52 / 57

嘘つき

その様子にもとちゃんがふっと顔を緩めた。 「ふふっ、やっぱ引っかからへんかったかぁ……」 「……お前! 嘘ついたんか!?」 「うん。昨日秀太がソファで寝てもうたあとに2人が帰ってきたから、秀太の着替えは弦たちに任せてん。ほんで、俺は1人でシャワー浴びて弦の服借りてリビングのソファで寝た。ほんで、さっき2人が出ていった後に、ここにベッドインした」 「ほんま!! お前!! 幼馴染じゃなかったら、警察突き出してたとこやぞ!!」 どうりで、朝の2人に対しての情報量多いとおもたわ! ここに一晩中おったら、知り得へん情報やもんな! 「はは、ごめんごめん。軽いジョークやんか」 そんな飄々とした顔で、朝っぱらからふざけやがって! まんまとこいつの作戦に引っかかって、告白してまうとこやった! あっぶな! 「ほんま、お前!……昨日助けに来てくれたから、チャラにするけど」 「ん、……でも、それ以外はほんま。色々ありすぎて、それ以外を覚えてるかは知らんけど」 もとちゃんは急に照れたように体を動かすと、ベッドの縁に腰を掛けた。あんな一世一代の告白を聞かされて、そんなすぐに頭から消せる訳ないやろ。 「……ほんなら俺は、これから秀太の事信じて待っといたらええねんな?」 そうやった。もとちゃんは昨日、陸さんとの事、弦から聞いてるんやった。それをなんとなくでもわかってくれているなら、こっちとしても、今までより動きやすいのは確かや。 「……ところでもとちゃん、仕事は?」 少しその言葉に頷いて、それ以上その話を続けさせないようにと、話を切るように話し始めると、もとちゃんは「わかった」とでも言うように一回息を吸ってから、いつもの調子に戻った。 「今日は夕方からの配達だけやから、午前中は休ませてもろた。まぁ、いうてもうちの店には、働き盛りがあと2人おるからな」 俺が話を強制的に変えたとはいえ、そんな何事もなかったみたいな笑顔で、平然と部屋を出ていくなよ。まだその甘い空気の中で泳いでいたかったのは、俺のわがままなんかな。 ◇ 「洸くんに聞いてんけど」 2人で並んで朝食を取っている最中、もとちゃんが箸を止めて不意に切り出してきた。 「ん?」 「毎朝、陸さんの高級車で送ってもらってるんやろ? ……今日は、俺が送っていくわ」 「は? なんで?俺、子どもちゃうし、1人で電車乗れるねんけど」 照れ隠しにわざとふざけて返したら、もとちゃんは驚くほど真剣な顔で俺を見つめた。 「これは俺の意地とプライドや。一緒に電車に乗って俺んちまで帰って、そっから『元宮酒店』のワゴン車で店まで送って行く。……そのうちもっとカッコええ車買って送り迎えしたるから、待っとけ」 「はぁ? ……なんでそんな、わざわざめんどくさい事を」 口ではそう文句を言いながらも、俺は帰ってきた甘い空気が嬉しくて、ニヤニヤがどうしても止まらへんかった。 今回、俺がもとちゃんへの気持ちに気づいたのも、もとちゃんがこうして気持ちを爆発させてくれたのも、皮肉にも陸さんとのことが始まってからの激しい嫉妬心のおかげや。あの最悪な修羅場の時間が、まさかこんなにええ方に転ぶとは思ってもみなかった。 「……車なんて、なんでもええねん」 俺はスープのカップに視線を落として、小さく呟いた。 「……隣にお前がおったら、それだけでええ」 最後だけ、恥ずかしくて少しモゴモゴと言ったら、「え? なんて?」と、もとちゃんがわざとらしくニヤニヤしながら聞き返してくる。お前、絶対今の聞こえとったやろ!! 「今日は電車でええから! とりあえず駅まで一緒に来い!」 真っ赤になってそう言い直すと、もとちゃんも同じように顔を少し赤くして、「おう、ええよ」と嬉しそうに笑った。

ともだちにシェアしよう!