこく、激しくしてしまった。
「サク、大丈夫かい?」
まだ肩で息をする咲玖を見下ろすと、突然まだ涙の溜まる瞳を両手で覆って見せた。
思わず、『涙がもったいないっ!』と思ってしまったのを許して欲しい。
「おれ、おれ、初めてなのに……」
ギクリと心臓が跳ねた。やはり辛かっただろうか、イヤになってしまっただろうか。
「すまない、無理をさせてしまった」
だが、咲玖はそんな不安を簡単に吹き飛ばすほどの爆弾をラインハルトに落とした。
「ちがっ、そうじゃなくて……初めてなのに、すっごい気持ちよくて……」
下半身に直撃である。
「こういうのって初めてはそんなに良くないって……えっあっなんで、またおっきく…?!」
まだ咲玖の中にとどまっていたラインハルトの中心はまた熱を持ち始め、あっという間にその質量を取り戻した。
でも、今のは咲玖が悪いと思う。
「サク、愛しているよ」
「えっ、お、俺も愛してる、けど、あっ、あの、待って、あっ!」
「今日は寝られないね」
なんて少しいたずらっぽく笑って、またその黒曜石の瞳を潤わせ始めた涙をそっと舐めとった。
かわいくて、美味しい恋人が与えてくれるこの“満足感”を、これから一生求め続けていくのだろう。
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