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限界オタク(新)

深夜12時を少しすぎた頃。 静まり返ったリビングで、僕はソファに埋もれるように倒れ込んでいた。 テレビの画面には映画がぼんやりと流れているけれど、内容はまったく頭に入ってこない。 とんでもない犯罪の場面に遭遇し、運良く好きな人を助けられたものの、過剰防衛で危うく僕自身が犯罪者になるところだった。あの時の事件の興奮と恐怖の余韻が、今も体に残っている。 結局、彼には友達にすらなれていない、とフラれてしまった。けれど、それでも友達になろうと握手を交わしてくれた。……それに、洸くんは僕が彼を守った姿を「カッコよかった」と言ってくれた。 テーブルの上には、度数のきついお酒。それを一口飲むたびに、切なさと、嬉しさと、恐怖が入り混じった複雑な感情が胸に広がっていく。お酒の力で、眠れない原因である感情のすべてを誤魔化していた、その時だった。 ピコンと静かな部屋に、メッセージの通知音が響いた。 スマホの画面を見ると、弦さんからの連絡だった。 「……なんや弦さんか……洸くんは、流石に疲れて寝てもうたよな」 洸くんからのおやすみメッセージを期待してたのに、と少し落胆して、酔った指でメッセージを開いた瞬間。 「ひゃあぁぁぁっ!?」 自分の口から出たとは信じられないような悲鳴が部屋に響き渡った。 あまりの衝撃に視界と心臓がグルグルと回転し始めたかと思うと、お酒の勢いもあって、身体もソファから床へとグルグル回転しながら落っこちていた。 「いったぁ!!」 床に体を強打し、お酒のグラスをひっくり返しそうになりながらも、スマホを持つ右手だけは強い意志で天高く掲げて守り抜く。 ハァハァと荒い息を吐きながら、床に寝そべったままで、恐る恐る画面をもう一度覗き込んだ。 「……っ、うそやろ!? え!? 生成AI!?」 夜中になんらかのタイミングで、弦さんがふざけて作った画像じゃないかと本気で疑った。 画面を拡大し、ジィーッとおかしなところがないか粗探しをしてみる。けれど、どこにも不自然なところなんてない。 画面の中にいたのは、大きなクマのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめて、ソファの上ですやすやと眠っている、大好きな洸くんの姿だった。 「かわいっ!!可愛すぎる。待って、無理、直視できひん!! いや、嘘!! 写真やから、なんぼでも見れる!! 細かい所まで隅々まで見れる!!」 普段はあんなにしっかりしていて、冷たい言葉で弦さんをからかってくるくせに、眠っている姿はまるで大天使! いや、起きてる時もそうなんやけど! もしかして、この圧倒的な可愛さはすべて計算された罠なんやろうか。そう思ってしまうほど、彼の破壊力は僕の理性をめちゃくちゃに狂わせていく。 え? 友達? なにそれ?なんの話? 僕の中にはもう、このままの姿の実写の洸くんが、横に存在している未来しか考えられへん。 洸くんや弦さんに宣言した通り、この可愛くて仕方ない洸くんを独り占めできるはずや! だって、僕のこと「かっこ良かった」って言ってくれたし!! 『弦さん!! 可愛い写真をありがとうございます!! 大切にします!!』 興奮のままに送りかけたメッセージの前で、ハッと指を止めた。あかん。弦さんに、こんな余裕のない男やとバレてしまって、それが洸くんに伝わったら一瞬で嫌われるかもしれん。せっかく僕が守った姿をカッコよかったって褒められたばっかりやのに!! 洸くんへの返信をすべて平常心で装えるようにと、あらかじめ買っておいた数種類のスタンプ。その中から、「ありがとうございます」と文字が入った無難なイラストをひとつを厳選し、落ち着き払ったフリをして弦さんに送信した。 だけど、内側では興奮が駆け巡り、酔いは一瞬で吹き飛んでいた。 バッと起き上がると、リビングの片隅にある高性能プリンターの前へと猛ダッシュした。電源ボタンを勢いよく押し、スマホを急いで操作して、写真をプリンターへ転送する。 ガタガタと音を立てて、トレイからゆっくりと出てくる紙。 そこに少しずつ印刷されていく、クマを抱きしめる洸くんの寝顔。紙が全部出てくるのを待ちきれずにすぐ引き抜くと、インクを乾かす時間すら惜しんで、寝室の壁へと突撃した。 寝室の壁の一角。そこには、大切なコレクションが貼ってある。でも、僕はコソコソ陰から洸くんを狙うストーカーなんかじゃない。 きちんと洸くんのお友達経由でもらった、洸くんの高校生の時の写真や。きちんと対価を支払うといくらだって手に入れられた。他には美容学校のホームページにあった在学生インタビューをコピーしたものと、ヘアショーで優勝した時の笑顔の洸くんの写真は僕の大のお気に入り。あとは、前にオムライスを食べてもらった時に記念に撮らせてもらった弦さんと洸くんが並んだ可愛い家族写真。どれも公式で手に入れたものが、少しのズレもなくキレイに並べて貼ってある。 その写真たちのちょうど真ん中、一番目立つ特等席に、たった今印刷したばかりの無防備で可愛い天使の写真を丁寧に貼り付けた。 嬉しさのあまり、壁一面の洸くんを見つめる。 新しく最高の一枚が加わったことで、寝室はより一層、完璧な癒しの空間となった。 「……洸くん……可愛い」 あまりの幸せに、洸くんの代わりに、近くにあった枕をぎゅーっと抱きしめた。 世間一般では、こういう行動を『ストーカー』と呼ぶのかもしれない。でも違う、断じて違う。僕の胸にあるのは、どこまでもピュアで、一点の曇りもない洸くんへの愛だけや。僕は大好きな彼をいつでも眺めて、洸くんと、彼の周りの人のために、優しく誠実であり続けたい。 「……洸くんとお友達って……一体何ができるんやろう」 壁の中の眠れる天使に向かって呟きながら、頭にはこれからの明るい未来しか想像できなかった。だって、洸くんにカッコ良かったって言われたんやから。 明日はバーだけの仕事で洸くんに会えないけれど、明後日はお昼過ぎに、空くんの家へお手伝いしに行く予定がある。 運良く会えたら、何か「友達らしいこと」ができるかもしれない。 そう思うと心地よい多幸感に包まれ、今度は良い意味でお酒がグルグルと回ってきて、強烈な眠気が襲ってきた。このまま眠ると、幸せな夢が見れそう。だって、洸くんにカッコ良かったって言われたんやから。僕はその温かい眠りに逆らうことなく、ゆっくりと目を閉じ、深い眠りへと落ちていった。

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